地下シェルターへ到着
あれから2日。
ミナギ都市の防衛隊とドルファンドから逃げきった一行は、荒野を走り抜け地下シェルターへと到着した。
「やっとついたな」
「やっとついたね~。行く時も戻ってくるときも大変だった」
「ホントにな~。やっぱ東方は危険がいっぱいだ」
そんな訳は無い。
ダゴラ都市から東方都市とは言え、最前線から比べたらまだまだ優しい部類である。
2人が普通にワーカーとして活動していればここまで苦労する事は無かっただろう。
「腹減ったな~。セントラルに飯食わせてもらわないと」
「今度は有料なんでしょ?あまり贅沢できないよ?」
「金ならある!大丈夫だ!」
確かにシドの資産はまだ億越えだ。たかが食事位で底をつくことは無い。
だが・・・・
「・・・・・ホントに大丈夫?バイクもそうだけどその防護服。壊れてるよね?」
「・・・・・」
そうなのだ。
シブサワから購入した7000万越えの防護服。ゲンハへのトドメの一撃として放った雷パンチの余波で制御装置が壊れてしまい、防護服の操作もシールドの発生も出来なくなってしまっていたのだ。
そのことに気付いたのは、露出させっぱなしだった両腕を防護服で覆おうとした時の事である。
幾ら操作しようともうんともすんとも言わず、試しにシールドを張ってみようとしても作動しなかったのだ。
何故壊れた!!と焦り散らかしたのだが、イデアがあの雷パンチが原因ではないだろうかと予測を立てた。あの再生力を持つゲンハを黒焦げにして止めを刺した威力の電撃だ。
制御装置が焼けてしまっても可笑しくはない。
流石の唐澤重工も、外部からの電流ならともかく、内側からそこまでの高圧電流が流れる事は想定外だったらしい。
シドは購入して2・3日で7500万コールの防護服を壊したことに頭を抱え、盛大に凹んだのである。
「今回の騒動も報酬が出る様な話じゃないでしょ?節約しといた方がいいんじゃない?」
ミナギ都市でも巡回依頼や遺跡探索で稼ぎはした。
しかし、この防護服や弾薬の補充を考えれば完全な赤字と言っていい。シドはさっきまでのテンションを引っ込めズーーンと沈んでしまった。
<シドの電気制御もまだまだですね。全力の一撃では外に漏れてしまっています。しっかり制御できるよう訓練を考えましょう>
またビリビリしびれる訓練は御免こうむりたいが、あの攻撃を放つたびに防護服がお釈迦になるのはいただけない。今回は防護服だけで済んだが、ツールボックス等入手困難な装備に影響が出ては目も当てられない。
シドはイデアの扱きを覚悟した。
そうこうしていると、ドンガの案内で新しく作られたシェルターの入り口に到着した。
前回の大穴は埋められ、正規の入り口にゲートが設けられている。そしてそこには、少数であるがワーカー達の姿もあった。
「なんかこの短時間でめっちゃ様変わりしてるな」
「喜多野マテリアルが全力出した結果でしょう。外部の防衛機構もかなり力が入っていると思われます」
「そうだね。あ、あれってゾシアの車じゃない?なんだかボク達場違いなところにいる様な気がしてくるよ」
このシェルターを拠点に南方方向への探索を行っているチームが滞在している。
ダゴラ都市3大ギルドから派遣されたチームがここには滞在していた。
『ライトちゃん、入門許可が下りたわ。ちゃんと着いてきてね』
「はい、わかりました」
ドンガの車に案内され大型リフトに乗り込むと、ゆっくり地下へと降りていく。
かなりの深さまで降り、リフトが止まると目の前には重厚な扉があり、それが音を立てて開き始めた。
その奥には駐車場が広がっており、地下とは思えない程明るい。
扉を通ると直ぐにゲートがあり、そこでワーカーライセンスを提示し中に入って行く。
ドンガの車の隣に駐車し、車から降りるとシドは背を伸ばした。
「う~ん、これでやっと落ち着けるな」
「まだだよ、ちゃんとキクチさんに報告しないと」
「その辺はラルフさんがやってくれるんじゃないか?ほら、あの人俺達の担当らしいし」
「そう言う訳には行かないでしょ?あの人、無理やり連れて来たようなものなんだから」
そんな話をしていると、ドンガの車から乗っていた人達が下りてくる。
「よ~シド。今回も派手にやりやがったな~」
一番に降りて来たのが天覇のヤシロだった。
