救援要請 2
突然の救援要請に応答した2人は、彼らが送って来たポイントへと急行していた。
距離が近づくにつれ通信も安定しだし、向こうの様子も判明してくる。
相手はワーカーオフィス主導の巡回任務中だったらしく、途中大きな群れにかち合い戦闘になる。その時のモンスター達は全滅させる事が出来たのだが、戦闘音で周りのモンスターを刺激してしまったのか、周りからゾロゾロとモンスターが集まって来たと言うのだ。
最初の戦闘で多くの弾薬を費やしてしまい、今追い掛けてきているモンスター達と戦うのは難しいと判断。救援要請を出しながら撤退していたのだが、モンスターの中に通信電波を妨害するタイプのモンスターが紛れているらしく、ワーカーオフィスに連絡を取ることが出来なかったらしい。
近辺を探索しているかもしれないワーカーに援護を頼もうと救援要請を出しっぱなしで都市へと走っている所、偶然通りがかったスラムバレットの2人が要請を拾ったと言う訳である。
「なるほど、事情はわかりました。追って来るモンスターの規模と種類を教えてもらえますか?大体で構わないので」
『大型が2体、中型が10体前後、小型はうじゃうじゃいる!もうこちらの弾薬が底をつく!あとどれくらいで合流できる?!』
「後2、3分でこちらの攻撃範囲に入ります。もう少し頑張ってください」
『わかった!頼む!』
向こうは激しい攻撃に晒されているらしく、通信に爆音が入り込んでいた。急がなければ車ごと破壊されてしまう可能性もある。
ライトは全力でT6を走らせながら情報収集機に映りだしたモンスターに向けて攻撃準備を始めた。
「なあ、俺達ってメタルアントから逃げてる最中だけど、向かっていいのか?ここにアイツらまで参戦したら纏めて擦りつぶされそうだけど・・・」
<あの地点からすでに60km以上離れています。高濃度のフェロモンであろうともこの距離を超えてメタルアントを引き付ける効果は無いと判断してもいいかと>
「なら俺も外で戦った方がいいか?バイクで出た方が速く片付くぞ?」
<流石にシドが外に出るのは問題があります。窓を開けてシールドで空気を遮断した状態で攻撃してください>
「・・・・はい」
シドはバイクに取り付けられていたガトリングを片方外しナビシートまで給弾ケーブルを伸ばしたまま持ってきた。
数が多いならS200よりもこのガトリングの方が殲滅力は上だと判断した。
「シドさん、もうすぐだよ」
「ああ、分かってる」
「最初にミサイルで攻撃して群れの中を突っ切る形で行こう。その方が救援対象への攻撃を減らせるだろうからな」
「そうだね。シールドも全開でいくよ」
ライトはモンスターに照準を合わせたハイドラプターを発射し、車に搭載されているシールド発生装置を起動。車に鋭角なシールドは張ってモンスターの群れに突っ込んでいった。
巡回部隊 視点
「クソ!!もうシールドが持たないぞ!」
「もう少しだ!もう少しで救援が来る!!!」
「たった2人のチームにこの群れが対処できんのかよ!!」
「知らねーよ!だが、いないよりマシだ!!」
ワーカーオフィス実務官の2人は20人のワーカー達を乗せ、都市周辺の間引き作業に出ていた。
途中までは順調にモンスターを駆除で来ていたのだが、思わぬ大群に遭遇してしまう。
荷台に乗るワーカー達と車装兵装のおかげでなんとか殲滅する事に成功したが、この時点で総弾薬の80%を消費してしまった。これ以上の任務は続けられないと都市へと帰還する事になったのだが、その戦闘で周辺のモンスターを引き付けてしまい、今は反撃も最小限にひたすら都市に向けて全速力で走っていた。
あのモンスター群の中にはこの辺りでも珍しいジャミングを行って来るタイプが混ざっているらしく、長距離通信に支障が発生していた。
その為、都市のワーカーオフィスと連絡を取ることが出来ず、最大出力で救援要請を発進しながらひたすら都市に向かって逃げている最中だったのだ。
その間も断続的にモンスターの攻撃に晒されており、防御力重視で設計されているはずのワーカーオフィス社用車でも悲鳴を上げ始める。
大型種の高威力砲弾は弾速も遅くなんとか避けられているが、中型の攻撃が非常に厄介だった。
ベアー種と呼ばれ、熊が元になったと思われるモンスターで、体長は8m程ともう少しで大型に分類される大きさをほこり、ファーレン遺跡に多く出没するラクーン種と同じく多種多様な兵器を背中に搭載している。
