休暇の終わり
「ああ~~・・・・長閑な旅路だな~~・・・・」
と後ろの荷台で寝ころんでいるヤシロが声を上げる。
「何もない事は良いことじゃない。まあ、あんた達が戦いたいっていうなら止めないけどね」
「その時はヤシロ1人で戦いないさいよ」
シドの要請を受けミナギ都市に向かっている3人。
ドンガとヤシロ・レオナコンビは、あと半日ほど走ればミナギ都市が見えてくる所までやってきていた。
ヤシロとレオナはキクチの頼みでドンガに付いてきたのだ。ミナギ都市にシド達がおり、あの問題児からの要請と聞いたキクチがヤシロとレオナをドンガに付けたのだった。
シドとライトがあれ程苦労して走り抜けた荒野を、3人は至極順調に走り抜けていた。
「もうすぐね~。思ったより早く着いたわ」
「道中、まったくモンスターと出会わなかったからな。誰か掃除でもしたのか?」
「さ~?そんな任務があったなんて聞かないけど」
やったのはシドとライトである。
この辺り一帯にいたモンスターをBBQで誘き寄せ、丸一日かけて殲滅したのだ。
そのお陰でこの辺りはモンスターの数が激減しており、非常に安全な交通路となっていた。時間が経てば元に戻ってしまうだろうが、後1・2カ月くらいはこのままの状態が続くと思われる。
「それで、シド君がドンガをミナギ都市に呼び出した理由ってお兄さんの護衛だけなの?」
「それとお兄ちゃんが連れている赤ん坊が1人ね。それ以外は聞いていないわ」
「・・・たったそれだけなら、俺達も同行する理由ないと思うんだがな~」
「ヤシロは何か裏があると思うの?」
「・・・・・・ん~~・・・・わからん。シドは人の裏をかくようなヤツじゃねーし意味もない。それにライトもいるからな~・・・・・もしかしてミナギ都市で企業相手に喧嘩でも売ったんじゃねーか?」
「それは無いでしょ」
「もしそうならキクチさんの耳にも入っていると思うわ。あの時はただ嫌な予感がするって言っていただけよ。それに、企業に喧嘩売ってたらアタシ達が行った所で意味ないと思うし」
「そうだよね~・・・・」
「何かデッカイ騒動でも起こってたら面白いんだがな~~。はっはっは!」
「はぁ~・・・滅多な事言わないでよ」
あまりに順調な旅路に気が抜けきっているヤシロ。ドンガとレオナもヤシロほど抜いている訳ではないが、緊張感という物は無い。
ドンガに至っては10数年ぶりの兄との再会に少し心が躍っていた。
そうやって何気ない話をしながら荒野を進んでいると、3人の情報端末が通知を知らせてくる。
「レオナ~、オフィスから連絡だ~」
「は~・・・自分で確認しなさいよ・・・」
「内容は一緒なんだからいいだろ?別に」
「はいはい」
そのやり取りに(夫婦みたいね)とドンガは感想を持つ。
レオナは端末を取り出し内容を確認すると、
「・・・・・・えぇ?」
と声を上げた。
その声を聞いたヤシロが体を起こしレオナの所まで寄って来た。
「どうした?」
「・・・・・あの子たち・・・なにやったの?」
「なんだ?」「どうしたの?」
ヤシロとドンガは不思議そうにレイナに質問する。
「・・・・・・スラムバレットの2人が賞金首になったって通知・・・・・」
「「はあぁ!?」」
驚く2人にレオナは内容を読み聞かせて行く。
「理由は都市管理企業のドルファンドへの敵対・・・・だって。詳しい内容は書かれてないけど・・・・・」
「マジでなにやったんだ?あの2人?!」
「ドルファンド・・・・身体拡張やサイボーグ技術で稼いでる企業ね。他都市の企業だから詳しくは調べてないけど」
「・・・・・・どうする?」
「どうする?って言われてもな。とりあえず予定は変えずにミナギ都市へ向かうしかないだろ・・・・・・ちなみに賞金額は幾らなんだ?」
「えっと・・・・・・5億だって」
「うわ、しょぼ」
「・・・・・・ランク50と45のワーカーコンビに掛けると考えたら破格だけどね」
「そう考えたらそうだけどよ。俺はごめんだぞ、たったの5億であの2人と殺し合いなんざ」
「そうだね~、天覇の全力、それも相打ち覚悟かつ不意打ちすればワンチャンある?」
「あの2人に不意打ちとか無理だろ。あの山を吹き飛ばした兵器まで相手取ることになるんだぞ?被害額だけで数十億は軽く飛んでいくだろうな。俺は参加し無いけど」
