玉藻組での会談
玉藻組の組員についていき彼らのホームに到着する。
ボスであるミンが居る部屋まで案内され、今回の呼び出しに関する説明をされた。
「この度は呼び出して申し訳ない。来てもらったのは第1区画当たりを縄張りにしているアンダースネイクの事です。近頃歓楽街に多数の構成員が入ってきているとの報告がありました。彼らの聞き取りをしても遊びに来ているとしか言わないのですが、どこかの店舗で騒ぐ様子もなく何かを探している様だとのこと・・・・彼らの目的について何か知っている事はありませんか?」
「・・・・なぜ俺たちが奴等の目的を知っていると?」
ダーマはエミルの事を誰にも知られたくない為、慎重に会話を行おうとする。
「ダーマと言いましたね?最近アンダースネイクとイザコザを起こしたようですね?あなたがこのエリアで活動するようになってから奴等も歓楽街に入り込んでくるようになりました。それと、シド。あなたが建物を倒壊させた時期とも一致します。もし奴等の目的が2人への報復であるのなら我々が警戒する必要は薄くなります・・・・まあ、我々の縄張りでの戦闘行為には関しては対処致しますが・・・」
「・・・・」
ダーマとしては玉藻組のバックアップがあればエミルの安全性が上がるかと考えていたのだが、ミナギ都市の管理企業が黒幕の可能性が発生し、すぐにでもこの都市から脱出しなければならなくなった。
その為の脚はシド達が提供してくれることになり、彼らの正直に話す理由も消滅している。
よってこのまま煙に巻きさっさと会談を終わらせようと考えたのだが、
「ダーマ。多分だけど正直に話した方がいいような気がする」
シドが横から口を出してきた。
「・・・どういうことだ?」
「こいつらは黒幕とは繋がってないと思う。それに、多分そこに隠れてるのって企業の人だよな?」
シドがそう指摘すると、ミンの目が大きく開かれ、周りの護衛達の空気もガラリと変わった。
先ほどまでも空気が軽かった訳ではない。だが今は突き刺さるような殺気ともいえる空気がシドとダーマを包み込む。
ダーマはその空気に当てられ、普段ほとんど動かない表情筋が引きつるのを感じる。
そんな空気の中、シドが向けている視線の先で光学迷彩が解かれ一人の人物が姿を現した。
その人物は60前後の男性で、白くなった髪をオールバックにしていおり奇麗に整えられた口ひげを生やしている。長身でワーカー程ではないが鍛えられていることが分かった。
眼光が鋭く、暴力を生業としている者達とは違うプレッシャーを感じる。
(おっちゃんも仕事の時はこんな感じになるのかな?)
とシドが感じる人物だった。
「よく私が隠れていることが分かったな。この光学迷彩はそこらの情報収集機でも見破れないのだが」
「俺は結構気配に敏感なんだよ。眼だけの情報に頼ってたら死んじまうからな」
「なるほど。今度から参考にさせてもらう。それで、私が企業の者だとなぜわかった?」
「ん~・・・ミンの周りにいる護衛の練度が前とは違い過ぎるし、警戒の仕方がミンを守ってるって感じじゃなかった。それに周りの部屋にも護衛を待機させてるよな?これも前回は無かった。ここまで厳重に守ってて、姿を消しながらこの会話を聞きたいヤツってなると企業の人間かな?って思ったんだよ」
「なるほどなるほど。確かに敏感なようだな・・・・私はアースネットの代表、バーク・ドゥエルという」
「ワーカーチーム スラムバレットのシドだ」
「・・・・・」
「おい、ダーマ」
シドは小声で声を掛けながらダーマの脇腹を肘でつつく。いきなりの展開に付いていけず固まったままだったダーマはそこで漸く気を取り直した。
「・・・あ・・・ワーカーのダーマといいます」
ダーマはそういって頭を下げる。
「うむ、ダーマはこの都市でワーカーになり2年目だったか。ランクは17。シドはダゴラ都市所属、前代未聞の20歳未満でランク50に到達したワーカーだな。ダゴラ都市では単身で中央崇拝者のアジトを殲滅。報復テロを警戒してミナギ都市に移ってきたのだろう?」
「・・・・中央崇拝者の事は秘密って事になってると思うんだけど?」
「一般人にはな。だが都市の管理企業ならそれくらいの情報は手に入れられる」
