ミスカ達到着 再びのシブサワ
キクチにワーカーオフィスに呼び出され、ミナギ都市に移動せよと言われた後、シドとライトは荒野で全力の訓練を行った。
シドは限界まで電光石火で駆けまわり、ライトは高速で駆けまわるシド目掛けて弾丸を撃ち放ち、二人とも疲労困憊になるまで戦い続けた。
訓練は日が暮れるまで続き、いい加減腹の虫が飯を食わせろと大合唱を始めた為、宿まで帰り胃袋に限界まで料理を詰め込んだ。
次の日は、それぞれ繋がりのある者達に暫くの間ダゴラ都市を離れるという事を報告していく。
皆ワーカーの為、直接会う事は出来なかったが、情報端末での通信でやり取りし、訓練に参加していたメンバー全員に説明を行っていった。
タカヤ達は残念がり、ラインハルトとアリアも都市の在り方に憤っていた。
ヤシロとレオナ、リンに関してはメッセージでやり取りを行い、今回の件が非常に大事になっている事に驚いていた様だ。
ライトは古巣のドーマファミリーまで足を運び、ボスのルインやキサラギに挨拶を行った。
2人はシドとライトが暫くの間、東方へ活動場所を移動することに驚き、また帰って来た時は顔を出せと言ってくれたらしい。
そして今日、ミスカからダゴラ都市に到着したと連絡が入る。
予定より1日ほど早い到着だが、早い事に越したことは無い。自分達も荒野を移動するに当たって車やバイクに取りつける武器を選ばなければならない。
シド達は早速自由市へと向かい、ミスカ達のトラックを探した。
しかし、いくら探してもミスカ達のトラックが見当たらない。
「ねえ、着いたって言ってたんだよね?」
「ああ、間違いないぞ」
<もしかしたら車を新調した可能性はありませんか?これまでの取引でかなり利益を上げていたようですし>
イデアの言葉を受け、シドはミスカに連絡を取る。
『はーい、どうした?』
「ええっと、ミスカさん達ってもう自由市についてるんですよね?」
『そうやで?』
「あの、トラックが見当たらなくて・・・」
『ん?ああ~そうか!ゴメンゴメン!車新調したんよ。今は大型トレーラーになってん。場所送るからそれ見て来てんか』
「あ、そうなんですね。わかりました」
シドが通信を切ると、ミスカから現在地の情報が送られてくる。
「あっちみたいだね」
ライトが直ぐに反応し、シドもライトに続き向かっていった。
送られてきた位置情報の場所まで来ると、そこには確かに大型トレーラーが止められており、以前までのトラックと比べて武装も増え非常に頑丈そうな外観をしていた。
「お~・・・」
「大きいね・・・」
シドとライトがトレーラーを見上げていると、車の中からミスカが出てくる。
「おーい、2人共!どうや?この車は!」
ミスカは胸を張りながらトレーラーを自慢する。
「凄くデカくなりましたね」
「うん、強そうですし、沢山運べそうですね」
「せやろせやろ?奮発してん♪最近自分らにもぎょうさん儲けさせてもらったしな~。ビルも頑張ってるみたいやん、私らももっと商売広げようと思てな!!」
ミスカは嬉しそうに自分たちのトレーラーを見上げる。
懇意にしている人たちが成り上がっていく様を見るのはシドとライトからしても嬉しいものであった。
「それで、今日は車とバイクに取りつける武装の相談がしたかったんですけど」
「なるほど、中に入ってき。ガンスおるから・・・・余計なヤツもおるけど・・・・」
ミスカはセリフの最後で少し表情が消える。
「「?」」
「ほら、こっちやで」
ミスカは気を取り直すようにトレーラーの中にシドたちを案内する。
トレーラの中に入ると、以前とは比べ物にならない程広く、様々な商品が置かれていた。
「「おお~」」
シドとライトは、その光景を目にして感嘆の声を上げた。
「ふふん、凄いやろ。東方のブツしこたま積んできたんや。たぶんシドらが欲しがってる武器もあると思うで」
