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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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続・頑張れラルフ

BBQも終わり、ゴンダバヤシは仕事があると言って自分の部屋へと帰って行く。

ダーマもベビーフードを食べてスヤスヤと眠っているエミルを抱えて自分の部屋へと戻っていった。


その場に残ったのはシドとライトとイデア、それにキクチとラルフの4人と1体である。

「さて、お前等には今後の話をしておきたかったんだ」

シド達に視線を向け話始めるキクチ。

「まずは今の俺の立場を説明しておく」

キクチはゴンダバヤシ直属の部下となったらしい。

ゴンダバヤシの指令を受けてワーカーオフィスに出向し、発生した問題の対処に当たる事になるそうだ。

「ってことは、今のキクチは喜多野マテリアルの社員って事になるんだな?」

「・・・・ん~、それがそうでもない。俺はワーカーオフィス所属のまま、ゴンダバヤシ様の部下として動くことになったんだよ」

「・・・・?どういうことですか?」

今の話を聞いただけなら、キクチはどっちつかずの宙ぶらりんな立場に立たされているように思える。

「要するに、喜多野マテリアルはワーカーオフィスに俺という監視役を送り込んだって体にする様だ。俺は喜多野マテリアルの意向をワーカーオフィスに届け、それが正確に伝わり実行されるかを監視する。そして、ワーカーオフィスで大きな問題が発生したらすぐにゴンダバヤシ様まで報告を上げる連絡役みたいなものだな。役職としては喜多野マテリアル担当官として、各地のオフィス統括と同等の決定権を与えられる。喜多野マテリアルの統治地域だけだがな」

2人は「「へ~」」っとあまり興味が無さそうな返答を返す。

その様子を見たキクチは、(こいつら分かってない)と説明を行う。

「それは建前だがな。ハッキリ言っちまえば、お前らが他都市に行って問題が起こった時に、迅速にゴンダバヤシ様に報告が入る様に俺が配置されたって事だよ」

「・・・・・ん?」

「それって、ボク達の監視って事ですか?」

「・・・ぶっちゃけるとそうだ」

シドとライトの言葉にキクチは頷く。

「なんでだよ」「え~・・・・」

監視と言われ、2人は嫌そうに顔を顰める。

何か悪い事をした訳ではないのに何故監視されなければならないのか?

「・・・・お前等、胸に手を当てて考えてみろよ」

キクチにそう言われ、2人は胸に手を当てて考える。しかし、思い当たる節が無い為、2人揃って首を傾げた。

その2人にイラっとするキクチ。

「キクチ、私が説明しましょう」

「・・・ラルフ」

キクチの横からラルフが口を挟んでくる。このシェルターに着いた時と比べるといくらかマシになっていたが、やはり疲れた顔をしている。

「ふぅ・・・・お2人共。貴方方が巻き込まれた騒動は、本来たった2人のワーカーにどうこう出来る規模のトラブルではありません。普通ならワーカーオフィスに連絡が入り、後の影響が精査されオフィスとしての対応が決定される規模の案件ばかりです。ですが、お2人は類まれな実力を持って、単独で対処されてきました。その為にワーカーオフィスはずっと後手後手に回って来たと言う事です。そして、都市やオフィスのみならずエリア管理企業が動かなくてはならない話まで出てくる始末、このシェルターの様にね」

そういうラルフは両手を広げ、この旧文明の技術がマルマル残った地下シェルターを示す。

「今回の人身売買の件もそうです。最初はスラム街の一組織が犯罪に手を染めている程度の認識でしたが、本体には都市管理企業がいました。都市管理企業が相手となるとワーカーオフィスのみでは対処は難しい。実際にミナギ都市のワーカーオフィスに連絡を取っても迅速に動くことは出来ていません。今回はゴンダバヤシ様が動かれ、早急に手を打たれる様ですが、今までの体制では直ぐに対処することは非常に難しいのです」