バークが言う通りならワーカーオフィスにエミルの事が露見した場合、黒幕の候補の筆頭であるドルファンドに情報がすぐに流れるという事だ。
ワーカーオフィスにはエミルの情報は絶対に流すことは出来ない。
「それで?アースネットの代表が俺たちの話を聞くためにわざわざ歓楽街まで来たのか?」
「アースネットはこのエリアの管理も行っているのだよ。管理エリアがきな臭いとなれば調査するのは当然だ。それに、私は昔ミンの常連だったのでね、いろいろ情報をもらう事もある。今日私が来たのはたまたまだ」
「・・・・」
偶々なわけが無い。
都市の管理企業の1つであるアースネットの代表がわざわざ歓楽街のボスとワーカーの会談を聞くために護衛を用意して来るのはおかしい。
これは何かある とダーマは考え、どうすればエミルを守ることが出来るかと必死に頭を回転させていた。
しかし、その努力は無駄になる。
「そっか。で、話の続きだけど、アンダースネイク?だったか?アイツ等は子供を狙ってるんだよ」
「な!!!」
「・・・・・・」
ダーマはなぜ言ってしまう!?という顔をし、バークは眉間に深い皺を作った。
「・・・どういう事ですか?」
バークと同じく眉間を寄せたミンが話の続きを促してくる。
「その子は特殊な目を持っているらしくてさ。多分だけどそれを狙ってるんじゃないかって考えてる」
「・・・・スラムの組織が子供を・・・か・・・・戦闘員にでも育てる積りか?」
「いや、商品って言ってたから企業に売るつもりだったんだろ。この都市に身体拡張で儲けてる企業があるだろ?」
「・・・・・・ドルファンドか」
バークの表情は変わらなかったが、全身から怒りのオーラが立ち上っている様な気迫を感じた。
「俺たちがこの都市に着いたとき、丁度あの子を抱えてるダーマがあいつらに追いつかれてる場面に出くわして助けたんだ。建物をぶった切った時に起こった戦闘は、あいつらの仲間にダーマと子供に居場所を吐けって言われて戦闘になった。今、歓楽街をうろついてるのは俺達を・・・というよりその子供を探してるんだと思う」
ダーマがどうやってシドを止め、話をそらそうかとオロオロしているうちに全部シドが喋ってしまう。シド、ミン、バークの顔を順に見回した後、ダーマはガックリと肩を落としシドに話しかける。
「・・・・なぜ全部言ってしまう?」
「ん?ドルファンドを牽制してもらえないかな?と思って」
「そうなるとは限らないだろ!?」
「大丈夫だと思うぞ」
「思うでは困る!!」
「断言出来る情報ってさ、解決間近か手遅れになってから入ってくるもんだろ?俺は玉藻組とアースネットは人売りの件には関わってないと判断した」
「何処にそんな要素があった!!自己紹介程度の会話で判断できるはずがない!!」
ダーマはシドがエミルを危険にさらす情報を暴露してしまった事に我慢が出来ず、企業トップの目の前で侮辱に等しい言葉を吐いてしまう。
興奮してしまっているダーマはそのことに気づいてはいなかった。
先ほど放った言葉にバークの護衛達はさらに殺気立つ。
その護衛達を抑えバークはシドに質問する。
「ダーマの言う通りだな。我々がその人売りに関与していないと判断した理由はなんだ?」
「俺は物心がつく前からスラムで生きてきたんだ。俺を騙そうとか嵌めようとするヤツの気配には敏感なんだよ。あんた達からはそんな気配はなかったからな」
シドはそれだけで判断したした訳では無い。
相手の体温や呼吸音、心音に気を配りイデアを通して彼らの反応を観察していた。
その結果、彼らは白だと判断したのだった。
「ふむ、生きるためのスキルか・・・・・気配に敏感であるという事に随分自信があるようだ」
「ああ、これには誰にも負けない自信がある」
「・・・・・事情は分かった。ドルファンドに関しては私の方で調べよう。君たちはどうするつもりだ?」
「俺たちは直ぐにでもこの都市を出ていく。預け先には心当たりがあるからな」
「なるほど・・・・今日はご苦労だった」
バークの言葉で会談は終了し、シド達はホームを出て都市から出ていくためライトに合流しようを歩き出した。
バーク視点
「・・・・ドルファンドが組織から人を買っていたか。以前から妙な動きが有ったがこういう事だったか・・・・」
