地下掃討戦 1
手前勝手な理由ですが、身内に不幸がありしばらくお休みしていました。
漸く書く時間ができてきたので、少しづつ更新していきます。
ワーカー達の編成を終わらせたキクチ達は、ミナギ都市各地にある点検口からワーカー達を突入させていた。
喜多野マテリアルから装備提供を受けた彼らは地下上層部を虱潰しに探索し、変異したモンスター達を駆逐していく。
「俺が喜多野マテリアル製の銃を持てるなんてな・・・・」
「全くだぜ。今まで使ってた銃とは比べ物にならねーな」
「ワーカーオフィスは危険な依頼になるって言ってたが、これなら簡単に終わるんじゃないか?」
自分達のランクに見合わないハイレベルな装備に浮かれる低ランクワーカー達。
確かに彼らが普段使用している銃とは威力・速射性・安定性 その全てのレベルが違う。
しかし、低ランクワーカーに提供されたのは銃のみであり、情報収集機や防護服、パワードスーツの支給は見送られた。
流石の喜多野マテリアルも、この短期間で大量に配布できるだけの数を集められたのは銃のみであった。
それでも自前の銃の威力とは比べ物にならない性能に浮かれるワーカー達が出てくる。
「浮かれるな。このモンスター達は危険なナノマシンの効果で変異したんだ。頑強さも耐久力も荒野に出てくるモンスターの上を行っている。油断すれば食われるのはお前達だぞ」
このチームの指揮官を任されている高ランクワーカーが浮かれていた彼等を諫め警戒を促す。
(まあ、ランク20そこそこのヤツラがこんな装備を持たされたら浮かれるのは仕方がないのかもしれんがな・・・)
指揮官を任された者達に配布された情報収集機から送られてくる情報に目を向け、苦笑いをこぼす。
相棒が装備した情報収集機からは、周辺構造の詳細なデータが送られてきており、何処にモンスターが潜んでいても全てを丸裸にしてしまっている。
この情報を元に彼はチームへ指示を出し、モンスターを順調に討伐することが出来ていた。
そうでなければ、光源が少なく見通しの悪い地下構造内であの強さのモンスターを相手に損耗無しで探索を続けられる訳がない。
(この装備を手配してくれたキクチ代行殿には感謝しかないな)
現在ミナギ都市ワーカーギルド統括代行であるキクチに感謝の念を送る。
「討伐したモンスターの死体は入念に焼けよ。そうしないとその死体を食ったネズミなんかがまた変異してしまうらしいからな」
「了解しました」
チームメンバーに指示を出すと、小型の火炎武器を持ったワーカーがモンスターの死体を焼き始める。
モクモクと黒い煙を上げながら燃えていく死体から目を外し、酸素補給用マスクの下で溜息をこぼす。
(同じ地下でも遺物もないんじゃな・・・・・さっさと収束させて遺跡潜りに戻りたいぜ・・・・・)
ワーカーオフィスの会議室に陣取っているキクチの元には、作戦中のワーカー達から上がって来る情報が次々と集まって来ていた。
「第4区画の上層部。掃討完了しました」
「よし、モンスターとの遭遇率の高い第3区画への応援に回してください」
「第7区画で初めて変異体を発見したとの事です。サイズは1m以下。変異して間もない個体の様です」
「戦闘記録を研究班に回してください。死体も焼却せずに回収し、同じように研究班へ」
「第2防壁内、西区上層部で壁が破られているのを発見したとの事です。恐らくモンスターが食い破った物と推測されます」
「第2防壁内の地下に潜っているワーカー達に連絡。対象のモンスターの発見を急ぐとともに、他の場所でも侵入された形跡が無いかを調べて下さい。穴の修復はアースネットの施工員に依頼」
「・・・・・第2防壁内にも入られたか・・・・キクチの懸念が当たってしまったな」
キクチと共に会議室で状況を見守っていたバークが呟く。
ミナギ都市は地下構造を通じて第2防壁を越えられない様に設計されている。その為第2防壁外の地下構造のみを探索すれば良いとバークは考えていたが、キクチはミナギ都市全域の調査を強く主張した。
「人は移動できなくても小動物なら入り込む隙間があるかもしれませんし、遺跡のモンスターも自ら穴を開けて移動経路を構築するモンスターはいますから」
自分の端末に情報を忙しなく入力し、作戦の進行具合を確認しながらバークの呟きに返答するキクチ。
「なるほどな・・・・私は状況を甘く見過ぎていたようだ」
「モンスターが隔壁を破る事が分かりました。御社の修復部隊の出動をお願いします」
「承知した」
バークが自社に連絡を取り、破損個所の修復の指示を出す。
その姿を横目にキクチは地下構造のマップを凝視した。
(広いな・・・・・侵入開始から6時間・・・・・まだ上層部の1部分しか潜れていない・・・・・もし下層部にも感染が広がって重要設備に被害が出たら…)
動員した人数に対して作戦の進行具合が遅い。喜多野マテリアルから装備を供給されているといっても、閉鎖空間での戦闘に慣れていないミナギ都市の低ランクワーカー達が多くを占めている。
ワーカー部隊の動きは鈍く、上層部の探索が終わっているのは一番狭い第4区画のみである。
防衛隊もこの手の戦闘は不慣れで、人数の投入は出来たが地下構造のクリアリングは遅々として進んでいなかった。
余り上層部に時間を掛け過ぎると、下層部に入り込んだ変異体がさらに進化する可能性が出てくる。強力化したモンスターが地下で暴れ、都市を支える部分を傷つければ大規模な地盤沈下を招く恐れもあった。
(クソ!!!あいつらも連れて来て下層部に突っ込ませるべきだったか?!・・・いや、落ち着け・・・あいつらは重要な情報を持ってきてくれたんだ。今は余計な事を考えている余裕はない!)
