頑張れラルフ!
ラルフに引きずられていたキクチ。
ゆっくり話せる所まで案内するとラルフを諫め先導していく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で歩いていく2人だったが、キクチは 2人で 話せる場所へ案内するつもりは無い。
このままラルフの希望する空間に連れて行っては、散々文句を言われてあの2人の担当から降りると言われてしまうのは目に見えている。
なぜなら、自分が逆の立場なら間違いなくそうするという確信があったからだ。
ならば、ラルフに主導権を取られない場所まで引きずり込んでしまえばいい。
キクチは端末で連絡しながらシェルターの通路を歩いていく。
「・・・・・」
ラルフは無言で歩いていくキクチの背中を睨みながら、この後ぶつける苦情を頭の中で整理していた。
もっとスラムバレットの異常性を正しく理解していればここまでの大事にはしなかった。
アンダースネイクの一味を逮捕した段階でもっと詳しく話を聞き、直ぐに他都市へと移す手配を行っていただろう。
黒幕がドルファンドであった事を考えれば、同じようなことになっていたかもしれないが、対処のしようはあったのだ。
ワーカーには端末で調べられるデータではわからない情報というものがある。
自分もちゃんとキクチに聞いておけばよかったのだが、死にそうになったのだからそれくらいの文句を言う資格があるとラルフは考えていた。
この後思いっ切り文句を言おう。そして担当はキクチに戻そう。
そう考えていた。
「着いたぞ」
キクチが案内したのはホテルの一室の様だ。
「・・・・かなりハイランクの部屋の様だな」
「まあな。防諜は完璧だから会話の内容が外に漏れることは無い」
「なるほど、では中に入ろうじゃないか」
ラルフがそういうと、キクチはドアをノックする。
この時点でラルフは違和感に気付くべきだった。
いや、気づいたところでどうにもならなかったか・・・・
ドアが開き、中から随分オーラの強い人物が出迎える。
「どうぞ」
スーツを身に纏っているが、ビジネスマンには見えない。
ラルフが今まで会って来たワーカー達より遥かに威圧感があった。
キクチに続いて部屋に入り、奥に通されるとそこには5人の男たちがおり、その中で1人だけが椅子に腰かけている。
その後ろに明らかに常人とは違う雰囲気を持った男が立っており、他の男たちは部屋の隅で待機の姿勢を取った。
そして、この部屋の中で唯一椅子に座っている男が声をかけてくる。
「おー、キクチ。そいつがスラムバレットの新しい担当か?」
「はい、現在ミナギ都市に在籍しているラルフといいます。 自ら 進んで彼らの担当を受け持ってくれており、より重要度の高いポジションを望んでおります。能力も申し分ありません」
自らと言う部分を強調して伝えるキクチ。
「そうかそうか。これからもよろしく頼むぜ」
そしてニヤリと笑いながらそう言って来る男。
予想外の展開にラルフは混乱して対処が遅れる。
コチラを向いたキクチは、笑顔を浮かべてその男を紹介して来た。
「ラルフ。この方は喜多野マテリアルの取締役 ゴンダバヤシ様だ。さあ、ゆっくり話そう」
「・・・・・・・・」
ラルフは信じられないくらい高位の人間を紹介され唖然としてしまう。
そして、笑顔のキクチの顔を見て悟った。
(謀りやがったなキクチーーーーーーーー!!!!!)
ラルフが心と胃壁にヤスリ掛けをされている頃、シド達は大浴場で戦闘の疲れを癒していた。
「「「「ああ~~~・・・・・・」」」」
シド、ライト、ヤシロ、ダーマは濁り湯に肩まで浸かり、この数日の疲れを湯に溶かしていく。
目の前には竹という植物が見え、そよそよと吹く風が気持ちいい。
頭上には満天の星空が煌めいており、湯とこの空間が先日までの荒んだ心を洗浄してくれている様だった。
「・・・・ぁぁ~・・・・・やっぱここの風呂は最高だよな~・・・・」
「そうだね~・・・・」
「この施設から出られなくなるぜ・・・・」
「・・・・・・・」
あまりのリラックス空間に伸びきる4人。
あのダーマですらその顔は緩み、数年ぶりの安楽を堪能している様だった。
「しっかし、お前等のトラブルを引き寄せる才能は天下一品だな。到着初日で企業の大罪案件なんか引き当てるか?普通」
シドから事の顛末を詳しく聞いたヤシロはそう感想を述べる。
「仕方ないじゃないですか。俺だってここまでの事になるとは思って無かったですよ」
「そうですね。精々他都市のアングラな連中との取引くらいにしか考えてなかったです」
「・・・・そのお陰で俺とエミルは助かったわけだがな」
2人もダーマ達を助けた時は企業が絡んでいるとは考えもしなかった。
しかも都市管理企業が出てくるとは想像もしていなかったのだ。普通のワーカーなら管理企業が相手と分かったら降伏するものだろう。
しかし、この2人は完全に敵対しダーマとエミルを守ることを選んだのだ。
ダーマからすれば感謝してもし足りない存在である。
「心意気は立派だけどよ~。一歩間違えたら死ぬぞ?その辺りはどう考えてたんだ?」
「さっさと逃げれば大丈夫かな~って思ってましたね。ここまで逃げて来て証拠をキクチに渡せば何とかしてくれると思ってたんで」
「・・・なるほどな。キクチなら上手い事やってくれるだろうけどよ、相手は1都市を支配してる企業の一角だぞ?そう簡単に行くもんか?」
「大丈夫だと思います。キクチは喜多野マテリアルの兵器部門長と知り合いですから。あの人に話を持って行ってくれれば直ぐに解決すると思うんですよね」
「・・・・・・は?」
シドが何気なく話した内容に聞き逃せない事が含まれていた事に気付くヤシロ。
今まで背もたれに預けていた体をザバ!っと起こしシドの顔を見つめた。
「おいシド。キクチが誰と繋がりがあるって?」
「え?あれ?ヤシロさん知らなかったんですか?」
「・・・知らねーな」
シドはやっちまったか?と顔を固くする。
反対側にいたライトに目を向けるとそこには誰もおらず、気配を探ると離れた所まで潜水で泳いでいくライトを気配を感じた。
<逃げんなよ!>
<ボク知ーらない>
薄情な相棒である。
「それで?誰と知り合いだっていった?」
後ろのヤシロがシドを逃がすまいと両肩に手を置いて来る。
「ええっと、喜多野マテリアルの部門長です。ゴンダバヤシって名前の・・・」
「ほ~・・・いいこと聞いたぜ。キクチに確認とるけど。いいよな?」
「・・・ええ、大丈夫です」
「・・・・・・・・」
ダーマはシド達の会話を聞きながら、天空の上にいる存在が会話に出てきたことを聞いていた。
(・・・・それならエミルの安全も確保できるかな・・・)
などと茹った頭でボ~っと考えるのだった。




