ブルーキャッスル殲滅 と 捕らわれのシド
(なんなんだコイツは・・・・)
カズマはライトを見上げ、込み上げてくる恐怖を必死に押し殺した。
養成所に所属していた頃から一度たりとも勝てなかった相手。スラムから這い出てきた人モドキのはずなのに。
勧誘され、新しく所属したブルーキャッスルの攻撃隊が全力で襲い掛かってもダメージ一つ与えることが出来ずに全滅してしまった。
ここに立っているのは自分ひとり、どう考えても勝てるとは思えない。しかし、未だカズマは自分が人モドキにも劣る存在だと認められなかった。
歯を食いしばり、憎悪を込めた表情でライトを睨みつける。
対してライトは、カズマを見る目になんの感情を浮かべていない。それこそ道端の石ころを見るような目で自分を見下ろしていた。
ライトが屋上へ降りてくる。
カズマは咄嗟に銃をライトに向け、威嚇を行うが。ライトは全く気にする素振りを見せずに近づいてくる。
「来るな!!それ以上近寄ると殺す!!!!」
得体のしれないライトに、カズマの憎悪は鳴りを潜め、恐怖が勝り銃を持つ手が震えてくる。
「お前達に協力した都市幹部の名前は?」
ライトは足を止め、ブルーキャッスルに協力した都市幹部の事を聞き出そうとする。
「言うと思うか?」
カズマも話す気はないと拒否する。
「そっか。まあ、お前程度なら教えられてないんだろうけど」
ライトの言葉は図星だった。カズマは重要な情報は何一つ教えられていない。襲撃の指示があったと言う事も、装備に対する協力があった事も、全てこのチームを率いた隊長から聞いた話だ。
しかし、ライトにその事を見破られた事が屈辱だった。
「うるさい!!!お前に何が分かる!!!」
「別に分かりたくもないよ。それで?降伏する?それなら命までは取らないよ」
銃も構えず、あくまでも余裕を見せるライトにカズマの自尊心と自制心が木っ端みじんに砕かれ最悪な行動を選択してしまう。
「黙れ―――――!!!!!」
カズマは銃の引き金を引き、ライトの心臓目掛けて弾丸を撃ち放つ。
真っすぐに飛んでいくはずの弾丸が、途中で曲がった様に見えた。
その瞬間、頭部に衝撃が走った様な感触が有り、カズマの意識は永遠に閉ざされる事となった。
「・・・は~~~・・・・」
ライトは、カズマが放った弾丸を曲げ、彼の頭部まで誘導した。
自分の弾丸に頭を吹き飛ばされ、自分の血に沈むカズマを見下ろし息を吐くと、まだ生きている2人に向かっていく。
2人は痛みを堪えながら必死に止血を行っており、何とか逃げ出そうと藻掻いていた。
しかし、カズマがやられライトが近づいてくると、ガタガタと震えながら固まってしまう。
「それで?君たちはどうする?」
ライトは右手のハンター5を二人に向け、それぞれに銃口を合わせる。
二人は恐怖のあまり顔を引きつらせながら涙を流し何も話そうとしない。
「ボクも暇じゃない。降伏するか?しないのか?5秒あげよう。・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・」
「降伏する!」「降伏します!!」
2人は同時に声を上げ、ライトに降伏の意思を示す。
それを確認したライトは回復薬を取り出し、2人の口に突っ込む。2人は回復薬の効果で急速に体が修復されていくが、失った手足が生えてくるわけではない。欠損部位を治すには義体化か欠損した部分を培養し手術でくっつけるしかない。
だが、この場で死ぬことは無くなったはずだ。
「さて、この場の情報封鎖を解いてもらっていいかな?」
ライトがそういうと、少女が屋上に置きっぱなしになっていた妨害装置に目を向ける。
「ああ、あれか」
ライトはそういうと、妨害装置を銃撃し木端微塵に粉砕する。
これで、この辺り一帯の通信が回復したとかな?と考えていると、いきなり通信が入って来る。
「は~・・・・」
