キクチの治療?
叫ぶキクチは頭の中でイデアがこの大陸に及ぼす影響を考える。
本来オートマタとは人類の敵だ。
遭遇すれば例外なく襲い掛かってきて、その戦闘能力は極めて高い。最前線には討伐できるワーカー達が揃っているが、この周辺でオートマタと戦って無事に済んだワーカーなど目の前の2人しかいなかった。
実際にキョウグチ地下街遺跡では数十人のワーカーチームが戦闘用オートマタによって殺害されている。
目の前にふよふよと浮かぶ一見可愛らしいフォルムのオートマタは、シド達が討伐した戦闘用オートマタくらいなら討伐できると言い切った。
過去に北方の街を一つ壊滅させたオートマタ同等の戦闘能力を持っていたと思われる機体を倒せると・・・・
イデアというオートマタ一体でダゴラ都市くらい壊滅させられるのでは?と想像しキクチは震えが止まらなかった。
敵性機体であるはずのオートマタをワーカーが味方につけるというのも問題がある。
安全性の確認がどうたらと言い出す連中が湧いて出てくるに決まっていた。
その筆頭であるダゴラ都市幹部達は軒並み牢獄の中とは言え、他に出てこないとも限らない。
その場合の処理をするのは誰だ?・・・・キクチだ。
面倒な事になるのは確定である。
それに、それほどの戦力を手に入れたこの超問題児達がこれから大人しくしているだろうか?
そんな訳が無い。
前代未聞part3が勃発するのは想像に難くない。
コイツ等こそ牢屋にぶち込んどくべきなのでは?とキクチは思い浮かべてしまう。
一番あとくされが無さそうな案は、喜多野マテリアルにこのオートマタを売却する事なのだが・・・・・・
「なあ・・・・・このオートマタをゴンダバヤシ様に預けるってのは・・・・」
キクチは一縷の望みを託しそう提案する。
「とんでもない!!!」
しかし、イデア自身が両腕?を上げて反対する。
「漸く自分のボディーを手に入れたのです!どうしてもと言うなら、これ以上の機体の提供をお願いします!!」
腕?をぶんぶんと振りながら抗議するイデア。
自由に動ける体を手に入れてテンションがおかしなことになっている様だ。
「ああ・・・・そうか・・・・・・・ん?漸く???」
キクチはイデアの言葉におかしな部分があることに気付く。気づいてしまう。
「ええっとな・・・・・貰ったのはガワだけで、中身のAIはずっと俺と一緒に居たんだよ」
「・・・・・・・・」
シドの言葉にキクチの理解が追い付かなくなってくる。
この状況をなんとか説明しようとするも、シドの言葉では正確に伝える自信がなかった。そこでイデアが代わりにシドとの出会いの経緯と今までの事を説明する事になる。
一通りの説明が終わると、シド達の前には真っ白になったキクチが座っていた。
<・・・・・なあ、これ大丈夫か?>
<うーん、そこまでショッキングな話でもないと思うんだけど>
<どうでしょう?シドが身体拡張者であることはキクチも知っていましたが、無補給での拡張継続可能な技術は現代にはありません。それに、私の様な独自AIもセットとなれば珍しいを通り越していると言えます>
3人であれこれ話しているとキクチが再起動する。
「・・・・・・スラム街に住んでたシドが何故高額な身体拡張処理を受けているのかが納得がいった・・・・・」
そして眉間にしわを寄せたままさらに言葉を続ける。
「その三ツ星重工?製の身体拡張ユニットってのが、あの中央崇拝者が探していた遺物と言う訳だな?」
「そうだな。もう使ってから1年も経ってるから諦めてると思ったんだけどな」
「・・・・・まあ、その件は片付いたんだ。あのキチガイ共に渡らずお前が使用してくれていて良かったと思う事にする」
キクチは眉間を揉み解しながらライトに視線を向けた。
「ライトも同じタイプの拡張ユニットを使用したってのか?」
「いえ、ボクは当時の一般人向けのユニットです。シドさん程の強度では無いみたいですね」
「それでも現代の拡張率くらいの強化はされてるんだろ?しかも無補給で効果が継続されるタイプの」
