都市側とワーカーオフィス会議 (ちょい過去)
キクチ視点
時は遡り、ブルーキャッスルと中央崇拝者から襲撃を受けてから2日。
喜多野マテリアルから、ダゴラ都市幹部の汚職事件の調査チームが派遣されることが決定し、調査チームと一緒に喜多野マテリアル所属 防衛隊も一緒に派遣されることになった。
それは、中央崇拝者からのテロを警戒しての事であると連絡を受けているが、都市の腐敗が手の施しようもなく進行していた場合、都市毎浄化させる為の戦力であるとキクチは予想している。
ワーカーオフィスが捕縛しているブルーキャッスルの幹部達と一部の都市幹部の尋問を行うが、正当な権限が無いとの事でコレを拒否。口を閉ざしたまま何も話そうともしない。
都市防衛隊と治安維持部隊が捕縛した都市幹部と、それに連なっていた職員達を彼らが尋問を行った所、ワーカーオフィスとは違い過激な尋問を行ったのだろう。都市職員から中央崇拝者とブルーキャッスルの橋渡しを行ったと証言を行う者や、都市幹部からの指示を彼等に届けていたと言うもの達が現れる。
都市幹部は中央崇拝者から多額の金銭を受け取っており、ブルーキャッスルを使って収集した遺物を中央崇拝者に流していた様だ。
その指示内容や取引などは供述した彼個人の端末に残っており、それが決定的な証拠となった。
その事を都市幹部に伝えた所、ある者は諦めたように項垂れ反応を返さなくなる者や、裏切り者が!と半狂乱になって暴れる者が出てきて収拾が付かなくなってしまう。
これは喜多野マテリアルから調査チームが到着するまで拘束し続ける他ないと判断された。
中央崇拝者からすれば危険を冒して救出に来るような価値は無く、都市内に彼らに呼応する様な人員の殆どは捕縛され、奪還の為に襲撃を受ける事は無いと思うが、念のために厳重に警備が敷かれていた。
そしてキクチは、シドとライトが暴れ回った後始末に追われている。
ライトが討伐したブルーキャッスルのメンバー照合や、生き残った者達の処理。半死半生で病院に担ぎ込まれた男は、意識を取り戻したものの出血性ショックの為か記憶が混乱しており、そのまま病院で拘束。腕や足を吹き飛ばされていた少年少女はそのままワーカーオフィスに監視付き保護扱いを受けていた。
それはまだいい。
シドが襲撃した中央崇拝者のアジト内で手に入れた情報の扱いは慎重に行わなければならない。
ナノマシンの補充無しで身体拡張機能を継続させる技術。
今だ完成に至っている訳ではない様だが、この情報と研究データが下手に拡散すれば取り返しが付かなくなる可能性が有る。
万が一にも中央に流れれば、自分達以外の人間に価値を見出していないあの連中が、どの様な行動に出るか火を見るより明らかだからだ。
それに、実験体として囚われていた人達の対処もしなければならない。
身体的な欠損は何とかなる。培養してくっ付ければ治るのだから。しかし、精神がやられている人達の治療は難航している。
非道な実験を行われ、廃人同様になってしまっている者を回復させる事は簡単ではないだろうし、人に対しての恐怖心を深く植え付けられた者のケアも長期間行う必要がある。
本来それを行うはずの都市行政側が完全な機能不全に陥っている為、ワーカーオフィスが代行している形になっていた。
「は~~・・・・」
