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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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ゴンダバヤシ キクチ 到着

キクチから連絡が入ってから一週間。シドとライトはこの施設を大いに満喫していた。


午前中はバーチャル訓練施設で体を鍛え、昼食はBBQを楽しみ、昼からはプールやシアタールームを利用する。

夜はセントラルが用意してくれた晩餐を心行くまで堪能し、ふかふかの布団で床に就く。


そして、いよいよ会談の日がやって来る。


キクチから穴の場所まで到着したと連絡が入り、2人はセントラルと一緒に迎えに行く。

巨大ワニが開けた穴の所に到着し、暫く待っているとライトの情報収集機がこちらに向かって来る集団を察知した。

「来たみたいだよ」

「そうだな、俺の方でも分かった」


あのスピードなら数分で到着するだろう。


「なあセントラル。お前、おっちゃんとキクチに何を要求するつもりなんだ?」

シドはこの交渉でセントラルが現代文明に何を要求するのか気になった様だ。

無人施設の管理AIが人に何を要求するのだろうか?と興味が湧く。

「ふむ・・・取り立てて何かを要求するつもりはない」

「そうなのか?」

「ああ。だが、一方的に搾取されるのは面白くない。この施設を利用する人が増え、正式な対価が頂けるのであれば私としては満足だ。しかし、現代文明の通貨と皇国の通貨は異なるだろうし、レートや使用方法などを話し合う必要が出てくるだろう」

