ドンガ達 到着
「はぁはぁはぁ・・・・・・・あ~・・・痛ってぇ~~・・・・」
シドの右腕はゲンハへと叩きこんだ一撃で炭化しており、拳を握りこんだ形のまま固まっていた。左手も無事とは言い難く、高圧電流を溜めていた為酷いやけどを負っている。
この手では銃も刀も握れそうになかった。
<だいぶ手こずりましたね>
<全くだよ・・・・めんどくせーもん作りやがって・・・・>
シドは人売りに関わっていた事もあるが、こんなクリーチャーを作り出したドルファンドに仕返ししてやろうと心に誓った。
<一応あの核も回収してください>
イデアがいうのはゲンハの脳が納められていたであろう球体のパーツだった。
高圧電流に晒され、表面は融解し黒焦げになっている。
<意味あるか?中の脳みそなんかボイルどころの話じゃないと思うけど>
<ドルファンドに回収されるよりマシだと判断します>
それもそうかと考えたシドは、動かない手の代わりに足を使い、ボールの様に蹴り上げツールボックスの中にゲンハの核を収納する。
<では、早くライト達と合流しましょう>
<そうだな・・・・この腕、治るよな?>
<問題ありません。ライトと合流するまでには完治します>
<そりゃ良かった>
シドはバイクをこちらに呼び寄せ跨る。
(この手じゃハンドルは握れねーな・・・)
このまま都市を脱出する為、バイクを発進させようとすると
「動くな!!!!」
こちらに銃を向ける防衛隊が道を塞いでいた。
「賞金首のシドだな?!大人しく投降しろ!!!」
「・・・・・・」
見た所ゲンハにボコボコにやられて隊員に死傷者も出ている。それなのにまだシドと戦おうと思える気概には敬意すら浮かんで来る。
しかし、大人しく捕まってやるつもりなど毛頭ない。
シドはシールドを発生させ、彼らの頭上を飛び越える形で走り抜けていった。
防衛隊視点
「・・・・・・何てヤツだ・・・・・・」
我々が手も足も出なかったモンスターに、バイクで突っ込んできた男は単身で勝利してしまった。
こちらも攻撃はしていたが効いていたかと言われれば首を傾げざるを得ない。
男の情報を調べさせると、ランク50のワーカーであり、現在ドルファンドから賞金を掛けられている事が分かりモンスター毎攻撃したのだが、あの選択はマズかったかもしれない。しかし、賞金首をこのまま放置と言う訳には行かない。
「・・・・・・・」
あのモンスターを倒した相手だ。銃を向けるなどやりたくないが職務は全うしなければならない。
自分達の行動は全て記録に残る。ドルファンドと敵対したという男を何もせずに見逃せばクビで済めばラッキーだろう。
バイクに跨り、走り出そうとしている男に銃を向け声を上げた。
「動くな!!!!」
部下達も戸惑いながらも道に広がり男へと銃を構える。
(・・・・全滅するかもな・・・・)
ここで男が我々との戦闘を選択すればなす術もなくやられるだろう。
男は両腕を負傷している様だが、どういうカラクリかバイクの運転には支障が無いらしい。あのバイクに取り付けられているガトリングでも、今の我々には脅威だ。
「賞金首のシドだな?!大人しく投降しろ!!!!」
部下からの(マジですか隊長!)とか(勘弁してください!)といった視線を無視する。
俺だって言いたくて言ってるんじゃねーよ。
このまま何処かへ行ってくれればそれが最高の結果だ。追わないからお願いします。
俺の願いが通じたのか、男はバイクで宙を走り、俺達の頭上を駆け抜ける。その時、バイクから何かが投下された。
「・・・・?!退避!!!」
爆弾でも落としたか!と全員を退避させ防御行動をとる。
全身にシールドを張り、地面に伏せて爆発をやり過ごそうとするが、カツーンと硬質な物が地面に落ちる音だけが鳴る。
「・・・・・・・・」
恐る恐る顔を上げ、落下物を良く見ると手榴弾の類では無さそうだ。
「・・・・・びびった~・・・」
ほっと息を吐き、落とした物を確認すると。
それは映像記録媒体だった。
ドンガ視点
ドンガが走らせる荒野車はもうすぐミナギ都市が見えてくるという所まで着ていた。
スラムバレットに賞金が掛けられ、合流するまでに戦闘に巻き込まれる可能性を考え、全員が完全戦闘態勢に入っていた。
「あいつら、何やったと思う?」
「わからないわ。アタシはキョウグチ地下街遺跡で少し一緒になっただけだからね」
「企業から理不尽な事言われてシド君がプッツンしちゃったとか?」
何故賞金首などになっているのかと3人で理由を予想し合う。
「そんな短慮を起こすかしら?」
「・・・・いや、シドならあり得るか?」
「見た目で舐められやすそうだもんね。シド君」
「でもランク50のハンターよ?そんな対応を企業がするかしら?」
「たまに揉めて懸賞金かけられてるヤツいるだろ?」
「そうだけど・・・」
そんな会話をしながらミナギ都市へと向かっていると、レオナが大きなエネルギー波を捕える。
「前方!強力なエネルギー界が発生してる!」
「「!!」」
レオナの言葉に、ヤシロとドンガの緊張もマックスになる。
「・・・エネルギー界・・・戦闘が起こってるて事だな」
「間違いない。ここから25kmほど先だよ」
「そのエネルギー界に巻き込まれたら・・・・」
