シドの資産残高
拠点襲撃事件(シド主観)から5日経ち、シド達はまだダゴラ・インに宿泊していた。
キクチに拠点の手配を頼もうと思ったのだが、キクチはキクチで先日の騒動の後始末があるのか連絡しても繋がらない。
防壁内での襲撃事件と中央崇拝者のアジト殲滅の後なのだ。仕方がないと言えば仕方が無い。
この5日間で、シド達が襲撃された事を知ったタカヤ達やラインハルトとアリア、キサラギが部屋を訪ねて来てくれ、無事を喜んでくれた。
先程もタカヤとユキが来ており、少し話し部屋を出ていったばかりだった。
「ああ~~・・・・・暇だ。暇なんだけどやる気が出ねー・・・・」
シドはベットに寝ころびながらダルそうな声を上げる。
「そうだよね~・・・・何かやる気の起きるような仕事ないかな?」
ライトも同じような心境なのか、ソファーに寝ころび、ワーカーオフィスの依頼内容を物色していた。
2人にとって拠点を破壊された事はかなりショックだったらしく、前は最高の環境だと思っていたダゴラ・インですら、自分達の拠点を持った後では本当に寛げる空間とは言えなかった。早く自分たちの拠点を購入したいと思っているのだが・・・・
<2人共、そろそろシャキっとした方が良いと思いますが>
シドとライトの様子にイデアが物申す。
<そうは言ってもな~>
<やる事ないしね~>
しかし、今の2人は完全にだらけてしまっており、唯の言葉ではどうしようもない。
<それならば、新しい装備の検討を行うのは如何ですか?車やバイクに取り付ける銃の事もありますし>
<ん~・・・・そうだな。それもいいか>
<ガンスさんに丸投げ予定だったけど少しは絞り込んでおくのもいいかな?>
<そろそろミスカやガンスもダゴラ都市に戻って来る頃でしょう。連絡してみるのもいいと思います>
ミスカ達が東方の都市に向かって行ったのは、キョウグチ地下街遺跡の探索に参加した時だ。それから約2カ月経つと言った所なので、そろそろ戻って来る頃だろうとイデアは予想する。
<そうだな、メッセージでも飛ばしてみるか>
シドは情報端末を取り出し、ミスカに向けてメッセージを送る。これでダゴラ都市に帰って来る日程を教えてくれるだろう。
「じゃー、車載用武器のカタログでも見てみようか」
ライトは情報端末でカタログを調べ、イデアを通してシドと共有する。
それから、銃器の値段やスペックを閲覧しながら、ああだこうだと話し出す2人。
別に手を動かす必要も無いため、意識の上でページを切り替え視線を動かしながら念話で相談を開始する。ソファーとベットに寝そべりながら・・・・
<・・・・そうでは無く、せめて起き上がってください・・・・>
イデアの抗議は無視され、ミスカから連絡が入るまでシドとライトはだらだらと銃器の相談を続けるのだった。
銃器のスペックがある程度固まる頃、シドの情報端末が着信を伝えてくる。
画面を見るとミスカからであり、シドは通信を繋げる。
『シド~久しぶりやな。元気してるか?』
「お久しぶりです。まあ元気と言えば元気ですね」
『なんや?えらい引っかかる言い方やな』
「ええ、まあ。この前ガンスさんから忠告されていたイザワの件でゴタゴタがありまして、拠点が燃えちゃったものですから・・・・」
『!・・・そりゃ災難やったな・・・ライトも無事なんやな?』
「はい、ライトも無傷です。それでですね、また装備の相談に乗って欲しいと思いまして。何時頃ダゴラ都市に戻られるのかな?と思いまして」
『それやったら今向かってるで。ミナギ都市から高ランクワーカー達がダゴラ都市に向かうって話聞いてな。それに便乗してんねん。後3日って所やな』
「3日ですか、わかりました。それくらいにまた自由市の方に行きますんで」
『はいよ~、その時はご贔屓に~』
「はい、それでは」
そう言いシドは通信を切る。
「後3日くらいでこの都市に着くみたいだな。予算の方を確認しとくか」
「そうだね。ボクの方は訓練報酬の1億がもう振り込まれてるよ。貯金と合わせて大体1億4000万コールって所かな」
「そっか・・・俺は~・・・・幾らだっけ?」
シドは情報端末で調べようとしたが、よく考えたら自分で口座の残高を調べた事は一度も無かった。
「・・・・・・」
<なあイデア。どうやって口座に入るんだ?>
<・・・は~・・・・・まずはこのアプリをダウンロードしてください。それからIDとパスワード、それからワーカーライセンスのコードNo,を入力すればログイン出来ます>
<シドさん・・・自分の資産ぐらい自分で管理しようよ・・・・>
<ライトの言う通りです。いくら私が管理できるとはいえ、自身で把握していなければ咄嗟の時の判断に困りますよ?>
<・・・・・・>
シドはアプリをダウンロードしている間、ライトとイデアにチクチクと小言を聞かされる羽目になった。
「・・・・お、終わった」