ミスカが自慢するだけあり、何でもそろいそうな気がしてくる。
「早速ですけど、車載用の武器と弾薬を教えてもらえますか?」
ライトが食い気味にそういうと、ミスカは頷きガンスを呼び出した。
「ガンス~。シドとライトが来てるで~」
ミスカがトレーラーの奥に声をかけるが、何の返事も無い。
「・・・・・・・あ、そうやった」
ミスカは懐から小さなマイクを取り出すと、それに向けて話しかける。
「ガンス、お客さんや、下に来てくれるか?」
『おう、わかった』
ミスカがマイクに話しかけると、そこからガンスの声が聞こえて来た。
トレーラーが広すぎて、前の様に声を掛けただけでは相手に届かない様だ。
「まだ慣れてないみたいですね」
ライトは笑いながらミスカに言う。
「・・・そうやねん。一気に大きくなったから、前のクセが抜けんでな」
ミスカも少し恥ずかしそうにライトに返した。
「ははは、何となくわかりますよ」
「でも、ホントにでっかくなりましたね。ミスカさん達の店」
シドは、行商人のミスカ達のトラックを店舗と認識していた。
本来、その土地に店を構えなければ店舗とは認識されない。しかし、シドはミスカ達のトレーラーを移動する店舗と捉えている。ミスカは嬉しく思った。
「・・・そうやろ?ここまで来るの苦労したんやで」
薄く笑いながらミスカはそう言う。その笑顔には今まで進んできた道なりの苦労とここまで来た達成感が浮かんでいた。
「お?ライト、シド、いらっしゃい」
ミスカと話していると、ガンスが2階から降りてくる。
「あ、お久しぶりです」「久しぶりです」
ライトとシドは返し、車載装備の話をしようとすると、もう一人の人物が現れ話しかけてくる。
「お久しぶりです。シド様、ライト様」
それは、唐澤重工の営業マンであるシブサワだった。
思わぬ人物の登場に2人は面を食らう。
「「あ、どうも」」
シドとライトはガンスとミスカに視線を送る。
なぜ彼がまたミスカ達に同行しているのか?と。
ガンスとミスカは苦笑いをしながらシブサワの事を話す。
「あ~・・・これはな?」
「なんつうか・・・シド・・・お前、唐澤重工に遺物を送ったやろ?」
ガンスにそう言われ、シドは以前キョウグチ地下街遺跡で戦ったオートマタが持っていたエネルギーガンを唐澤重工に送った事を思い出した。
「・・・・あぁ~、そうだそうだ。確かに送りましたね」
「・・・シドさんが言ってた当てって唐澤重工の事だったんだ・・・・」
ライトは当時の事を思い出す、2丁あったエネルギーガンを、シドが一つ当てがあるからと確保していた事があった。
「その礼とギルドへの御用聞きらしいわ・・・あと兵器のPRやて」
「その節は、我ら唐澤重工を選んでいただき誠にありがとうございます。ミスカ様とガンス様に同行させてもらえば、確実かと思いまして」
シブサワはシド達に向かって深く腰を折り頭を下げ笑顔でそういった。
「ああ、いえ。ああ言う遺物は御社に渡すのが良いんじゃないかと思って」
「ええ、開発陣が非常に喜んでおりました。まさに狂喜乱舞しながら研究室に持ち帰っていましたよ」
シブサワは営業マンらしい笑顔を称えながらそう言う。
<シドさん。送り先間違えたんじゃない?>
<・・・・俺も今そう思った>
シドとライトが念話でそう話していると、
「何言うてんねん。あの騒動で、経営陣と開発陣とで訴訟問題にまで発展したやないか」
ガンスがジト目でシブサワを見ながらそういう。
訴訟問題とは穏やかではない。シドはマズい事をしたのではと考え始める。
「ああ、そうですね。非常にお恥ずかしい話ではあるのですが・・・」
シブサワは少しだけ困った顔をしたがそれだけだった。あまり深刻な話では無いのか?シドは思う。
「何があったんですか?」
ライトはシドの行動で一企業の訴訟問題にまで発展している事が気が気ではなかったようだ。
