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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
141/217

キクチ イデアを紹介される

キクチは自分に宛がわれた部屋に入り、シドとライトを放り投げる。

2人は空中で器用に体勢を整え着地しキクチの方を振り返った。

喜多野マテリアル製のパワードスーツが開き、中からキクチが出てくる。その顔色はやはり悪く、頬はコケ隈がくっきりと浮き出ていた。

表情は疲れ切っているのに眼光だけはギラギラしており、座った目で2人を睨み据えている。


(体調悪そうだな~)(ちゃんと寝れてないのかな?)

そのキクチの顔を見た二人はそれぞれ感想を頭に浮かべる。

「さて・・・・昼まで時間もある。ゆっくり話を聞かせてもらおうか・・・」

キクチは部屋にあったテーブルセットの方へ行き、椅子に腰かけてそう言った。

「お・・おう・・・」

その眼はシドを睨みつけたままであり、話が終わるまでここからは出さん!とハッキリ告げている。

<なんで俺を睨むんだ?>

<そりゃ~シドさんがスラムバレットのリーダーだからだよ>

<・・・・今から交代しないか?>

<絶対いや>

「ボク、お茶入れてくる・・・」

ライトはお茶を入れるためさっさと退散してしまう。

恐らく話が終わるころまで帰ってこないだろう。

「ここを発見した経緯までは聞いている。しかし、どうやってセントラルとの交渉まで漕ぎつけたんだ?普通生きたAIが発見されても交渉などせず施設全体が敵に回るのが普通だ。今回の様に現代側と交渉を持とうという様な存在は今まで発見されていない・・・・少なくとも喜多野マテリアルの勢力圏内ではな」

「えっとだな・・・・穴の中に突入してさっきのホールって場所まで行ったんだよ。そしたらセントラルが声を掛けてきて、最初は出て行けって言われたんだけどな。俺達が帰ったとしても次々に他のワーカー達が来るぞと・・・俺達より強いワーカーが来て戦闘になったらこの施設も滅茶苦茶になっちまうぞって言ったんだよ、ライトが」

シドはセントラルと遭遇した時の事を簡潔に説明する。

「それで会談を提案されたと?」

「いや、交渉するかどうかは俺達の実力を見て決めるってセントラルが言い出してさ。デッカいオートマタと戦った。あれに俺達が勝てたら戦うよりも交渉した方が有益だと思ったんじゃないかな?」

「・・・んでお前達はそのオートマタに勝って会談する事になったと・・・・なるほどな。それでお前たちの上司と管理企業の重役の話になったんだな」

「そうだな・・・出来る限り話し合いに応じてくれそうなヤツをって言われたからキクチとおっちゃんだと思ったんだけど・・・・」

シドの言葉を聞きキクチは大きなため息をつく。

「・・はぁ~~~~・・・・・・・こっちは大変だったんだぞ?前代未聞の大騒動の後始末を終えたと思ったらこれだよ・・・・お前らは後何回前代未聞を更新するつもりだ?」

キクチはガックリと肩を落とし項垂れる。

今回の会談を行う為夜通し会議を行う事になったのだ。

キクチだけでなく他の幹部達や、あの統括ですら疲労困憊になるほどに紛糾する事になった。喜多野マテリアルが管理企業になり100年以上、旧文明とのコンタクトをとれた事など無い。

その貴重な一回目の交渉。

その様な重大案件に係る程ワーカーオフィスの規模も権限も大きくは無い。できるなら喜多野マテリアルに全て丸投げしてしまいたかったのだが、先日、喜多野マテリアルからはセントラルの要求通りゴンダバヤシが派遣されると連絡を受け、ワーカーオフィスからも1人派遣するようにと指令を受けてしまった。

そう言われてしまえば1人は絶対に派遣しなければならない。

本格的な交渉はゴンダバヤシが行うという事なので、サポート役として誰を派遣するかとの話になる。

そうなれば候補は1人だけだ。

世紀の大爆弾を放り込んできたスラムバレットの担当官。それも幹部クラスの権限を持ち、ゴンダバヤシともホットラインを持つ人物。

キクチ以外に居なかったのだ。

そこからは一気に話が進み満場一致でキクチが派遣されることに決定した。統括クリスティア・マガラからは「ダゴラ都市 ワーカーオフィスの代表としてよろしくお願いします」と微笑み付きで言われてしまったのだ。

全員にいい笑顔で送り出されたキクチは、ゴンダバヤシから貸し出されたパワードスーツを着込むと、その中でさめざめと涙を流した。

「わかるか?人身御供の様に送り出された俺の気持ちが・・・・・オフィスの代表は統括だろうがよ・・・いやわかるんだぞ?今統括がオフィスを離れられないことくらいは・・・でもよ・・・これ幸いにって感じで俺に押し付けるのは酷いと思わないか?」

「・・・・・いや、そう言われてもな・・・・俺達だって小遣い稼ぎのつもりで依頼を受けたら巨大ワニは出てくるし、穴の調査を受けたら大型オートマタと戦わされるし・・・散々だったんだぞ?」

