戦闘報告
いきなり出現した巨大ワニを討伐した後、駆除チームは防衛拠点まで帰還する事になった。
流石にあのレベルのモンスターが現れることは想定していない為、一度本部に戻り正確な報告を行わなければならない。
討伐した本人達がいなければ話にならない為、2人はそのままミナギ都市に移動する事を許されず、防衛拠点に戻って来ざるを得なかったのだ。
防衛拠点に戻って来ると、シドとライトは指揮を取っていた係員に連れられて本部までやって来る。
「失礼します」
係員は扉を開け、作戦室に入って行く。シドとライトもそれに続いた。
「指令。スラムバレットの2人を連れてきました」
「ご苦労。報告を」
指令は端的に言い、係員がその時の状況を説明する。
「~~~。以上です」
係員の話を聞いた指令は、シド達に向き直り言葉を掛けてくる。
「なるほど、ご苦労だった。スラムバレットの2人には戦った感想を聞きたい。どれほどの強さだった?」
指令にそう言われ、シドは少し考えてから口を開く。
「う~ん・・・普通の兵器じゃ勝てないと思います。ライトのハンター5専用弾を2発撃ちこんでも致命傷を与えられませんでした。俺達の車に装備してるELシューター01が無かったら逃げるしかなかったと思います。まあ、その場合逃げ切れたかはわかりませんけど」
「ふむ、君は以前この拠点でタイラントリザードが襲って来た時も防衛戦に参加していたな。今回のモンスターとタイラントリザード。どちらの方が強力だと思う?」
「タイラントリザードとは直接戦って無いんでハッキリと比べられません・・・・・けど、多分あの巨大ワニの方が強いんじゃないかと思います」
「その理由は?」
「再生速度が異常でした。体内で爆発したハンター5専用弾に耐えられたというのも驚いたけど、与えた傷の治るペースがかなり速かったです。多分5分もしない内に全快するんじゃないか?と思いました」
シドが巨大ワニの評価を下すと、指令は顎下に手を置き少し考え込む。
「ふむ・・・・・・・・・そのモンスターの種類は分かるか?」
指令にそう言われ、シドはライトに視線を向ける。
「恐らくですが、摂食進化型では無いか?と思います。通常のモンスターがあそこまで大きくなることは珍しいですから」
「・・・・摂食進化型はその性質上非常に凶暴だ。ある程度の大きさまで成長し、発生した箇所の餌を食い尽くせば外にでて暴れ回る。その為、大きな遺跡内で成長したモノを除き、比較的早期に発見・討伐されるモノだが・・・・・」
「あいつは地面の下に隠れて獲物が通るのを待っていた様です。身のこなしから移動速度が重鈍という事も無さそうでした。恐らく、隠れてワーカー達の目から逃れる知恵があったのでは無いかと」
「・・・・・面倒な・・・・」
ライトの考察を聞き指令は顔をしかめて悩み始める。
「・・・情報収集機の反応から、かなり深い場所に居たと思われます。行ってみないと分かりませんが、もしかしたらアイツが通って来た穴は何処かに繋がってる可能性もあるのでは?と思います」
「・・・・・・・」
指令の眉間の皺がさらに深くなっていく。
「・・・・・・・調査が必要か・・・」
あのレベルのモンスターが襲ってくれば、今の防衛拠点で迎撃するのは難しい。
巨大ワニ1匹ならば、この拠点に設置されている兵器群で討伐は可能だろうが、小物を大量に引き連れてきた場合は苦戦は必至だ。
今は、前回の様に大勢のワーカーが滞在している訳ではない。
調査を行うにしても、あんなバケモノが出てくる様な穴を調査するのだ。中途半端な戦力を送れば全滅する可能性が有る。
しかし、今のダゴラ都市は増援を頼める状態ではない。
先日の事件のせいで防衛隊は手一杯の状況であるし、ワーカー達に依頼を出すとしても恐らくトップランカーに依頼する事になる。ダゴラ都市の防衛予算だけでは足りなくなる可能性がが高い。
