その頃のラルフとダーマ
ゴンダバヤシ率いる一行がミナギ都市へと出発して2週間。
彼らがそれぞれの職務に邁進している間、セントラルが管理する地下シェルターではライト・ラルフ・ダーマの訓練が日夜行われていた。
ラルフはある程度強化された体に慣れ始め、本格的な体力増強訓練と戦闘訓練が並行して行われていた。
遺跡内部をイメージされた仮想空間を、重たいバックパックを背負い2種の銃を装備して駆け抜けて行く。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・」
障害物から障害物へと移動し、身を隠しながら目的ポイントまで移動してくが、道中にモンスターや、遺跡の防衛機構を回避しながらの移動は精神と体力を激しく消耗させていく。
後1/3の距離で目標ポイントに到達すると言う所で、装備している情報収集機からモンスターの気配が送られてくる。
(・・・・・中型・・・ですかね)
ラルフは彼我の距離を正確に読み取り、手に持っていたA60をホルスターに素早く収納し背中に背負っていたライフルを引き抜く。
ライフルを構えスコープを覗くと、400m程先に中型のハイブリッド系モンスターが見えた。
(・・・・・あのサイズならもっと早く発見したいですが、この情報収集機ではこの距離が限界ですか・・・・射撃系の武装は無し)
ラルフは呼吸を整えライフルの照準を弱点部位に合わせ引き金を引いた。
銃口から放たれた銃弾は、僅かに狙いを外すがモンスターへと命中し体内へとめり込んで行く。
「・・・チッ」
狙いを外した事に舌打ちをし、こちらの存在が相手に露見した事を察したラルフは立ち上がってライフルの引き金を引く。
咆哮を上げながら距離を詰めて来るモンスターに向かって撃ち続け、銃弾をモンスターへと命中させていった。
しかし、発見した時は背中を丸めて2足歩行をしていたモンスターは、走り始めると4足歩行へと体勢を変えてしまった為、このままでは胸部にある弱点部位に弾丸が届かない。
弾丸によってできた傷も、驚異的な生命力によって修復されており、目に見えて傷が小さくなっていく。
「クソ・・・・」
残り100mも無い。
あの速度で動く相手にこのライフルで戦うのは難しいと判断したラルフは、ライフルを背中に戻しA60を再度引き抜く。
「ガアアアアアアアァァァァァア!!!」
モンスターは装甲車でも噛み砕けそうな牙を剥き出しにしながらラルフへと飛び掛かって来る。
右前足を大きく振り上げ、その鋭い爪で斬り裂こうとしている様だ。
ラルフは身を低くしながら前方へと踏み出し攻撃を躱す。そして辛うじて見えている弱点部位へと照準を合わせ引き金を引いた。
消音機の効果で空気が抜けたような小さい発射音であるが、A60を握った両腕に大きな反動が降りかかる。
始めて撃った時は後方へ吹き飛ばされ、両肩の脱臼と両手首の骨折でのたうち回ったものだが、連日繰り返される訓練と治療(強化)によって、今では腕が跳ね上がる程度まで抑え込めるようになっていた。
だが、まだまだ命中精度は低く、回避した体勢から撃ったために狙いがブレ弱点部位か逸れてしまい撃破には至らない。
弾丸の威力によって体制を崩したモンスターを見て、もう一発!と狙いを付けようとするが、モンスターの左手がラルフを襲う。
撃つ事を諦めたラルフは、高速で向かって来る左手の下を潜る様に転がり、直ぐに後方へと飛び退いた。
すると、先程までラルフがいた場所にモンスターの右手が振り下ろされ、地面に大きなひび割れが発生する。
地面に足が付いたラルフは、モンスターを睨みつけ銃を構えた。
モンスターは後ろ足で跳躍し、両手を振り上げてラルフへと飛び掛かって来る。
(!!弱点部位が・・・!!)
ラルフの目に飛び込んできたのは、無防備に曝された胸部の弱点部位。チャンスと見たラルフは両手に握ったA60を弱点部位へと向け。
引き金を引く。
(獲った!!!)
