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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
186/217

しつこいにも程がある

ミナギ都市 第3区画の中、ばらばらと規則性のない建物群の中で2体のバケモノが暴れ回っていた。

耐久度などまったく考慮されていない建造物は、暴れるバケモノの力に晒され積み木で出来た建物かの様に崩れ落ちて行く。

この一帯に住んでいる者達はその破壊に巻き込まれ、ある者は悲鳴を上げて逃げ出し、ある者は建物の崩壊に巻き込まれ、ある者はバケモノの直接的な攻撃にさらされ消し飛んでいく。


「ゴアアアアアアーーーーー!!!!!」

そのバケモノは不自然に筋肉が膨張した上半身に腕が3本と歪な形をしている。

頭部は胴体に首が埋まり、体と一体化した様な形になっており、背骨が異常に太くせり上がっている。

前傾した体から生えた長い3本の腕を無茶苦茶に振り回して暴れていた。


それは異形へとなり果てたゲンハであり、その体に付く2本の脚と、それに申し訳ない程度に残っているズボンの残骸だけが元々は人間だったと思わせる名残と言えるだろう。


「しつこいにも程があんぞ!!!」

シドは振り回される腕を避けながら、両手のS200をほとんどモンスター化してしまったゲンハに向けて撃ち放つ。

放たれた大量の弾丸は次々とゲンハにへと命中するが、よろめくのみで大したダメージを与えている様には見えない。

<シド、貫通攻撃の効果が落ちています。点ではなく線での攻撃に移行する事を推奨します>

イデアのアドバイスを受け、シドはS200を腰のホルダーに仕舞い込み、双刀を抜き放つ。

体の可動域と柔軟性を利用して双刀を振り、無数の斬撃波をゲンハに放った。

ゲンハへと到達した斬撃波は甲高い音を立てながらも、その体に無数の切り傷を発生させるが、全く間に肉が盛り上がり修復されてしまう。

<あんまり効いてないぞ>

<弾丸よりマシです。それに、シドの真空波はデンベの物と比べてかなり威力が劣ります。直接刀で斬り裂く方が効果は高いでしょう>

<・・・ええ~・・・・あんまり近づきたくない>


今のゲンハは見るからに気色が悪い。

不自然に膨張した体に、目や口の配置も歪になっている。傷から噴き出す血液は赤黒く、人の物とは思えないほどの粘性を持っていた。

モンスターの返り血を浴びた事など幾らでもあるが、あの血に触れるのは気持ちが悪い。元々人だったと言う事が嫌悪感を加速させているのだろう。

被りでもしたら病気になりそうだ。

<安心してください。万が一体内に入っても分解できます>

<いや、入ること自体気持ち悪い>


とは言え、このままチマチマと削っていては夜が明けてしまう。

さっさとコイツを片付けライト達に合流しなければ。

シドは時間圧縮をさらに高め、高速で振り回される最早触手と言ってもいい腕を切り払いゲンハへと接近する。

根元まで寸断された腕は払い、膨らんだ胴体目掛けて斬撃を放つ。だが、両断できるかと思われた斬撃は、ゲンハが後ろに下がった事でただ膨れた肉を切り裂くだけで中の骨格まで届かせることは出来なかった。

シドはさらに深く踏み込み、左手の刀でゲンハの右大腿を切り落とし、支えを失いこちらに向かって倒れてきたゲンハの頭を刎ね飛ばさんと右手の刀を振るう。

肩と繋がった頭部に刃が当たる直前、ゲンハの鎖骨部分が盛り上がり刀を受け止めようとした。

ただの肉や骨くらいならば、容易く切り飛ばすだけの切れ味を誇る双刀だが、皮の下にあったのはゲンハの骨格を構成している超硬金属だったらしく、刀の軌道を逸らされ頭を切り落とすには至らなかった。


シドは刀を翻し、次の一太刀を浴びせようとするが、ゲンハの胴体部分が勢いよく裂け、鋭い乱杭歯が生えた口に変わりシドへ噛みつこうと迫って来る。

シドは攻撃を諦めバックステップを踏み、紙一重でゲンハの噛みつきを躱し距離を取る。

(なんなんだコイツ?)