ラルフの説明によって、キクチのポジションがどういう理由で決められたのかが分かって来る。

だが、それでも納得できるかと言われたら難しい。

「これからはお前達との連絡を密にする必要があると判断された。お前達の行動を俺が精査し、オフィスが動くのか、喜多野マテリアルに報告するのかを判断するって訳だ」

「連絡を密に・・・か」

シドはそういい腕を組む。

確かに、今回の件も直ぐにキクチに連絡を取ればここまでの大事にはならなかったかもしれない。

自分達では判断できない様な企業案件等が出てきた場合、オフィスやワーカーの常識に照らし合わせてキクチが判断してくれるというのは心強かった。

「でも、ずっとキクチと連絡が取れる状況って難しくないか?」

遺跡に潜っている時など、シド達が持っている通信端末では電波が届かない等の問題が生じる。

「そこで、ラルフには俺の直属の部下として、お前達の随行員として同行する事になった」

キクチは心配するなと笑顔を浮かべながらラルフの肩をポンポンと叩く。

そのせいでラルフはわずかに顔を引きつらせた。

「お前達の周りで何か問題が発生した場合、俺に連絡がすぐに入る様になるって訳だ。もちろん、普段の手続きなんかもラルフが対応してくれるぞ」

2人は引きつり気味の笑顔を向けるラルフに目を向ける。

確かに通常の手続き等はそつなく熟してくれる。しかし、突発的な判断に対しては不安が残るとライトが考えていると、

「お待ちください」

今まで黙って話を聞いていたイデアが声を上げる。

「ラルフがシドとライトに随行するとの事ですが、どのレベルまで行動を共にする予定ですか?」

イデアの心配はもっともだ。

都市を移動する際に、スラムバレットに引っ付いて移動するくらいなら問題は無いだろうが、遺跡にまで同行するとなると今のラルフでは不可能と言える。

「私が調べた所、ワーカーオフィスからの随行員は大型クラン等に適応され、ワーカー達と共に遺跡へも同行するようですね。そこで遺跡の異変や問題が発生した場合速やかに、かつ正確に情報をワーカーオフィスに伝える役割を持つ者の事を言うとあります。その意味での随行員であれば、ラルフが死亡する可能性は極めて高くなります。今回の戦闘レベルでも命の危険がありました。その辺りはどう考えているのでしょうか?」

「・・・・あれ以上危険な状況になりうると?」

ラルフは聞きたく無さそうに、だが、聞かなければならないとイデアに質問する。

「はい。つい先日ですが、亀裂内に存在する遺跡を探索した際、シドがメタルアントの巣に突っ込むと言うアクシデントがありました。かなり大規模な巣で、最終的には地面ごと吹き飛ばして亀裂の中に大多数のメタルアントを落とさなければ、ドルファンドの私兵や防衛隊との戦闘以上に危険な戦闘になっていたでしょう。実際、シドはメタルアントとゲンハ。どちらの方が脅威に感じましたか?」

「ん?・・・そりゃーメタルアントだな。あいつらは戦略的に攻撃してきたからさ。ゲンハは身体能力としつこさ以外何もなかったし」

「そう言う訳です。我々はたった2人しかいないチームですので、ラルフを護衛しながら遺跡探索は不可能です。それでもついてくるのなら、相応の戦闘能力が必要になります」

イデアの説明にラルフは心底嫌そうな表情を浮かべる。

メタルアントは第一級の危険モンスターだ。

一度手を出せば、巣に潜んでいた全てのメタルアントが対象を抹殺する為に動き出す。その規模はスタンピードに匹敵する場合もあり、荒野で遭遇しても手を出さない様にと注意されるくらいのモンスターであった。


毎回そんな事にならないだろう思うかもしれないが、シド達はミナギ都市へと移動する際、あれと同じ規模の襲撃にあっている。2度あることは3度ある。

次は無いとは言い切れない。


「メタルアントって・・・・お前なにやってんだよ・・・」

キクチは呆れ半分怒り半分の視線をシドに投げた。

「・・・・あれは不幸な事故だったんだよ・・・・」

「いや、ただの不注意だよ」

シドはキクチから顔を逸らし言い訳をするが、即ライトにぶった切られる。


「という訳ですが、どうお考えですか?」

「「・・・・・・」」

どうお考えも何もラルフとしては断りたい。

気持ち的にはもう出世とかどうでもいいから普通の職員に戻して欲しい。だが、ゴンダバヤシにはスラムバレットの担当を続けると宣言してしまっており、この随行員の話もゴンダバヤシから出た話だった。

