暴れるシド 燃え尽きそうなラルフ
伍番地区
そこはアンダースネイクと玉藻組の縄張りが隣接する、緩衝地帯のようになっている場所だった。
そこに住み着いている者達はどちらの組にも所属しないと啖呵を切り、アウトローを気取っている者達であった。
組織の保護など必要ないと言い切るだけあり、彼らの個々の戦闘能力は非常に高い。以前無理やり傘下に収めようと進出したアンダースネイクは、伍番地区の住人に跳ね返され被害を被ったという経験もある。
この地区でよそ者がデカイ顔をすることは許さんと豪語する彼等だったが、今は津波から逃げるネズミたちの様に逃げ回っていた。
「逃げろーーー!!!この地区から出るんだ!!!!」
「どっちに行けばいいんだよ!!!」
「知るか!!あいつ等が居ない方向だよ!!!」
「軒並みぶち抜いて暴れてる奴等のいない方向ってどっちだよ!!!」
ワタワタと逃げ回る住人達。
彼らが走っていた方向の壁が突然粉砕され、2人のバケモノが飛び出してくる。
「でたーーーーー!!!!!」
「こっちはダメだ!!!散れ!!散れーーーー!!!!」
「ギャーーーーー!!!」
辺りを大パニックに陥れている2人。片方は身体能力ごり押しでの肉弾戦。もう片方は肉体と装備の合わせ技で辺りに破壊を振りまいていた。
「ウゼーーぞクソガキがーーーー!!!」
チンピラ風の男が怒声を上げながらシドに殴りかかる。シドはそれを受け流し両手のS200で弾丸を人体の急所にぶち込んだ。
シドが撃ち出した弾丸はSH弾頭。人が食らえば軒並み消し飛ぶ程の威力があるのだが、男は血肉をばら撒きながら吹き飛んでいくだけだった。
「いい加減死ねーーー!!」
シドは飛んでいく男に一瞬で追いつき、土手っ腹に飛び蹴りを叩き込む。
さらに加速して飛んでいく男はビルを突き破って大通りの方へと飛んでいった。
<なんなんだアイツ?>
<おそらくドルファンドが研究していたハイブリッド兵器でしょう。脳は一応人間の物を使っている様ですが、体はサイボーグとバイオノイドのハイブリッドの様です>
<あれが人体実験の成果ってか?>
<そうなのでしょうね。あの機体にエミルの目の性能を付加しようとしていたのでしょうが・・・>
<胸糞悪い話だ>
<全くです>
シドはイデアと会話しながらS200のカートリッジを入れ替える。
シドは戦闘が始まってから無数の弾丸をあの男に叩き込んでいた。しかし、あの男の体はPN・SH両弾頭を叩き込んでも直ぐに再生してしまう。
元々が非常に頑丈な体の様だが、先程の蹴りでシドは確信した事があった。
<段々硬くなって来てやがる>
<負荷を与えられる事でそれに対応しようと修復・強化を急速に行っているのでしょう。しかし、急速な強化は細胞や遺伝子にダメージを与え、再生には大量のエネルギーを必要とします。このまま攻撃を続ければいずれ倒すことが出来るでしょう>
<頭を吹っ飛ばせば決着がつくか?>
<頭部の装甲は体の骨格より厚い様です。PN弾でも簡単には抜けませんよ>
シドは男を追いかけ、建物を貫通した穴を抜けて行く。
大通りには既に回復した男が立っていた。
しかし、所々体が歪になってきている。
「おめーやるなぁ~。まさかここまで苦戦するとは思ってなかったぜ」
「俺もだよ。ここまでしぶといとは思わなかった」
「だが、おめえに俺は倒せねーぞ。俺の体は攻撃を受ければ受ける程頑丈になって行くからな~」
男が力を入れると、全身の筋肉からギチギチと音が鳴り始める。
「ハッ!一発も当てられねーくせにずいぶん強気だな」
「・・・・このゲンハ様に舐めた口聞いてんじゃねーよ・・・」
「だったら閉じさせてみろ。俺はお前よりもっと強い人を知ってるからな」
シドの言葉にゲンハはギリリと歯を鳴らし、突っ込んでくる。
その速度は速い。
だが、デンベと比べれば十分対応可能だった。
ライトとは別の技術での意味不明な軌道変更も無い。シドも一気に距離を詰め、小さい(結構気にしている)体を利用し懐に飛び込む。
「!!!」
ゲンハの鳩尾に右肘を捻じ込み、左手のS200で両肺と心臓部に弾丸を叩き込んだ。その衝撃でゲンハの上半身は弾ける様に後方へと倒れ込む。
シドは浮きかかっているゲンハの脚を蹴り上げ、相手の体を天地逆さまにし、脊椎目掛けて銃弾を乱射する。
その時、自分達の頭上を越えるコースを行こうとしている強化外装が複数飛んで来るのを感知した。
恐らくライト達を追う部隊なのだろうと当たりを付けたシドは、1体くらい妨害しておこうとゲンハを強化外装に向かって蹴り上げる。
銃撃の衝撃で体の至る所で機能不全を起こしていたゲンハは、無防備のままその蹴りをくらい、ぐるぐると回転しながら強化外装の1体へと衝突する。
胴体部分にゲンハを張り付けたままバランスを崩す強化外装。
シドは追撃を加えるべく飛び上がり、強化外装ごとゲンハを再度地面へ向けて蹴り落とす。
地面に叩きつけられ破片と土埃を上げる2体に向かい、シドは両手のS200を乱射した。