シドは何度目になるか分からない感想を思い浮かべ、今も変形を続けているゲンハを観察した。

胴体はさらに膨れ上がり、斬り飛ばした腕も再生、さらに本数まで増えていた。

2本足だった脚も4本に増え、膨らんだ体を支えられる様に太く短く形を変えている。

頭部は胴体の中に埋もれて行き、肩の部分が膨れ上がったと思うと、亀裂が入り、その割れ目から巨大な目玉が出現する。

その体長は3m程になっており、最初の機動力は見る影もなく失われていた。

<きも~・・・・>

<質量保存の法則が仕事をしていませんね。人型ではシドに敵わないと判断したのでしょうか?しかし、この変形は逆効果と言わざるを得ません>

<なあ、俺も立て続けに再生を繰り返したらああなるのか?>

<それは酷い侮辱です。私があのような醜悪な修復を行うとでも?>

<・・・・ちょっと安心したぞ>


もはやモンスターよりも醜悪な存在に成り果てたゲンハが、胴体の口を開き叫び声を上げる。

「―――――――――――!!!!!」

叫び声と共に変形のせいで流出した体液を撒き散らせる。

その飛沫を浴びることを嫌がったシドは大きく距離を取り、刀を高速で振り回す。シドが発生させた斬撃波がゲンハの体を切り刻むも、斬った端から修復されていった。

<意味が無いな>

<そうですね、体の硬度も下がっています>

それならばと双刀を鞘に納め、再度S200を引き抜き銃弾を浴びせる。

ゲンハの体に命中したSH弾はそのまま体を突き抜け、背中から飛び出し後方の建物壁に穴を開けた。

<おい、SH弾が貫通したぞ>

<SH弾が効果を発揮するには一定の硬度が必要になります。もはや特殊弾を使う必要もありませんね>

<つっても普通の弾丸だと焼け石に水だぞ?>

<攻撃の面積を増やす必要があります。銃ではなく拳撃での対応を推奨します>

「え?」

イデアに拳で殴れと言われ、思わずつぶやき顔を歪めるシド。

繰り返すが、今のゲンハは非常に気持ち悪い。近づいて刀で斬るのも戸惑われるのに手で触れるとか勘弁してほしい。

<素手で触る必要はありません。防護服は着用していますし、シールドで手を保護すれば問題ありません>

シドはこの時、デンベの空気を叩き衝撃波を飛ばす技の習得を後回しに事を後悔した。

だが、効果の薄い攻撃を繰り返しても意味わない。

シドは拳を握り、シールドを纏わせ地面を蹴ろうとすると、自分達の方へと向かって来る集団を感知する。

<・・・・・なんだ?>

<おそらく都市防衛隊でしょう。これだけの騒ぎになっていますので出動命令が掛かっても可笑しくありません>

なるほど、と考えるシドだったが、どうやらゲンハの方も防衛隊の気配を感じ取った様だ。

大きな目玉をぎょろぎょろと動かし、体の向きを防衛隊の方へと向けると一気に駆け出した。

<・・・・逃げた?>

<いえ、おそらく防衛隊を襲いに行ったのでしょう>

<俺を置いてか?>

<今のゲンハに人間の思考回路が残っているとは思えません。シドよりも捕食しやすい防衛隊に狙いを定めたと考えるのが普通かと>

<・・・もう防衛隊に任せてライト達を追っかけてもいいかな?>

<それでも構いませんが、防衛隊にかなりの被害がでると予測されます>

<そうか?装備もキッチリしてるだろうし、弾丸の雨を叩き込んだら何とかなるんじゃないか?>

<喜多野マテリアルの兵隊レベルなら問題なく討伐出来るでしょう。しかし、地方都市の防衛隊がそこまでの実力を持っているとは思えません。ゲンハはこの辺りのモンスターよりかなり危険なモンスターに分類させるはずです。再生力や移動速度はあの食用ワニ以上でしょうから。それに、防衛隊が捕食されると再生に必要なエネルギーや栄養素を補給されてしまう為、さらに泥沼化する可能性があります>

<・・・・・・・>

<彼らが全滅すればこの都市に生きる全ての人間が捕食対象になるでしょう。見捨てますか?>

<・・・・・・やな言い方するな~>

<なら急いで追いかけましょう。防衛隊と共に攻撃すれば短時間で消滅させることも可能なはずです>


イデアの言う通り、ここでゲンハを見逃せばミナギ都市には少なくない犠牲者が出る事になる。

自分には関係ないと切り捨てる事も可能だが、このままライト達と合流しても後々気になってしまうのは確実である。なら、ここで決着をつけた方がいいと判断したシドは、ゲンハを追いかけるために地面を蹴った。


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― 新着の感想 ―
こんなぽっと出のザコキャラはあっさり倒してほしいもんですなあ。
都市毎消滅したらドルファントは力を喪うんだろうけどな…そう言う訳にもいかんか。自らの管理都市を滅ぼした愚かな企業…にはならずに全部シド達に押し付けて来そう。
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