ミナギ都市への移動要請
シド達がワーカーオフィスに到着すると、いつもとは違い職員たちがバタバタと動き回っていた。
多くの職員が端末を手に、指示を出し指示を出され動き回っている。
その様子をシドとライトは呆然と眺め、何やら凄い事件が起こった様だと考える。
「・・・なんだこの騒ぎ?」
「さあ?キクチさんから説明があるんじゃない?」
2人は取り合えず受付に行けば何とかなるかと、総合受付まで足を進めた。
「すみません。キクチに呼ばれたシドですけど」
シドはライセンスを職員に見せる。
「シド様、ライト様。お話は伺っております。こちらのエレベーターで5階の会議室までお進みください」
職員は丁寧にシドとライトを案内してくれた。
2人はエレベーターに乗り込み、指定された5階まで進む。
エレベーターが5階に到着し、扉が開くとそこは直ぐに会議室になっており、中にはキクチと統括であるクリスティア・マガラ、他に会ったことは無いがワーカーオフィスの幹部達であろう者達が揃っていた。
既に全員が円卓についており、先程まで会議を行っていたことが分かる。
「来たな。2人共ここに座ってくれ」
キクチは自分の隣の席を2人に勧め、シドとライトは言われたように椅子に腰かける。
「それでは2人も到着しましたし会議を進めましょうか」
統括がそう声を上げ、会議を進めようとする。
シドもライトも呼び出された理由が分からず、キクチに小声で理由を聞く。
「なあ、俺達なんで呼ばれたんだ?」
「今から説明されるから黙って聞いてろ」
キクチにそう言われ、2人は大人しく会議の内容に耳を傾ける。
「今回の騒動ですが、複数の都市幹部達が関わっている事が判明し、喜多野マテリアル 兵器開発部門 部門長であるゴンダバヤシ氏の指示により、都市防衛隊と治安維持部隊が捕縛しました。
都市幹部達は子飼いのギルドであるブルーキャッスルにこの2人の襲撃を指示し、事もあろうに中央崇拝者達との繋がりも判明しています」
その情報を耳にしたシドは驚く。
まさか都市が自分達を攻撃するようにブルーキャッスルに指示を出していたとは考えていなかったのだ。
ライトは都市幹部が関わっていると言う事は、カズマとの会話で知っていた。しかし、中央崇拝者とも内通していた事には驚きを隠せなかった。
「都市幹部がブルーキャッスルに襲撃を指示していた事は、数日前にファーレン遺跡での実地訓練を襲撃したダラスと言う者の証言と、このライトから提供された会話の内容からもハッキリしています。
それと、都市幹部と中央崇拝者の繋がりに関してはシドがアジトから持ち帰ったサイボーグ、個人名ゾルハと言う者の記憶データを解析して判明したものです」
統括が話す内容を聞き、シドとライトは自分達が思っていた以上の大事に目を白黒させる。
企業と中央崇拝者は敵対関係にある。
それなのに企業直下にあるダゴラ都市の幹部達は、中央崇拝者と通じていたのだ。これは喜多野マテリアルに対する、いや、全企業に対する明確な裏切りだった。
これからどんな事になるのかまではシド達には分からない。しかし、ワーカーオフィスの職員たちが大慌てになっているのも仕方がないと思えた。
「この事は既に監査役としてダゴラ都市に滞在していたゴンダバヤシ氏にも報告を行っており、喜多野マテリアルから直々に調査員が派遣されることになりました。
ワーカーオフィスには、その調査員と共に都市に内包されている問題の洗い出しに協力する事になります。皆もそのつもりでいて下さい」
そう言い、統括は言葉を切る。
今のダゴラ都市で巻き起こっている事は大体想像出来たが、シド達がココに呼ばれた理由はまだ分からない。
先日の戦闘について聞かれるのかと思っていたがそう言う訳では無さそうだ。
その事に2人は頭を悩ませていると、再度統括が言葉を発する。
「そして、この件の中心になったシドとライトなのですが・・・・」
統括から視線を投げられ、何を言われるのかと2人は身構える。
「活動場所を一時的にダゴラ都市からミナギ都市へ移して欲しいと思っています」
統括にそう言われ、シドはよく意味が分からなかった。
なぜ自分達が東方都市に移動しなければならないのか?いずれは東方にも行ってみたいと考えていたが、今すぐではない。
もっと実力を上げ、東方の強力なモンスターと戦えると確信を持ってから移動したかった。
「えっと・・それはどういう理由でしょうか?」
ライトもこの統括の発言には納得できなかった様で理由を尋ねる。
「先日壊滅させた中央崇拝者ですが、あのアジトに居た者達だけでなくダゴラ都市以外にも拠点があることが判明しました。恐らく、ダゴラ都市との密通が企業側にバレたと言う情報は彼らに流れている事でしょう。既に喜多野マテリアルによる捜索は始まっているでしょうが、一度地下に潜った彼らを発見する事は非常に困難です。
そして、企業側に彼らの存在が露呈した直接的な原因である貴方達に報復措置を取らないとは限りません。その為、貴方達2人がダゴラ都市に留まっていた場合、先日の様な襲撃事件が起こりうると考えられます。
よって、彼らの活動範囲外と思われるミナギ都市へ移動してほしいのです」
統括は、シド達がまた中央崇拝者による襲撃を受けることを危惧している様だ。
「そんな理由で襲ってくるでしょうか?」
ライトはそう疑問を投げかけるが、