1秒間に計48発のSH弾頭がゲンハと強化外装に降り注ぎ、異常なまでに強力な弾丸に強化外装はボコボコに破壊される。
<なんだ、ドルファンドの強化外装も大したことないな>
<旧文明のオートマタを基準に考えていませんか?>
<ああ~・・・なるほど>
<シド達の評価基準はだいぶ狂っていると思われます。それよりも、あの男 まだ再生するようです>
<ホントしつこいな>
シドはなかなか死なないゲンハにうんざりしてくる。
ライト視点
ライトはダーマを回収し、シドの為にバイクを放った後イデアが指定するポイントに向かって車を走らせる。
もうそろそろイデアと合流できるはずだと考えていると、イデアがこちらに飛んで来るのを感知し、それと同時にイデアから念話が届く。
<ライト、後部扉を開いてください>
<わかった>
ライトが後部扉を開くと、エミルを背負ったイデアが車内に飛び込んでくる。
ライトは直ぐに扉を閉め、この後の事をイデアと相談した。
「で、このまま都市から出て行くでいいの?」
「はい、少しでも早く距離を稼ぐべきです」
2人の会話を聞いたラルフは急いで口を挟んだ。
「それなら私を降ろしてください!!!今なら銃弾も飛んで来ないのだから大丈夫でしょう?!」
このままコイツらとドライブなど正気の沙汰では無い。なんとしても降ろしてもらわなくてはと声を張り上げるラルフ。しかし、事態はそれを許してはくれなかった。
「それはお勧めできません。我々スラムバレットはドルファンドから賞金首として懸賞金を掛けられました。理由は管理企業への敵対。担当である貴方がこの都市に留ればドルファンドに拘束されるでしょう。その場合、高確率で命を落とすことになると判断します」
「賞金首?!」
ラルフはとんでもない事になったと叫び声を上げる。
ミナギ都市で管理企業から敵対者と見られた者は即刻抹殺される。それは他の都市でも変わらない。管理企業はそれほどの権力を有している
その為、ワーカーオフィスは独立を保ちながらも管理企業には最大限気を遣うのだ。
だが、今自分が担当しているワーカーチームが管理企業から懸賞金を掛けられている。これはワーカーオフィス内での立場の崩壊を意味している。
「何故そんな事に?!」
最早悲鳴と言ってもいい声を上げラルフはイデアの方を振り返る。
「オーーートマターー???!!」
ラルフはキクチが言っていたオートマタの同行登録云々の事を今のいままで忘れていた。
「イデアと申します。現在の状況を簡単にご説明いたします。ドルファンドが自社の技術研究の為、アンダースネイクと言われるスラム組織を利用し人身売買を行っていました。そして、今そのターゲットになっているのが私の背中にいるエミルです。我々はドルファンドからエミルを守る為、このままダゴラ都市との中間にある施設を目指します」
「か・・・こ・・・・・・・ドルファンドが・・・人身売買???」
「はい、証拠も手に入れています」
「・・・・・・私がドルファンドに拘束されれば高確率で死ぬと言うのは・・・・・あの構成員の尋問を行ったからか・・・・」
「そうですね。更にはあの構成員をドルファンドに引き渡した後、怪しいと思われたのでしょう?ワーカーオフィス上層部への報告を行っていましたね?その情報もドルファンドは入手しています。高確率と言いましたが、口封じのため消されるのは確実と私は判断します」
「・・・今からオフィスに事情を説明して・・・」
「間に合いません。それに、ミナギ都市のワーカーオフィスにドルファンドを掣肘する力がありますか?」
その答えは、無い、だ。
この都市は大規模なギルドは無く、チーム単位で活動しているワーカー達が主となる。その者達は企業からの依頼を熟すことで金を稼いでおり、どちらかと言えば企業よりと言ってもいい。
今回の賞金首の発表で、ワーカーオフィスが正式に公布しなくてもドルファンドからの発表があった時点で行動を起こす者もいただろう。
今は高ランクワーカー達がダゴラ都市方面へ集中している事がせめてもの救いだった。
ラルフはイデアの言葉を聞きガックリと項垂れる。
ワーカーオフィスで必死に出世の道をひた走って来たと言うのに・・・・・・。
今ではミナギ都市の管理企業から命を狙われる事になるとは、と真っ白に燃え尽きている。
「それで、普通にこの都市から脱出は出来ないよね?門は閉じられてるだろうし」
「そうですね。壁を飛び越える必要があります」
今まで黙って話を聞いていたダーマが話に入って来る。
「飛び越えるとはどういうことだ?この車は空走式なのか?」
「いえ、シールドの上を走って行けば超えられますよ」
「・・・・・そんな事できるのか?」
「シドさんみたいに自由自在と言う訳には行きませんけどね。壁を超えるだけなら大丈夫です」
「撃ち落されないか?」
「避けますし、防ぎます」
「・・・・・・わかった。頼んだぞ」
「はい、しっかり捕まっていてください」
ライトは第1防壁を越えるためイデアにシールドの制御を渡す。
イデアはシールドを展開し、防壁を越えるためその上を駆け上がって行った。