シドの情報端末に口座直通のアプリがダウンロードされ、シドは早速アクセスする。
「ええっと~・・・・・・」
シドは自分の口座残高を確認し、首を捻る。
「ん?」
「どうしたの?」
ライトはシドの様子がおかしいと思い、近くに寄っていく。
「・・・いや・・・・ん?・・・・一十百千万・・・・・・」
シドは口座残高の桁を数えている様だ。
しかし、残高に納得できないのか首を捻ったり、情報端末を振ってみたり挙動不審だった。
<シド、情報端末を振っても残高は変わりません>
「なになに?どうしたのさ」
「いや、なんだこの数字・・・・」
シドはライトに情報端末を向け、画面に表示されている数字を見せる。
ライトは画面を確認し、その表示額を読み上げた。
「ええっと・・・・23億8973万・・・・・・・ええ?」
ライトもあまりの金額に混乱を隠せない様だった。
「な?なんでこんな事になってるんだ?」
シドも意味が分からないのか首を傾げ頭の上に?マークを浮かべていた。
<何も不思議な事はありません。シドはミナギ方面地下街遺跡を発見し、そこの探索権を都市に渡す代わりに売上から0.1%を受け取る契約を行っていました。その報酬が毎月振り込まれていただけです>
<ん?><え?そうなの?>
<はい、現在でもあの遺跡の調査は終わっていません。ですのでこれからも振り込まれ続けると考えられます。このお陰で都市は莫大な利益を上げている様ですね>
<・・・・ああ~、そういやそんな事もあったな・・・>
シドがランク11になった時、ランク調整依頼を出されミナギ方面防衛拠点での任務を言い渡されたのだ。
その時の巡回任務でモンスターと戦闘中、地面の崩落が起きシドはそれに巻き込まれてしまう。
その時に落ちた先が、ミナギ方面地下街遺跡で有り、モンスターの姿も無く遺物が大量に放置されたままの姿で存在していた遺跡だ。
シドは脱出後、防衛拠点本部に連絡をいれるたのだが、その時にシドに対応したのがワーカーオフィスでは無く都市の職員だった。
シドはその遺跡の探索が出来なくなる代わりに、その遺跡から発掘された遺物の売り上げの0.1%を受け取る契約を行っていた。
その契約がまだ生きており、未だ発掘される遺物が出てくるためシドの口座には毎月契約で決まった割合の金額が振り込まれ続けていたのだった。
「シドさん、これだけあったらもう遊んで暮らせるんじゃない?」
ライトはシドの資産額を見て率直な感想を言う。このダゴラ都市の一般人が一生で稼ぐ金額が3億から4億と言われている為、ライトの言っている事は間違いでは無い。
「ん~・・・金持ってるからワーカー辞めるって事か?それは無いな。俺はもっと色んな所にいって色んなものを見てみたい。たった一年ちょっとでもう引退生活とか考えられねーよ」
<そうですね。それでこそ私の契約者です>
イデアはシドの言葉に嬉しそうに反応する。
「・・・そっか。そうだね。ボクも色んな所に行ってみたい」
「おう、東方も北方も行ってみたいし、西方の料理も食ってみたいし、海ってのも見てみたいな」
「そうだね、夢が広がるね!」
<その為にはもっと力を上げなければなりません。ダラダラしていては何時まで経っても実現できませんよ?>
イデアは2人の意気が上がって来たところに、ここぞとばかりに行動を促す。
「そうだな。何時までも凹んでらんねーし。次にキョウグチ地下に行く時の為にシッカリ鍛えるか!」
「まだお昼にもなってないし、荒野で模擬戦でもする?」
「そうだな、さっそく準備して・・・」
そう意気ごみシドが立ち上がると、この空気を断ち切る様にシドの情報端末が着信を伝えてきた。
出鼻を挫かれ、シドは渋顔で端末を見ると、キクチからの着信だった。
(なんだ?)
シドは若干嫌な予感を感じながら通信を繋げる。
「はい」
『ようシド。お前達今どこにいる?』
画面に映るキクチは、目に濃い隈を作り、寝不足なのか目が充血していた。頬はこけ、顔色も悪いように見える。
(なんか、前より酷くなって無いか?)
「ええっと・・ダゴラ・インに居るけど・・・・キクチ 大丈夫か?」
流石のシドもキクチの体調が心配になる。
『ああ、大丈夫じゃねーが大丈夫だ。出来るだけ早くワーカーオフィスまで来てくれ。受付に聞けば通してもらえる様に言っておく』
なにやら緊急事態の様だ。
間違いなく先日の襲撃事件の事だろう。
「わかった。直ぐに行く」
『頼んだぞ』
キクチはそう言うと通信を切る。
シドはライトに目を向けると予定変更だと告げた。
「わかった」
ライトは直ぐに防護服着こみ、ハンター5とA60を装備する。
シドも同じように準備を行い、車に乗ってワーカーオフィスへと向かって行った。
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