スラムバレット
次の日、シドはキクチにワーカーオフィスに向かう事を連絡する。
キクチも多忙であるのにシド達の為に時間を空けてくれる様で、シド達はワーカーオフィスに向かう。
ワーカーオフィスに到着し、受付の案内でキクチの待つ部屋までやってくる。
扉をノックすると、中からキクチの声が聞こえ入室の許可が貰えた。扉を開け、中を覗くとキクチの他にヤシロとレオナがいた。
「おう、2人とも。待ってたぞ」
そういうキクチはやはり窶れており、このままぶっ倒れて搬送されないかと心配になる顔色だった。
「ああ、悪いな、忙しいのに・・・・ホントに大丈夫か?顔色スゲー悪いぞ?」
シドは心配そうにキクチに言う。
「ああ、大丈夫だ。昨日は久しぶりにちゃんと寝たからな」
と、キクチは言う。
本人がそう言うならこれ以上言うのは違うかと思いシドはそれ以上何も言わなかった。
「それで、なんでヤシロさんとレオナさんが此処に?」
シドはヤシロ達二人に質問する。
「ああ、お前らが今日ここに来るって聞いてな。挨拶がてらだ」
「うん、訓練でもお世話になったしね」
「そうですか。ありがとうございます。リンさんはどうしてます?」
シドはヤシロ達のチームに所属すると聞いていたリンがいない事を聞いてみる。
「アイツは自分の装備を選ばせてるよ。装備を選んだら慣れさせるために訓練もさせねーとな。俺達について遺跡に行くんだ、キッチリ仕上げてもらわねーと」
「と言っても基本は完ペキだったよ。あの訓練は効果的すぎるね♪」
2人はそう言い、リンの状況を教えてくれる。今は装備を選び、習熟訓練を行っている様だ。
「そうなんですね。お2人のチームに所属出来て良かったです」
ライトは笑顔を見せてそう言う。
「そうだな・・・・・お前らの方は災難だったな」
「そうだね・・・それに、こんな理由で都市を移動だなんて・・・」
ヤシロ達にもシド達がミナギ都市に移動する経緯は話している。その時に残念がってくれていた2人にも申し訳ないが、理由が理由だ。仕方がない。
「まあ、テロの標的になるって言われれば・・・」
「周りを巻き込む訳にも行きませんしね」
シドとライトも納得している、ダゴラ都市でのゴタゴタが解消すれば戻って来られるのだ。ミナギ都市で腕を磨くいい機会と捉えることにした。
「すまんな。今回の件でお前たちにはワーカーオフィスと防衛隊・治安維持部隊から報酬と補填がなされることになった。報酬は5億。ワーカーオフィスからの補填はミナギ都市で拠点を手に入れる際の紹介状だ。優先的に格安で拠点を手に入れられる様に手配している。向こうに着いたらワーカーオフィスに顔を出してくれ」
キクチはそう言い、シドに紹介コードを送信してくる。
「そして、防衛隊と治安維持部隊からの補填だが。第一等の感謝状と防壁通行コードだ。これがあればダゴラ都市なら全ての防壁を超えることが出来る上に、他都市でも重要管理区域以外の出入りが可能になる。当然、喜多野マテリアルの支配圏だけだがな」
今度は別のコードがシドとライトに送られてきた。
このコードがあれば様々な都市で面倒な手続き無しで移動が可能になるという事だろう。
「2人共、ワーカーライセンスを渡せ。シドもライトもランクの更新だ」
キクチの言葉を受け、シドとライトはライセンスをキクチに渡した。
キクチはライセンスと装置に挿入し、端末で内容を書き換えていく。そして、2人の方を向き直り
「お前等、チーム名の設定はしないのか?」
そう言ってくる。
「チーム名?」
シドは首を傾げながらそう聞き返した。チーム名は10人以上の大所帯になった時に付けるモノという慣例がある。
シドとライトは立った二人のチームだ。
名が必要になるとは思えなかった。
「ああ、お前等くらいの実力があったらチーム名を決めた方が良いぞ。今のお前たちはただツルんで行動してるだけのワーカーだ。ちゃんとチーム名を登録して、チームとしての体裁を整えておいた方が良い。チーム用の口座も開設できるしな。何か希望は無いか?」
そう言われ、シドとライトは顔を見合わせる。
自分達はチームを組んで行動していると思っていたが、世間的にはただ2人で行動しているだけの扱いになるらしい。
「シドさん。何かある?」
「いや、急に言われてもな・・・・・う~~ん・・・・・・・・なあ、今じゃないとダメか?」
シドは直ぐには浮かばないのか、先延ばしにしようとする。
「まあ、無理にとは言わないが、ライセンス更新のタイミングだしな。出来れば今登録しといたほうがいい。どうせお前の事だ。忘れて登録しないだろうしな」
「うぐ・・・・」
シドは図星を突かれ怯む。
チラっとライトを見れば、うんうんを頷いており、味方になる様子は無い。
ライトはシドが考えるのが当然と思っている様で、シドに視線を向けたまま何も言わない。
「ん~~~・・・・・」
腕を組み、頭を悩ませるシドにレオナが助け舟を出した。