銃口から飛び出たPN弾は、今度こそ確実に弱点部位へと命中。モンスターの命を貫き背中を貫通して飛んでいった。
単身で中型のハイブリッド系モンスターを討伐したラルフは、その結果を喜ぶ間もなく飛んで来る巨体によって押しつぶされる。
「ごへ!!!」
モンスターの下敷きになったラルフが情けない声を上げると、モンスターの姿が消え遺跡の風景を写していた部屋が元の真っ白な部屋へと変わる。
「・・・・・・あの重量に挟まれればお前の強化度では負傷は確実だ。撃破するのは良いが、それで死んでしまっては意味が無い。攻撃した後の事もしっかり考えろと言っただろう?」
「・・・・・・」
セントラルから齎されるキツイ突っ込みを大の字に潰された体勢のまま無言で聞くラルフ。
「・・・・・・・あの場合どうすれば良かったんですか?」
「自分で考えてみろ」
「・・・・・・・PN弾頭では無く、SH弾頭で撃つべきでしたか?」
「そうだな。そうすればモンスターの突進速度は落ち、左右か後方へ避ける時間を作れただろう」
「・・・・・・・・」
「その失敗の反省が消えない内にもう一度・・・「休憩させてください!!!」」
「休憩?」
「はい!休憩をお願いします!!」
「不要だ。4時間49分前に5分間の休憩を挟んでいる。体力の回復なら回復薬を飲め」
「飲みました!!でも精神的にも休憩が必要です!!!」
「なるほど、精神力も鍛える必要があると言う事か」
「・・・え?」
「スラムバレットの戦闘履歴を閲覧した。彼らは最長で11時間21分戦い続けた記録がある。それに付いていける様になるには訓練の強度を上げる必要性が認められる」
「・・・・ぅぅぅうおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーー!!!」
余計な事を言ったと頭を抱えて叫ぶラルフ。
「ではスタートだ」
そんなラルフの叫びを無視してセントラルの姿が消え、また違った遺跡を表現した空間に放り出されるラルフだった。
ダーマ視点
ダーマはラルフとは違い、現実に存在するファーレン遺跡の浅層を再現された空間で訓練を行っている。
体力増強も兼ねてバックパックを担ぎ、遺物収集訓練を課せられていた。
この訓練が始まってから、彼は一度たりとも遺物回収に成功する事は無くラクーンの群れやクラブキャノンの狙撃によって撃破されており、心が折れ掛かっていた。
だが、ダゴラ都市に到着すれば、自分が稼げるフィールドはここしか無いと聞かされている為、歯を食いしばり訓練を続行している。
その様子を見守っているのは、シドとイデア(本体)であった。
<イデア、いくらなんでも難易度上げ過ぎじゃ無いか?>
<確かにモンスター遭遇率は上げています。しかし、あれと同じ状況にならない保証はありません。これからも単独で行動するのであれば、あれくらいはクリア出来なければ話にならないと判断します>
ダーマは鬼教官によってヘルモード設定のファーレン遺跡に潜らされていた。
本来のファーレン遺跡の浅層を知る由もないダーマは、これが今のファーレン遺跡なのだと言われれば、それを信じて訓練を続行するしかなかったのだ。
<1週間前と比べて進歩はあります。体力も向上し、射撃精度や危機管理能力も上がっています。この調子で続ければ、後2・3日でクリアできると考えています>
<・・・そうか>
今のシドとライトであればラクーンやクラブキャノンがどれだけ出て来ようが脅威ではない。
しかし、身体拡張もない素の人間であるダーマにとって、今の状況は地獄以外の何物でもなかった。
今も精神をすり減らしながら瓦礫の間を抜け、遺跡の外へと向かって歩いていく。
<・・・・そっちはヤバいぞ。ダーマ>
後1kmで脱出出来ると言う所で、ラクーンとクラブキャノンの混成部隊と出くわし戦闘になるダーマ。
彼が持っている銃の威力であれば、ラクーンやクラブキャノンの装甲を貫くことは造作も無い。しかし、数が多く、攻撃を避けながら正確に狙いを付ける技術がダーマにはまだ足りていなかった。
必死に奮闘するも、後少しと言う所でラクーンのミサイルに吹き飛ばされゲームオーバーになってしまう。
「おつかれダーマ」
大の字に倒れたダーマに歩み寄るシド。
「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・はぁ~~・・・・・・・今のファーレン遺跡とはここまで高難易度なのか・・・?」
「ん~・・・・まあな。ダーマは遺跡探索の経験ってほぼないんだろ?」
「ああ、基本は巡回依頼ばかりを受けていたからな」
「ならここで慣れていけ。ラクーンは多種多様な武装を持って攻撃してくる。脅威度が高いのはミサイルを持ったヤツだ。あとはどのレベルの防護服を着ているかによるけど大口径ライフルかマシンガンかを順番に攻略していけばいい。クラブキャノンは高威力の砲撃をしてくるけど、単発で素直な砲撃だし、フレンドリーファイアは絶対しない。ラクーンを盾にすれば攻略は可能なはずだ」
「・・・・・・わかった」
険しい表情を浮かべながらも、諦めの言葉を吐かないダーマ。
シドもここに居る間はダーマに出来るだけ付き合おうと考えるのだった。