いまからやっぱ無しで、などとは口が裂けようともいえる訳がない。

そして、キクチとしても好んで同僚を死地に放り込みたい訳ではないし、情報の要となるラルフに死んでほしい訳でもない。

どうしたものかと頭を抱える事になった。


すると、ライトがパンと手を合わせて言う。

「なら、ラルフさんも戦える様になるしかないね」

キクチとラルフは何を言ってるんだ?と言う顔でライトを見る。

「それは難しんじゃ無いか?」

ラルフは普通の一般人である。

シドやライトの様に隔世遺伝者と言う訳でも無ければ、身体拡張も行っていない。

「別にボク達みたいにガチンコで戦う必要は無いでしょ?最低限自衛が出来るくらいまで強く成ればいいんだから」

「それはそうだけどさ。それってどれくらいだ?」

「う~ん、ドンガさんくらいなら大丈夫だと思うよ?」

ライトはそういうが、ドンガとてランク40のハンターなのだ。

ワーカーオフィスの職員がランク40のハンターと同じレベルまで鍛え上げる等正気の沙汰では無い。


だが、シドもライトも普通では無かった。

シドはラルフに視線を向け、頭から足先まで視線を走らせる。

骨格から筋肉の付き方などを観察し、鍛えられるかどうかを観察した。

「・・・・イデア。どう思う?」

シドはイデアに顔を向けて問うた。

「そうですね。戦闘に耐える肉体を得るだけならこの施設はお誂え向きです。戦闘勘等は訓練だけでは身につきませんが、通信兵として考えるなら問題は無いかと」

斜め上の方向に話が飛んでいくのを見てラルフは急いで割り込んだ。

「ちょ!!ちょっと待ってください!!私は戦闘どころか喧嘩もしたことはありませんよ?!」

「ワーカーオフィスの職員って戦闘訓練しないんですか?」

「・・・・ちょっとした射撃訓練がある程度だ」

「あ~・・・ならあの養成所の卒業生くらいってことか・・・・・結構時間かかるかな・・・」

ライトの養成所に対する評価が如実にわかる言葉ではあるが、その評価は的を射ていた。

「無理です無理です!!!ランク40のハンターと同等など!!私には無理ですって!!!!」

「ならどうします?車で一緒に都市を渡って、都市で待機するんですか?それだと今までとあまり変わりませんよ?」

それはそうだ。

スラムバレットは都市内部だけで無く、荒野や遺跡でもトラブルを引き当てると言う事は先程のメタルアントの話から分かる通りである。

キクチとしてはラルフにはこの2人と一緒に行動してもらいたい。


ならば、選択肢は一つである。


「ラルフ」

そう言い、ラルフの肩に手を置いた。

「上司命令だ。出来るだけ強くなれ。ゴンダバヤシ様にも話を通し、可能な限り便宜を図るから」

「~~~~~!!!!!!」

「なら訓練プランを考えないとな」

「でも期間はどうするの?ここで2ヶ月3ヶ月訓練する訳にも行かないよね?シドさんの防護服とかも手に入れないと」

「最短で詰め込みます。セントラルにも協力を要請しましょう」

「うそでしょ~~~~!!!!!!!!」


こうしてラルフの強化訓練が開催される事となった。

この話にセントラルが否と言う訳も無く、旧文明のAI2機にシゴキ回される事になったラルフ。

自分と同じように強化される事になるであろうラルフに、キクチは同情の視線を送った。

功名心から地雷原に踏み込んだのはラルフ自身だ。

これも自分が選んだ道と諦めて頑張ってもらおう。


天に向かって叫ぶラルフに背を向け、通信端末でゴンダバヤシに連絡を取るキクチであった。


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― 新着の感想 ―
かわいそうなラルフおじさん
キクチはラルフを生け贄に捧げた。 しかし効果はなかった。
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