他の管理企業は・・・
バーク視点
アースネット本社へと戻り、第1防壁内に現れたというモンスターの状況と、被害調査の指示を出したバーク。
それ以外にも考えることは山ほどあるが、直ぐに対応を考えなければならないのはモンスターの事であった。
あの防壁は我が社が威信を掛けて完成させ、外部からの攻撃を悉く跳ね返してきたミナギ都市の・・・いや、アースネットの誇りだ。
それが破られ、モンスターの侵入を許したとなれば由々しき事であった。
険しい表情を浮かべ調査結果を待っていると室内の設置されている情報端末が通信を知らせてくる。
それは、防壁に関しての調査を行わせていた部下からの連絡だった。
「状況は?」
バークは通信を繋げ、単刀直入に問う。
『はい、正規の手段以外で防壁を超えた者が居ました。スラムバレットというワーカーチームの荒野車が防壁を飛び越え、壁上の兵器を一部破壊して逃走したという事です。それ以外で損傷などは確認できませんでした』
部下からの連絡は都市から脱出を図っていたあのワーカーチームが防壁を飛び越えて逃走したという事と、防壁に損傷は無という連絡だった。
「・・・・そのチームが囮の為にモンスターを連れ込んでいたという事か?」
『いえ・・・・最終入門時のチェックでモンスターと思わしき物を運んでいた記録はありません』
ならスラムバレットはモンスターの件とは無関係なのか?
防壁を飛び越えて逃走という事も腹立たしいがモンスター発生の前では後回しにするしかない。
そう考えていると、別の人物から通信が入る。
「なんだ?」
『バークさん、防壁内でのモンスター出現の件ですが。最初の目撃地が第6区画の様です。そして、そのモンスターと戦っていたのはスラムバレットのシドの様ですね。戦いながら第3区画の方へと移動して行ったようです』
通信を送って来たのはミンだった。
彼女は縄張り内の情報を集める為、各地に観測員を置いているらしく、この様な時には正確な情報伝達がなされる。
「第6となると君のホームの近くではないか」
『はい。我々との会談が終わったシドを襲ったものと思われます。最初は人間の様な見た目をしていたようですが、戦闘中にどんどんと姿を変えて行ったようです。うちの観測員もあのレベルの戦闘について行くことは出来ず、監視は途中まででしたがドルファンドの強化人間の可能性はありませんか?』
「・・・・可能性はあるか。だが、可能性だけではどうにもできん」
『そのモンスターの出現と同時に、アンダースネイクの襲撃とドルファンドの強化外装の襲撃もありました。それらは短時間で正体不明のオートマタによって殲滅されています。そのオートマタはスラムバレットが入り浸っていたスナックから現れた様で、スラムバレットと関連のある機体かと』
「・・・オートマタを連れたワーカーチームか・・・・。そこまで調べてはいなかった」
『現在戦闘の余波で倒壊した建物の処理や住人の救助に当たっていますが、市街に落ちた強化外装の破片等の回収はお任せしても?我々が迂闊に触れてドルファンドに突かれるのは困りますので』
「わかった。直ぐに部隊を派遣する」
バークは通信を切り、頭を押さえ考え込む。この短時間で起きた大事には、あのワーカーチームの姿がある。
謎のモンスター、ドルファンドの強化外装、アンダースネイク。
彼等は一様にスラムバレットに対して攻撃を行っている。それらを辿ると、シドが言っていたドルファンドが人身売買に加担している・・・いや、主導しているという話がほぼ確定となる。
彼らはドルファンドが手に入れようとしている人物を確保しており、強引に手に入れようと動いたドルファンド勢に襲われたという事だろう。それならば、モンスターは壁を越えて来たのではなく、元から都市内部に居たという事だ。
それはそれで問題があるが、我が社の失態にはならない。
これらの情報からどうやってギールに痛手を与えるべきかと考えていると、再度通信が入ってくる。
通信機の画面に目を向けると、そこにはケミックス・アロイの代表 トウドウからの通信であった。
『やあ、バーク殿。ご機嫌いかがかな?』
「さきほど顔を合わせていただろう。それにこの状況で機嫌がいいはずがない」
『そうだろうとも。例え君たちが作った防壁が破られていなかったとしてもね』
「・・・・・貴様は知っていたという事か?」
『何に対しの質問かは分からないが、モンスターの出所と言う意味なら知らなかったと答えよう。ついさっき情報屋から仕入れた情報だよ。全く、余計な出費だった』
「情報屋か・・・・」
『君も使用しているだろう?我々はドルファンドの妨害で自分たちの管理区域以外の情報収集が非常に難しくなっているからね。この状況もドルファンドが潰れたら改善しなくてはいけないと考えているよ』
「どうやって潰すかが問題だろう」
ギールは政争に関しては頭が回る。のらりくらりと言い逃れ、会社の力を盾にこちらの要求を跳ねのけて来た。
今回も決定的とは言い難い。
『それは時間の問題だよ。スラムバレットの2人が無事に都市を脱出し順調にダゴラ都市へと向かっている。ならば喜多野マテリアルに話が届くのもそう時間はかからないだろうからね』
確かにダゴラ都市は喜多野マテリアル直下の都市だ。
だが、1ワーカーの言葉が喜多野マテリアルの上層部に到達するとは考えにくい。普通なら些末な上奏と一緒に消えていくと考えるのが普通だった。
だが、事は6大企業全てが禁じている人身売買だ。時間はかかっても上層部まで報告が届く可能性は高い。
「・・・・・彼らと一緒に我々もドルファンドの人身売買の情報を報告するという事か?」
『それは早急にやっておいた方が良いだろうね。我々は関係ないという証明も含めて。何と言っても彼らは喜多野マテリアル上層部と直接コンタクトを取れるパイプを持っているからね』
「どういう事だ?」
一介のワーカーが喜多野マテリアル上層部と繋がりを持つなどあり得ない。
最前線の大型クラン等なら話は別だろうが、彼らはたった2人のチームだ。ランクも年齢からみればかなり高ランクだが、彼の企業が注目するには低すぎる。
『どういった経緯かは分からないがパイプを持つことは確実だ。スラムバレットのリーダーであるシドが空走許可を持っているだろう?その許可を出した人物が喜多野マテリアルの兵器開発部門長という事らしい。それ以降もちょくちょく接触しているという情報もある。彼らがこの都市に来た時に直ぐに調べてよかったよ。情報屋にはだいぶ吹っ掛けられたと思ったが、非常に安い買い物だったと今では思っているよ』
「貴様はあの2人を操ってドルファンドに嗾けたのか?」
『いいや?彼は勝手に引っ掻き回してくれたのだよ。そのおかげで双方の動きが読みづらかったが、ギールの自滅もあって都市の癌を取り除く算段が付いた。ここからは時間との戦いになる。バーク殿はそちらの指揮権がある防衛隊で防壁を封鎖しギールの逃亡を阻止して欲しい。私は私が指揮権を持つ防衛隊に通達してギールの足止めを行い、彼らが大罪を犯していたという噂を都市に広めるつもりだ。彼に加担すれば同じように裁かれてしまうという言葉と共にね』
「証拠も無いのに噂を広めるのか?」
『証拠が無いから噂なのさ。それに証拠は今ダゴラ都市に向かっている。ここで日和ると取り返しがつかなくなるよ?』
「・・・・・・」
『賢明な判断を期待するよ、バーク殿』
そういうとトウドウは通信を切る。
バークは眉間に皺を寄せたまま通信機で連絡を取るのだった。




