地下防衛戦 2
防衛隊の攻撃で地下に流出していた可燃ガスに引火した。
幸いにも第5地区を探索していたワーカー達は間一髪の所で脱出に成功し被害は出ていない。
両隣のエリアにも爆炎は広がった様だが、その影響も軽微なもので終わった。しかし、爆発の影響で今まで大人しくしていたモンスター達が活発に活動を開始し始めてしまい、ワーカーと防衛隊だけでは対処が難しくなってしまう。
キクチはゴンダバヤシに協力を要請し、喜多野マテリアルの部隊の一部を地下構造の制圧に参加してもらう事にした。
このまま多数のモンスターが地上に現れ、一般人に襲い掛かれば収集が付かなくなってしまう。
「カウンターの進捗状況はどうなってます?」
「芳しくありません。ドルファンドの研究員を監視付きで当たらせていますが、彼らが作った時のナノマシンから著しい変異が起こっている為難航しています」
「そうですか・・・・」
下層から出現したモンスターはオリジナル程ではないにしても強力なモンスターだった。
あのレベルのモンスターが下層にどれだけ発生しているかわからない状況が恐ろしくて仕方がない。
(セントラルに依頼したカウンターが届くのを待つしか無いか・・)
「第1区画、上層の掃討が完了しました。下層へと向かわせますか?」
「・・・・・・・いや、そのまま警戒を続け、別区画からの移動か下層から上がって来るモンスターの警戒をさせて下さい。地上には出さない事を第1としてほしい。交代要員を用意し、到着次第地上に戻り6時間の休憩を与えて下さい」
「了解」
爆発の影響で暴れ出したモンスターもある程度倒すことが出来た様だ。
だが、一部は隔壁を貫いて第2防壁内に入り込んでいる様で、そちらの方でもモンスターの発見報告が上がって来るようになった。
今は第2防壁内の地下は喜多野マテリアルの部隊が防衛に入ってくれている。
ワーカー達は第1区画から第8区画の地下を担当してもらっているが、段々と強力になって行くモンスターとの戦闘で疲労の蓄積が見え始めていた。
遺跡に潜る高ランクワーカー達は流石にタフだが、その様な経験のない低ランクのワーカー達は当初の気力と体力を失いつつあった。
(無理もないな。慣れない地下構造での戦闘。それに戦った事も無い強力なモンスターと連日戦っているのだから)
キクチも彼らに無理を強いている事は分かっているが、湧いて出てくるモンスターがちっとも減らないのだ。
爆発直後の様な圧は無くなったようだが、出現率は当初と比べると上昇傾向にある。
その為、ワーカーや防衛隊に被害が出始めている。
ミナギ都市は大きな都市だ。その地下構造に小動物が多数住み着いている事くらいは想像できるが、いくらなんでも多すぎるのではないだろうか?
モンスター化した小動物は、最初に自分の周りの小動物を餌にするはずだ。1体のモンスターが変異すれば、10体以上の小動物が食われていると考えてもおかしくはない。それなのにこれほど湧いて出てきて収まる気配がないのは腑に落ちない。
眉間に皺を寄せワーカー達の采配を行っていると、通信用の端末にゴンダバヤシから通信が入る。
『よう、4日も寝てないって話だが大丈夫なのか?』
「お疲れ様です。私は問題ありません、必要以上に健康体にして頂きましたので」
『・・・・・そうか。頑張って貰ってるとこ悪いんだが・・・良くない知らせだ』
「・・・なんでしょうか?」
『研究班からの報告だ。サンプルとして回収したモンスターの一部なんだが、ナノマシンが変異を起こし肉体を再構成させているそうだ』
「・・・・・殺してもナノマシン自体を無力化しなければ無限に再生すると?」
『そうらしい、脳の役割はナノマシン群が行う様になるらしく、エネルギー摂取と増える事のみを目的に行動するようになるそうだ。さらには1体の肉体から分離再生して増える個体もでてきてる。これはその個体がどれだけエネルギーを体内にため込んでいたかに依る様で全個体と言う訳じゃないらしい。だが万が一有機物処理施設に侵入されれば、そこに溜め込まれた大量の有機物をエネルギー源に大量に増える可能性があるとの事だ』
「・・・・・・・・」
『ウチの兵隊も最大限使って駆除を進めろ。弾薬費なんか気にすんな・・・・・・・・だが、俺は最悪を想定して準備を始める。その時の指示には必ず従え』
「・・・承知しました」
ゴンダバヤシからの通信は、今の既存戦力ではモンスターの完全駆除は不可能と言える内容だった。
倒したモンスターを全て焼き払えている訳ではない為、どうしてもそこから再生するモノが出てきてしまう。しかも、エネルギーさえ摂取すれば分裂までするとなってはお手上げとしか言いようがない。
ゴンダバヤシが言う最悪とは、モンスターの増殖を止められないと判断した場合。
住人を避難させた後、このミナギ都市を広範囲殲滅兵器で吹き飛ばすと言う事だろう。
更地どころか、巨大なクレーターが発生する事になる。
それにミナギ都市が無くなればダゴラ都市からバハラタ都市までの間隔が開き過ぎる。都市間の移動が困難になり、経済的打撃も計り知れない。
それは人類の生存圏の後退を意味する。
それでも、この危険なモンスターが喜多野マテリアル管理区域から方々へ流出する危険を考えればその決断は仕方がない。
「・・・・・・第1目標は有機物処理施設に設定。喜多野部隊と高ランクワーカーの混成部隊を編成し、直ぐにでも確保してください」
「わかりました。すぐに編成にかかります」
有機物処理施設は第7区画の下層部に設置されている。今の所モンスター達の出現が緩やかな区画だ。
(今潜っているワーカー達を先行させるか?・・・・・いや、それで刺激して殺到されれば無駄に戦力を消耗する事になるか・・・・)
だが、1体でも入り込まれれば終わりだ。キクチはどう采配するかに頭を悩ませる。
すると、今度はセントラルから通信が入ってくる。
「進展はあったか?」
通信を繋げ、なにか希望になり得る情報が入ってこないかと食い気味に言葉を放つ。
『カウンターナノマシンの方向性が決定した。このナノマシンの増殖を抑える方向で開発を進める』
「無力化は出来ないのか?」
『ナノマシンの変異が早すぎる。無駄に有機体で構成されている為ほぼウイルスといっても可笑しくない。自己増殖の為だけに変異を繰り返し宿主を動かすナノマシンを無力化するには現代での技術では不可能だ。研究開発するにしても10年はかかる』
「・・・・・・・・武蔵野皇国の技術は使えないのか?」
『出来ない事は無いが、そちらの施設でも生産するとなればこれが限界だ。こちらで製造して送る事も可能だが、増殖ペースから見て事態の早期収束を考えるならそちらでも製造可能なレベルに抑える方が良い
』
「・・・・わかった」
『ナノマシンの増殖に必要なプロセスを破壊するナノマシンを製造し散布すれば、エネルギーさえ摂取すれば無尽蔵に増える事だけは止めることが出来る。ただ、このカウンターナノマシンに増殖プロセスを組み込むことは出来ない。その為、設計とサンプルをそちらに送るので追加はそちらで製造して欲しい』
「わかった。準備をさせておく」
『後1週間ほどでそちらに向けて発送できるだろう』
「1週間だな。わかった」
『健闘を祈る』
セントラルからの連絡で僅かに希望が見えてきた。
シェルターからサンプルが届き、こちらで製造できる様になれば都市毎消し飛ばすような作戦は行われなくて済む。
キクチは自分の顔を両掌で強く叩き、現場の指揮を執る為モニターを睨みつけるのだった。




