イデアのボディーとツールボックス
1回目のバーチャル訓練を終了し、シドとライトはセントラルの評価を受けていた。
「うむ、20点だ」
なかなかに厳しい採点である。
テロリストを殲滅し、人質も解放できたのだからもう少し高い点数をくれてもいいのではないか?と2人は考える。
「不服そうだな。だがしかし、このレベルの訓練で24分もかかるのは十分落第点と言わざるを得ないな」
辛口評価を下すセントラル。
「でも、結構な数のモンスターを退治したよね?」
「それにテロリストは殲滅したぞ?」
納得いかんと抗議する二人。しかし、セントラルはこの評価を変更するつもりは無さそうだった。
「1階の戦闘に時間をかけ過ぎだろう。派手な攻撃でアタックを気取られる結果にもつながっている。それに4階の立てこもっていた部屋の扉をけ破ったのもマイナス評価だ」
「なんでだ?」
「吹き飛んだ扉の一部が人質に命中しているし、その後の銃撃戦で負傷している者も発生している。幸い死亡判定を受けた者がいなかった為失格にはなっていないが、お粗末と言う評価になるのは必然だろう」
「うぐ・・・」「むう・・・・」
失点の原因を並べられるとぐうの音しか出ない。
「まだ続けるか?」
「おう!」「やります!」
2人は絶対に合格点を取るのだと気合を入れ訓練を続行する。
2人がそれぞれ工夫しながらビルの中を駆け巡る様子を眺めながらセントラルはイデアとも会話していた。
<イデアの中枢はシドの中にあるのか?>
<はい、シドの副脳に私の中枢があります。これも武蔵野皇国の技術の一片であるとデータに残されていますね>
<その様だな。新設インターフェイスの事を指すと思うのだが、君は外部端末は登録していないのか?>
<外部端末とは?>
<君が契約者を補佐する為の端末だ。それが無ければ音声だけのオペレートしかサポート出来まい>
<確かにそうですね。しかし、現代にAIが独自で動かす外部端末は非常に貴重です。金額もさることながら手に入れる機会が非常に限られます>
<なるほどな。今回の会談設定のお礼としてこの施設にある端末を一つ贈呈しよう>
セントラルはそう言うと、イデアにこの施設にある外部端末の一覧を送った。
<!・・・・現代の価格で考えれば天文学的な数字になると考えられますが・・・>
<問題ない。どうせこの1000年以上動かす事の無かった端末だ。一つくらい無くなっても問題ない・・・・・それほど、今回の件は私にはメリットのある話だった>
<・・・・・それでは有難く選ばせていただきます>
イデアはセントラルから送られてきた端末のカタログを閲覧し始める。
訓練中のシドがイデアに呼びかけても返事もしない状況に陥ってしまうのだった。
数度のバーチャル訓練を終え、シドとライトは床にへたり込んでいた。
体力オバケの2人でも旧文明レベルの訓練は流石に堪えたらしい。荒い息を吐きながら呼吸を整え、セントラルからの評価を受ける。
「今の戦闘は63点だな。たった一日でここまで点数を上げられるとは、なかなか見込みがある」
一日同じシチュエーションで戦い続けてまだ63点の評価しか貰えなかった。
「・・・・・きっつ~~」
「これ最高得点って何点なんだろう?」
息を整えながらも、あの場面をどうクリアすれば100点になるのか不思議に思う2人。
「夕食後に最高得点のデータを渡そう。まあ、今の君たちでは身体能力が足りていないので不可能とは思うがなにかしらの参考にはなるだろう」
「ありがとうございます」
「助かる・・・・それにしてもイデア。なんで無視するんだ?何度も呼びかけたろ?」
シドはそう不思議そうにイデアに話しかけるがイデアからの返事がない。
「「?」」
今までこんな反応は無かったのにと2人は首を傾げていると、扉が開き1体のオートマタがこちらに向かって宙を滑って来た。
そのオートマタは頭部も胴体も楕円形構成されている。頭部は横向きの楕円形で胴体は縦の楕円形になっており、メタリックな白と青のカラーリングが施されていて、うっすらとエネルギーが走っている様な線が浮き上がっては消えてを繰り返していた。