「・・・・・・・・」

そう言われればそうなのだろう。

キクチも死にそうになっていたが、シドとライトも死線を潜って戦い抜いたのだ。ここで不満をぶちまけるのはおかしいとキクチは口を噤んだ。

「・・・・・・・そうだな。命があってなによりだ・・・・それで、セントラルの要求事項の様なモノは聞いていないか?」

キクチは気持ちを切り替え、今回の会談に対する情報を少しでも得ようとする。

「うーん・・・・セントラルからは特に要求事項は無いって聞いてるんだけど」

シドは腕を組みながらそう言う。

「は?」

「勝手に入ってきて勝手に物品を持っていかれるのは略奪だから抵抗する。ちゃんとした対価を支払ってこの施設を利用するなら文句は無いって言ってたぞ?」

「・・・・・・略奪の下りは分かる。セントラル側からすればそう考えて当然だろうな・・・・・しかし、対価と言われてもな・・・・」

「その辺りはおっちゃんとキクチが考える事だろうから何とも言えないけどな。ぶっちゃけこの施設を拠点にすればもっと探索範囲が広まると思うぞ。施設内の環境は良いし飯も美味い。リラクゼーション?施設?って言うのか?それもあるから退屈もしない。それに交渉次第では旧文明時代のマップか何か手に入るんじゃないか?」

シドはこの1週間滞在した感想を交え、自分の思いついた施設の利用価値をキクチに伝えた。

それを聞いたキクチは少し考え

「ゴンダバヤシ様と相談だな。会談は明後日なんだ。まだ考える時間はある」

「おう、頑張ってくれ」

取りあえずこの話は終了だなとシドが考えていると、ライトがお茶の入ったポットを持ってテーブルまで戻って来る。

「はい、どーぞ」

全くもってタイミングのいいことで・・・・。

<お前、話が終わるの待ってただろ>

<当然>

ライトは一切悪ぶらずにそう言う。

<そう言えば、私の紹介はどうするのですか?>

イデアは今までシドの中から念話でしか会話できなかった。しかし、今はセントラルから貰った端末がありシドやライト以外の人間からも認識できるようになっている。

この問題はさっさと解決する必要があるが、どうしたモノかと頭を捻ることになった。

<・・・・キクチさんには言ってもいいんじゃない?>

<ふむ、人柄は十分に把握できましたので恐らく問題は無いと思われます。担当官との秘密保守契約もあるみたいですし>

<・・・そうだな。おっちゃんに説明する時の言い訳も一緒に考えてもらおう>

2人はライトが淹れたお茶を手に取り啜っているキクチに目を向ける。

「・・・・・・何だよ・・・・」

キクチは2人同時に目を向けられたことを不審そうに見返した。

「いやな。今回の会談をセッティングした報酬?でさ。俺らセントラルから貰ったモンがあるんだよ」

「・・・・それは?」

「ツールボックスって言うらしいんだけどさ、1㎥の大きさを一度に収納出来て5tまでの重さなら入れておける箱?なんだ」

シドはまずインパクトの少なそうなツールボックスからキクチに紹介した。

左ももの辺りに固定されていたツールボックスを外し、キクチの前に置く。キクチはその黒箱の様な装置をしげしげと眺め口を開いた。

「・・・・・それは大層な物もらったもんだな・・・・ワーカーなら重宝するアイテムだろうよ」

それは現代では作成不可能な装備だろう。

見た目以上に物が入る拡張弾倉等といったアイテムはあるが、基本的には小さい物を入れるために使われる。

ある程度以上の大きさの物を入れようとすると、物が入る入口も相応に大きくしなくてはならず金属製にする必要があり重量もかなりのものになる為、バックパックのサイズにこの技術を使った所でワーカー達にはうけなかった。

当然の様にどこかの変態技術集団は作ったのだが、リリースされて半年で市場から姿を消したのである。

例外的に試用されているのはスカベンジャー達が乗っている大型回収車くらいだ。

それがこのサイズで1㎥の物を収容でき、重さも5tという大重量を携帯できるとなれば全ワーカーが欲する事になるだろう。

キクチもツールボックスに驚きはしたが、今のこの状況よりインパクトが大きい訳ではない。

その為、受ける衝撃も非常に小さい物だった。

しかし、次の爆弾はそうはいかない。


「それとな、もう一つ貰ったんだよ」

シドがそう言うと、扉が開き一体のオートマタが部屋の中に滑り込んでくる。

キクチは一瞬体を硬直させたが、シドとライトが無反応だった為安全なのかと考えた。

<お初にお目にかかります。私はシドのサポートAI 固有名称イデアと申します。以後お見知りおきを>

イデアがそうキクチに挨拶を行い、頭を下げる。

キクチは口を半開きにし、手にもったカップからダバーーっとお茶をこぼす。

<あ、お茶・・・>

<おい、固まったぞ?>

<おかしいですね?挨拶としては適切であると思うのですが>

しばらくイデアを凝視していたキクチが再起動し、椅子から立ち上がってシドに聞く。

「おい!!今シドのサポートAIっていったか?!このオートマタはシド専用ってことか?!!」

ぐりんと首をシドに向けそういうキクチ。

「あ・・・ああ、そういう話でセントラルから貰ったんだよ」

キクチはワナワナと震え表情を険しくしていく。

「・・・・旧文明のオートマタを自分専用に???・・・・・コイツは戦闘可能なのか?」

「さあ?どうなんだ?」

「もちろんです。以前キョウグチ地下街遺跡でシドとライトが戦った戦闘用オートマタ程度なら討伐できる性能ですよ」

イデアはえっへんとでも言うように胸?を反らす。

「だってさキクチ」

シドは、それは中々頼りになる話だとあまり深く考えていない。

しかし、イデアの言葉の意味をあらゆる意味で正確に理解したキクチはこう言った。

「マジカヨオマエーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


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― 新着の感想 ―
事前にいくら密談しても内容は筒抜けな気がします。余計なことは口走らないように注意がいりそうですね。
オートマタの脅威度考えると個人専用ってのはやばいですよねぇ
マジダゼキクチ!!
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