サンプル到着
「届いたか!」
ミナギ都市ワーカーオフィスの作戦室で、キクチは待望のカウンターナノマシンが到着したとの連絡を受ける。
キクチがこの都市で変異体駆除を開始してから約2週間。
高ランクワーカーと低ランクワーカーの混成部隊を地下へと送り込み、変異体の駆除を行って来た。
セントラルから連絡を貰ってからの1週間。
キクチは最低限の食事と睡眠をとる以外、休むことなく指揮を執り続けていた。
第7区画にある有機物処理施設の確保を行わせ、モンスターが無尽蔵に増える事だけは阻止できたのだが、ゲンハ最終形態が行ったように無機物でも食らいつく個体が出現し始め第2防壁内エリアでも戦闘は激化している。
喜多野マテリアルの協力もあり、無尽蔵に運ばれてくる武器弾薬のお陰でなんとか均衡を保っている状況だった。
だが、作戦に参加しているワーカー達にも被害が続出しており、モンスターに食われてしまった者達も大勢出ている。
ミナギ都市でのカウンターナノマシンの研究を行っているのだが、ナノマシンの変異の速さに研究員が追い付けていなかった。セントラルから寄せられたナノマシンの増殖を防ぐ方向性でカウンターナノマシンの作成に切り替えさせ今も研究は行われている。
そんな時、地下シェルターでカウンターナノマシンのひな形が完成したとの連絡を受け、その到着を今か今かと待ち構えていたキクチだった。
「カウンターナノマシンは喜多野マテリアルの技術員に渡しました。今サンプルの変異ナノマシンを使い効力を検証している所です」
「彼等ならなんとかしてくれるだろう・・・・量産の目途が立てばここから反撃・・・・」
「第2区画で大型モンスターが発生!地表に現れました!!」
「クソ!サイズは!?」
「蛇の様な形状で全長が10mを超えています!現在防衛隊とワーカーチームが対処に当たっています!」
地表に現れたモンスターはこの2週間と少しで1体だけだった。
それ以外は地下に抑え込めていたのだが、焼却処分が間に合わなかった死体を食らって成長した個体だろう。
前回の時よりも大型のモンスターが地上に飛び出してしまった。
「付近の低ランクワーカーは近隣区画に退避!ランク30以上のワーカーで応戦し、防衛隊の高火力攻撃で一気に撃破を!」
「承知しました!」
現場のワーカー達
地面が揺れたと思ったら蛇みたいなモンスターが顔を出して来やがった。
ざっと見ただけで10mは超えている。
表面の鱗は金属質な光沢を持ち、通常弾では弾かれるだろうと言う事が十分予測できた。
「ランク30以下は退避だ!それ以外の者は全力でぶっ放せ!!!」
俺が配属されているチームのリーダーがそう叫ぶ。
ランク30以下か・・・・・俺は35。
残ってあれと戦わないといけないのか?ここが遺跡なら冗談ではないと言う所だが、あれを放置すれば都市が壊滅する恐れもあるとなれば戦わないという選択肢はとれないか・・・・・
喜多野マテリアルから配布された複合銃を構え、特殊弾頭が詰められたマガジンが空になる勢いで撃ちまくる。
俺が放った弾丸はヤツの鱗を砕き、体内にめり込んで行くがあの巨体にそれほど聞いている様には見えない。
ヤツはその長い体をくねらせ、辺りを薙ぎ払う様に攻撃してくる。
「うおお!!!」
咄嗟に屈み尻尾の攻撃を回避したのだが、ヤツが薙ぎ払ったのは人だけでは無かった。
「倒れるぞ!退避!!」
その声に上を見上げれば、尻尾の振り回し攻撃で根元を抉られた建物が傾いてコチラに倒れて来ようとしている。
「クソ!!!なんでこんな脆い建物ばっかりなんだ!!!」
俺はこのエリアを管理していた連中に悪態を付きながら走り出す。
今着ている防護服の性能なら、最悪下敷きになっても死にはしないだろう。だが、この状況で瓦礫に挟まれ身動きが取れなくなればどのみち死ぬしかなくなってしまう。
懸命に足を動かし、倒壊範囲から離れようとするがヤツはそれを見逃さなかった。
「こっちに向かって来るぞ!迎撃!」
離れた所にいた他のチームのワーカーや防衛隊がヤツに向かって銃弾をばら撒く。
後ろを振り返ると飛んで来る弾丸など意にも介さず、大口を開けてこちらに突っ込んでくる。
「うわああああーーーー!!!」
俺は叫び声を上げ、走りながらヤツの口内目掛けて銃を撃ちこんだ。それでもヤツは俺を食おうと突進してくる。
無理だ
そう思った瞬間。
防衛隊が発射した小型ミサイルがヤツに突き刺さった。
目の前に迫っていた蛇野郎はその威力に体を押され、横の建物に押し付けられる。
1発では終わらないと2発3発とミサイルが撃ち込まれ、俺はその爆発の衝撃で吹き飛ばされた。
なんとか受け身を取り起き上がると、鱗が剥がれ体の内部が露出しているモンスターの姿が目に映る。かなりのダメージを与えたように見えるが、小型のモンスターでもあれくらいの負傷では止まらなかった。
追撃を加えようと銃を構えると、鎌首を上げようとしたモンスターの上に倒れてきた建物が倒れ込み、ヤツの体を押しつぶす。
轟音と土埃が巻き上がり、さらに追撃とばかりに数発のミサイルが撃ち込まれる。
爆炎と衝撃波が走り抜け、ワーカー達は銃を構えたまま動きを止めた。
「・・・・・・やったか?」
そして誰かが呪いの言葉を口にする。
「お前そう言う事言うとだな・・・・」
その相棒だろうか?隣にいたワーカーが突っ込みを入れようとした時、僅かに地面が揺れ始める。
「・・・・・なんだ?」
「揺れてる?」
その揺れは徐々に大きくなっていき、倒壊した建物の下から地面にひび割れが走り始める。
「おい!マズいぞ!逃げろ!!!」
俺を含めたワーカー全員が構えを解き、そのひび割れから離れようと全力で走り始める。
数秒後、そのひび割れは大きな音と共に崩れ落ち、モンスターも瓦礫も建物も一緒くたに飲み込んでしまった。
キクチ視点
「第2区画で崩落が発生!おそらく出現したモンスターにより地下構造が傷つけられていたと思われます!!」
「被害は?!」
「調査中です。戦闘に当たっていたワーカー達は崩落範囲から退避し無事な様ですが、地下に潜っているワーカー達の一部から連絡が取れません」
「崩落の範囲と2次災害の想定範囲を算出。その範囲には誰も近づけない様に。それと、地表に出てきたモンスターは?」
「崩落に巻き込まれた様です。生死は不明との事」
「・・・・・・」
崩落程度のダメージで死ぬとは考えづらい。それに、たとえ死んだとしてもナノマシンに成り代わられて再生化分裂するのは間違いない。
だが、2次崩落の危険がある限り追撃は出来ない。
ワーカー達は他の区画に回して作戦を続けるべきだろう。
「第2区画の駆除は一旦中止。担当ワーカー達は他の区画に振り分けて下さい」
「了解」
あともう少し。
カウンターナノマシンの量産が開始されるまでの時間を稼がなくては。




