旅立ち寸前までやらかす二人
シド達は正式にチームとしてワーカーオフィスに登録し、チーム名はスラムバレットに決定した。
ライセンスを更新し、ランクの変更と所属チームの表記を終わらせる。
「それで?いつ移動するんだ?」
キクチは2人の予定を聞いてくる。
「ああ、この後食料を調達したらすぐにでも行こうと思ってる。車載用の武器も手に入れたし、車の改造もしてもらったしな」
「はは・・・過剰兵装だと思うけどね」
シドが嬉しそうに言うと、ライトは少し目線を逸らしながらボソッと発言する。
「・・・・・・・・そうか・・・ちょっとその車見せてもらっていいか?」
キクチはライトの言葉を聞き逃さなかったらしい。ライトが過剰兵装だという装備が気になった様だ。
「ああ、いいぞ。駐車場に止めてあるから今から行くか?」
シドがそういうと、キクチは頷き椅子から立ち上がった。
それに続いてヤシロとレオナも立ち上がり、一緒に見に来る様だ。
「ヤシロさん達も来るんですか?」
「ああ、興味あるからな」
「うん、ワーカーなら新装備は心躍るよね」
と、言う事になり5人で駐車場まで移動する事になった。
「これが新生T6だ!」
ババーーンという効果音が付きそうな勢いでシドは、唐澤重工の手によってゴリゴリに改造されたT6?を紹介する。
初見の3人はかなり大型化した車を目にし、少し呆然としていた。
「・・・・え?・・・T6ってデザートイーグル T6よね???これが???」
「・・・・いや、これは違うだろ。面影すらねーぞ」
「・・・・・・・・」
ヤシロとレオナはT6の原型を知っている様だ。ダゴラ都市で活動しているワーカーなのだから有名メーカーの代表的な荒野車を知っていても不思議はない。
キクチに関しては口を半開きにして言葉も出ない様だ。
(ふふふ、驚いてる驚いてる)
と新しくなった自慢の車に驚く3人の様子に満足しているシド。そんなシドをライトは半目で眺めていた。
「・・・・・・な・・・なんじゃこりゃ~・・・・」
漸くキクチが起動した様で、車の感想を口に出してきた。
「全体的に補強してもらって、後部に小型ミサイル、両脇に複合銃1門ずつ、前面部にリニアレールガンを搭載したんだ。これで荒野での戦闘もバッチリだぞ!」
力強く車の兵装を説明し、どうだ!と胸を張るシド。
「お前等戦争にでも行く気か!!!こんなガッチガチの武装車、前線くらいに行かねーと走ってねーぞ!!!」
「そうだよな~・・・・あの複合銃ってドゥエルグ・ガンスミスの奴だろ?ギルドの指揮車に付いてるヤツ・・・・2門も付いてやがる・・・」
「そうだね・・・・かなり高かったって経理から聞いたよ。ミサイルもだけど・・・・あの前面に付けられてる兵器ってどこのヤツ?見た事ない・・・」
キクチは想像以上の武装を施された車に叫び、ヤシロとレオナはその戦力を分析しようとする。
しかし、ダゴラ都市でも高ランクの2人も、ELシューター01の事までは知らない様だ。
「あのデッカイ銃・・・銃?・・・兵器は唐澤重工製のリニアレールガンですよ。めちゃくちゃ強力です。なんでも前線では人気だって言ってましたけど・・・・」
ライトは2人にELシューター01の事を説明する。
「「ああ・・・・・」」
ヤシロとレオナは唐澤重工の名前を聞くと何とも言えない顔をした。あの企業の事だ。またとんでもない兵器なのだろうと推測する。
「おいライト。この改造はどこの企業が請け負った?ダゴラ都市にこの短時間でここまでの改造が出来る企業は無いはずだぞ?」
「ええっと、唐澤重工のメカニックがやってきて、3時間くらいで終わらせましたね。あのリニアレールガンを取り付けるには前のままじゃ無理だったみたいです」
キクチは頭が混乱してきた。東方の企業である唐澤重工が兵器一つの販売の為に、わざわざメカニックを引き連れてこの都市に来るとは思えない。彼らは何をしにこの都市まで来たと言うのか?
