移動ついでのひと稼ぎ
2人は無事にミナギ方面防衛拠点に到着する。
拠点を通過する手続きを行い、道中野盗と思わしき者達の襲撃を受けた事を報告。
その時の戦闘データとポイントデータを提出し、後始末をお願いしまた。
その後、宿泊施設で部屋を取ると、明日からの為に体を休める。
「明日はそのままミナギ都市に向かって行く感じでいいと思うか?」
「そうだね~、道中で済ませられる依頼なんかがあったら受けてもいいかもね」
<それなら、こういった案件がありますよ>
イデアは二人の視界に依頼票を表示させる。
「なになに?」
その依頼は、ミナギ都市とミナギ方面防衛拠点の間のモンスター間引き作業だった。
移動手段を持っているワーカーは自分達で移動し、持っていないワーカーは拠点が用意したトラックに乗って作業を行う様だ。
作業終了時点で自由解散となり、報酬は防衛拠点かワーカーオフィスから自動で振り込まれる形になる。
参加報酬は5万コールだが、討伐したモンスターの種類や数で追加報酬が払われ、頑張れば頑張るだけ報酬が増えるタイプの依頼だった。
「ふむふむ、なるほどな。良いんじゃないか?」
「でもさ、これって都市主導の依頼でしょ?ダゴラ都市はあんな状況だけど、ちゃんと支払われるのかな?」
<大丈夫でしょう。これの依頼の報酬は防衛費から捻出されていますし、ミナギ都市との合同依頼です。最悪ダゴラ都市から予算が出なくてもミナギ都市が補填します。その場合はダゴラ都市とミナギ都市との話し合いでしょうね>
「なら安心だね・・・・・・・・・他のワーカー達と合同作戦なのか。単独で駆除作業するより安全かな?」
「そうだな、ちゃんとフォローし合えればな」
<この依頼はランク25以上となりますので相応の実力者達が参加するでしょう>
ランクが20を超えると、この拠点周辺に出現するモンスターに有効な武器を購入することが出来る。数さえ揃えば問題ない依頼と言えた。
「じゃ~この依頼を受けようか。明日の8:00出発みたいだから、それに合わせて行動しよう」
「そうだな、今日は早めに休んで明日ガッツリ稼いでやるか」
依頼を受ける手続きを行い、シド達は睡眠をとる為ベットに潜り込む。
翌日、受けたモンスター駆除依頼の組み合わせを聞く為、受付に行く。
「君たちの担当は24番チームに配属される。この地点に集合しているからチームを指揮する係員の指示を受けてくれ」
「わかりました」
シドは係員から依頼コードと集合場所のポイントを発行してもらう。
車に乗り込み教えられた集合場所に行くと、既に他のワーカー達が集まっていた。
「おはようございます。このチームに配属されたスラムバレットのシドとライトです」
2人は係員にライセンスと依頼コードを見せる。
「・・・・間違いないな。あと2組参加する事になっている。全員が揃ってから説明を行うから、それまで待機していてくれ」
そう言われ、ライトは車に戻り、シドはバイクを車から降ろし他のワーカーチームが揃うのを待つ。
時刻が7:30を回り、そろそろ説明に入らないと出発時刻に間に合わないのでは?と思っていると、残りのチームが揃った様だ。
「よし!全員揃ったので説明を行う。各チームのリーダーは集まって呉れ!」
係員がそう声を上げ、シドはワーカー達の集まりの中へ入って行く。
「これから我々は主要街道周辺のモンスター駆除に当たる。指令車を中心に円陣を組む形で行動し、誘引剤を巻きながら巡回する事になる」
誘引剤とは、生物系モンスターを興奮させる成分が含まれた薬だ。広範囲にまで届き、辺りにいる生物系モンスターをおびき寄せる効果がある。
機械系モンスターには効果は無いが、生物系が興奮しながら行動を起こすと、それに引きずられる様に機械系モンスターも釣れる為問題は無い。
「諸君らは射程距離に入った段階で好きに攻撃してくれ。但し、フレンドリーファイアには十分に注意する事。以前、わざと友軍を攻撃し部隊を危険にさらした者達が居たが、ライセンスの剝奪等より厳しい処分を受けることになるので留意する事」
どさくさに紛れて気に入らないヤツを攻撃したヤツがいた様だ。
この中にそんな者がいない事を祈ろう。シドはそう思いながら説明を聞いていく。
「布陣はデータで送った。移動中はこの形で行動する。くれぐれも隊列を乱さない様に。悪質な行動が目立つ場合はペナルティを与えることになる」
