ライト 怒る
シド視点
今日は色々な事があった。
遺跡でワーカー組の中層探索訓練を行い、大型のモンスターとも戦って倒した。
その後ワーカーオフィスにまで戻り、彼らの探索の成果をキクチに提出したが、布系の遺物が多くワーカーオフィスでは高値で引き取れないと言われる。
その為、前回布系の遺物を換金したアパレルショップ バーミリオンの事をキクチに教え、布系の遺物でも高値で買い取ってくれるところもあるのだと証明した。
恐らくキクチはバーミリオンの本社とやり取りを行い、布系遺物の売買ルートを構築するのだろう。
これで約1ヶ月の訓練も終了し、拠点に戻ってメシの準備をしていると、ナパーム弾の攻撃を受け拠点が爆破されてしまった。
その後襲撃者の攻撃を受け、気絶したフリをしながら襲撃者にアジトへ案内してもらう。
その時はこの不届き者達に目にもの見せてやると怒りの炎を燃やしていたが、アジトに到着して尋問を受けると、一年程前にシドから遺物を没収し、都市から追放処分を受けた元ワーカーオフィス職員のイザワが登場する。
執拗にシドを殴り、恨みつらみを叩けつけてきたがあれは自業自得だろうとシドは思う。
シド達の拠点を襲撃した者たちは中央崇拝者と呼ばれている者達で、シドが契約した旧文明の身体拡張ユニットであるイデアを探し回っていた様だ。
シドが契約して1年以上経っていると言うのにご苦労な事であるが、イザワの逆恨みと遺物捜索の一手として自分達の拠点を攻撃されたことに怒りの臨界を超える。
外部からライトの支援を受け、シドは中央崇拝者のアジト内でその怒りをぶちまけた。
目に入る構成員達を全て叩き潰しながら施設内を徘徊し、持てる力の全てを使って暴れ回ったのだ。恐らくあの中に生存者はいないだろうと思う(囚われていた者達は別)。
最後に戦ったサイボーグの頭を持ち施設から脱出しようとすると、ワーカーチームを率いていたヤシロ・レオナと出会う。
囚われていた者達の救出を頼み、キクチにこの頭部を届ける為出口から出ると、キクチは直ぐに迎えに来てくれた。
キクチにトレーラーに案内され、不快な返り血を落とすように言われる。
全身に付着した血糊は乾燥してきており、動くたびにパリパリとした不快な感触をシドに与えていた。
シャワーを使わせてもらえることに感謝し、シドは体を洗い後は飯を食って寝るだけだ。
と、そう思っていた。
しかし、今は床に正座させられ、目の前のライトから説教を受けている。
<寂しさは無くなったでしょう?>
こうなることをイデアは予想していたのだろう。だったら暴走する前に止めてくれよと思わないでもなかった。
<あの時のシドは止めても止まらなかったと思いますが?>
チッ、また心を読んできやがる・・・・・
「今回みたいな場合は・・・・・・・・シドさん?聞いてる?」
シドは回想と言う現実逃避を行っていたことをライトに見破られる。
「あ、はい。聞いてます」
「そっか、じゃ~最初から言うね」
聞いてると言っているのに(聞いてない)説教をやり直すライト。これはそうとう頭に来ていると見える。
「相手の規模・戦力・装備も分かっていないのに、わざと捕まるのはどうかと思うんだよ、ボクは」
「あ、はい。そうですね」
「そりゃ~いきなり拠点を攻撃されて混乱するのも分かるよ。その怒りも分かる。ボクだって頭に来たからね。今まで真面な住処を持っていなかったシドさんが、命がけで稼いだお金で初めて購入した拠点だったんだ、ボク以上に怒りが湧くのも分かるんだよ」
「そ・・・そうか。ありが 「でもね、シドさん訓練中もずっと言っていたよね?生き残ることが最優先だって」」
「・・・・・・・・」
シドの言葉は途中でぶった切られ説教は続く。
「そりゃシドさんは強いよ?ボクはこの都市のワーカー達の中でもトップクラスだと思ってる。でもさ、相手は中央崇拝者だったんでしょ?6大企業にも喧嘩を売って来る様な奴等じゃ無いか。彼らのメンバーにデンベさん?っていう人並みに強い人がいたらどうするつもりだったのさ?」
「あ~・・いや、最初の襲撃者の実力から考えてそこまで強い連中じゃないって思っ・・・た・・・?かな」
「キクチさんに渡したサイボーグの人。あの人も弱かったの?」
「ええ~っと・・・まあまあかな?電光石火を使えば多分楽勝だったかと・・・・・」
「へ~、でも使わなかったんでしょ?なんで?」
「・・・・いや、その、あの、えっと・・・・・」
<施設内の殲滅時に乱用して、体内エネルギーが枯渇しそうになりました。私の判断で緊急時以外の使用を禁じたのです>
シドが言い淀むと、イデアがその時の状況をライトにチクる。
「エネルギー補給も出来ない状況でどうしてそんなことしたの?そこまで追い込まれてたって事?」
「いや・・・・こう・・・頭がカーっとなってて・・・・」
「そのせいでボス戦でガス欠なんて目も当てられないよね?敵の腹の中だからこそ冷静に対処しないとダメでしょ?」