バークはまだ疑いの段階であるにも関わらず、アンダースネイクの人売りにドルファンドが関与していると確信を持っている様だった。
「あの毒蛇共が人売りを行っていたと言われても驚きませんが、本当にドルファンドが人売りに関与していると?」
「以前から疑わしい所はあった。20年ほど前から急激に業績を伸ばし、身体拡張技術を前面に売り出したからな。それ以前から人体実験用の検体を組織から仕入れていたとすれば・・・・・」
「しかし、彼らは15年前にスラムを一度焼き払っています」
「犯罪の温床になっているという理由からな。だが、証拠隠滅の手段だったと言われた方が納得できる。奴らは焼き払った後も管理らしい管理を行っていなかった。それに、あのシドが確保したというアンダースネイクの構成員・・・・ワーカーオフィスでは何も証言せずにドルファンドへと引き渡されて、その後の情報が全くない。口封じに殺されていると考えるのが自然か・・・」
ドルファンドは身体拡張と義体技術で成り上がった企業だ。
最近ではケミックス・アロイと業務提携を行い強化外装の開発にも成功している。その為ワーカー達や他都市との繋がりも強く、ミナギ都市での発言力はトップだ。
アースネットは建設事業に強く、この都市の防壁や建造物を手掛けているが事業を拡大するにも限界があり、ここ数年では伸び悩んでいる。
一応は都市の管理企業として名を連ねているが、発言力はドルファンドには劣る。
ドルファンドとケミックス・アロイが提携してからというもの、議会はドルファンドの独壇場だった。
その状況に少しでも楔を打ち込めないかと調査をしており、アンダースネイクとドルファンドの繋がりと言える情報を掴んだのだった。
この都市の外周区画の中で非合法な真似をする組織は意外と少ない。その多くがアンダースネイク傘下の組織だった。
そのアンダースネイクにはドルファンドのサイバネティックパーツが複数の商社を通して流れていることを掴み、あの組織を調査すればドルファンドを掣肘できる情報の欠片でも掴めればと調査をさせていた。
数年の調査でも中々思う様に情報が得られない日々が続いていたが、先日アンダースネイクの構成員が大通りで殺害されているとの情報が入る。
そして次の日では他の組織の縄張りで派手に銃撃戦を行い、その戦闘でも全滅させられたとの知らせが入った。
それから多くの構成員が歓楽街にやってきては何かを探しているという。
これは何かあると昔馴染みのミンの所へやって来た。丁度今日、アンダースネイクと揉めていると思われるワーカーを呼び出し話を聞くというので護衛を配置し自分は姿を消して会談に潜り込んでいたのだ。
会談に現れたワーカーは2人。
1人は長身で無表情な男。装備から見てそれほどランクは高くなさそうだ。
そしてもう1人はワーカーにしては小柄ではあるが、しっかりとした防護服に身を包んでいる。武装に関してはブレード2振りと大型のハンドガン2丁とかなり変わっているが、彼がシドというワーカーなのだろう。
会談前に調べた内容では圧倒的な速度でランクを上げ、中央崇拝者のアジトを単身で殲滅したという。
どこまで本当かわからないが、ワーカーオフィスから吸い上げた情報だ。
まず間違いはあるまい。
会談が終わり、シドから聞いた内容が本当であればドルファンドは大罪に加担・・・いや、自身から犯していたという事になる。
これを直接投げかけても彼らはしらを切るに決まっているが、重点的に調べれば証拠を上げることも出来るかもしれない。
直ぐに諜報部に指示を出し調査に当たらせる事にする。
「さて、私は社に戻って今後の対策を考えよう。ミンもアンダースネイクの襲撃に警戒を怠らない様に」
「分かっておりますわ。ゆっくりお話しできずに残念です。また飲みにいらしてくださいね?」
「はっはっは。ああ、一息ついたらまた顔を出そう。今日は非常に有益な情報を貰った、感謝する」
「いえいえ、いつもお世話になっておりますもの」
ミンの笑顔に見送られバークは部屋を出ていく。
この情報を使ってドルファンドを追い落とすために。
そして、万が一外部に漏れた場合、道連れにされないよう対策を立てるために。