「あ、ヤシロさん。久しぶりです、ドンガさんについて来てたんですね」
「おう、キクチに言われてな。まあ今回ばかりは俺も肝を冷やしたぜ」
そういって笑うヤシロ。
「大事になってたら面白いのにって言ってたじゃない。楽しかった?」
その後ろから相棒のレオナが下りてくる。
「久しぶり・・・久しぶり?かな?2人共」
シドとライトに笑顔を向け、手を振ってくる。
「どうもです。今回はありがとうございました」
ライトがレオナに頭を下げる。
「いいよ、今回はドンガに協力しただけだから。まあ、あそこまで危ない事になるとは思って無かったけど」
そう言って笑うレオナ。
「ダーマとエミルは?後ラルフさん」
シドがそう聞くと、車内から全員が下りてくる。
ドンガを先頭に、ダーマ、ダーマに抱かれたエミル、そしてラルフが車から降りてくる。
ドンガは何故かしょんぼりしており、ダーマは何やら気まずそうな雰囲気だ。ラルフはなんだか気の抜けたような表情でふらふらと降りてくる。
そして、唯一元気いっぱいのエミルは、イデアを見つけると嬉しそうに手を伸ばした。
「きゃ~~!」
その姿を見たイデアはすーっと寄って行き、ダーマの腕からエミルを回収する。
「ダーマ、ご苦労様でした。ちゃんとエミルを守り切った様ですね」
「あ・・ああ」
これではどちらがエミルの保護者かわかったものではない。
しかし、ミナギ都市でアンダースネイクから保護された後、もっとも面倒を見ていたのはイデアだ。エミルのこの反応は仕方がないのかもしれない。
「それで、ドンガさんはなんでしょんぼりしてるの?」
ライトがダーマに小声で聞く。
「・・・・エミルを抱こうとして泣かれた」
「・・・それはそれは」
御気の毒に、と思っていると、すぐそばにセントラルのホロが映し出される。
「ようこそいらっしゃいました。お部屋の準備が整いましたのでご案内いたします」
そのセントラルは前回の時の様な雰囲気ではなく、ただ機械的に案内するだけの存在の様だ。
「・・・変ね。ここで案内が来ることなんてないんだけど・・・・」
ドンガやレオナは不思議そうに首を傾げる。
「「・・・・・・」」
セントラルの性格を知っているシドとライトは、この時点で不穏な空気を感じた。
「まあいいじゃねーか。部屋の準備が出来たんだろ?さっさと行こうぜ。流石に今回の遠征は疲れた」
ヤシロは深く考えずセントラルの後をついて行く。
シド達も後に続き、シェルターの中へと入って行った。
暫く進むと、そこはちょっと前に大型オートマタと大乱闘をやったロビーにたどり着く。
そして、そこに待っていた人物が1人。
キクチである。
シド達が到着したと聞いてロビーで待っていた様だ。
キクチはシド達の姿を認めると、ツカツカと早足で歩いてきて口を開こうとする。
しかし、キクチが何かを言うよりも早くラルフがキクチに詰め寄っていった。
「キクチ!!!お前!引継ぎはちゃんとしろよ!!!」
付き合いは短いが、初めてラルフの大声を聞いたシドとライトは面食らう。
「ラルフ!なんでお前がここに?!」
「なんでも何もあるか!!お前!私がどれほど危険な目に遭った事か!!!」
ラルフはキクチの胸倉をつかみそうな勢いで詰めかける。
「!!いや待て!!先に報告を・・!」
「報告なら私が聞かせてやろう!!どこで話せばいい?!ここでいいのか?!」
ラルフの剣幕にキクチもたじたじになる。
「・・・えっと・・・ここじゃちょっと・・・・・」
「なら場所を変えて話そう。そう、ゆっくりとな」
据わった目でキクチを睨むラルフ。
その目を見たキクチはこう思った。
あ、少し前の俺だ・・・と
あれよあれよという間にラルフに引きずられていくキクチ。ここに着いた時からは想像もつかないパワフルさであった。
「・・・・なんだ?」
「・・・まあ、オフィスの人間があんな目に遭ったからね」
「わからなくもないわ」
3者3様な反応を示すヤシロ達。
シド達と言えば、
「な?報告はラルフさんがやってくれるみたいだから飯にしようぜ」
「・・・・・・いいのかな~」
「いいんだって。飯ってもう食えるのかな?」
シドはホロに向かって質問する。
「・・・・少々お待ちください。お部屋の方へと運ばせて頂きます。皆さま、こちらへ」
セントラルと同じホロは全員を用意した部屋へと案内していくのであった。




