天覇所属ワーカー ツカサ
巨大ワニと戦った翌日、シドとライトはミナギ方面防衛拠点の食堂で食事を取っていた。
今日も大量の食事を注文し、今日活動できるだけのカロリーを摂取していく。
「モグモグ・・・やっぱりミールさんの料理の方が美味しいね」
「ムグムグ・・・なんだよライト。もうホームシックか?」
ライトは料理の感想言い、シドがライトを揶揄う。
「そう言う訳じゃないけどさ。やっぱり違うな~と思って」
他愛無い話をしながら目の前の食事を片付けていくと、一人の男か話しかけてくる。
「食事中すまない。ちょっと良いだろうか?」
その人物は、駆除任務の前にシドに話しかけて来た天覇所属のワーカーだった。
「ああ、何か用か?」
シドは一旦食事の手を止め、男の対応を行う。
「・・・・・・昨日は助けられた。そのお礼を言いに来たんだ」
昨日巨大ワニが出現した時、撤退指示に遅れて行動した車に乗っていた様だ。
「あの時、君たちがフォローしてくれていなければ全員モンスターの波に飲み込まれていただろう。我々を助けて頂き、感謝申し上げる」
男はそう言うと、シドとライトに頭を下げた。
「・・・礼は受け取ったよ。まあ、チームとして行動してたからな。フォロー出来る所はするよ」
「・・・そうか・・・ああ、そういえば名乗っていなかったな。俺はツカサと言う。ランク31のハンターだ」
「ツカサだな。俺はランク50 ハンターだ。コイツはライト。シーカーでランク45だ。よろしく」
シドは改めて自己紹介を行い、ライトを紹介する。ライトは無言で軽く頭を下げた。
「よろしく頼む。しかし、ハンターとシーカーのコンビか。ヤシロ達と同じなんだな」
「まあな。遺跡探索にはシーカーの力は必須だからな。コイツには助けられてるよ。戦闘でも頼りになるし」
シドがそう言うと、ツカサは意外そうな顔をする。
「シーカーがか?こう言っては何だが、シーカーは戦闘能力はハンターに劣るだろう?」
「そうでもないぞ?確かにガチンコでやったら俺が勝つけど、ライトは強い。対モンスターでも対人でもな」
「・・・・そうなのか?シーカーは戦闘能力が劣るというのが常識だと思っていたが・・・・」
シドはそのセリフを聞き、少し眉を顰める。
ツカサがシーカーを蔑ろにしているわけでは無い様だが、戦闘には役に立たないと考えている様に思えたのだ。
「そんな訳ないだろ。ちょっと戦い方が違うだけじゃないか?天覇のレオナさんだって強いだろ?」
シドの言葉にツカサは少し考えるように下を向く。
「納得できないならギルドに戻って模擬戦でもしてもらえばいいんじゃないか?たぶんボコボコにされるぞ」
シドの言葉に、ツカサは少しムっとした表情で反論する。
「何故君が彼女の戦闘能力を知っている?」
「訓練で戦った事があるからな。射撃能力も判断能力も高い。情報収集機でコッチの行動は完全に筒抜けになるんだ。身体能力でのごり押ししか対処のしようが無かったよ」
レオナはイデアの訓練で身体能力も飛躍的に向上している。今ではヤシロとも戦い方次第では優勢に戦えるだけの能力を持っていると思っていい。
「・・・・そうか・・・恥を承知で聞きたい。俺達に欠けている物は何だと思う?ヤシロと俺とでは何が違う?」
ツカサはそうシドに聞いて来る。
「実戦経験」
シドは即答で返し、鮭のムニエルの切り身を口に放り込む。ツカサはその答えが不服なのか、難しい顔をして反論してくる。
「・・・実戦は行って来た。これでも養成所を卒業して6年間ワーカーとして活動して来たんだ。実戦不足と言われては納得できない」
「それってさ、周りに大勢の仲間がいてお互いにフォローし合える状況での実戦じゃないか?」
シドはツカサの判断の遅さや、チームメイトであろう者たちの行動の遅さをそう予測する。
「ギルドでの活動って物がどんなものか知らないけどさ。人から与えられた任務を、絶対にクリア出来る人数でやって来たんだろ?」
「・・・・何故そう思う?」
ツカサはシドの断定的な言葉に反感を覚えながらも根拠を聞く。
「判断が遅いからだ。最初の群れと戦ってる時も、優先して倒すべきモンスターの選別が出来てなかったし、巨大ワニが湧いた時も咄嗟の判断が出来てない。要するに、自分たちの実力以上の敵と命がけで戦った経験が乏しいんだろうなと思ったんだよ」
シドの指摘にツカサは言葉が詰まる。ツカサ達に依頼を持ってくるギルド職員の方針としては安全第一での活動が優先されてきたからだ。
だが、それが間違えているとは思えない。ワーカーは一歩間違えば命を落とす職業なのだから。
「安全を優先して何が悪いんだ?確実に帰還できる任務を受けることが間違いとは思えない」
ツカサは今までの活動をお遊びだと言われている様なシドの言葉に、ムキになって反論する。