「そうですね。ボクの場合は情報処理能力が高く調整されてるみたいです」
キクチは成程と考える。
情報収集機を使用した戦闘方法。索敵から正確に攻撃につなげる判断の速さ。そしてあの曲射技術。
コイツ等のトンデモっぷりは旧文明の技術が合わさっての事だった様だとキクチは納得した。
「それで、その軍用ユニットに搭載されていたAIがイデアって訳か・・・・・お前の様な存在はまだあるのか?」
キクチはイデアに視線を移しそう尋ねる。
「それは分かりません。私の様なAIが搭載されていたユニットは100機までしか製造されていない、程度の情報しかありませんでした。使用者のリストも存在しておらず、幾つのユニットが使用済みで後何個未使用で眠っているのかは分かりません」
「何処の遺跡で発掘されたとかも分からないのか?」
「はい、私はシドと契約するまで起動していませんでしたので」
キクチはいい加減考えるのが嫌になって来る。
もしイデアと同じようなユニットが存在するのならば、中央崇拝者達より早く回収しなくてはならない。
しかし、何処で回収されたのかすら分からないなら探しようがない。その情報を持っていたであろう者達はあの事件で軒並みミンチになっている。
しかし、あのアジトから回収された機器の中に情報が隠されている可能性は少なからずある。ワーカーオフィスに・・・・いや、ゴンダバヤシに報告して徹底的に調査してもらおう。そして責任も丸投げしよう。うん、そうしよう。
キクチは自分を無理やり納得させて顔を上げる。
「よし!ゴンダバヤシ様に丸投げしよう!」
その顔は疲れ果てながらもスッキリした顔だった。これが全てを解決・・・・・いや、全てを放り投げた男の顔と言うのだろう。
「それでさ、イデアの事をおっちゃんにどう説明するかなんだけどさ。どうしたらいいかな?」
「ん~?もうセントラルに貰ったで良いんじゃないか?嘘じゃねーし」
「いいのか?それで・・・・」
「いいだろ。そのオートマタは何だ?セントラルに貰った。なんで?この会談をセッティングしたから・・・・・ほら、筋も通るし嘘も無いだろ?」
全てを放り出したためキクチはだいぶいい加減になっている。
「・・・・・じゃー聞かれたらそう言うぞ」
「おう、そうしろそうしろ」
取りあえず?話に決着がついた所で昼食の時間になる。
準備が出来たと言うセントラルに連れられアウトドアコーナーへ行くと、既にゴンダバヤシ達が到着していた。
「おう、3人共!待ってたぜ!!」
大声でシド達に声を掛けるゴンダバヤシ。お供の5人は静かに彼の後ろに控え整列していた。
「お待たせして申し訳ありません」
キクチが代表してゴンダバヤシに声を掛ける。
「良い良い。さっさと始めようぜ」
そういうとゴンダバヤシは盛大に準備された肉と海鮮と野菜に目を向ける。
まさに今は全力でこの施設を満喫する!と背中で語っている様だった。
<なんかシドさんに似てると思わない?>
<こういう所があるからシドを気に入ったのかもしれませんね>
<・・・・・なんだよ。楽しむことは悪い事じゃねーだろ?>
「それでは火も十分なので焼き始めてもらっていいぞ」
セントラルがそう言うと、シドが肉とコンロの間に陣取った。
ライトと2人でやった時より大きなコンロが準備されており、これならいくらでも焼けそうだ。シドはトングを手に取り肉を網の上に置いていく。
「ライト。ソースの準備しといてくれ」
「わかったよ」
ライトは人数分の器を用意し、ソースを入れて小型トングと一緒に全員に手渡していく。
「・・・・なんかお前等手馴れてんな」
ゴンダバヤシも器を受け取りそう呟いた。
「最近毎日やってますからね」
ライトはゴンダバヤシの呟きに返し、今度は白米を器に盛りつけていく。
ジュージューと音を立てて焼けた肉をシドは真剣な表情で見つめ、良い感じに焼けたと判断したら網の隅に避けていく。
「これは焼けてますんで先に食べといてください」
先ずはゴンダバヤシ達に食べてもらおうと、シドは6人に肉を進め今度は海鮮と野菜を焼き始める。
