逃走劇
ライト視点
ドンガ達に3人を預けた後、ライトはドンガ達の車を守る為後方に回り向かって来る兵隊達を攻撃していた。
<イデア!なんか多すぎない?!>
<防衛隊も加わっています。これ以上の増加は無いと思われますが、懸賞金に釣られたワーカー達がどう動くかわかりません>
<防衛隊?!ミナギ都市からの懸賞金じゃないでしょ?!>
<ミナギ都市でのドルファンドの発言力が高い可能性があります。それ以外には防壁を無断で飛び越えた事が関係しているかと>
確かに防壁を飛び越えることは犯罪だ。
それは入る時も出る時も変わらない。だが、ミナギ都市からの脱出はああするしかなかったのが実情だった。
<あれ全部相手するの?!>
<荒野でBBQにつられたモンスター達よりは少ないです。頑張りましょう。それに、シドの戦闘が終了しました。今防壁を越えて合流する為に向かって来ています>
<それは頼もしい!でもずいぶん時間かかったね!>
<かなりしぶとかったですね。ですが、攻略法は発見しました。次回からは手早く討伐出来ます>
確かに倒し方は分かった。
しかし、そのために現時点ではシドの両手を犠牲にする必要がある。その為シドがそれを嫌がらなければという前置きが付く。
<私は強化外装を叩きます。ライトは地上部隊を叩いてください>
<わかった!>
会話をしながらも攻撃の手は緩めていない。
空からも地上からも銃弾が撃ち込まれており、ライトはシールドを使用しながら攻撃を捌く。
もう一発ELシューターを撃ち込みたい衝動に駆られるが今は冷却中だ。
今稼働している兵器のみで対応するしかない。
ライトは地上部隊に向けて銃弾の嵐を叩きつけて行く。
敵後方からかなりの大型車が他の荒野車を追い抜いてきた。すると、その両側の扉が開き、高機動バイクの群れが飛び出してくる。
「・・・!!」
あれらの機動力は完全に此方を上回っており、放って置けばドンガ達の車に取り付いてしまうだろう。ライトは他の荒野車にはミサイルとハンター5専用弾を撃ち込み、複合銃とハンター5の通常銃口で高機動バイクを狙って行った。
イデア視点
イデアは宙に浮かぶ強化外装を一掃する為に宙に飛び上がる。
両腕をエネルギーガンへ変形させ無数のエネルギー弾を強化外装へ向けて撃ち放った。
前方に位置していた強化外装は、そのエネルギー弾に撃ち抜かれて爆散するが、イデアの攻撃がエネルギー弾だと見た他の強化外装達はエネルギー弾に特化したシールドを張り、イデアの攻撃を弾きながらドンガ達に攻撃を仕掛けて行く。
(私の事は無視ですか)
ドルファンドの私兵からすると、正体不明なオートマタの撃破よりターゲットの確保、もしくは抹殺が最優先の様だ。
人身売買の事を知っている者を他都市へと渡らせたくないという思いも多分に含まれている。
しかし、
(なら、そのシールドで防げない威力で放つまで)
イデアはエネルギーガンの出力を上げ、強化外装の弱点部位に攻撃を加える。
エネルギー弾はシールドを貫通し、次々と強化外装を破壊していった。
この時、漸く彼らはイデアを危険な相手と認識し、目的をこちらの破壊に切り替えた様だ。
手に持つ大型の銃をこちらに向け、ミサイルポットから無数のミサイルが発射される。イデアは飛び方を変え、飛んで来る弾幕の中をスイスイと泳ぐように避けながら強化外装へと高速で突っ込んで行く。
ミサイルはイデアの姿を見失った物や、強化外装が放った弾丸によって撃ち落されたりと、イデアには一発も当たることなく役目を終える。
『くそ!!!なんなんだあのオートマタは!!!』
『スラムバレットの同行機との情報がある!』
『今更か!情報部は何やってやがった!!』
彼らは混乱の中にいるようだが、イデアがその様な隙を見逃すはずがない。
部隊の中心部に到達し、周りにいる強化外装達全てをロックオンする。