ライトの言葉が正論過ぎて反論の余地もない。
「・・・・・・・・・・・すいませんでした」
「今度・・・があるかは分からないけど気を付けてね。これでも結構心配したんだから」
「はい、面目有りません」
「さて、シド。詳しい話・・・を・・・・・・」
ライトの説教がひと段落付くかと言った所でキクチが戻って来る。
「あ、キクチさん。お疲れ様です」
ライトがキクチに向き直りねぎらいの言葉を掛ける。
「ああ・・・・・もう説教はいいのか?」
「はい、大体の所は終わりました」
「そうか。それで、詳しい話を聞きたいんだが」
「わかりました」
キクチはライトに椅子を勧め、ライトは腰を下ろす。シドも椅子に座ろうと腰を上げようとするが、
「シドさんはそのままだね」
ライトは無慈悲にそう告げる。
「え?でもそろそろ足が 「痺れないよね。シドさんなら」」
「いや、まあ・・・でもさ 「あれ?反省が足りないのかな?」」
「・・・・・いえ、このままでいいです・・・・」
シドはもう一度正座の姿勢に戻り、ライトはそのままシドを放置してキクチに説明を始める。
キクチはライトと会話しながらも、チラチラとシドに視線を送って来るが、シドには声を掛けずにライトから事件の推移を聞いていた。
<・・・こぇ~~・・・・>
<これからはあまりライトを怒らせない方が良いと思いますよ>
<そうだな・・・気を付ける>
<そうしてください>
ライトの説明が終わり、今回の襲撃はブルーキャッスルと中央崇拝者が行ったと言う事が確定した。
その裏には都市幹部の姿があるのはほぼ確定的で、この事も合わせて調査する必要があるとキクチは頭を抱える。
この件は当然ゴンダバヤシ氏の耳にも届くだろう。
あの方が動員できる数の兵力だけでもダゴラ都市を軽く壊滅できるだけの戦力がある。
流石に都市そのものを吹き飛ばす様な事はしないと思うが、粛清の嵐が吹き荒れるのは間違いない。
その件にも巻き込まれるだろうか?巻き込まれるだろうな~、逃げる方法は無いものか?と思考を巡らせるが、いい案は浮かばない。統括に丸投げしようとも、当事者達の担当になっているキクチは必ず呼び出されるだろう。
だが、今回の件でダゴラ都市の潜在的な脅威は出し切れたと思われる。これで煩わしい案件に頭を悩まされる日々ともおさらばだろう。
そう思おう。そうでなければやっていられない。
キクチが取りあえず自分を納得させたところで、ライトが口を開く。
「ボク達はもういいですかね?」
「そうだな。もう帰って構わねーよ。また何かで呼び出すかもしれねーけどな」
もう聞きたいことは聞けた。中央崇拝者も殲滅出来ることは確定している。もうライトとシドをこの場に留まらせる意味もない。
それに、これ以上この場に居させてさらに面倒事が舞い込んでくるのはごめんだった。
コイツ等のトラブル遭遇率は危険域に達しているとキクチは思う。
「わかりました・・・シドさん、帰ろうか」
「あ・・・ああ、そうだな」
ライトから立ち上がる許可を得たシドは立ち上がり、
「あ」
と何かを思い出したかのような声を上げた。
「ん?どうしたの?」
ライトがシドに聞き返すと、シドはキクチに伝えなければと思っていたことを言う。
「そういやさ、あのアジトの中に捕まってる人たちが居たんだよ。ざっと見ただけだったけど50人くらい」
シドの発言でライトとキクチが目を剥いた。
「ヤシロさんとレオナさんに伝えたから、救出してくれると思うけどな」
サラッと重大情報を吐き出すシド。
その事を聞いた2人はシドに言う。
「なんで早くその事を言わねーーー!?」「一般人が捕まってたの?!」
「あ、いや。伝えようと思ってたんだけど、タイミングが無くて・・・・」
「やべーぞ!一般人の保護まで考えてなかった!!」
キクチは直ぐに情報端末を取り出し、何処かに連絡を取り始める。
「・・・・シドさん。その人たちってどんな様子だったの?」
「え?・・・・・まあひどく怯えてたし、大体は動く気力もないって感じだった」
<恐らく人体実験などに利用されていたのでしょう。研究員の様な者達もいましたので>
「・・・・・・・シドさん。正座」
「え?」
「正座」
「いや、待って 「正座」
シドは大人しく正座に戻り、ライトからさらに説教を受けることになった。
それからシドは必死に弁明し、戦闘に巻き込まれる可能性を考えて放置したのだとライトに説明する。
ライトのその説明に一定の納得を見せたが、人命に関する報・連・相の大事さを懇々と語って聞かせた。
シドがライトの説教から解放されたのは、荒野の地平線から太陽が顔を出し始めた頃で、キラキラと輝く朝日を浴び項垂れたまま、ライトが乗って来たバイクに乗り拠点まで帰っていくのであった。
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