「へ~・・・」

「もし話し合いが決裂したらどうするんです?」

「それはこの施設に立ち入られない様要求するしかないな。無理に施設から物品を持ち去ろうとしたら立派な略奪だ。断固として対応する」

「・・・・・・ボク達が戦った警備マシーンってどれくらいいるの?」

「配備台数は機密の為公表できない。しかし、そこそこの数が揃っているとだけ言っておこう」

「「・・・・・」」

あのオートマタがそこそこの数・・・・交渉が決裂したら全力でとんずらする覚悟を固める2人だった。




穴の奥から交渉役の集団が近づいてくるのが見える。

先頭は恐らく喜多野マテリアルの兵隊なのだろう。見た目はかなりの重装兵で、万が一攻撃を受けた際には彼らが盾となるのだろうと推測できる。

さらに近づいてくると、一団は距離を置いて停止し、キクチから通信が入る。

『穴の先にいるのはお前達で間違いないんだよな?』

「ああ、そうだぞ。一応迎えに来たんだ」

『ああ、ご苦労。ここからはユックリ進むから攻撃し無い様伝えてくれ』

「わかった・・・・・だってさ」

シドはセントラルのホログラムに目を向けそう言う。

「承知した。私はホールで待っている事にする」

セントラルはそう言うと姿を消してしまう。恐らくホールとはシドとライトがドンパチやらかしたあの大広間の事なのだろう。


漸く先頭集団がシド達の前にまでたどり着き、声を掛けてくる。

全員が50名は居るだろうか。全員が空走バイクに乗っており、物々しい装備で身を固めていた。

「こちらは喜多野マテリアル 兵器開発部門 警護部 第2部隊である。そちらの所属を明らかにしてもらいたい」

先頭にいる恐らく隊長であろう人物は2人に誰何してくる。

「俺はダゴラ都市所属 スラムバレットのシドだ」

「同じくスラムバレットのライトです」

2人も自分の所属を伝え、自分達のワーカーライセンスを提示した。

「・・・・・・照合が取れた。AIの所まで案内してくれ」

「・・・・・わかった」

シドは全員で行くのか?と考えたが、喜多野マテリアル 部門長が出張って来たのだ。これでも護衛としては少ない方なのかもしれない。

シドは踵を返し、セントラルが待っているホールへと向かって行く。

途中、倉庫であろう大量の遺物が保管されているエリアを通る時は、流石の巨大企業の警護部でも息をのむ様な気配を感じた。


開きっぱなしになっていた扉を潜り、ホールと言っていた大広間にたどり着く。

先日ここで大暴れしたというのに、その時の破損や焼け焦げた場所などなく綺麗に修復されており、粉々になっていた噴水も元通りの姿で水を噴き上げていた。


「ほ~~・・・綺麗な所じゃねーか・・・」


警護チームの中から一際重厚感のあるパワードスーツを着用した人物が現れ、ホールを見渡すとそう感想を漏らす。

「・・・・ゴンダバヤシ様か?」

シドはその人物に声を掛ける。流石にこれだけの人数を引き連れており会談前の状況でおっちゃん呼ばわりをする事はなかった。

「よう、久しぶりだなシド。こんなドデカイ仕事回してくれて感謝するぜ」

全身を覆うパワードスーツに隠されゴンダバヤシの表情は見えない。

だが、ヘルメットの奥では笑っているだろうと分かる声色でゴンダバヤシはシドに話しかける。

「相変わらず無茶苦茶な状況に遭遇するヤツだな。もう少し手加減してやらねーとキクチが死んじまうぞ」

クックックと笑いながら冗談っぽく言うゴンダバヤシ。

彼の後ろで冗談では無く死にそうな顔をパワードスーツに隠したキクチが立っており、(もっと言ったげてゴンダバヤシ様!!)とエールを送っていた。


「さて、件のAI様は何処だろうな?」

ゴンダバヤシがそう言うと、少し離れた場所にセントラルのホログラムが表示される。

その様子を見た警護部の者達は一斉に警戒態勢を取り、銃こそ構えなかったが何かあればゴンダバヤシを守れる陣形をとった。


「私がこの施設の管理AIである通称セントラルだ。お客人、心から歓迎しよう」

「感謝する。早速だが会談に移りたいのだがよろしいか?」

「ふむ、会談を行う前にこの施設で今日と明日1日を過ごして頂きたい。護衛の者達もな。そうすれば私の要求も理解しやすくなると思う。施設内での安全は私が保証する。どうか?」

「・・・・・・ふむ。・・・・・シド。お前はここに1週間滞在したんだよな?どう思う?」

ゴンダバヤシはシドにこの施設に滞在した感想を求める。

「最高でした。飯は美味いし温泉も布団も最高でしたよ」

シドは何も飾らずに感想を述べる。

シドの言葉を聞いたゴンダバヤシは少し考えたのちにセントラルに告げる。

「俺を含めた交渉役の2人と供を5人選ぶ。他の人員は仕事に就かせたいと思うが如何か?」

流石に全員を無防備状態には出来ないと判断したようだ。

「選出されなかった者達はどうするのだ?」

「この施設に入って来た所で待機させてもらいたい」

「承知した。ではシドとライトを含めた9名を持て成させて貰おう。選定に入ってくれ」

「承知した・・・デンベ、お前の判断で後4人選べ」

「・・・承知しました」

ゴンダバヤシの後ろに控えていた、一人だけ薄手の防護服を着ていたデンベはゴンダバヤシに一礼し選定に入る。

とはいっても、デンベは数秒で4人を選び出し、他の人員は入口まで戻る様に指示を出す。


「この9名だな。部屋へ案内するのでついて来てくれ」

セントラルはこの施設に残るメンバーを確認すると施設の奥へと進んで行く。シドとライトを先頭に全員がその後ろをついていった。


「では、それぞれ荷物を置き寛いでくれ」

ゴンダバヤシが案内された部屋は奥に広いプライベートスペースがある部屋で、手前に数人が滞在できる空間があった。内装や作りから貴人が滞在する為の部屋なのだろう。

キクチは一人部屋を要求し、ゴンダバヤシの向かい側にある部屋を与えられた。

「昼食の時間になれば運ばせるが希望はあるか?」

セントラルがそういうと、シドが「ミックスBBQがいい」と一番に声を上げる。

本来こういう時は一番立場が上のゴンダバヤシが希望を上げるものだが、エアーリーディング機能に不具合があるシドが手を上げて希望を述べる。

ライトとキクチが盛大に表情を引きつらせたのは言うまでもない。

しかし、ゴンダバヤシはシドの希望に興味を示す。

「シド、そのミックスBBQってのはなんだ?」

「肉と魚介をいっぺんに楽しめるBBQです。物凄く美味かった!・・です」

「ほ~・・・いいな。全員それで頼む」

ゴンダバヤシはセントラルにそういい、セントラルは「では12時になったらアウトドアコーナーへと案内する」と言葉を残し姿を消す。

「なら、昼飯まで寛がせてもらおうかね。3人共、また後でな」

「わかっ・・・りました」「はい」

シドとライトは返事を返し、キクチは無言で頭を下げてゴンダバヤシを見送る。


ゴンダバヤシとその護衛達が扉の奥に消えると、シドが声を上げる。

「さて、俺らはシアタールームでも行くか?」

「そうだね~・・・皇国昔ばなしの続き見たい」

シドとライトはしれっとこの場を離れようとする。

しかし、それを阻止する人物が一人。

「待たんかい!!」

小声で怒鳴るという器用な技術を披露し、シドとライトの襟首を掴み2人を持ち上げるキクチ。

キクチの着用しているパワードスーツは喜多野マテリアルから貸し出された高級品だ。なんの警戒もしていなかった2人は簡単に吊り上げられる。

「オメー等どこ行こうってんだ?あ?」

ドスの効いたキクチの声にシドとライトは肩をすぼめる。

「ええっと~・・」

「昨日まで見てたアニメの続きを・・・」

「話し合いだよな?この会談次第で喜多野マテリアルの今後が決まる可能性があるんだぞ?何悠長にアニメ鑑賞と洒落こもうとしてんだ!!!」

キクチは2人を吊り上げたまま自動で開いた扉の中に引きずり込んでいった。


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