「いや正しいと思うぞ。無難に戦って遺物を収集して金が稼げるに越したことは無いよ。でもさ、あんたが聞きたいのはヤシロさんと何が違うのか?って事だろ?」
「・・・・・そうだ」
「俺から見て、ヤシロさんとレオナさんは何度も死線を潜ってる。一回しくじれば死ぬ。そんな状況を何度も超えてあの実力を得たんだと思う。あんたはどうなんだ?」
「・・・・・」
無い。ツカサは無言でそう語っていた。
「・・・・それじゃ~咄嗟の判断が出来ないのも仕方ない。死にそうになった経験が無いんだからな」
シドはツカサの表情から命懸けの戦闘の経験が無い事を見抜いた。
そして、それではこれ以上強くなることは出来ない、とも。
ワーカーとは、訓練を行い、装備を新調し、強くなればさらに高難易度の遺跡や依頼に挑んでいく。
これの繰り返しだ。
この様子なら実戦形式の訓練も行っていないのだろう。それでは実力が伸びるハズがないとシドは考える。
「・・・それならどうしろと?遺跡で死に掛けるまで戦えと?」
「それじゃ本末転倒だろ?実戦式の訓練でやればいいだろ?天覇ならいい訓練場があるんじゃないのか?」
「天覇の訓練は射撃場での射撃訓練とシミュレーターでの訓練だ」
「それって養成所と一緒ですよね?」
養成所での訓練を知っているライトがそういうとツカサも頷いて同意した。
「そうだな。養成所の訓練より難易度を上げて行っているが・・・」
「それじゃダメですよ。単に的当てが上手くなるだけで、戦う技術は身に付きません。対人訓練は行わないんですか?」
「行う事もあるが、空砲とAIを使った訓練で、ヒット判定を受けた者から退場していく形式だ」
「・・・・それって訓練になるのか?ゲームと何が違うんだ?」
シドはその訓練内容を想像して疑問を投げかける。
「行動内容や撃破率を総合的に判断して評価される仕組みになっている」
「やっぱゲームと一緒だよ。せめて非殺傷弾にするべきだな」
「それだと負傷の危険があるだろう。下手をすれば死亡の危険もある」
「・・・あのさ、殺し合いの訓練だろ?怪我くらいでビビッてどうするんだよ。怪我しても回復薬使えばいいだろ?軽く死に掛けても訓練所なら救護要員とか居るんじゃないのか?モンスターは全部実弾で撃ってくるんだ、生物系の爪や牙を受ければ痛いじゃ済まない。非殺傷弾での撃ち合いも出来ねーのになんでモンスターと戦えると思うんだ?」
シドはそういい、もう言えることは無いと食事を再開する。
ツカサとは別に仲間でも友人でもない。彼が今後どうなろうがシドにはどうでも良かった。
しかし、ヤシロの後輩であろうし、同じチームで戦った仲なのだから指摘くらいはするべきかと思って話をしていたが、どうにも肌が合わない。
今の現状に不満を持っているのに自分を高める努力には消極的で、話していて少しイラついてくる。
そのせいで、最後は少し突き放すような言い方になってしまった。
「今後、ワーカーオフィスで新しい訓練所を建設するらしいです。一度そこに参加してみるのもいいと思いますよ」
「・・・・ワーカーオフィスが?」
「はい、喜多野マテリアルの協力を受けて建設実施するらしいです。まだ何回かテスト訓練を行うと聞いていますから、参加されてはどうでしょう?」
「・・・喜多野マテリアルが・・・なるほど、情報感謝する」
ツカサは喜多野マテリアルの名を聞いて本格的な訓練所が建設されようとしていると思ったらしい。ライトにお礼を言い、シドにも礼を行うと踵を返して去って行った。
シドは去って行くツカサには目もくれず、若干冷めてしまった料理の面制圧を行っていく。
「なんだったんだろ?あの人」
ライトはすでに食べ終わっており、不思議そうにツカサが去って行った方へ眼を向けていた。
「知らね。ヤシロさんの後輩にしてはアレだったな」
「そうだね~・・・ねえ、あの人って強くなると思う?」
「モグモグ・・・・・ゴックン・・・無理だろ、あのままじゃ。アイツには強くなる理由がないからな」
シドは口の中の物を飲み下し、ツカサの評価を口にする。
「・・・・そうかもね。衣食住と装備はギルドが手配してくれて、ちゃんと手当も出るなら無理に強く成ろうって思わないのかな?」
「ギルドの仕組みがどうなってんのかは知らないけどな。見栄だけで戦えるとは思えないし、ヤシロさんに追いつくのは無理だろうな」
シドは料理を平らげ、ライトと共に部屋へ帰っていく。
明日は弾薬を仕入れて、あの巨大ワニと同等クラスのモンスターに備えなければならない。
ベットに横になり、ミナギ都市に着くのは何時になるだろうかと考えながら目を閉じるのだった。
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