「あぁ~・・・まあ、な。・・・そのエネルギーガンの研究に夢中になっとる開発陣に経営陣がブチ切れたんや」
ガンスが簡単に訴訟問題になった経緯を話してくれた。
事は、シドがエネルギーガンを唐澤重工へ送り、更に強力な武器を求むといったメモを入れていた事で、開発陣に火を付けることになる。
送り主は誰にも使えないだろうと散々な評価を受けたS200の使い手だ。
この期待に応えなくてはと開発陣はやる気を燃やし、未知の技術を解析しようと躍起になる。
しかし、根っからの技術バカが揃っている開発陣は、当初の目標を放り出し旧文明の技術の全てが知りたいと不眠不休で解析に当たりだす。
最初は企業経営陣としても体調管理や、他の仕事のタスクにも影響を及ぼす為、程々にする様にと苦笑いで済ませていたのだが、流石に倒れる人員が出て来てはこのまま研究に当たらせるわけにもいかない。
ひとまずエネルギーガンの研究を止めるように通告することにした。
しかし、唐澤重工お抱えの技術者達が、未知の技術を前に止まる訳が無かった。
やれ労働の権利を奪っているだの知的欲求権の侵害だ等と言い始め、研究室に立てこもる事件が起こる。
流石にこれは看過できぬと経営陣が都市の契約保護監督署(日本の労働基準監督所の様な所)に訴えたのだ。
連日会議を行うものの、話は平行線をたどり最終的にはエリア統括企業(喜多野マテリアル)の仲裁裁判を行う事になったのだった。
「まあ、そんな感じで【定時とかいいから研究させろ派】(開発陣)VS【定時が来たら家に帰れ派】(経営陣)の裁判が行われることになったっちゅーこっちゃ」
「「・・・・・・」」
シドとライトは何と言っていいのか分からなくなる。
無理やり言葉をひねり出してもお疲れ様です以外の言葉が思い浮かばなかった。
「いやはや、お恥ずかしい。しかし、平和的に裁判は進んでいるようですので問題はありません」
営業スマイルでそう言うシブサワ。
「そうなんですか?」
ライトはガンスに確認を取る。
「・・・・・・・喧々囂々やっとるよ。初めて裁判官が頭抱えとるとこ見たで・・・・」
ガンスはちょっとした好奇心で裁判の様子を見に行ったようだ。
裁判官が頭を抱えるのは当然だろう、今までの労働裁判は、働けと言う経営陣と帰らせろと言う従業員の裁判しかなかったのだから。
「問題無いんですか?」
ライトはシブサワに対して質問する。
「はい、私の仕事には影響がありませんので」
シブサワは良い笑顔でそう言い切る。
ライトの目が詐欺師を見る様な目に変わっていく。自分の情報収集機を提供してくれた相手とは言え、コイツ大丈夫なのか?と考えるライト。
「まあ、問題ないならいいや。それでガンスさん。俺たちの車とバイクに取りつける銃が欲しいんですけど」
裁判の事など知った事ではないと言わんばかりに話題を変えてくるシド。
カミソリの様な切れ味で曲がった話題にガンスは戸惑いながらもシドに応対する。
「お?・・・おう、車載用の銃だな。どんなのがいいんだ?」
「ライトがデータを持ってるよ。な?」
シドはライトに話を振り、ライトは溜息を吐き、車とバイク、欲しい銃のスペックデータをガンスに送った。
「・・・・・・ふんふん、このスペックやったらええのがあるで」
ガンスはそういうと端末を操作する。
するとトレーラーの壁の一部が開き、中からケースが2つ自動で出てきてガンスの前に止まる。
1つケースの中には大型の銃器が3種入っており、もう一つのケースにはそれらを超える大型の銃器が入っていた。
それぞれ違う特徴を持っている様だ。
「それじゃ説明すんで」
そういい、ガンスは展示された銃器の説明を行う。
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