シドは送られて来たデータをライトにも送り、確認する。
シド達のポジションは右斜め前方辺りに配属されていた。
「進むコースはこちらから指示を出す。拠点から出たら直ぐにこの布陣を取る様に、以上だ。何か質問はあるか?」
係員がそう言うと、若い男のワーカーが手を上げ発言した。
「このポジションの意味と選考基準を教えて欲しい」
そのワーカーは背が高く、短髪でかなり整った容姿をしていた。パワードスーツを着込んでおり、その胸元には見覚えのあるマークが付けられている。
(あのマーク・・・どっかで見たな・・・)
「ポジションの意味は、巡回依頼の性質上前方の者達が最も危険だ。故に、前方に配置されている者達は実力の高い者達で構成されている。万が一撤退の場合は、彼らに後方を任せる事になる。選考基準はワーカーランクと戦歴だ。他には?」
「たった2人のチームが前方に配置されているが?何かの間違いでは?」
係員の説明を聞き、不服そうな顔をした男はそう指摘する。
2人のチームを言う事は、シドとライトの事だろう。たった2人に前衛を任せるのが不服の様だ。シドも逆の立場ならそう思うだろうなと考える。
「この2人の戦闘能力は保証されている。ランクも50と45でこの中で最も高い。本来なら最前列なのだが、少人数の為このポジションに決定した。他には?」
係員の言葉を聞いた男は、驚いた顔をしてシドに視線を送る。周りのワーカー達もチラチラとシドに視線を送って来た。
この中で、2人組のチームはシドとライトだけだ。直ぐに分かっても仕方がない。
(う~ん、居心地悪い・・・・)
「質問は無いな。では、全員車に乗り込め。8:00丁度に出発する」
係員はそう言うと、指揮車に乗り込んでいった。
他のワーカー達も解散していき、シドも自分のバイクの元へ行こうとすると声を掛けられる。
「すまない。君の名前を教えてくれないか?」
それは先程質問をしていた若いワーカーだった。
「ええっと、シドですけど」
「・・・そうか、君がシドか。ヤシロが話していたのを聞いたことがある」
「ん?ヤシロさんと知り合いですか?」
「ああ、同じギルドに所属しているからな」
彼は天覇に所属しているらしい。胸のマークは天覇のマークの様だ。
(どうりで見た事あるはずだな)
そう言えばヤシロとレオナのパワードスーツにも同じマークがあったか?と考えるシド。
<気付いていなかったのですか?>
イデアが突っ込んでくる。
<・・・どこかで見た事あるなとは思ってたよ・・・>
シドはすこし気まずそうにイデアに返す。
<もう少しこういう事に関心を向けるべきかと>
イデアにチクリと言われ、シドは今度からは気を付けるべきかと考える。
「彼には随分と高く腕を買われているみたいだな。そのお手並み、この依頼で確かめさせてもらう」
男はそう言うと、踵を返し自分達のチームの方へ行ってしまう。
<なんだ?>
<わかりません。しかし、友好的な態度とは言えませんね>
<そうだよな~・・・・せめて名乗れよ>
<もしかするとヤシロとライバル関係にあるのかもしれませんね。それでシドにも棘のある態度で接していたと推測します>
<シドさーん。そろそろ出発時刻だよ>
男の事をイデアと話していると、ライトからそう告げられシドは慌ててバイクに駆け寄り跨った。
『出発!』
指揮者から通信が入り、全ての車が荒野へ飛び出していった。
防衛拠点から離れ、街道へとたどり着く。
街道とは言っても整備された道がある訳では無く、荒野に点在する遺跡やモンスターの溜まり場を避けて通行される場所で、何か目印がある訳ではない。
荒野に人工的な目印などを設置すると、モンスターの襲撃を誘発する可能性が上がる為、荒野を走る者達はデータ上のロードマップを参照しながら移動を行う。
今回は、そのロードマップ付近のモンスター達を釣り出し殲滅する為の作戦だった。
『誘引剤の散布を開始する』
そのアナウンスが流れると同時に、無色の霧の様なモノが指揮車から発せられ、風に乗って拡散していく。
<なんか変な感じだな。ちょっとムズムズする・・・・>
<・・・シドさん、興奮して暴れないでよ?>
<モンスターと一緒にすんなよ!!!>
<ある程度人の五感にも作用するようですね。シドはコーディネイトの影響で普通の人間より感覚が優れている為、反応が出ているのでしょう。しかし、モンスターの様に反応する訳ではありませんので安心してください>
