試し打ち
「ここなら周囲に何もないし、試射にはもってこいだね」
シド達はダゴラ都市を出て、南東の方へ進んでいき、辺りにはなにもない荒野に到達する。
この辺りには遺跡も無く、モンスターの出現報告も無い為、ワーカーや行商人などを巻き込む心配もない。
心置きなく新兵装を試すことが出来そうだった。
「この辺りで試そうと思います。いいですか?」
シドがシブサワに通信を送り、車とバイクを止める。
『承知しました。運転の方はいかがでしたか?』
「俺の方は問題ありません。バランスも完璧です」
「ボクの方も大丈夫です。乗り心地も良いですよ」
『それは良かった。では、試射の方をお願いします』
まずはシドの試射から行う事にし、バイクを走らせる。
荒野に点在する岩をターゲットに見立てることにしシドはバイクに取り付けられたGRKー185を展開する。
バイクに折りたたまれる様に取り付けられていたアームが展開し、岩の方を向く。
アームの可動域は180°まで動かすことが出来、2門で全方位を狙うことが出来る。
イデアのおかげでシドの感覚器とリンクされたアームは、シドの感覚に従って正確にターゲットの方を向き射撃を開始した。
2門のガトリングが咆哮を上げ、発射された弾丸は一瞬で岩を粉微塵に破壊する。
<お~、なかなかの威力だな>
<そうですね、S200の威力を上回っていると思います>
<それは凄いな>
特殊徹甲弾を1分間に12000発も弾丸を発射することが出来る為、威力も申し分ない。
これなら以前襲われた巨大ワームと遭遇しても十分に撃破できるだろう。
暫く荒野を駆けまわり、目ぼしい岩を破壊しつくすと、シドはライト達の居る所まで戻って来る。
「これ良いな!めっちゃ面白い!」
目を輝かせながらライトにそう報告するシド。
「良かったね。威力の方はどう?」
「十分だな。S200より強いと思うぞ」
それは大型ガトリングキャノンで徹甲弾を使えばそうなるだろう。ハンドガンサイズでガトリングの威力に匹敵するS200の方がおかしいのである。
「じゃ、次はボクの番だね」
そう言うと、ライトは車を走らせターゲットの岩場に向かって行く。
ライトは情報収集機で次々にターゲットを狙い、NLX-2500Zで一斉に破壊していく。
ハンター5以上の投射量と破壊力で辺りの岩は1秒足らずで粉々になると、次はミサイルを試す。
8m程の大きさの岩にハイドラプターで狙いを付け発射。一度の発射で8発撃つことが出来る様で、ライトは最大投射量を撃ち放った。
発射口から飛び出たミサイルは、空中でアフターバーナーを点火。
弓なりに飛んでいきながらターゲットの方へ向かって行く。
8発全てが途中で急上昇したり、旋回したりと妙な飛び方をし始めたのは、恐らくライトが操っているのだろう。
操作性を確認し終わったのだろうか、8発のミサイルが全方位からターゲットの岩に衝突。
辺りに衝撃波と爆炎を撒き散らし、岩を吹き飛ばしてしまった。
そして最後は、シドお待ちかねのELシューター01の出番である。
ライトは車を止めると、一際大きな岩山に銃身を向け、エネルギーを充填し始める。
するとELシューター01の銃身が開き、紫電を纏い始めた。
バチバチと音を鳴らしながら、銃身が磁界を纏い始めたのか、銃身を包み込む様に歪んで見える。
エネルギーの充填が完了し、ライトはELシューター01を発射する。
臨界までエネルギーを充填された砲弾が、一気に磁界の中を駆け抜け数キロは離れているだろう岩山まで一瞬で到達。
岩盤を砕きながら内部に侵入すると、砲弾内のエネルギーを解放した。
円形のエネルギー界が発生し、岩山を砕きながら内部に引きずり込んでいく。
数秒間の破壊が終わり、エネルギー界が消滅すると、そこにあったはずの岩山は足元を残して綺麗に消滅していた。
僅かに残り、高温に曝されたであろう足元部分は、赤黒くガラス化している様に見える。
ライトは車を動かし、シド達の元まで戻ってくる。
停止した車から出てくると、開口一番にこう言った。
「あんな兵器、何処で使うのさ?」
長射程高威力の触れ込み通りの兵器だった。
しかし、その影響範囲も広く、おいそれと使う事は出来ない。遺跡で使うにしても、周りの遺跡もろとも消し飛ばしてしまいかねない。
それこそ巨大モンスターが荒野を闊歩してきて、開幕の一発目くらいにしか使い道が無いと思われる。
流石のシドもこれはどうなんだろうかと思った。
見た目と触れ込みでの一目ぼれ。勢いで購入すると言ったものの先程の光景を見ると使いどころが難しい所の騒ぎではない。
これはただのワーカーが所有する兵器の域を超えていないだろうか?
