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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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野生生物?

極端に高い隠密能力を持つモンスターを全滅させ一息つくシド。

その横ではシドに足払いを食らったライトが後頭部を摩りながら上半身を起こす。

「いたた・・・・」

「胴体抉られるよりましだろ?」

「そうだね。ありがとう」

ライトの額に目を向けると、モンスターの触手によって受けた傷からまだ血が流れている。ライトはシドと違い一般的(旧文明基準)な身体拡張しか受けていない為、シドの様に急速に傷が塞がったりしない。

「一応回復薬飲んどけよ」

「わかった」

ライトはツールボックスから回復薬を取り出し少量飲み込む。

すると額から流れ落ちていた血が止まり、スルスルと皮膚が張り始める。

「やっぱりこの回復薬良く効くね」

ライトは飲んだ回復薬を見る。

訓練の時に購入していた1箱100万コールの回復薬だった。

<ライトも体内に治療ナノマシンを搭載していますからね。相乗効果で治りが速いのです。足の負傷はどうですか?>

ライトはシドに払われた足に力を入れてみる。

少し違和感があったがそれも急速に薄れ、問題なく動かせるようになった。

<大丈夫。もう何ともないよ>

ちなみにライトが負ったダメージで一番大きかったのが、抉られた額でも打ち付けた後頭部でも無く、シドに蹴られた脹脛だったのだ。

最初に蹴飛ばした脇腹の時は手加減していたが、足払いの時はかなり力を入れていた為大きなダメージとなったようである。


ライトは立ち上がり、討伐したモンスターの近くまで歩いていく。

「・・・・こんなモンスターがいるんだね・・・・熱源や光学迷彩でも見破れるのに・・・・」

「そうだな。俺もあいつらが動かなかったら気付かなかった」

<かなり隠密に長ける様に進化した様ですね。恐らく特殊な皮膚が探知用粒子の反射や熱源探知を誤魔化しているのでしょう>

「これは持って帰った方が良いよね・・・」

このモンスターは前線でも通用するはずの情報収集機の索敵能力を完全に無効化していた。検索を掛けてもリストに該当するモンスターも存在しない。

上で遭遇したトンボの様なモンスターと同じように未確認種と言う事だろう。

死んでいる今でもライトの情報収集機には体が千切れた部分が薄っすらと表示させるだけだった。それに、エネルギーシールドを何の抵抗も無く貫通したあの攻撃も不可解だ。

あれはシールドを破壊したのでは無く無効化と言っていいだろう。

恐らく貴重な資料になるに違いない。

「そうだな・・・小さく纏めたらツールボックスにも入るだろ」

2人は辺りを捜索し、モンスターを包めそうな布を探した。

そして丁度モンスターを包めそうなサイズで、体液が染み出てこなさそうなナイロン質の布を発見。ライトはその布でモンスターを包み、ツールボックスに収納する。

「便利なアイテムだね」

「ああ、あのときゴネて良かった」

ツールボックスをくれたセントラルに感謝を捧げ、この後どうするかを話し合う。


「さて、ツールボックスの容量はまだまだ余裕があるが・・・どうする?俺は一旦戻った方が良いと思うんだが」

「そうだね・・・EX80でも探知できないモンスターが居るとなると、ボクが足手まといになりかねない」

ライトは顔を顰めそう言う。

「足手まといとまでは言わないけど危険なのは変わらないよな。視界の確保も難しいし、エネルギーシールドを貫通する攻撃となるとライトとの相性は最悪だ」

「・・・・・あまりシールドに頼るのも危ないね。もっと体術も鍛えないと」

「そうだな。気配を感じる訓練も積んだ方が良いぞ」

「・・はぁ~~・・・・油断したつもりはないんだけどな~・・・」

<想定外が2つ重なりましたからね。これを経験として装備と訓練を考えましょう。私たちはまだルーキーなのです、これから積み上げて行けばいいのですよ>

<そうだね>

「よし、帰るぞ」

2人はこの遺跡から脱出しようと元来た道を戻って行く。


未知の迷彩モンスターと戦った区画を脱出し、入口兼脱出口になっている連絡通路にまで到着て外の様子を探る2人。

「・・・・待ち構えてんな~」

「そうだね・・・・かなり多いよ?」

この連絡通路出た先。本来なら崖を登って行かなければならない場所には、上の階で討伐したのと同じタイプと思われるモンスターが待ち構えていた。

連絡通路付近の崖に張り付き、明らかに2人を狙っている。

「シールドを蹴って上に登っても追いかけてくるだろうな」

「飛べるしね・・・あいつら」


恐らく2人が全力で逃走すれば崖上までは到達できるだろう。しかし、あのモンスターがこの亀裂の外まで追ってくれば必ず追いつかれる。

あの火炎弾と掻い潜りながら車に乗り込むのは難しいだろうと考えた二人は

「よし、殺るぞ」

「わかった」

戦う事を選択する。


外まであと50m程の所で足を止め、ライトは両手の銃を構える。

あのトンボの様なモンスターは迷彩能力は無く、ライトの目にはハッキリと情報が映し出されていた。外にいるモンスターを照準し、エネルギーシールドで各々へ弾丸を届ける道を形成。