「おう、遠慮なく頂くぜ・・・・・・ほ~、美味いな。調理器で焼くのと何が違うんだろうな?」
ゴンダバヤシは躊躇なく肉を口に入れ感想を言う。
「炭火で焼いているからだな。ただ熱を入れて焼いた肉より香ばしさが高まるし、遠赤外線効果で中まで火が通りやすく、ジューシーに仕上がる様だ」
セントラルがゴンダバヤシの質問に答える。
「なるほどな・・・ほら、オメー等も突っ立ってねーで食え食え!」
お供の者達にも肉を勧め、さらに肉を頬張ってい行く。
お供の5人は全員で顔を見合わせるが、デンベが最初に一切れ肉を口に入れ頷くと全員が食べ始める。
「・・・・・毒見とかしなくて良かったんですか?」
ライトはその光景を不思議そうに見つめゴンダバヤシに尋ねる。
「対毒処理は受けてるからな。そんじょそこらの毒なんざ分解排泄されて終わりだ。しかし美味いなこの肉も野菜も」
ライトに返答しながらもモリモリ食べていくゴンダバヤシ。
「ライト、俺達の分も焼けたぞ」
シドにそう言われ、ライトも食べようと小サイズのトングを構える。
シドもライトもモリモリと焼けた食材を口に放り込み、白米をかっ込んでいく。キクチもその隣に陣取りちょこちょこと肉を摘まんでいた。
「おいシド。俺にも焼かせてくれ」
シドが追加の肉やらを網に乗せようとするとゴンダバヤシが声を掛けてくる。
「ああ、はい。どうぞ」
シドはゴンダバヤシにトングを渡し、肉を網に乗せるのを見ながら次々に食べていく。
「・・・・・む・・・・重なっちまったか・・・意外と難しいな・・・・」
シドはゴンダバヤシの手つきを見ながら料理の経験は無さそうだと思った。
それはそうだろう。巨大企業の幹部が自分で調理するはずがない。大体が自動調理器などで作られるか、お抱えの料理人が作った物しか食べないのだから。
「・・・・ゴンダバヤシ様、そちらの方、焦げてきています」
「何!!うお!マジか!!」
何やらデンベと一緒になって楽しそうに肉を焼くゴンダバヤシ。
<楽しそうだね~>
<普段こんな事はしないでしょうからね。童心に帰っているのでしょう>
<BBQは楽しいからな!>
ライトはキクチに目を向けると、彼はもう器を置き用意されていたお茶を飲んでいた。
「キクチさん、もう食べないんですか?」
「ああ、もう十分食ったよ」
「あの量でか?1kgも食ってないだろ?」
「俺はただの事務員なんだよ・・・300gも食えば十分なの!」
お前らと一緒にするな!と言うキクチ。今だ肉を焼きながらパクパクと食べているゴンダバヤシの胃袋の方が異常だろう。
彼も身体拡張者なのだろうか?
とキクチは考える。
しかし、喜多野マテリアルの部門長と一緒に食事を取る事になるなんて考えても見なかったな・・・と少し遠くを見るキクチだった。
「ふ~食った食った!美味かったぞセントラル。感謝する」
「満足いただけたのなら光栄だ。さて、次の予定なのだが・・・・・先ず、キクチから行こうか」
セントラルはそう言うとキクチの方を向く。
「ん?お・・私が何か?」
キクチはセントラルにタゲられ少し慌てる。
「君の体調の事だ。かなり疲労している上健康状態も良くない。メディカルケアを推奨する」
セントラルに言われなくてもキクチの体調が悪い事は一目見ればわかる。
数カ月前から激務に振り回され続けてきたのだから当然だ。今も回復薬に頼ってなんとか仕事を回している状態だった。
「その体調で会談を行ってもいい結果にはなるまい。何、6時間もあれば十分回復させられるだろう」
セントラルにそう言われ、キクチは無意識にゴンダバヤシに目を向ける。
「・・・いいんじゃねーか?この施設のメディカルユニットの性能も興味はあるしな」
「ふむ、性能は保証しよう。万全の状態にまで治して見せる」
ゴンダバヤシは前向きな意見を言って来る。シドとライトを見ても「いいじゃん、その疲れた顔何とかしてこいよ」と言い出した。
「・・・・・・・わかった。お願い出来るだろうか?」
「ああ、最初のテスターと言う事で無料とさせて貰うよ」
セントラルはそういうと、薄くニヤリと笑うのだった。