「さようなら、ゴミ共」
イデアは体と腕を回転させ、全強化外装へ向かって高出力のエネルギー弾を発射する。
回りながら放たれたエネルギー弾は、イデアによって計算された軌道を通り、影になって直線で狙えないターゲットにも吸い付くように曲がって行く。
そして一発も外れることなく強化外装を撃ち抜いていった。
撃ち抜かれた強化外装は、次々と爆散していき短時間で30以上の強化外装部隊は全滅したのであった。
レオナ達視点
レオナはこちらへと向かって来るバイクに乗った兵隊に向かって銃撃する。
装備しているEX80から送られてくる情報を参照し、的確に攻撃を行っていた。
しかしドンガの車はそこまで戦闘に長けている訳ではない。走行速度も普通の移動用で、この様な逃走劇には向いていない車種であった。
その為、ジリジリと追いつかれ、高機動バイクに囲まれそうになっている。
そして、空から撃ち込まれる大型の弾丸にシールドを削られ、シールド用のジェレネーターが限界を迎える。
飛んで来る弾丸を躱し、レオナが効率的に弾ける様にシールドを張っても限界があった。
「ドンガ!!シールドジェネレーターが死にそう!!」
『予備に繋いで!!!』
一応予備があるようだが、この密度の攻撃から守り切るには心もとない。早く何とかしないと皆殺しにされてしまう。
「おい!大丈夫なのか?!」
隣で銃撃を行うダーマがそう聞いてくる。
「しばらくの間はね!!!」
「スラムバレットの車は大丈夫そうだったぞ!!??」
「変態重工のフルカスタム車と一緒にすんな~~~~!!!!」
レオナはやけくそになって叫ぶ。
ドンガの荒野車はただ移動する為の車だ。シールドもあくまで普通の戦闘用の物でしかない。
スラムバレットのT6の様に単騎でモンスターの中を駆け巡っても大丈夫なような設定にはなっていない。
内部からの攻撃がシールドを飛び越える際に開く穴を再度塞ぐにもエネルギーが多く使われる。このままだと後10分もしない内に予備のジェネレーターも沈黙するだろう。
何とかしなければならないが、どうにもならない状況に追い込まれていた。
すると、上空に飛んでこちらを狙っていた強化外装の攻撃が止み、その直ぐ後にほとんど同時にマーカーが消える。
「え?」
レオナは思わず空を見上げると。強化外装が全て吹っ飛び、その爆炎の中心にはあのイデアと名乗ったオートマタが君臨していた。
(・・・・シド君達だけじゃなくオートマタも規格外なんだね・・・・)
イデアが原因でスラムバレットの規格外化が止まらないのだが、レオナには知る由も無かった。
『上からの攻撃が消えた!!地上だけならなんとかなる!!』
『踏ん張りなさいよ!お兄ちゃーーーん!!!』
「わかってる!!!!」
4人で弾丸を打ちまくり、纏わりつこうとしている兵隊達を蹴散らしていくのだった。
ライト・イデア視点
<ライト、強化外装の殲滅は終了しました>
<わかった!!地上部隊の足止めお願い!!>
<はい、それに、シドがそろそろ最後尾に追いつきます>
<やっとかーー!!待ちわびたよ!!!>
<最後尾に位置する指揮車を襲撃し、この部隊の命令系統を混乱させます>
<わかった!!>
ライトはもう直ぐ終わりだと、周りに展開している敵集団に弾丸をばら撒いていった。
シド視点
<腕の治療が完了しました>
<おーー、あんなに真っ黒だったのに早く治ったな>
<戦闘中ですので高速治療を行いました>
<・・・・・・>
<心配しなくともゲンハの様にはなりません>
<・・・・わかった>
シドはミナギ都市を飛び出しフルスロットルでライト達を追いかけていた。
そして漸くライト達を追う兵隊たちの最後尾が見える所まで接近していたのだ。
<最後尾に見えるあの車両が指揮車です。あれを破壊し混乱させましょう>
イデアがシドの視界にある1台の車をマークする。
