後始末の相談。 からの・・・・
ラルフがスラムバレットの随行員に決定した為、ラルフ強化計画が立案された。
まずは貧弱な体(スラムバレット視点)の素体レベルを引き上げるため、ラルフは今カプセルの中に放り込まれていた。
強化内容はキクチに行った物をベースに、少々戦闘寄りに改造・・・・もとい、調整を行う事になった。
「この施設に身体拡張ユニットが存在しない事が残念です」
「そのツールは我々が存在する時代より後に開発されたものだ。仕方があるまい。遺跡とやらを探索して見つける他ないのでは無いか?」
「そう簡単に見つかる物ではありませんし、私の時代のユニットには使用制限が掛けられており、ラルフに適用出来るかどうかが不明です。訓練の強度を上げて仕上げるしかありませんね」
「ふむ、筋組織の超回復や強化、骨密度等の調整は訓練に合わせて調整するとして、内臓の強化と脳の伝達速度と記憶効率はこの調整で限界まで上げておく方が良いだろう」
「よろしくお願いします。視力の強化も行いたいですが、なんでも詰め込めばいいという物でもありませんし・・・・」
「ここで一気に強化しては本人の精神に負荷がかかり過ぎる。段階を追って改造していくべきだろう」
カプセルに浮かびながらゆらゆら揺れているラルフ。
その目の前で、本人が聞けば動揺する事は間違いない話の内容を繰り広げるセントラルとイデア。
2体のAIがあーだこーだと言い合いながらラルフの強化は行われていく。
ちなみに、このラルフ強化計画はゴンダバヤシと相談し決定された内容だった。
現代文明の強化度から逸脱しないレベルでの処置を許可されており、その範囲に収まる様に、だが、最大限に強化される様だ。そうでなければあのスラムバレットの随行員は務まらないと判断されていた。
「大丈夫かな~ラルフさん」
「大丈夫だろ。おっちゃんもちゃんとブレーキ掛けてくれたし」
シドとライトも新しい仲間となるラルフの強化には興味がある様で、メディカルルームでラルフの調整を見学していた。
「セントラルは改造って言っちゃってるし・・・・ちょっと心配」
「・・・・・・まあな」
ゴンダバヤシから制限を受けているとはいえ、大腕振って現代人の体を弄れることにテンションが上がっているセントラル。
あまり無茶な事をしなければいいのだが・・・・
<心配はいりません。ちゃんと2人に着いていける程度には仕上げますので>
イデアの本体?が心配そうにする2人に声を掛けてくる。
<・・・・どのくらい強化するの?>
<身体能力の強化度という点ではライトの半分くらいを想定しています。あとは訓練によって筋力と骨格強度を上げ、A60を両手で撃てる程度には仕上げたいですね>
本職のワーカー達がこぞって使えない判定を下していたA60が使用可能な程度。
これはかなり無理やりに強化するつもりだな、とライトは考える。
<肉体がある程度仕上がれば、パワードスーツの着用も考えなければなりません。生身で2人に着いていける様にするには、身体拡張が必須になってきますから>
<パワードスーツか~。どんな感じなんだろ?ボクも着た方がいいのかな?>
<ライトには不要かと。シドとの身体能力の差はかなり開いていますが、現代製のパワードスーツで補おうとすればかなりハイレベルなスーツを着る必要があります。それに、ライトの戦い方にはマッチしないでしょうから、今まで通りシールドスーツを着用する事をお勧めします>
<そっか>
イデアはそういうが、今後あの亀裂内の遺跡に出てきた様な、高度な迷彩能力を持つモンスターが出現した場合、今の装備では不安がある。
あの生物はシールドを貫通するAH弾頭と同じ性質を持つ攻撃を行って来た為、防御をシールドのみに頼るのは危険とライトは判断していた。
<ライトは体術の訓練も行う必要がありますね。情報収集機のみではなく、気配を感じ取る技術の習得も急ぐ必要があるかと。シドの様に広範囲を索敵する必要はありませんから、近距離だけでも察せられる様になれば十分です>
<・・・わかった>
これはラルフと一緒に自分もシドにどつき回される未来が見えてきたな、とライトが考えていると、設定内容が決まったのかラルフの強化が始まった。
始まったと言ってもキクチの時と同じように見た目で変化が分かるモノではない。
このまま処置が終わるまで暇な時間を過ごす事になりそうだと言う事で、2人はシアタールームで時間を潰すことにした。
ゴンダバヤシ視点
ミナギ都市に急遽向かう事になったゴンダバヤシ。
明日には此処を出発して、喜多野マテリアルから集まって来る部隊と合流しドルファンドへの調査を行わなければならない。
その為には、事前に集まった情報を精査しておかなければと、キクチと一緒にイデアから提供された情報を閲覧していた。
「・・・・・・・・最近ドルファンドの身体拡張技術の躍進はこういう事だったか」
「その様ですね。特異な身体特徴を持つ者や、隔世遺伝者と思わしき者を攫って来ては人体実験を繰り返していた様です」
「これはミナギ都市外部からも調達してただろうな」
「でなければここまでの検体を集められるとは思えません」
見ていても全く面白くない情報に目を通しながら、2人は顔を顰める。
この検体達が何処から集められたのか調べようにも、名前すら記録されておらず容姿や身体的特徴すら残されていなかった。
全てはナンバーで記録されているのみで、この情報から彼らのことを追跡しようにも情報が足りなさ過ぎて不可能であった。
今回のドルファンドへの対処は既に決まっている。
取締役・実務担当者の全てを拘束。その罪によって処刑か治験行きかを決めるだけだ。
だが、事は都市管理企業の1つが起こした犯罪である。