6個の銃身から弾丸を発射する。


連絡通路から飛び出た弾丸は、ライトが設定したシールドに沿って曲がりモンスターへと正確に命中する。

まさか姿が見えない内から攻撃されるとは思っていなかったのか、ろくな回避運動も出来ずに弾丸を受けたモンスター達は胴体を引き裂かれて谷底へ消えて行った。

しかし、全てのモンスターを倒せたわけではない。まだ外には数十匹のモンスターが待ち構えているのだ。

攻撃を受けたモンスターの群れは怒りの鳴き声を上げながら連絡通路の中へ突っ込んでくる。

それほど広くは無い通路の中を器用に飛びながら、モンスターは口に火花を散らし始め炎弾を吐こうとする。しかし、2人の放つ銃弾の前になすすべもなく撃ち落され、連絡通路に突入した15匹のモンスターは瞬く間に全滅する事になった。


「・・・・一気に来ないな」

「・・・そうだね」

今まで出会って来たモンスター達は全戦力を一気にぶつけてきた。自分達の被害など知った事かと人間を殺す為に突撃してくる。

しかし、このモンスターは一気に襲い掛かって来る事はなかった。ここのモンスターは今までのモンスターとは少し違う。

そう考えていると、連絡通路の先に一際大きな個体が現れる。

その個体は本来なら青に近い色をした複眼を、薄っすらと赤く点滅させながら歯をギリギリを擦り合わせていた。

炎弾を吐くつもりか?と2人は照準を合わせるが、それと同時にその個体は大きな金切声を上げると、他の個体を引きつれ谷底へと逃げていく。

「・・・・・逃げた?」

「・・・逃げたね・・・・・」

<恐らくですが、あの者達はモンスターでは無く、通常の野生生物では無いでしょうか?>

<野生生物?>

<はい、モンスターとは旧文明の兵器群の事を総称します。生物系モンスターでも科学的なアプローチを加えられており、生物的本能よりも侵入者の排除を優先するようプログラムされています。しかし、先程の生物は外敵の殲滅よりも己の命、コミュニティーの存続を優先しました。よって、モンスターでは無くこの環境に適応した野生生物である可能性が高いと判断します>

<なるほどね。ボク、野生生物って初めて見たかも・・・・>

<一応バーサクハウンドも野生生物に分類されますよ>

「・・・・野生生物・・か・・・・」

シドは通路に転がっている生物の死骸に目を向ける。

「一応これも回収していく?」

「そうだな・・・・・ちょっと何枚か布探してくるわ」

シドはそういうとまた遺跡の中へと戻って行った。




「持ってきたぞ、ライトは比較的マシなヤツを包んでくれるか?俺は解体して持って帰るから」

「解体って複眼の部分?」

「ああ、ハンター5の弾丸を弾いてたからな。あの強度ならもしかしたら金になるかもって思ってさ」

この生物の複眼は非常に頑丈だったらしく、流石にS200の弾丸では吹き飛んだがハンター5の弾丸は通さなかった。その為ライトは弾丸を曲げて胴体を狙うように調整し討伐したのだった。

あの複眼は、ダゴラ都市に出現する機械系モンスター以上の硬度を持つのは間違いない。その部分を剥ぎ取りワーカーオフィスに持ち込もうと考えた様だ。

ライトは比較的本来の姿を保っているモンスターを選んで布で包み、ツールボックスに収納する。

「体を伸ばしたら結構大きいけど、纏めたら小さいねコイツ等」

<空を飛ぶ為、体重を軽くなる様進化する必要があったのでしょう。その分、羽根を羽ばたかせる背筋は非常に発達していますが>

ライトが生物の死骸の回収を済ませると、シドの方も頭だけを切り落とし同じように布に包みこんでツールボックスへと収納していた。

「よし、これで良いな。車に戻ろう」

そう言い、シドが連絡通路から飛び出しシールドを蹴って飛び上がった瞬間、谷底から高温の突風が吹き上げてきた。

「あ・・・」

シドが声を漏らすが既に遅く、猛烈な風に巻き上げられ上空へと飛ばされてしまう。

「うああぁぁぁぁ・・・・ぁぁ・・・・・ぁ~・・・・」

「ちょっと何やってんの~~?!」

ライトは連絡通路に吹き込んでくる突風を耐えながら、吹き飛ばされていくシドに向かって叫び声を上げるのだった。


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