「私も嫌」
「・・・・・随分警戒するわね」
「お前はあの2人と戦ったことが無いからな」
「・・・・ほんとに地獄だったんだから」
ヤシロとレオナはイデアのブートキャンプに参加した時の事を思い出した。
レオナの場合、終始ボコボコにされワーカーとしてのプライドを粉砕された記憶が甦る。今では鍛錬を重ね、強くなってきたと実感しているがライト単体で戦っても勝てるとは思えない。
それなのにあの2人と実弾で戦う?冗談ではない。
本気で討伐したければ最前線組か喜多野マテリアルが出張る案件だろうと2人は考えた。そんな超戦力がたかが5億で動くはずがない。
「・・・・このまま行って大丈夫かしら?」
「通信が出来る距離まで近づいて事情を聴くしかないと思うけど・・・・」
「合流できなくても都市のワーカーオフィスに行けば何かしら情報は入るだろう。このまま進むぞ。戦闘準備も一応しておく」
「それがいいかもね」
突然入った通知に車内の空気が一気に変わる。
波乱の予感を胸に抱きながらミナギ都市へ急ぐ一行だった。
キクチ視点
ワーカーオフィスからやって来た部下達と様々な案件を片付けていたキクチ。
案件と言っても滞在中のワーカーからの要望などがほとんどで、片手間で終わるような内容ばかりだった。
この地下シェルターに来てから、キクチは心身ともに回復しており、肌艶は良く体にも力が漲っている。超技術の解説映像の件には頭を抱えさせられたが、ゴンダバヤシが短期間で解決?してくれた。
このまま何事も無く穏やかな日々が過ぎてくれたらな~などと考えていた所に、またシドの影がチラチラし始めたのだ。
それはシドから連絡を受けたドンガがミナギ都市に向かうとの話を聞いた時の事だ。
なにやら不穏な気配を感じたキクチは、ドンガにヤシロとレオナを付けて出発させたが、あれから2日。特に問題らしい問題は起こっていない。
キクチは少しシドが絡んでいると言うだけで警戒しすぎたかと考える。
そうだ、あの2人も自分から進んで問題を起こした事など無い。全部巻き込まれただけなのだから。
ミナギ都市の周辺は、強力なモンスターが出没するが、大規模な遺跡がある訳ではなく早々に問題が発生するような場所でもない。
万が一大規模な襲撃を受けたとしても、ミナギ都市の防衛施設は非常に強力だ。問題なく跳ねのけられるだろう。
(うん、考えすぎだ。ラルフが面倒を見てくれているし、後はあいつに任せておけば問題ない)
キクチはこのままラルフをスラムバレットの正式な担当にしようと考えていた。ラルフは上昇志向が強く、強力なワーカーの担当に着きもっと重要性の高い都市へと移動したがっている。
あの2人をダゴラ都市に呼び戻せるようになれば、ラルフも一緒にこちらへ引っ張って来ればと考えていたのだ。
(喜多野マテリアル圏内でダゴラ都市の重要性は大きく向上した。あいつも嫌とは言わんだろう)
これで俺は管理に集中できると機嫌よくアウトドアコーナーを散歩する。
ここは疑似とは言え日光に当たることが出来、日がな一日建物の中で端末を弄るだけのワーカーオフィス職員からするといい気晴らしになる。
キクチは作られた自然の中で日光を浴び、木の香りがする空気を胸いっぱいに取り込みモヤモヤを吐き出す。
(オフィスからの出向員の選定が終わりそうだと連絡があったな・・・・・もう少しでこの環境からもおさらばか・・・・)
もう少しここに居させてくれても良いんじゃ?と思わなくも無いが、これ以上ここに居てもやることはあまりない。
ダゴラ都市に戻り、ファーレン遺跡やキョウグチ地下街遺跡の対策を考えねばと今後の展開を考えていると、携帯していた情報端末に通知が入って来る。
「ん?」
ディスプレイには賞金首の発表通知であり、ミナギ都市を中心に周辺都市に向かって発信された物だった。
文字をタップし、内容を確認すると、そこにはスラムバレットが都市管理企業 ドルファンドへの敵対を理由に5億の賞金首になった事を知らせる通知が表示されていた。
「ふぁーーーーーーーーーーーー!!!!」
この瞬間、キクチのゆったりとした時間が爆音を立てて消し飛んだのであった。
十分休んだでしょ?




