シドとライト 施設を堪能する
誠に身勝手ながら親族の体調が悪く更新のペースがさらに落ちると思われます。
感想にも返信する余裕も無く申し訳ありません。
ゆっくりでも更新は続けて行こうと思いますので、これからもよろしくお願いします
翌日、キクチから会談を行う人員の連絡が入った。
「んじゃ結局キクチとおっちゃんが来ることになったのか?」
『ああそうだ・・・・不本意ながらな・・・・』
「まあまあ、良いじゃないですか。歴史に名を刻めるかもしれませんよ?」
この様な重大な会談に引っ張り出され、不本意の極みにあり、渋い表情をするキクチにライトは笑顔でそういう。
『そんな事はどうでもいいからもっと普通の仕事がしたいぞ・・・』
キクチはそういうがイレギュラー対応部に配属されているのだからこういう場合の処理もキクチの業務であることは間違いない。
しかし、ゴンダバヤシと同じ会談に参加し、話を纏めないといけないという事に凄まじいプレッシャーを感じていた。
「それで、会談の日時はどうなった?」
『1週間後だ。今ゴンダバヤシ様がこちらに向かって来ていると連絡があった。詳細を詰めた後そちらに向かう』
「わかった。セントラルにはそう言っとく」
『よろしく頼む・・・・・お前等、他に何か問題は起こしてないだろうな?』
キクチは目を眇め、シドとライトを睨む。
「大丈夫何もやってねーよ。この施設の訓練所をちょっと使わせてもらってるだけだからな。な?ライト」
「そうだね。訓練も受けられるし食事もお風呂も最高ですよ。非常に快適です」
『・・・・・・そうか。俺達が行くまでその調子で何も問題を起こすなよ?』
キクチはもう2人の大丈夫という言葉を信じられなくなっているらしい。
「おう任せろ」
キクチのジト目も軽く受け流し、シドは軽快にそう返答した。
キクチとの通信を切り、セントラルに会談の予定を連絡する。
「承知した。こちらの要望は通ったようだな・・・・あと一週間、君たちは何をして過ごすのだ?」
「特に予定は無いな。昨日と同じようにバーチャル訓練をやろうかと思ってたんだけど」
「何か他の施設とかあるんですか?」
「遊具施設も設置されているぞ。プールやクライミング施設もあればシアタールームもあるしアウトドアスペースもある」
セントラルはシド達にこの施設を案内したいようだった。
今まで誰にも使われること無く維持のみを行われてきたのだ。セントラルとしては使用して欲しいという思いがあるのだろう。
<ここ最近張り詰めた状況が続いていました。ここで思いっきり遊んでみるのもいいのではないですか?>
シドの隣でフヨフヨと浮かんでいるイデアがその様に提案してくる。
「遊ぶ・・・」
「遊ぶね~・・・・」
スラム出身の2人には遊ぶという概念がそもそも欠落している。
日々を生きる為の労働に費やしてきたのだから当然であった。
「まずはプールにでも行ってみるか。水着等もレンタル出来るので手ぶらのままでも十分楽しめるだろう」
シドとライトはセントラルに案内されプールコーナーへ行ってみる事にした。
通路に出ると、セントラルから移動方法の説明を受ける。
通路はロードベアリングシステムという物が使われている様で、床が微細な球体で構成されており、歩かなくても人の体重移動を検知し自動で進むことが出来るようだ。
歩いたり走ったりする際は完全に固定され、空回ってコケる等の心配もないらしい。
受けた説明通りに足に体重を掛けると、体が滑るように進み始める。
「こりゃーいいな」
「うん。これだけでなんか楽しい」
シドもライトもこの謎技術が気に入った様でニコニコしながら前で案内するセントラルについていく。
そしてプールコーナーへ到着し、中に入るとそこは並々と水が溜められたプールが点在していた。
天井に目を向けると、空と太陽が見える。
本物の太陽の様にギラギラと照らしつけるのではなく、優しくポカポカと暖かい日差しを地面に落としていた。
「おお~・・・これがプールか・・・・」
「・・・・ここって何するところなんだろ?」
「ここは水着という撥水性が高く透けない繊維の服を着用し泳ぐ為の施設となる」
セントラルが施設の説明を始めた。
緩やかな波が発生しているプールや曲がりくねった水路の様になっており、そこそこの速さで流れるプール。
20m位の高さの岩山の上から滑り落ちてくるウォータースライダーという遊具や、深さ40mを超え、鑑賞用の魚が放たれ独自の生態系を鑑賞できるダイビングプール等、様々な種類のプールがあった。
「水着のレンタルはこのブースだ」
セントラルが案内した先には様々な水着が吊るされた店舗だ。
2人は男性用水着のコーナーへ入り、それぞれ水着を選びプール遊びに興じることになった。
「う~ん・・・なかなか進まないね・・・・」
ライトはビート板にしがみ付き、バタ足で泳いでいる。その横をイデアが追従してライトに泳ぎのアドバイスを行っていた。