3社で管理していた所が2社になってしまう事にも問題が発生するだろうし、その様な大企業がいきなり潰れては経済的な打撃も大きくなる。
その為の対処も考えなくてはならない。
2人には頭の痛い話だった。
「・・・・・・俺もセントラルの処置をうけるべきか?」
ダゴラ都市での遺跡難易度上昇、高難易度遺跡の新規発見。その対処に本社から出向を命じられたはずのゴンダバヤシだったが、ダゴラ都市滞在中に中央崇拝者の都市内でのテロ。中堅ワーカーギルドの暴走。ダゴラ都市幹部の背信行為。
一纏めに大問題が発生し、その対処に奔走していたと思ったら、少し離れた場所で世紀の大発見の報告が入って来た。
寝る間を惜しんでそれらの対処に当たり、ようやく落ち着いたと思ったら今度はミナギ都市での大罪案件を引っ提げてスラムバレットが戻って来たのである。
まだ以前のキクチの様に憔悴はしていないが、体力的には一般人であるゴンダバヤシにはキツイものがあった。
兵器開発部門長から取締役に昇進し、エリア南部の管理を任せられたのは異例の大抜擢なのは間違いない。
だが、このペースで問題事が発生していれば対処が間に合わないのは間違いなかった。
もう少し規模が小さければ、部下に指示を出して対処を任せればいいのだがこのレベルとなるとゴンダバヤシが動かざるを得ない。
「・・・・・・あの野郎。いいタイミングで交代してくれやがって・・・・・・」
右手で目を覆い、背もたれに深く体を預けるゴンダバヤシの瞼の向こうには、先任者の笑顔が浮かんでいた。
だが、会社から任されたのだからしっかり役目は果たさなければと体を起こし、ドルファンドへの対処とワーカーオフィスとの連携を話し合おうとしたその時、また良くない情報が飛び込んできたのである。
「会議中に失礼する」
その情報を持ってきたのは誰であろうセントラルであった。
「・・・・・何かあったのか?」
「預かっていた強化人間の核なのだが、そこから検出されたナノマシンについてだ」
シドはゲンハの核もゴンダバヤシに提出しようとしたのだが、セントラルが調査を引き受けるとの事だったので、セントラルに渡していたのだ。
「君達の会社から来ている研究者と共に解析したのだが、なんでも摂食進化型モンスターに使用されている物に近いとの結果が出た」
「なるほどな。最後の変形はそういうカラクリだったと言う訳か」
「そうらしい。それだけなら問題はないのだが、このナノマシンに致命的な欠陥が発見された」
「・・・・・というと?」
「本体が死亡した際のセーフティーが設定されていない。旧文明の技術を真似て作られたのだろうが、システムを100%解析出来ていた訳では無いのだろう。中途半端に性能を復元している為、本体が死亡してもナノマシンの機能が停止しないのだ」
「・・・・・・・・と、どうなる?」
「生きたナノマシンが他の生物に共存してしまった場合、その生物にも同じような効力を発揮してしまう。ナノマシンのシステムについて説明している時間が無いだろうから省略するが、自動増加プロセスが可能な量のナノマシン群を取り込み、免疫機能がナノマシンに負けてしまった個体が有れば、その個体は摂食進化型モンスターに変貌する可能性が大きくなるだろう」
「「・・・・・・・・」」
「本体の様に高温に曝されていない、斬り飛ばされた部位等を小動物がある一定の体積を摂取した場合、高確率でモンスター化してしまうと言う事だ。制御機関があった本体は消し炭になっている為、放って置けば制御から離れたナノマシンが暴走を始める事になり兼ねない。早めに対処しなければ、そのミナギ都市と言う場所で大規模なバイオハザードが発生する事になる」
最悪な情報を耳にした2人は頭を抱えて机に突っ伏すことになった。
「マズイ・・・・・それはマズいぞ!!!」
「今すぐに対象区域を閉鎖して住人が立ち入らない様にしなければ・・・・・・・・ミナギ都市のワーカーオフィスに通達して緊急封鎖を行います」
「アースネットとケミックスにも協力させる。デンベ、兵隊達にも通達だ。ミナギ都市に到着したら直ぐに指定区域を焼き払え」
「承知しました」
デンベとキクチは通信端末を操作し、それぞれ指示を出していく。
「・・・・セントラル。そのナノマシンは体液が付着したとか噛みつかれた程度では発症しないよな?」
「某パニックホラーゲームの様にか?それはない。体内組織に共生するタイプのナノマシンだからな」
「どれくらい食えば感染するか分かるか?」
「食べた場所にどれほどナノマシンが生きているかによるだろう。だが、内臓は危険だ。ナノマシンが稼働するのに十分な素材が含まれているだろうからな」
「・・・・・・・チッ、夢の無補給で強化可能な身体拡張技術が裏目に出たか・・・・」
「感染した個体は長くは生きられないだろう。ゲンハという個体も長くは生きられなかったはずだ。だが、数年は摂食行動に歯止めが利かず暴れ回る可能性が有る」
「・・・研究しても使いモンにならねーってか?・・・・・・最悪じゃねーか」
「制御システムを新規に開発すれば何とかなるかもしれないが、違うアプローチから開発する事を勧める」
「・・・・・・・御助言ありがとうよ」
「うむ・・・・・・肉体メンテナンスならいつでも受け付けている。気軽に言ってくれ」
そういうと、セントラルはホロを消す。
「・・・聞かれてたか。ま、当然だな」
ドルファンドを解体しても、ナノマシン問題を解決しなければミナギ都市はモンスター発生地点と化す可能性が出てきてしまった。
この問題を解決するのにどれほどの時間がかかるか想像もつかない。
これ以上余計な被害が広がる前に早急に手を打たなければと、ゴンダバヤシは通信端末を手に取り、緊急回線で連絡を取り始めるのであった。
キクチを甘やかすつもりはない