今回は運の悪い事にミサイルを搭載した個体が混じっており、このミサイルに狙われれば避ける事は非常に難しい。
本来ならワーカー達に迎撃指示を出すところだが、この巡回任務は少数で活動することは難しい低ランクのワーカー向けの依頼だった。
この激しく揺れる車の荷台から、高速で飛翔するミサイルを迎撃することは不可能である。
その為、車に搭載されているシールドによる防御のみでこの難局を乗り切らなければならず、職員の2人の頭には全滅の文字がよぎる。
その時、偶然近くにいたスラムバレットというワーカーチームが救援要請をキャッチし、コンタクトを取って来た。
藁にもすがる思いで通信を繋げ、彼らが到着するのを今か今かと待っていたのだ。
「クソ!後ろの奴等も少しは攻撃しろよ!」
「無茶言うな!ランク20台のワーカーがこの揺れの中反撃できる訳ないだろ!!!それにシールド張ってんだ!攻撃できるか!!!」
ハンドルを握る職員が大型種の攻撃に気付き大きくハンドルを切る。
その直後、自分達の直ぐ隣で強烈な爆発が起こり、その爆風で車体が大きく傾いた。
「グゥ!!!・・・・・クソダラーーーー!!!!」
運転職員は更にハンドルを回し、横転しかけていたい車体をなんとか元に戻す。
「うおおぉぉーーー!!危ね~~!!!頼むぞ!ここでこけたらマジで全滅だ!」
「わかってるよ!そんな事は!!!後ろの連中はどうなってる!?」
「分かるか!そんな事!!!シールドのお陰で外に放り出されたヤツは一人もいねーよ!!!」
普段はちゃんと務め人として言葉遣いにも気を付けている2人だが、この危機的状況で取り繕う余裕も失ってしまったらしい。
「!!!おい!ミサイルだ!!」
「またクソ熊の攻撃か?!」
「いや!・・・・救援だ!!!」
遠方の空から24発の小型ミサイルが飛翔しモンスターの群れに突き刺さる。
ミサイルに搭載されていた爆薬がその力を開放し、中型のベアー種全てと小型のモンスター達を吹き飛ばした。
2人がミサイルが飛んできた方向に目を向けると、救援を受けてくれたスラムバレットが乗っているであろう大型の荒野車が車装兵器と窓から突き出たガトリング砲から銃弾を吐き出しながらモンスターの群れの横っ腹に突っ込んで行くのが見えた。
スラムバレット視点
モンスターの群れに突っ込んだT6は、重装に改造され、かつパワーも十分に上がっている。ライトが展開したシールドの効果もあり、並み居る小型種を引きつぶしながら唸りを上げて駆け抜ける。
小型種が放つ弾丸など意にも介さず弾き飛ばし、完全な質量兵器と化してモンスターを蹂躙した。
シドはナビシートの窓からガトリングを付きだし、目に映るモンスター達に掃射。瞬く間に挽肉へと変えて行く。
「ボクは大型をやってくるね」
ライトはそういうと窓から外へと飛び出し車の上に上がっていく。
車上ではライトが操作する2機の複合銃が辺りに弾丸を撒き散らし効率的にモンスターを駆逐していた。
そのモンスター達の後方、一際目立つ存在。
全長30mは超えるであろう、巨大な機械系モンスター達の姿だった。
2体共、一見亀の様な見た目であり、可動式の巨大砲身がこちらを向いている。流石にあれで撃たれてはT6も吹き飛ばされるかもしれない。2人の活躍でモンスターの数が減ったことを感知したのか、甲羅に見える部分が開き中から飛行タイプのモンスターが複数飛び出してくる。
だが、数が多くとも真っすぐ飛んで来るだけの的をライトが外す訳もない。
情報収集機から送られてくるデータを元にシールドを巡らせ、ハンター5から撃ち放った弾丸を正確に届けて行く。
巨大亀は次々と飛行型モンスターを放って来るが、全てライトに撃ち落されていった。
業を煮したかの様に、巨大亀達の砲身がこちらを向く。
「うん、予想通り」
ライトはそう呟くと、巨大亀の砲身内部に向け、両手のハンター5から専用弾を発射した。
狙い違わず2つの砲身の中に飛び込んだ専用弾は、モンスター内部で爆発。
その爆圧に耐え切れず砲身は吹き飛び、内部まで達した高温の炎が巨大亀の爆薬貯蔵庫にまで到達。激しい誘爆を引き起こし周りの小型モンスターを巻き込んで盛大に吹き飛んだ。
その様子を見届けたライトは
「よし!やっぱりEX80がちゃんと仕事してくれるとボクも戦えるね」
と笑顔を浮かべるのだった。