「あまり深く考える必要ないよ?2人で作るチームなんだからシド君とライト君の共通点みたいな物をチーム名にすればいいんじゃないかな?」
レオナがそういうと、ヤシロが茶々をいれる。
「それならデーモンズとかになるんじゃないか?」
ヤシロはあの訓練で散々追い掛け回された事を根に持っているらしい。
「・・・ヤシロ。もうちょっとセンスを磨こうね」
軽く揶揄っただけなのに、レオナから鋭い切れ味のカウンターを食らいヤシロは撃沈する事になった。
「ボク達の共通点・・・かぁ・・・・・」
ライトも頭を捻るがいい名前が思い浮かばない。
「・・・・・・・ん~~~・・・・・共通・・・・・・・・・」
シドはライトとの共通点と言われ、同じスラム出身であると言う事に目を向ける。
「・・・スラム・・・か・・・・・・・あ、スラムバレットってのはどうだ?」
「え?」
シドの提案にライトが顔を上げる。
「ほら、俺とお前ってスラムからの成り上がりだろ?スラム街の弾丸でスラムバレット。どう思う?」
「・・・・・いいね。響きも語呂もいいし。それにしよう!」
「うん、いいね。ヤシロ、シド君を見習いなよ?」
「ぐぅ・・・・」
ライトも賛成の様だし、ヤシロの名よりセンスも良いらしい。
「キクチ、スラムバレットで登録してくれ」
「わかった」
キクチは端末を叩き、登録を終らせる。装置から内容が書き換えられたライセンスが吐き出され、シドとライトに返却された。
そのライセンスには
ハンターライセンス ランク50 所属ダゴラ都市 ハンター名 シド チーム スラムバレット ハンターコード Hk1080510022
シーカーライセンス ランク45 所属ダゴラ都市 シーカー名 ライト チーム スラムバレット シーカーコード Sk1080818076
そう記されており、2人はチームとして登録されている。
ランクも以前より大幅に上昇しており、シドはヤシロ以上、ライトはレオナを超えるランクを手に入れたことになる。
そして、所属がダゴラ都市のままだ。
これはワーカーオフィスや都市が、自分達を都市から追放したわけでは無い事の証明であった。
その事が嬉しく、シドは頬を綻ばせるのであった。
「ずいぶんランクが上がってますね」
ライトはランクの事をキクチに尋ねる。
「そりゃーな。不良ギルドの討伐と中央崇拝者のアジトを少数での殲滅だぞ。新設訓練所のテストを実施してもらった功績もある。これでランクが30程度だったら他のワーカー達にクレーム付けられるわ」
確かにそうだろう。2人の活躍と貢献は他に類を見ない物だった。
「いや~、速攻でランクまで抜かされたね」
「そうだな。ここまで突き抜けてたら嫉妬もおきねーよ」
レオナとヤシロもそう言いながら笑っている。2人の功績はそれほどまで大きかったのだろう。
ただ怒りに任せて暴れただけなのに、この評価は少し後ろめたい。
「一回決まったランク評価は取り消せねーぞ。これは以前にも説明したよな?」
キクチは先んじて釘を刺してくる。約1年前、シドがランク10越えをした時に聞いた言葉だった。
「わかりました。これからも精進します」
「おう、向こうでも張り切って活動するぞ」
2人はこのランクに見合う活動をしようと気合を入れる。
「・・・・ああ~・・・お前らがミナギ都市に行ってもな、俺はまだお前らの担当扱いになるんだよ・・・・」
「ん?」
「え?」
キクチの言葉に2人は?マークを浮かべる。
「・・・・俺は新設されたばかりの部署に配属になってな。ぶっちゃけると問題を起こしまくるお前等の対処をする部署だ。だからな。お前らがミナギ都市で何かやった場合、俺が対処しなけりゃならなくなるんだよ。だから、程々に活動してくれ」
シド達がミナギ都市に移動すれば、普通キクチは担当から外れることになる。
しかし、この2人はイレギュラーと言っていい。なので、統括であるクリスティア・マガラの一存でキクチはこの問題児2人の担当を続けることになった。
それはミナギ都市に移っても変わらない。
彼らが向こうで騒動を起こすと、その連絡がキクチにも入ってくる様になっている。その手続きも終わっており、ミナギ都市のワーカーオフィスにも伝わっていた。
「そうなのか?なら、これからもよろしくな」
シドは屈託のない笑顔をキクチに送る。
「これからもお世話になります」
ライトも同じような良い笑顔をキクチに向けた。
「・・・・・・ああ、よろしくな・・・ホントに頼んだからな?」
「ああ、任せとけ!」
「はい!頑張ります!」
(ホントに頼むぞ!!!これ以上睡眠時間を削られて胃に負担を掛けたらマジで死んじまう!!)
キクチの祈りが通じるかは神のみぞ知る。
彼らを中心に巻き起こる騒動は東に場所を移し、いずれ盛大に燃え上がるだろう。
キクチが安心して眠れるのは、彼らがミナギ都市に到着するまでの短い間だけかもしれない・・・・・・
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