端末の前に座り、様々な手続きを終わらせ、椅子の背もたれに身を預けながら疲労で火照った目に手を当てる。
先日は西方都市にある北河織布(バーミリオンの本社)に遺物取引の打診を行い、シド達が行ったワーカー強化訓練の内容と結果報告。
その後に起こった防壁内襲撃事件と、立て続けに走り回り満足に寝ていない。
このまま少し仮眠を取ろうかと椅子のリクライニングを倒すと、デスクの通信機が着信を知らせる。
「・・・・・・はい」
『キクチ部長。防衛隊総指揮官のダリル様と治安維持部隊 隊長のキシダ様がお見えです。統括が会議室に来るようにと』
「・・・・・・・・」
キクチはアポぐらい取れよ!と思ったが、事は急を要する。その様な手続きを取っている余裕が無い事くらい分かった。
「わかった。直ぐに行く」
『よろしくお願いします』
通信が切れると、キクチは重い体を起こし会議室に向かって行った。
キクチが会議室に付くと、統括であるクリスティア・マガラとワーカーオフィス警備部門責任者であるハーグマン。
都市防衛隊総指揮官 ダリルと治安維持部隊 隊長 キシダの姿があった。
全員が円卓に腰かけ、キクチを待っていた様だ。
「遅れて申し訳ありません」
キクチはそう言い頭を下げ、自分も席に着く。
「いや、こちらこそアポも取らずに来たのに対応していただきありがとうございます」
ダリルがそういい、キシダも頭を下げる。
「それで、お越しいただいた件なのですが」
統括は早速本題に入ろうとする。
「はい、今回の事件。我々都市側の不手際・・・いえ、地域全体への裏切り行為のせいでご迷惑をおかけして申し訳ありません」
ダリルがそういい、キシダと共に頭を下げる。
「・・・・・・・それで、どの様にお考えですか?」
いつにも増して鋭い視線を彼らに投げる統括。
「防衛隊は都市全体の防衛レベルを上げ、再度中央崇拝者達の襲撃を警戒しています。捕縛した都市幹部と職員達は治安維持部隊が特別刑務所へ収容し、喜多野マテリアルからの調査員に引き渡す予定です」
「私どもで厳重に監視していますので逃亡等の心配は必要有りません」
ダリルとキシダはそういい、都市幹部達の処遇を伝えてきた。
「なるほど、中央崇拝者達の捜索は?」
「・・・・・・・・申し訳無いが・・・・人員も予算も足りていない。今防壁外へ部隊を派遣する余裕がありません」
ダリルが顔を歪ませ、今の防衛隊の状況を伝える。
防衛隊総指揮官の言葉にキクチは噛みつく。
「予算が足りない?それはおかしい。以前から防衛費の上昇を理由に税率が上がっていたはずだ。去年のスタンピードの時も、それに合わせたファーレン遺跡の難易度上昇を報告した後も著しく上昇している。過去7年で12%も上がっているのに何故予算が足りないのです?」
「・・・・・・恐らく都市幹部の着服だろう。我々の予算はこの10年で20%削減されている。装備の更新も追いついていないし、前回のスタンピード後の兵器補充もやっと終わった所だった・・・・・我々も抗議を行っていたのですが、聞き入れられず・・・・」
「それは我々も同じです。ダゴラ都市は比較的平和ですので、表面上の問題は起こっていませんが・・・・」
ダリルとキシダは組織内の状況を吐露し、顔をしかめていた。
(アイツ等マジで殺してやろうか?)
