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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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模擬戦 前

昼食の時間になり、今日は一般人が滞在するエリアの食堂で食事を取るとセントラルから連絡を受けたシドとライト。

2人がセントラルに案内され食堂に移動すると、同じタイミングでもう一体?のセントラルに案内されたゴンダバヤシ一行も食堂に到着する。

<向こうにもセントラルがいるぞ?>

<ホログラムなのですから施設の処理能力をオーバーしない限り幾らでも表示できるのでしょう>

<なるほどね>


「おうシド。体調は万全か?」

「ああ、バッチリだぞ・・・・・なんかおっちゃんは疲れてないか?」

シドに体調を聞いてくるゴンダバヤシだが、彼の方が疲れている様に見える。

後ろに控えたお供もそうだが、元気になったはずのキクチもなんだか浮かない表情だ。いつもと変わらないのはデンベのみである。

「なんかあったのか?みんな暗い顔してるけど・・・・」

「なんでもない・・・・いや、なんでもあるんだが気にすんな」

「「?」」

ゴンダバヤシの言葉に首を傾げるシドとライト。

<後でキクチから聞けばいいのでは?同行していたのですから理由を知っているはずです>

イデアにそう言われ、一旦気にしない事にする2人。

「さて、全員揃ったので昼食にしよう。それぞれのブースで好きな料理を頼んでくれ」

セントラルが指したのは多種多様なカンバンが表示されたブースが並んでいる。

それぞれの違うタイプの料理が提供される様で、丼物や麺料理、カレー、肉、魚介、米やらパンなど様々な種類の料理が提供可能なようだ。

全員がブースに散らばり、各々好みの料理や興味の湧いた料理を選択していく。


「シドさんはやっぱり丼?」

「おう、カツ丼でいくぞ!・・・・・・ん?ソースカツ丼ってのもあるんだな」

「ほんとだ。ボクはあっちのカレー専門ブース見てくる」

「おう、あの辺の席で集合な」

「わかった」


シドとライトはそれぞれの好物を選択し、自動で出てきた料理を持ってテーブルに着く。

「「いただきます」」

シドはソースカツ丼を、ライトはグリーンカレーを選択したらしい。

「モグモグ・・・・うん、美味いな。このソース、出汁で溶いてんのか?旨辛で飯も進むぞ」

「これも美味しいよ。普通のカレーと違ってまろやかだね。なんで緑なんだろ?野菜?」

2人とも提供される最大サイズの料理をガツガツと平らげて行く。

そこに料理を持ったキクチが近寄って来た。

「・・・お前等スゲー量食うんだな」

シドとライトの料理を見たキクチは呆れた表情を浮かべそう言う。

しかし、キクチが持っている料理も一般人が食べるには多すぎる量であった。

「・・・そういうキクチも結構多いんじゃないか?何品注文したんだよ」

「4品だよ。体が元気になって食欲も増してるみたいだな。腹が減って仕方がねーよ・・・・・・・でもお前等の半分くらいの量だぞ?」

「・・・・・・食べれることは良い事ですよ?」

「まあ、そうだな。じゃ、俺もここで食わせてもらうぜ」

キクチはシドの隣に腰かけ、大きめのトレーに乗せていた料理を食べ始める。

<キクチも食える様になって良かったな>

今までより大幅に食欲が増したキクチを見て、シドは嬉しそうに言う。

<うん、そうだね>

キクチの食欲増大の理由を知っているライトはシドの様に無邪気に喜べない。


キクチはセントラルとイデアが行った治療によって、ニューロン回路の調整と複雑化が行われている為、カロリー消費が増大している。

それに対応する為に大量の食事を受け入れられる様に胃の強化と容量の増加、その他消化器官の強化も行われている。

本来なら自然再生が行われないはずの軟骨の再生機能や、免疫細胞の増産、新陳代謝の上昇等、様々な治療(改造)を施されている為、その分のエネルギーを摂取しなければならないのだ。

しかしこれは、治療(改造)を行う前の前段階でしかない。

医学に関しては知識が無いライトでは触りくらいしか理解できなかったが、その他にも色々処置が行われており、未だキクチの体はセントラルの考える万全に向かって自動治療(改造)が行われている最中であった。

