スラムバレット VS 野盗
乱心したキクチをヤシロ達に任せ、シド達はワーカーオフィスを後にする。
その後、いつも利用している食料品店へ行き、1週間分の食料と水を調達しようと商品を選んでいる。
「ねえシドさん。肉なんか買ってどうするのさ。このT6?には調理器具なんて乗ってないよ?」
ライトの指摘通り、シドは3種類ほどの肉と調味料をカートに入れてレジに向かっていた。
「ふふふ、こんな時の為にサバイバルセットも買っておいたんだ!最初のオプションで食材保管庫も付けてもらってたしな。漸く日の目を見る時が来た!」
拳を握りそう力説するシド。
ライトは、なんだかんだでこの都市移動を楽しもうとしているシドの精神に感服する。サバイバルセットの前に応急セットだろうと思ったライトは正しい(ライトが買って来るまで積んでいなかった)。
「・・・・匂いでモンスターをおびき寄せる、なんて事にならないと良いね・・・」
ここで止めても止まらないだろうとライトは軽く息をついて必要なモノをカートに突っ込んでいく。
「・・・・嫌な事言うな。本当寄って来たらどうしてくれるんだ?」
「危険な荒野でBBQをやろうとするの、シドさんくらいだよ・・・・」
シドなら生物系モンスターを捌いて焼いて食いそうだとライトは思った。
フワフワと想像してみると全く違和感がない。
特に必要になりそうな物をカートに詰め込み、レジで決済を行う。かなりの量を買い込んだから途中でトラブルに見舞われても問題ないだろう。
荷物を車に積み込んだ後、運転席へ移動し車を発進させる。
ダゴラ都市を飛び出し、そのまま荒野を駆け抜けていく。最初の目的地点はミナギ方面防衛拠点だ。
あそこを通らなければミナギ方面へ出ることが出来ない。
今の時間を考えれば、日が昇っている間にはつくだろう。そのまま一泊し、明朝にミナギ都市へ向けて出発する予定だ。
途中現れるバーサクハウンドを新装した複合銃で蹴散らしながら荒野を駆け抜けていく。
暫くは順調に進んでいたが、道中の岩場を駆け抜けていく途中に、シドとライトは妙な反応(気配)を感じた。
「なんだろ?コレ」
「ん~・・・岩場に隠れてるのかな?」
<野盗の類では?この道はミスカ達の様な行商人も使用するようです。その類が潜んでいても可笑しくありません>
イデアがそういい、2人は戦闘になりそうな気配を感じ気を引き締める。
段々距離が近づいてくると、相手もシド達の事を察知したのだろう。
「動いたな」
「そうだね・・・・先制攻撃してもいいのかな?」
ライトは既に敵と思しき者達をロックオンしている。後は発射指令を出すだけで小型ミサイルがそれぞれのターゲットへ飛んでいく様に準備していた。
「俺も降りた方が良いか?」
シドはバイクに乗り戦うつもりの様だ。
「そうだね、エネルギーシールドを張る前に出てた方が良いかも」
「分かった」
シドは後部へと移動し、バイクに跨ると扉が開く。
シドはそのままバイクで飛び出し、ターンを決めると車に追い掛け並走した。
<そろそろ接敵するよ>
<ああ、分かってる。撃って来たら戦闘開始だ>
シドは前方を塞ぐように車両を展開する敵影を捉えており、戦闘は避けられない事を感じていた。
(コイツの初実戦だ。派手にやろう)
相手の射程距離に入ったのだろう。敵側から弾丸が飛んできて車が発生させていたエネルギーシールドに衝突する。
甲高い音を響かせながら、弾かれた弾丸は辺りに散らばって飛んでいった。
銃撃を受ける直前、シドは空中へ駆け上がり、上から敵を見下ろす。ライトから送られた情報を元に、イデアがシドの視界にマークを表示させた。
敵側の前方の車両には赤いマークが表示されている。
合計8個。
これはライトがミサイル攻撃を行うターゲットなのだろう。ならば、後方にいる敵を殲滅する為、シドはバイクのアクセルを開け加速していった。
ライト視点
シドが車から飛び出すと、ライトは銃撃を受ける前に車に搭載されているシールド発生器を操作し、エネルギーシールドを避弾経始状に展開した。
敵が発射した弾丸は、全てエネルギーシールドが効率的に弾き飛ばす。
攻撃を受けた為、あらかじめロックオンしていたミサイルを発射。
計8発の小型ミサイルが、ライトの思い描いた経路で飛び出していった。シドにもミサイルのターゲットになっている車両の情報は送っている。狙いが被ることはないだろう。
その証拠に、情報収集機から送られてくるシドの位置は後方の車両目掛けて高速で宙を駆けていく。
数秒後、小型ミサイルは狙い違わずターゲットに命中し、破壊を振りまく。
追撃を加えようと、複合銃を操作し射線が通っている敵に向かって照準を合わせた。
「・・・・あれ?」
シド視点
ライトがミサイルを発射する前にシドは後方の車両目掛けて突っ込んでいく。
バイクに取り付けられたガトリングを起動させ、敵に照準を合わせると無数の弾丸を撃ち放った。
バイクに乗ったままの戦闘は、以前ミナギ都市防衛拠点での巡回任務で散々経験済みだ。正確に狙いを付け放たれた弾丸は宙を飛翔し車両を打ち据える。
ガトリングの圧倒的な投射量で放たれた特殊徹甲弾は、車体を紙の様に引き裂き爆発炎上させた。
(ずいぶん脆いな)
あっという間に2台の車を破壊し、少し拍子抜けする。
しかし、まだシドの担当車両は5台残っている。ボヤボヤしているとライトが8台全て破壊してこっちの獲物も食われてしまう。そう考えていると、前方に布陣していた車両8台に小型ミサイルが命中。車体はバラバラのパーツに分解され吹っ飛んだ。
<派手だな~>
<過剰攻撃ですね>
シドはその光景を見るや否や、自分もさっさと終わらそうと残りの5台にガトリングを向けた。
その5台は横一列に並んでいる為、左右から挟み込む様に銃撃する。
時間にして1秒あるか無いかの間に、全ての車両は撃ち抜かれた。燃料タンクとエンジンに被弾したのだろう。一瞬後に炎と煙を噴き上げ盛大に爆発した。
<・・・終わったか?>
<終わりましたね>
<なんだか・・・凄く脆くなかった?>
<そうだよな?商人たちのトラックやトレーラーを襲うならもっと頑丈な車に乗ってると思ったんだけどな・・・・>
<そうだよね。武装も貧弱だったし。あれなら普通に戦っても楽勝だったよ?>
<2人共考えてみてください。ミサイルや特殊徹甲弾に耐えられる車や、エネルギーシールドを貫ける武装を持っているならワーカーとして十分活動できます。あの程度の実力しかないから野盗などに身をやつしているのでしょう>
2人は確かにそうかもしれないと考える。今のシドとライトと真面に戦えるなら、十分ワーカーとして通用するのだ。
それが出来ないから野盗として活動しているのだろう。
<それにしても、拍子抜けにも程があるだろ・・・>
<そうだよね。あのレベルの武装にやられる行商人っているの?>
ライトは自由市に止まっている行商人たちの車を思い出す。それぞれが危険な荒野を行き来するに相応しい武装が施されている様に見えた。
<そこまではわかりません。駆け出しなら犠牲になる可能性もあるでしょうね>
こうして魔改造された新生T6とバイクのデビュー戦は、30秒にも満たない時間で終了した。
2人は破壊された車両の残骸には目もくれず、岩石地帯を駆け抜けて行く。
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