「前例があります。その時は周辺を巻き込んだ大規模なテロが行われました。その時の犠牲者は多く、貴方達の友人であるタカヤとユキの両親もそのテロによって亡くなっています。それに、言いたくは無いのですが・・・捜索から漏れたダゴラ都市の幹部達が苦し紛れの行動を取らないとも限りません・・・・テロを誘発する可能性も否定できないのです」
そう言われ、ライトは息をのむ。
「・・・・前回のテロの時に、彼らの撲滅はどうして出来なかったんですか?」
「テロが起こったのは10年前ですが、当時はダゴラ都市主導で調査が行われました。しかし、彼らのアジトの発見等のめぼしい成果を上げることは出来ていません。恐らくですが、その時から都市上層部は中央崇拝者と繋がっていたのではないかと推測できます」
都市とテロリストが繋がっていれば彼らを捕まえる事など出来るはずがない。
今回は都市幹部が揉み消す前にシドとライトがアジトを強襲することで中央崇拝者の存在が明るみに出たのだ。彼らのアジトを抑え、構成員を全滅させ施設のデータをワーカーオフィスが手に入れることにより、喜多野マテリアルに情報が伝わっている。
その為、今回は本腰を入れて中央崇拝者の捜索に乗り出している様だった。
しかし、自分達がこの都市に居続ければ中央崇拝者のテロに周りを巻き込む事になる可能性があり、別の都市に移れと言われれば嫌とは言えない。
シドの方に視線を向ければ、シドも渋顔で机を睨みつけている。
「彼らに理屈は通用しません。あの時の悲劇を繰り返さない為に、少しでも可能性を下げる為一度この都市から離れて欲しいのです」
断れない。
これはお願いの形を取った命令だった。
しかし、ここで はい分かりましたと言うにはこの都市には思い入れが多すぎる。
育った土地と言う事よりも、タカヤとユキ、アズミやミリー、最近知り合ったラインハルトとアリアも居ればヤシロやレオナも居る。
訓練でボコりまくったキサラギも、最初の出会いは最悪だったが、何だかんだで仲良くなった。物心ついた頃から一人で生きてきたシドにとって、この繋がりを遠ざける選択は取り難い。
たったのこの一年で、シドは多くのモノをこの都市で得た。それは金で買える様なモノでは無い。簡単に切り離す事など出来なかった。
しかし、万が一、中央崇拝者のテロに彼らが巻き込まれる様な事があれば、後悔してもしきれないだろう。
顔をしかめ、テーブルを睨みつけていたシドだったが、絞るような声で「わかりました」と答える。
「・・・・・ありがとうございます。しかし、それほど長期間と言う訳ではありません。喜多野マテリアルから都市に調査が入り、中央崇拝者の影響が完全に排除されれば、また戻ってきてください。この都市は依然としてファーレン遺跡やキョウグチ地下街遺跡等の脅威に晒されています。貴方達の力が必要になることがあるでしょう。その為の経験を積みに行くと思って、さらなる精進を期待します」
そう言い、統括はまたダゴラ都市に戻ってきてほしいとシド達に告げる。
「わかりました。それで何時頃移動したらいいでしょうか?」
「1ヶ月以内には・・・」
「・・・そうですか。わかりました」
シドはそういうと席を立つ。話の流れから自分達への用は終わったと思った。
ライトもシドに続き席を立ち、シドと共に出口へと歩いていく。
エレベーターに乗り込むと、キクチも一緒に乗り込んできた。
「・・・すまんな。こんな追い出すような形になって・・・・・・」
「いや、いいよ。理由を聞けば納得だ」
「そうか・・・」
キクチも申し訳なさそうな顔でそう言う。
「そういや、俺の訓練依頼の報酬ってどうなる?」
「・・・それなんだが、延期になる。無期限でな。ゴンダバヤシ様が今回の件で本社に呼び戻されることになった。唯の遺跡騒動から中央崇拝者の襲撃騒動に変わっちまったからな。もう既に立たれてこの都市にはいない」
「・・・・・そっか」
「お前には最初に話した1億が振り込まれる。それで勘弁してくれ」
「わかったよ。手間かけさせた」
「・・・・・・」
(あれだけ楽しみにしていた報酬だったのにな)
キクチは試合が決まった時のシドの様子を思い出し、都市から出て行くように勧告しなければならなくなった事と合わせてさらに申し訳なく思った。
エレベーターが1階へ到着し、扉が開く。
シドとライトはエレベーターを降りるが、キクチは乗ったままだ。シドとライトを見送る為だけについて来てくれたらしい。
「じゃーな、出て行く前にはもう一回顔見せに来るよ」
「ああ、またな」
キクチはそういい、閉まる扉の奥に消えていく。
「・・・は~・・・」
色々な事が重なり、シドは肩を落とし溜息を吐いた。
「・・・帰ろうか」
「そうだな・・・・いや、荒野に行って暴れようか」
「え?今から?」
「ああ、東方に行くことになったんだ。気分が落ちてるからってボーっとして着いていきなりモンスターに殺されるなんて嫌だからな!」
「・・・そうだね!しっかり訓練しておこう!」
これは空元気だ。
しかし、落ち込んでいても仕方がない。
次はさらに難易度が上がる地域に向かうのだ。
しっかりと練度を高め、ミナギ都市でも活動できるようにシッカリ準備をしなければと、2人は気合を入れた。
シド達は車に飛び乗り、そのまま荒野へ向かって走り出したのだった。
うーむ、何故か東方に移ることになってしまった。