ある程度治療が落ち着けば食事量も減って来るだろうが、そのある程度が何時までなのかはライトには分からない。

これからしばらくの間、キクチはフードファイター並みの食欲と付き合って行かなければならないだろう。


ライトは後で承諾書をシッカリ読み込むようキクチに伝えようと思った。


すると、少し離れた所で食事を取っているゴンダバヤシグループからも声が聞こえてくる。

「ゴンダバヤシ様、こんな時間から酒ですか?」

「バカヤロウ、あんなもん見せられて飲まずに居られるか!」

「報告書の作成等も残っております」

「わーってるよ!ちょっとくらい良いだろうが!」

「・・・・・少しだけですよ?」

「わーったわーった!・・・・・・・・お?美味いな。お前らもどうだ?」

「「「「「職務中ですので」」」」」

「つれねー連中だな、おい。」

「私はこの後模擬戦もありますので」

「へーへー、6人も居て一人酒たー悲しいね~」



なにやらゴンダバヤシは荒れている様だ。

「キクチさん。施設見学で何かあったんですか?」

「・・・・・・夜に話す」

ライトの質問に一瞬食べる手を止め、言葉短くそう言うとトレーに乗った料理を食べつくし、お代わりを注文する為に席を立つキクチ。

「・・・・・何があったんだろ?」

「さあ?まあ、夜に教えてくれるって言ってんだから気にすんなよ」

シドはそう言うと、ソースカツ丼を完食し背もたれに体を預け息を吐く。

「もう終わり?」

「ああ、この後動くからな。腹6分目くらいにしといた方がいいだろ」

「そっか」

ライトはグリーンカレーを完食し、また違うカレーを注文する為にブースへと歩いていく。





昼食が終わり1時間後。


シド達はトレーニングルームに移動し模擬戦の準備を行う。


シドとデンベは体にぴったりと添うトレーニングウェアに身を包み、模擬戦開始の合図を待つ。

他の者達は部屋全体を見渡せる観戦室に移動し、そこから2人の模擬戦を観戦する事になった。この場にいる全員がこの模擬戦に興味がある様で、ライトは一瞬も見逃すまいと集中している。


模擬戦開始のカウントダウンが行われ、カウントが0になった瞬間に二人の姿が掻き消え2人が居た丁度中間に衝撃波が発生する。

数舜後、トレーニング内に複数の衝撃波が発生し部屋全体を揺らし始めた。



シド視点


念願のデンベとの模擬戦。

シドの精神は否応なく高揚していく。

10m程離れて立つデンベは自然体であるが、その圧は今まで対したどの敵よりも強力だった。

デンベの放つプレッシャーに体が震えてくる。


<シド、相手は格上です。大振りは控え戦闘を組み立てて下さい>

<ああ、わかってる>

<隙を見せたら一瞬で終わりますよ。最大限の集中を行ってください>

<ああ!わかってるよ!>

シドの顔には自然と笑みが浮かび、カウントダウンが開始された。

数字が小さくなっていき、シドは構えを取る。デンベは動きを見せず、一見棒立ちのままだ。

カウントが1を切り、シドは全力で時間圧縮と空間把握を行う。

引き延ばされた時間の中で、貯め込んだ電気も使用し反応速度を上昇させ、カウントダウンの終わりを待つ。


遂にカウントが0になり、シドはデンベに向かって地面を蹴り、右拳を突き出す。

すると、デンベも同じように地面を蹴って、シドの拳に自分の左拳を合わせてきた。

「!」

シドは力比べなら勝てると考え、全力で右拳を振り抜こうとする。


しかし、結果はシドの拳はデンベの拳を押し切ることが出来ずに弾かれる。


弾かれた衝撃を利用して左足で蹴りを放つも、デンベはサイドステップで距離をとり避けられる。シドは直ぐにデンベを追いラッシュを掛ける。

左右の拳でデンベを打ち据えようとするが、デンベはステップと手のひらを使った受け流しでシドの攻撃を捌いてしまう。

シドは顔面に集中させていた攻撃を腹部に散らそうと、左のフックをデンベの腹に叩き込もうとした。

左拳がデンベの脇腹を捉えたと思った瞬間スルリと往なされ、当たると思い力を籠め過ぎたシドの体が大きく泳ぐ。

体勢を立て直そうとした瞬間、シドは後頭部に衝撃を受け吹き飛ばされた。


デンベ視点


デンベは普通の身体拡張者では考えられないスピードで攻撃を仕掛けてくるシドを観察していた。

左右から襲い掛かって来る拳を往なし、ステップで死角に回り込もうとするがシドは瞬時に反応し襲い掛かって来る。

(ふむ、リバーケープで会った時より格段に成長しているな)

あの時は中級兵と同等と判断していたが、今ならば今回の交渉に同行している4人とも十分に戦える身体能力を持っていると判断していい。

(しかし、経験が浅いな)

シドが何処を攻撃したいのかなど、視線を見れば一目瞭然だった。

少し思考を誘導してやればデンベが思った通りに行動してくれる。

目線を誘導し、捌き方で体勢を調整してやると、シドは予想通りに腹部の攻撃を選択した。

(まずは一発)

右脇腹にシドの拳が触れる直前、デンベは体を回転させ攻撃を透かす。そのままシドの背後に回り込み、体勢の崩れたシドの後頭部に肘鉄を叩き込む。

並みのワーカーなら即死。中級兵なら失神。上級兵でも悶絶する程度の力加減で撃ち込んだ。

(さて?)

吹き飛ばされるシドを見送ったデンベはその後のシドの様子で模擬戦を続けるかどうかを判断しようと考える。


すると、壁に向かって吹き飛んだシドは、空中で無理やり体勢を変え、壁に足を着くと反動を利用しデンベに向かって飛び掛かって来る。

飛ぶ勢いのまま振り出された右拳に、被せる様にデンベは左のカウンターをシドに放った。

当たると思われたデンベの左拳は、シドが差し込んだ左手に受け止められ防がれる。しかし、シドの防御も意に介さず振り抜かれた左拳の勢いに押され、シドは地面に叩きつけられ跳ね飛んでいく。


いつもならこれで終わりだ。

喜多野マテリアルの兵士でも、デンベの2撃に耐えられる者は少ない。

しかし、またもやシドは体勢を立て直そうとしている。

(なるほどな、今度は少し攻めてみるか・・・・)

脚に力を籠め、シドを追いかけるデンベの顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。


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― 新着の感想 ―
やっぱりシドのおっちゃん呼びがどうしても馴染めない 偉い人に雑な態度とって気に入られるのは少年漫画主人公的なテンプレではあるが、目上のギャングの前を通りがかっただけで半殺しにされてきた最底辺のスラムの…
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