<そっか、なら安心だね>
<おい!まずは俺に謝れ!!!>
<ごめんね(笑)>
そんな話をしていると、左側からモンスターの気配を感じるようになった。
<お?釣れたのか?>
<みたいだね。こっちと反対側か~。ボクらの出番は無いのかな?>
『10時の方向からモンスターの反応有。全体進路変更』
指揮車から号令が発せられ、このチーム全体が指示されて方向へと向き進んでいく。
接敵まであと少しと言う所で、指揮者からモンスターの分布情報と、迎撃態勢の指示が送られてくる。かなりの数が釣れた様で、全車両での迎撃を行う様だ。
チーム全車が横並びとなり、指揮者を後ろに下げた布陣で左側に移動しながら前進。攻撃を行いながら時計回りにモンスターを殲滅させる作戦の様だった。
『各々射程に入り次第攻撃開始』
攻撃指令が入り、長射程の攻撃手段を持つワーカー達が一斉に攻撃を始めた。
ライトも複合銃でモンスターを狙い、射撃を開始する。
前方のモンスター達を蹂躙しながら左前方へ進み、遂に全ワーカーチームの射程に捉えた。
ここからはシドも攻撃に参加し、バイクに取り付けられたガトリングをモンスターに向け撃ち放つ。放たれた特殊徹甲弾は前面のモンスターを貫通し、後ろにいたモンスターも引き千切りながら絶命させていく。
時計回りに回り込みながら射撃を行いモンスターの数を削っていくが、シド達の右側に布陣したチームの弾幕が足りていないのか、後ろに回り込まれ始める。
このままでは後方が食いつかれ被害が出ることが予想される。
『スラムバレットは後方へ移動。後ろに回り込んでくるモンスターの駆除に当たれ』
「了解」
指揮車からそう指示を受け。シド達は迅速に行動に移す。
<俺は先に行くぞ>
<わかった>
バイクに騎乗し、機動力の高いシドは先行する事にした。
バイク前方にシールドを発生させ、バク転の様に宙に浮き上がり空中で正姿勢に戻りながら後方へ駆けていく。
後ろの車達を飛び越えながら、後方へ食らいつこうとしていたモンスターに向け、2門のガトリングを掃射した。特殊徹甲弾の雨を受けたモンスター達はちぎれ跳びながら絶命していくが、何分数が多い。
シドはガトリングだけでは無くS200も使ってモンスターを次々と粉砕していった。
後方の車に迫っていたモンスターを押しとどめていると、ライトの操るT6からミサイルが放たれモンスター群の中に爆発の花を咲かせる。
広範囲に散らばって着弾したミサイルは、その性能をフルに発揮できるように着弾させた様で、一気にモンスターの圧が下がる。
シドは一番後方まで下がると、車とモンスターの間に降りてガトリングとS200、計4つの銃器でモンスターを撃ちぬいていった。
襲ってくるモンスターに使用するには過剰な威力を持つガトリングとS200から放たれた弾丸は、モンスターを貫き後ろを走っているモンスターも纏めて討伐していく。
そこにライトも加わり、2門の複合銃とミサイルによる攻撃で一気にモンスターを撃滅していった。
食らいついてきたモンスターをある程度討伐すると、2人は車とバイクを反転させ。チームの後ろを追いかけていく。
<こんなもんでいいか?>
<と思うよ?また追っかけてきたら倒せばいいしね>
2人はそう話しながらも、側面から襲い掛かってくるモンスターへの攻撃を緩めることはしない。新装された兵器達の凄まじい投射量を武器にモンスターを寄せ付けることなく討伐していった。
他の車からもワーカー達の総攻撃は続いており、あれ程いたモンスター達の群れはだんだんと小さくなっていく。
外周から止めどなく撃ちだされる弾丸によって群れを削り取り、やがて最後の一体が倒される。
『群れの消滅を確認した。街道に戻り巡回を続ける』
指揮者から指令とルートが送られてきて、2人は最初のポジションに戻る為車とバイクを加速させる。
何台もの車を追い越していき、前方へ戻って来た2人に指揮車から賛辞の言葉が送られた。
『スラムバレット、よくやった。この後もその調子で頼む』
「ああ、わかった」
たったの一戦で、この駆除作戦に参加している全てのワーカーに強い印象を植え付けたシドとライトだった。
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