キクチは総務として、税率上昇の為に調整に走り回ったのだ。遺跡からの脅威に対抗する為と言われれば、これも都市に生きる者の務めと必死に周りの説得を行い調整を行った。
その結果が、都市幹部達の懐を肥やすだけだったと知り、額に血管が浮き出てくる。
「それでは、今のダゴラ都市は受け身の体勢しか取れないと言う事ですか?」
統括は冷静に話をしているが、声に怒りがにじむのは止められなかったようだ。
「・・・・そうなります・・・非常に歯痒い状況ですが・・・・」
「ならば、前回の様な報復テロを警戒しなければなりません。あの時は200人を超える一般人が犠牲になりましたからね」
統括は10年前のテロの事を言っている。また同じように市民を巻き込む攻撃がなされないかと心配なようだ。
「それはもちろんです。喜多野マテリアルから調査員と共に部隊も派遣される様ですので、そこまで激しい動きを取るとは思えませんが、万全を期す必要があります」
「その為にも、ワーカー達にも協力して欲しいのです」
2人はそう言い、真剣な視線を統括に投げる。
「我々に出来る事があれば協力を約束します」
統括もその視線を受け、返答する。
「ありがたい。・・・・・・そこで、言いにくいのですが、この事件の発端となった2人のワーカーを別都市に移して欲しいのです」
ダリルの発言を受け、統括は少し眉尻を上げた。
「今回の件で報復対象になるのはあの2人でしょう。ターゲットが他都市に移ればダゴラ都市でテロが起きる可能性を大きく下げることが出来るはずです」
その言葉を聞いて、キクチは頭に血が上るのを感じた。
あの2人は被害者だ。謂れの無い難癖を付けられて拠点まで破壊されている。この上別の都市に移れなどと、どの面下げて言えばいいのか。
「あの2人は被害者です。それに、襲撃事件をたった2人で解決し、都市の膿を表面上に浮き上がらせた功労者と言えるでしょう。その2人を追放せよと?」
キクチが爆発するより前に統括がそう言葉を投げた。
「それは重々承知しています。追放と言う訳ではありません。この件が片付くまでの間、他都市に避難してほしいと言う事です」
「同じではありませんか?財産を奪われ、必死に戦った者達を追いやるのですから」
「彼らの行動は正当なものです。それを否定する者は誰一人いません。本来なら大々的に表して、感謝状と報奨で報いる必要があると考えています。しかし、今回の相手は中央崇拝者です。我々とは理屈の異なる世界で生きている」
「ならばシドとライトに中央崇拝者の捜索を手伝わせては?あの2人はワーカーになって1年と日が浅いですが、能力は本物です。必ず成果を上げると思われますが」
キクチはそういい、シドとライトが他都市に移動する事を止めようとする。
こんな事で他都市へ移動しろというのはあまりにも不義理であるし、ワーカーオフィス主導の訓練所構想の手伝いまでさせている。
それ以外にも難易度が爆上がりしたファーレン遺跡の対処や、キョウグチ地下街遺跡の対処を行うにはあの2人の力が必要だと言う打算もある。
「彼らの実力が高い事は明白です。しかし、それは喜多野マテリアルの調査員より上なのでしょうか?彼等には中央崇拝者の活動範囲外の都市へ移動してもらい、調査員が来るまで防御を固める。これがもっとも堅実な方法と考えます。
事は人の命が掛かっています。それも1人2人の話では無く、数百人単位の命です」
キクチには確信があった。あの2人に調査を依頼すれば、恐らくそれほど時間を掛けずに本命を探し当て、再起不能なまでにボコボコにして来る事を。
しかし、それはこの一年間2人を見てきたキクチだから思う事だ。都市全体の安全を担う者達に言っても納得してもらえるはずがない。
ダリルの言っている事も間違いでは無い。万が一、シド達が報復の対象になり、実行されれば巻き添えを食う人達は命を落とすのだ。
防衛隊としても治安維持部隊としても、それはなんとしても避けなければならない。
それも分かってしまう。
キクチは歯を食いしばり下を向く。
「今回の最大功労者にこのような事を言うのは非常に心苦しい・・・・我々も出来る限りの補填を行う。なので、どうか・・・・」
そういい、ダリルは統括とキクチに向かって頭を下げた。
「・・・・・・・・・・わかりました。彼等への補填は我々も行います」
「ありがとうございます。それで、今後の動きの確認ですが・・・・・・」
こうして会議は続き、ある程度の話がまとまると2人は帰って行った。
「キクチ、3日後の会議に二人を呼び出してください」
「・・・統括」
「二人には私から伝えます・・・・よろしくお願いします」
「わかりました・・・・・」
キクチは以前、シドにブルーキャッスルと揉めた際、何とかしてやると言っていた事を思い出し、いつもと違う胃の重みを感じるのだった。
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