様々な要素が重なり過ぎて、一拠点の司令官だけでは決定出来ない事態だった。
「ダゴラ都市の本部に問い合わせる。君たちはしばらくここに留まって欲しい」
「え?俺達、ミナギ都市に行かないといけないんですけど・・・・・」
シドは指令にそう言われ、戸惑いながら自分達の状況を説明した。
「それは承知している。しかし、今のところあのクラスのモンスターを討伐できるワーカーは君達だけだ。協力をお願いしたい」
シドとライトがミナギ都市へ移らなければならなくなった理由は指令も知っている。
都市の都合により襲われ、都市の都合により活動場所を移さなければならなくなったのだ。
だというのに、また都市の都合でこの拠点に留まる様頼まなければならない事に、指令は心苦しく思った。
これ程 厚顔無恥な頼み事も無いだろうと思う。しかし、安全性が確認されるまで強力なワーカーは留めておきたかった。
「・・・・まあ、そうですね・・・良いか?」
シドはライトにも確認を取る。
「良いんじゃない?別にボク達が急いでる訳でもないし。流石にここまで襲って来る事は無いと思うしね」
ライトとしても無理に移動する必要は無いと考えたようだ。
「弾薬の補給はできますよね?流石に弾薬無しでは戦えないですよ?」
「それはもちろんだ。購買部に行けば流通している弾薬はだいたい揃っているはずだ」
「わかりました。以上ですか?」
「ああ、戻ってもらって構わない」
「それじゃ、失礼します」
シドは指令に一礼し、ライトを伴って作戦室を出て行く。
「・・・・・ふ~~」
ミナギ都市防衛拠点 ラダビノット指令はスラムバレットの二人が出て行った扉を見つめ、息を吐く。
都市本部から、あの二人には失礼の無い様に且つ、威厳を損なわない様に対応するよう指示を受けていた。
本部も難しい事を言ってくれるものだと思っていたが、なんとかやり過ごせたらしい。
「指令、あの2人は一体・・・?」
「先日の中央崇拝者の討伐を行った者たちだ・・・・今はまだ口外するな。然るべき時に公表すると決まっているからな」
「・・・・・・・わかりました。今後の予定は?」
「ダゴラ都市本部と相談だ。まず間違いなくミナギ都市と連携を取る必要があるだろう。あのモンスターと発生場所の調査には彼等にも参加してもらうつもりだ」
「・・・・・わかりました」
指揮車の中で指揮を執っていた彼は、スラムバレットの2人の活躍を正確に把握していた。
集団で運用すれば、高火力でモンスターをなぎ倒し、チーム単独で行動させれば期待以上の活躍でモンスターを殲滅していく。
機動力の高いバイクに乗るシドと、状況を正確に把握し要所要所で的確な支援攻撃が行えるライト。
今回の駆除作戦は彼らがいたからこそ、部隊損耗率0と言う結果で任務を終了できたと言っても過言ではない。
特に最後に出て来た巨大ワニは、彼らがいなければ討伐どころか逃げ切る事すらできなかっただろう。
結果、この拠点までモンスターを案内し、拠点に大損害を与えていた可能性まである。
彼らが今日の任務に参加してくれた事を感謝するのであった。
「今後の方針は本部と相談して決定する。連絡があるまで待機。以上だ」
「は、失礼します」
担当の係員が作戦室から出て行き、ラダビノットはダゴラ都市防衛隊本部へと連絡を取る。
本部で行われた会議の結果、ミナギ都市との共同作戦を行うことになり、ダゴラ都市からも高ランクワーカーが派遣されることになった。
ちなみに、渦中の真っただ中にいる2人の担当にも連絡が入る。
久しぶりの安眠から目覚め、情報端末に送られていたメッセージを読んだその担当は、静かに端末をテーブルに戻しもう一度布団を頭からかぶるのだった。
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