<もう少し力を抜いてください。そうすれば板を使用しなくても浮くことが出来ます。足の動きは膝から先だけでなく太腿から動かすようにすればより推進力を得られますよ>
ライトは今まで水に浸かるというのは風呂でしか経験が無く、泳いだことなどなかった。
その為、泳ぐためのレッスンをイデアにお願いしたのだった。
一番広いプールをパチャパチャと泳ぐだけでも、適温に管理されたプールを泳ぐのは気持ちがいい。一般用とは言え身体拡張者であるライトは現代の一般人と比べれば遥かに高い身体能力を持っている。
唯のバタ足でも正しい動きを身に付ければオリンピック選手並みの速度を出すことも可能になるだろう。
そして、シドはと言うと。
「うおおぉぉぉ~~!」
流れるプールの流れに逆らうように泳いでいた。
シドも泳ぐ行為自体は初めてだったが、イデアから泳ぎ方を教わると短時間で泳げるようになり、普通のプールでは物足りないのか流れるプールで逆走?を始めたのだった。
「・・・・セントラル。シドさんの使い方って正しいの?」
ライトは凄まじい勢いで流れに逆らい泳いでいくシドを眺めながらセントラルに質問してみる。
「いや、普通は浮き輪等に捕まって流れに身を任せる使い方が主流だ。シドの様に流れに逆らって泳ぐという事は無い」
(だよね~)
シドの奇行は今に始まった事ではない。
ライトは普通に楽しもうとマイペースにプールを満喫する事にした。
プールを満喫し、そろそろ腹が減って来たという頃、2人はセントラルに連れられてアウトドアコーナーへとやって来る。
そこはキャンプベースとなっており、テントやBBQセット等が用意されていた。
「今日の夕食はこのエリアで取ってもらおうと思っている」
天との周りにはランプが吊るされ、ぼんやりと辺りを照らしている。
コンロには既に火がつけられている様で、中の炭が真っ赤に燃えていた。
「おお~、BBQって初めてなんだよな」
「ボクもだよ。でも、ハイテクの施設なのに随分原始的な方法でやるんだね」
「こういう遊びは不便さを楽しむものだからな。肉も野菜も用意してある。好きに焼いて好きに食べてくれ」
セントラルがそう言うと、シドは目についた肉をコンロに乗せていく。
熱せられた網から肉が焼ける音が響き、溶けた油が炭に垂れ落ち火を立ち昇らせる。肉の焼ける匂いが立ち込め、空腹が加速していった。
「美味そうだな~」
シドは手にしたトングをカチカチ鳴らしながら色づいていく肉を眺め、今にもよだれを垂らしそうだ。
「ソースも結構あるね。ボクはこれにしようかな・・・シドさんはどうする?」
「俺は醤油ベースで」
「わかった」
ライトは器にソースを垂らし、シドに渡す。自分の分も同じように用意し肉が焼けるのを待った。
「よし!こんなもんだろ!」
シドは焼けた肉を網の隅に移動させていき、器を手に取ると中のソースに肉を付けて口に放り込んだ。
溶けた油と程よく焼けた肉の味が口いっぱいに広がり、シドは頬を緩め噛み締める。
ライトも同じように肉に齧り付き目尻を下げ味わった。
「美味いな!」
「うん、美味しい!」
食欲に火が付いた2人は次々に肉を焼き、食らいついていく。
「モグモグ・・・ん~・・・米も欲しいな」
「そうだね。焼肉にはご飯が欲しい」
「米飯ならそこの飯盒にあるぞ」
セントラルはコンロの後ろ側に吊るされている飯盒を指す。
「おお!至れり尽くせりだな!」
シドは直ぐに飯盒の蓋を開けると、中にはしっかりと炊きあがったホカホカのご飯が入っている。
しゃもじで一回しし、器に盛りつけライトにも渡すと肉と一緒に掻き込んでいく。
程よい油を持った肉とソース、それに米の甘味が混然一体となりシドの口内を満たした。モグモグと咀嚼しながらシドは無言でウンウンと頷き、次の肉に手を伸ばす。
ライトも負けじと焼けた肉に手を伸ばし次々に胃の中に落とし込んでいった。
その様子を眺めていたセントラルが2人に声を掛ける。
「肉を焼くのはシドが担当なのか?」
2人いるのだから各々好きに焼けばいいのにとでも思ったのだろうか。
「コイツは米以外の食材に触れるのは禁止なんだ」
「・・・・・ただ焼くだけならボクでも出来ると思うよ・・・?」
ライト少しムっとしながらそう言うと、イデアは以前ライトが料理している風景を映し出す。
そこには唯肉に焼き色をつけるという作業ですら失敗している風景が移っていた。
ライトの横に移動したイデアは<これでも大丈夫と言えますか?>とでも言いたげにライトに視線を送っていた。
それを見たライトはそれ以上反論せず、焼けた肉に手を伸ばす。
「なるほどな。中々面白いコンビの様だ」
セントラルはモリモリと食欲を発揮している2人を眺め、表情に少しだけ微笑みを浮かべていた。
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