それは一際大きく、頑丈そうな車両だった。
<銃で破壊するのは難しそうだな>
<そうですね。乗り込んでしまうのが手っ取り早いかと>
<そうするか>
シドは双刀を抜き、指揮車目掛けて突っ込んで行く。
相手はこちらに気付き、車載兵器をこちらに向けて撃ち放って来るが、シドはバイクの操縦をイデアに任せ飛び降りる。
足元にシールドを発生させ、電光石火を使用し一瞬で指揮車へと到達。双刀で装甲を切り裂き内部へと飛び込んだ。
指揮車内視点
「逃亡車2台。依然逃走中。ドルファンドの強化外装部隊、全滅しました」
索敵機で戦況を見守っている通信兵からの報告を受け、私は歯噛みする。ドルファンドからの要請でスラムバレットを都市から出さない様にと門の封鎖を行っていたのだが、彼らは事もあろうに車で防壁を飛び越え外に出てしまった。
完全な犯罪行為の為追跡を開始したが、本部からは意味不明な命令が出される。
なんでもスラムバレットの車には重要人物が乗っており、彼らはその人物を誘拐したのだとか。
スラムバレット一味の殲滅とその重要人物の救出を命じられているが、防壁からの攻撃は彼らを全滅させようとしているとしか思えない攻撃だった。
命令に矛盾を感じるものの、命令なら従わなければならない。
追跡を命じられた私はこの作戦に引っかかりを感じながらもターゲットを追っていた。
途中、かなりの高威力の攻撃を受け、撤退の要求を本部に送ったが認められず、またいつあの攻撃が行われるかと胃を痛めながらの追跡だった。
そして今、彼らを追い詰める為の最大戦力である強化外装が正体不明のオートマタに短時間で殲滅された。
荒野車に乗っているスラムバレットのメンバーも戦闘能力が極めて高く、近寄る事すら出来ていない。
正確無比な射撃でこちらの車も多数破壊され、高機動バイクでの襲撃も跳ね返されていた。加速度的に被害が上昇している中、敵に痛手は与えられていない。
軍略上、全滅を意味する消耗3割に到達しているのに本部からの撤退許可が出ない。
どれほどの重要人物が攫われたのだろうか?と考えていると、
「後方から接近するバイクがあります。数は1・・・・・スラムバレットの1人のようです」
勘弁してほしい。
こちらは1人でも手に余るのに、これ以上増えるなど悪夢以外の何物でもない。
「迎撃しろ」
「はっ!」
部下に命令し、車装兵器で攻撃しようとした瞬間。車に衝撃が走る。
「・・・!!なんだ!!」
私は後方を振り返ると、この装甲車の後部が切り裂かれ、その亀裂から乗り込んできた男がいた。
その男は両手に刀を持っており、こちらに向かって歩いて来る。
部下が銃を取り男を攻撃しようとするが、男は一瞬で部下の持つ銃を斬り飛ばし、柄で殴って気絶させる。
幾ら装甲車とはいえ、内部に入り込まれたら何もできない。それも、この装甲を切り裂くだけの武器と腕を持った者に入り込まれては・・・・
「よし、部隊を反転させミナギ都市に帰還しろ。そうすりゃ見逃してやる」
男は気負う事なくそう命じてくる。
「・・・・・私の一存で作戦を止めることは出来ん」
私は男にそう言うが、相手は事も無げに言い返してくる。
「このままだと全員殺すことになる。今逃げて処罰されるのと皆殺しにされるのとどっちがいい?」
「・・・・・」
男の目を見ればわかる。
この男は本気だ。この車内に隊員達だけではない。この追跡部隊全てを皆殺しにすると宣言している。
普通ならできる訳がない。
しかし、この男はその不可能を実現させてしまうのでは?と思わせる何かが有った。
「・・・・・・・・・」
「3・・・・・・2・・・・・・」
「わかった・・・・撤退だ」
「・・・・隊長・・・・」
「全部隊に通達しろ。今すぐに撤退だ!」
「はっ!」
部下にそう命じ、全部隊に撤退命令が通達される。
男はその様子を確認すると、開けた亀裂から外に出て行った。