そんな思いを胸にシブサワに視線を向ける。
「東方の前線付近では人気を博しておりますよ。ELシューター01で足を止め、ミサイルの飽和攻撃で止めを刺すと、手早く仕留められると好評です。しかし、価格帯が少し上の為1つのクランに1・2台しか導入されていないのが残念ですが」
トレーラーから降り、シドの隣に来ていたシブサワがそう言う。
ライトは東方の前線にはアレでも一撃で倒れないモンスターがいるのかと驚愕する。
しかし、何かとトラブルに巻き込まれる自分達には万が一の時の奥の手として持っていても良いかとライトは考える。
「う~ん・・・まあ、それなら・・・ね」
「そうだな。東方って危ねー所なんだな・・・」
車もここまで改造してもらって今更要りませんとも言いにくい。このまま購入して、ここぞと言う時の取って置きにしようと思う事にした。
動作確認は問題なく行われたのだ、ミスカの所に戻って決済を行おうとシブサワに告げる。
「誠にありがとうございます」
シブサワは深く腰を折り頭を下げると、トレーラーに乗り込んでいく。
シドとライトもそれぞれバイクと車に乗り込み、自由市に向かって帰っていく。
この時2人は深く考えなかったが、東方前線で活動するクランとは80人を超える大所帯の者達がほとんどだった。
その様なクランに1・2台しか導入されていない兵器。
それをたった2人のチームが所有していること自体、皆無な事である。
そんな超過剰兵装を施した車を引っ提げ、シド達は着々とミナギ都市への移動準備を整えていく。
ダゴラ都市の自由市に戻り、シド達はミスカに支払いを行う。
兵器と合わせ、それぞれの弾薬も纏めて大量に購入する事にした。総額12億3000万のお買い上げである。
ミスカ達の今回の目標売上の5分の1をシド達だけで達成してしまった。
「・・・まいどあり~・・・・ほんまにあんたら稼ぐようになったな~」
ミスカもこの事には驚きを隠せない様だ。
「シドさんの稼ぎですね。でも、ミナギ都市に行ったらまたどうなるか分かりません。慎重に行動しますよ」
「そうだな~、宿に泊まり続ける訳にも行かないしな。拠点も探さないと」
2人の移住準備はこれで大体は整った。後は移動中の水と食料くらいだろう。
明日、キクチの所に挨拶に行ってその足でミナギ都市に向かおうと思っている。
「まあ、元気でやりや。ウチ等もミナギ都市には行く事あるさかい、その時はまたご飯でも食べよ」
「そうですね。よろしくお願いします」
「はい、来ることがあったら教えてください」
ミスカとの挨拶も終わり、そろそろお暇しようかと思っていると、シブサワが話しかけてくる。
「この度は本当にありがとうございます。ミナギ都市より一つ東側にいったバハルタと言う都市に我々唐澤重工の本社がありますので、ご興味があればいつでもご来社ください。歓迎いたします」
「あ、そうなんですね。また装備の事で相談したいことが出来たら行くかもしれません。その時はお願いします」
「はい、開発陣もお会いしたがっていました。是非いらしてください」
「あはは・・・・そうですね、またいつか」
シドは開発陣とやらに捕まるのは勘弁だなと思いながら当たり障りのない返答をし、ミスカ達のトレーラーを後にした。
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