「唐澤重工か・・・この前営業が来てたな」
「そうだね、私も情報収集機を新調しちゃったよ」
「え?そうなんですか?」
レオナの言葉にライトが反応した。
「うん、ライト君と同じEX80買っちゃったよ。これ凄いね。初めて起動させたときは眩暈がして倒れそうになったよ」
レオナはライトが行っていた曲射の技術をモノにしようと、同じ唐澤重工製の情報収集機を購入したようだ。
「あはは・・・慣れれば凄く便利ですよ」
ライトとレオナが話していると、キクチが再度質問してくる。
「ライト。この兵器はもう撃ったのか?」
「はい、購入前に試し撃ちさせてもらいました」
「何処でやった?」
「ここから南東の方角にある岩石地帯です。他の兵器と合わせて撃ってみましたけど・・・」
「そうか・・・・・・あの岩山が消えてるって報告の原因はお前達か・・・・・」
「・・・・・」
どうやら、シドとライトが試し撃ちを行った結果がキクチにも届いていたらしい。
それはそうだろう。
特に利用価値がない場所とは言え、都市周辺の調査は行っているだろうし、地形が変わっていれば報告ぐらい入る。
今更ながらその事に気付き、ライトは冷や汗を流す。
「・・・・・なるほどな・・・・・・お前等は武器の試し撃ちでも問題に発展させるわけだな・・・」
いや待って欲しい。あれは唐澤重工の兵器が非常識だっただけで、自分達に非はない。
ライトはそう主張したかったが、あの惨事を見て報告くらいするべきだったかと考える。
「なんだよ、普通の岩山が消えたくらいなんだから問題ないだろ?」
「ああ、普通の岩山ならな。兵器の試し撃ちだったで終わりだ。調査員が調べると、破壊跡からアダマントを含む数種の希少金属が検出されたんだよ。完全にノーマークだった所にそんな鉱脈が発見されてみろ・・・・・放って置いたら色んな企業が群がって穿り返すに決まってんだろ?ちゃんと調べて上に報告しなきゃならないんだよ・・・・」
そう言いながら項垂れるキクチ。
キクチの様子と、この都市の状況を鑑みて、色々察してしまったヤシロとレオナはキクチに同情する。
「それは・・・・・大変ですね。でも、それってキクチさんがする事なんですか?」
都市の運営に係る事なのだから、ワーカーオフィスは関係ないのでは?とライトは思った様だ。
「本来なら俺達が関わるような事じゃねーぞ?でも、今のダゴラ都市はどうだ?都市幹部は全員檻の中、関係部署も全て閉鎖状態。完全に機能不全を起こしてる。防衛隊も治安維持部隊も中央崇拝者を警戒して動けないし、こういう場合の手続き関係には疎い。そうなったら必然的にワーカーオフィスに話が流れてくるんだよ・・・・・。最悪なのがこういうイレギュラーな問題の対処は俺が所属してるイレギュラー対応部(仮)に回って来るのは確実なんだよ・・・・・そう!俺一人に仕事が回って来るんだ!!!」
キクチは魂の咆哮を上げた。
「総務も手伝えよ!!いや皆忙しいのは分かるぞ?!人員不足なのも分かる!!だからって俺に丸投げするのは違くないか?!」
一度愚痴を吐き出したら止まらなくなったのだろう。次々に不満が口を突いて出てくる。
「極めつけはお前らが関わってるって事だ!!担当の俺に喜々として押し付けてくるのが目に見える!!!」
両膝を地面に付き、両手で頭を抱えながら天に向かって吠えるキクチ。
「俺が一体なにしたってんだ!!!」
何もしていない。この2人の担当になった過去の自分を恨めキクチ。これからもあるぞ(天の声)
荒ぶるキクチの姿を見て、申し訳なくなってくるシドとライト。
「ご・・ごめん」「ごめんなさい・・・」
2人の声は聞こえていないのか、未だブツブツと何かを呟き続けるキクチ。
「・・・こりゃしばらく帰ってこねーな」
「そうだね、2人共、キクチの事はいいから出発したら?アレは私たちが何とかしとくから」
レオナはキクチを指差しながらそう言う。
「あ、はい」「よろしくお願いします」
シドとライトは車に乗り込み、ワーカーオフィスを出て行く。
それを無言で見送ったレオナとヤシロは、まだ蹲ってブツブツ言っているキクチをどうするかを考えるのだった。
ごめんキクチ・・・
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