「この距離で測定してクラス9.8のエネルギー界だよ?跡形も残らない」
「・・・・・あの兵器を使ったのか?」
ヤシロがそう呟くと、ドンガの通信機が鳴る。
そちらに目を向けると、ライトからの通信だった。
「もしもし」
『ドンガさん!!良かった繋がって!!』
「ライトちゃん?一体何が起こってるの?」
『今そちらに向かってます。この速度なら後8分程で合流できると思います。合流したら対象をそちらに移しますんで扉を開けてもらえますか?』
「ええ?走ったまま移すつもりなの?」
『はい、止まってる余裕ないんで。今ドルファンドからの追手が向かって来ています。狙いはエミルという赤ん坊です。ダーマさんとついでにオフィス職員のラルフさんもそちらに移動してもらいます。ボクは追手の妨害に全力を尽くしますから、地下シェルターまで3人を運んでください』
「ちょっとちょっと!どうしてそんな事になってるの!」
『すみません!ダーマさんから聞いてください!』
ライトの声の向こう側から爆音が聞こえてくる。攻撃を受けている事は間違いない様だ。
「俺は上に上がるぞ」
ヤシロはそういい、新しく購入した複合銃を手に車の上に上がって行った。
「・・・・・ドンガ、急いだ方が良いよ」
レオナも情報収集機で戦況を調べたのだろう。あまりグズグズしている余裕は無さそうだった。
「何なのよ一体!!!」
ドンガはアクセルを全開にし、車の速度を上げる。
3分後、複数の強化外装と夥しい数の地上部隊に追われている荒野車が目に入った。
ライト視点
「見えた!」
ライトはこちらに走って来るドンガの荒野車を肉眼で捉えた。
向こうも速度を上げて来ており、予定よりも早く合流できそうだった。
「ではダーマとラルフは移動の準備をお願いします」
イデアはそう言うが、2人に準備する事など何もない。ただイデアのシールドに包まれて向こうの車に運んで貰うだけだ。
「イデア、充電は終わったの?」
「はい、フル充電完了です。予備のエネルギーパックも装備しました。後の戦闘も問題ありません」
イデアの戦闘準備は万端なようだ。
「エミルは?」
「眠っています」
大人しいと思っていたエミルはイデアの背中で眠っているらしい。
「ダーマ、向こうの車に付いたらエミルの事をお願します。振動が酷くなりますので首を痛めない様保持をしっかりとして下さい」
「・・・・わかった」
この数日ですっかり子守マシーンと化したイデアである。
「もう直ぐだよ!」
運転席からライトの声が聞こえてきた。
イデアはダーマとラルフをシールドで包み込み側面の扉から飛び出す準備をする。
T6に近づいたドンガの荒野車がターンを決め、こちらに寄せてくると、ライトは側面扉を開け放つ。
ドンガも扉を開けると、3人を抱えたイデアがドンガの車へと飛び移った。
ドンガ達視点
「な!なに?!オートマタ?!」
イデアを初めて見たレオナが目を白黒させ、大きな声を上げる。
「私はシド専用オートマタのイデアと申します。以後お見知りおきを」
イデアはレオナとドンガにペコリとお辞儀をし、現状の説明を軽く説明する。
「現在我々はドルファンドの私兵及び、ミナギ都市防衛隊に追われています。ドルファンドの狙いはこのエミルです。しっかり守ってください」
イデアは抱っこ紐をほどきダーマへとエミルを渡す。
「私は外でライト共に追跡の妨害を開始します。出来る限り引き付けますので後はよろしくお願いします」
そういうとイデアは高速で車外へと飛び出していった。
車の扉を閉めると、ドンガの車も攻撃対象になった様だ。
シールドを展開し、逃走を開始する。
「ちょっとお兄ちゃん!!説明!!説明して!!!」
兄と子供を迎えに来たと思ったら管理企業の私兵と防衛隊に追いかけられる状況になったドンガは、混乱しながらダーマに状況の説明を要求する。
「聞いてる余裕があるのか?!」
「・・・・無いわね!!!」
最初は小粒の弾丸だったがやがて口径の大きい銃での攻撃やロケット弾が撃ち込まれ始める。
「レオナ!誘導弾の欺瞞できる?!」
「今やってるけど確実じゃない!!」
『おいドンガ!!お前も上がって来い!!奴等コッチを集中的に狙い始めやがった!!!』
そとで迎撃していたヤシロから通信が入る。
「ドンガ、私が運転するから行って!!」
「わかったわ!!」
レオナが運転席に座り、ドンガは自前の大型銃を手に車上へと上がって行く。
「ドンガの御兄さん!」
「なんだ?!」
「ナビに座って窓から迎撃して!!」
「銃が無い!」
「その辺の適当に使って!!」
そう言われるがダーマの手にはエミルが居る。この激しく揺れる車内に放置は出来ない。
「ダーマさん。私が変わります」
ラルフがエミルをダーマの手から取り上げた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫です。この車にはシートベルトがありますから」
ラルフはベンチ式シートに腰かけエミルを巻き込まない様にシートベルトを締めるとエミルをぎゅっと抱いた。
「絶対に離しません。安心して迎撃に参加してください」
「・・・わかった」
ダーマは壁に掛けてある銃を手に取り、弾薬が入ったケースと共にナビシートへ移動していく。