頭部前面のディスプレイ?には目を思わせる横線が2本走っており、目を閉じたり開いたりしているように形が変化していた。
「なんだコイツ?」
「これはセントラルが動かしてるの?」
<いいえ。この端末は私が動かしています>
オートマタからイデアの声が発せられた。
「「!!!」」
シドとライトは目を見開き目の前のオートマタに注視した。
胴体の側面が剥離し、まるで手の様に動くと、片方が頭部の前まで移動し、口を隠して笑っているように動く。
<ふっふっふ!驚きましたか!!この端末は会談をセッティングした報酬としていただいた私のボディーです!>
バーン!というように両手?を広げ自身の端末を紹介するイデア。
その姿を見てライトは(なんかシドさんっぽい)と思ったそうな。
「まてまて~~い!!!なんでイデアが報酬を貰ってんだ?!俺とライトのは?!」
「イデアにもボディーがあった方が2人にとっても都合が良いと判断した」
「いや、なんか武器とか防護服とかのほうががが・・・」
イデアの思わぬ登場で混乱するシド。
「この施設は軍用と言う訳ではない。武装も自衛用しかおいてないのでな。あの端末であれば融通が利くと判断した。両手は低威力であるがエネルギーガンに変形する為そこそこの自衛力はあるし、耐久性も折り紙付きだ。内部搭載のナノマシンでメンテナンスフリーの為、ユーザーには非常に高い評価を得ていた端末だ」
「いやそれは有り難いけども!・・・・それでもこう!俺らにはなんか無いのか?!」
シドは必死にセントラルに要求する。
セントラルは顎に手を当て少し俯き考える仕草をする。
「ふむ・・・・・・・ならこれはどうだ?」
そういい、セントラルはシドの前にホログラムを表示させる。
それは黒い箱の様な物体で横10cm縦20cm厚さ4cm程度の大きさだった。
「これは?」
シドは首を傾げセントラルに質問する。ライトも興味深げにそのホログラムを見ていた。
「これはツールボックスという装置だ。個々の装置で亜空間を生成・固定し、1㎥以下のサイズの物を最大重量5tまで収容できる。君たちが背負っている唯のバックパックより遥かに多くの物を収容できる」
「おお~!」「!!」
自分達が今もっともネックに感じていた人力での荷物の運搬。この問題がこの装備で一気に解決できるようになるだろう。
「物理的な重みが増すわけでは無い為、動きを阻害することも無い。ワーカーと言う仕事を果たすには便利だと思われる」
「凄いですね・・・・亜空間を生成ってどうなってるんだろう?」
ライトはこの小さな箱にそれほどの技術が詰め込まれている事が不思議なようだ。
「技術的な知識は私の中にはないが、この箱はアニメに登場したアイテムを再現した物のだとデータにあるな」
「アニメ?」
「うむ、青い狸だか猫だかのロボットが腹部に付けている何でも収納できるポケットを再現しようとしたらしい。しかし、無尽蔵に収納できる機能を持たせようとすると装置が5mを超える大きさになってしまい、携帯することは叶わなかった為、一度に収納できるサイズと重量を制限してこの大きさまで縮小することが出来たようだ」
アニメのアイテムを再現するとか、武蔵野皇国の技術者もぶっ飛んでいたらしい。しかし、このアイテムが便利であることに変わりはない。
「これでいい。これを俺とライトの2人分くれないか?」
「承知した。すぐに運ばせる」
シドの我儘で思はぬ装備を手に入れることが叶った。
後は無事に会談が終了しミナギ都市へ移動できればシドの壊れた防護服の問題も解決できるだろう。
キクチはこちらに派遣される人員が決定すれば連絡をくれると言っていた。それまではこの施設でバーチャル訓練を行い、ミナギ都市でも通用する様実力を高めておこうと考える2人であった。
イデアのボディーのイメージは映画ウォーリーに登場するイブみたいな感じです