キクチはスラムバレットの2人の事を頭から追いやり、セントラルによって引き上げられた能力をフルで活用しワーカー達の指揮を執り続ける。
「第3区画の掃討完了しました」
「そのまま下層部へ侵入してください。フォローに回した第4区画のチームもそのまま第3区画の下層部へ」
「了解」
やっと下層部へと足を踏み入れられたか・・・・・
そう考えていると
「第5区画!地面を掘り抜いて中型モンスターが地上に出現しました!付近の防衛隊が戦闘を開始!」
「なに!」
「地下構造の設備に損傷有!可燃ガスの流出が認められるとの事です!」
「第5地区に潜っているワーカー達に退避命令!出来る限り発砲を控えて地上に脱出するように!」
「撤退を開始しています!・・・・・退路にモンスター出現!戦闘が開始されました!!」
恐らく下層で成長した個体が地上に飛び出したのだろう。
閉鎖空間で可燃ガスに引火すれば潜っているワーカー達の命は無い。
キクチはマップに視線を戻し、構造的に第5区画と繋がっている区画を調べて行く。
損傷したと思われるガス管が繋がって走っている場所は第4区画と第5区画のみ。今第4区画を探索しているワーカーは居ないが、もし引火した場合を考え第3区画に潜っているワーカー達にも地上への退避命令を出す。
「バーク殿。第5区画の可燃ガスが漏れているとの事です。一時的にでもガスの供給を止めることは出来ませんか?」
「・・・・この都市のライフラインを握っていたのはドルファンドだ。本社のシステムに侵入できれば可能かもしれないが・・・・」
「失礼します。システムに入るより手動で弁を閉じた方が早いでしょう。メンテナンスの時はそうやって作業を行っていたので。第5地区のガス供給元は第4地区のこの場所にあります。しかし、止めるだけでガスが抜ける訳ではありません。誘爆の危険を抑える程度の効果しか望めませんが・・・・」
バークの側近として侍っていた男がキクチに対策案を提示してくる。
この男、都市部のメンテナンス責任者をしていた様で、地下構造のライフラインに精通しているとの事だった。
「それだけで十分です。情報ありがとうございます。直ぐに向かって栓を閉じる様に指示を!」
第3区画の地上に脱出しようとしていたワーカー達を向かわせる様に指示を出し、閉じたら直ぐに脱出するようにと伝えさせる。
第5区画ワーカー視点
「急げ!!モタモタしてると吹き飛んじまうぞ!!」
チームに組み込まれた低ランクワーカー達を引きつれ地上への出口を目指す。
普段は巡回任務ばかりなのだろう。遺跡に潜る自分達とは明らかに体力に差がある連中に喝を入れながら出口を目指して誘導していく。
こんな時に限ってポツポツとモンスターの反応を示すマーカーが視界に浮かんで来る。
それらを躱し、躱しきれないヤツだけを蹴散らしながら通路を駆け抜けていった。
後ろを振り返り確認すると、いつもコンビを組んでいる相棒が若いワーカーの首元を掴んで無理やり走らせていた。
「止まるな!!走れ!!!焼け死にたいのか!!!」
「は・・はい・・・!」
恐らく10代半ばといった所だろうか。これが遺跡なら捨てて行くところだが、ワーカーオフィスからはなるべくフォローするようにと指示が出ている為見捨てる訳にも行かない。
だが、倒れたらそのまま捨てて行く。
ペーペーの為に一緒に死んでやる義理などないからな。
「もう直ぐだ!!死ぬ気で走れ!!!」
俺は漸く見えた点検口の登り梯子に飛びつくと、一気に地上まで脱出した。
その後をついて来ていたワーカー達が続々と登って来る。
「穴から離れろ!!」
出てきた連中を直ぐに退避させ、相棒とあの小僧が出てくるのを待つ。
すると、ここから少し離れた場所で防衛隊がモンスターに対して高火力の攻撃を加えるのが見えた。
モンスターの断末魔と、大きな火柱が立ち上がるのが見えると同時に、少し地面が揺れたのを感じる。
俺はチッと舌打ちを1つ打つと、直ぐにその場から離れる。
その数秒後、点検口から爆炎が噴き上げ、炎と一緒に相棒とあの小僧が噴き上げられてくる。
「うわああああーーーーー!!!」
「うおおおぉぉぉぉぉーーーー!!!」
(・・・あいつ・・最後まで面倒見たのか・・・)
俺は落下してくる小僧が地面に叩きつけられる前にキャッチしてやり、相棒に目を向けるとヤツは自力で受け身を取り立ち上がる。
「お前意外とやさしいな。おい、小僧。感謝しろよな」
「・・・・・うるせーわ」
「・・・・・・・・・はい、ありがとうございます」
「はぁ・・・・・さて、この後どうするのか指示を貰わねーとな・・・・・」
俺は小僧を地面に落とすと、本部に指示を求めるため通信を繋げる。
俺達が脱出してきた点検口からは今だ炎が噴き上げており、この区画に潜ることは不可能だろう。
辺り一面が吹き飛ばなかった事に安堵の息を吐きながら、俺は次の作戦の指示を受けチームを引き連れて移動を開始した。