ライトは通信の相手を見て深いため息を吐き出し、通信を繋げる。
『ライト~~~~~!!!!お前等いったい何やってる!!!!!!』
予想通りの大声に顔をしかめながらライトは現状を報告する。
「どうも今日ぶりですねキクチさん。さっきまでブルーキャッスルの襲撃を受けていました」
『なんだと!!??防壁内でか?!』
「はい、そうです。一般人への被害は最小限にしたつもりですけど、いきなりでしたから0に出来たかはわかりません・・・・・・このポイントにまだ生きたメンバーを放置してますので、回収をお願いします」
ライトはキクチに今いるポイントと、最初に出てきて達磨にした男を放置した場所を送り、回収を依頼する。
『・・・・・・わかった。今向かっている最中だからな。直ぐに回収する』
「よろしくお願いします。では」
『ああ・・・・・いや待った。シドはどうした?』
「・・・・・シドさんは攫われました」
『ハア!!??』
「行先は信号を辿れば見つけられますんで直ぐに追いかけます。ボク達の拠点も盛大に燃えてますんで、消火もお願いしていいですか?」
『攫われ!?燃え?!何がどうなってんだ?!ちゃんと説明しろ!!!』
「すみません。時間がなさそうなんで。場所が分かったら連絡しますから」
ライトはキクチにそう告げ、通信を切る。
<ライト、急いでください。シドはもう限界です>
<わかった。急ぐよ>
ライトは屋上から飛び降り、イデアから送られて来たシドのバイクのセキリュティーコードを使い、車庫からバイクを自分の所まで誘導する。
走って来たバイクに飛び乗り、フルスロットルで加速。シドが捕まっている?場所まで全速で向かっていくのだった。
襲撃者視点
シドは襲撃者に担がれ、車の中に放り込まれた。
シドはグッタリとしており、身じろぎ一つ行わない。車の荷台には複数の襲撃者の仲間が乗っており、シドを受け取ると、直ぐに後ろ手に拘束して頭に袋をかぶせてくる。
「おい、コイツ抵抗しないが本当に生きているのか?」
「ああ、間違いない。バイタルは確認しているぞ」
「しかし、あっさり捕まえられたな。情報だともう少し苦戦するかと思ったんだが・・・」
「簡単に確保できたのだから問題はない。アジトに帰還するぞ」
男の指示で、建物の隙間に隠すように止められていた車が発進する。
そのまま何事も無かったかのように防壁を抜け、荒野に飛び出していく。
あまり性能が良くないのか、舗装も何もされていない荒野を、車体をガタガタと揺らしながら走る車の中で、男たちは後の予定を話し合う。
「それで?コイツをアジトに連れて行ってどうするんだ?イザワ様は殺せと命じられたんだろ?」
「ああ、だがその命令は取り消してもらった。この小僧には我らの遺物を盗んだ疑惑がある。それを確かめてからだ」
「遺物?」
「ああ、極秘で運ばれていた遺物だ。あるトラブルで受け渡しに問題が発生し、防壁外のワーカー崩れに依頼を出したのだが・・・・失敗した。その時の遺物をコレが回収していたとの話を聞いてチャンスを窺っていたんだ」
「なるほどな。持ってなかったらどうするんだ?」
「どこで売却したのかを確認し、殺す」
しばらく荒野を走り、彼らのアジトに到着する。
岩場の中に隠されたアジトは地下に建設されている様で、入口から入った車は坂道を下って通路を走っていく。
車は倉庫の様な場所に到着し停車、中から8人の男たちが下りてくる。
その中の一人が未だ動く気配のないシドを担ぎ下ろし、鉄製の椅子に座らせ拘束具を取り付けていく。
シドの拘束が完了した事を確認すると、仲間に合図を出す。すると、奥の扉からさらに数人の男たちが姿を現した。
その中心には、以前ワーカーオフィスの買取所でシドの遺物を没収し、横流しを行おうとして都市を追放されたイザワの姿があった。
イザワはシドが拘束され、抵抗できない状態である事を見ると棚に置かれていたパイプを引き抜いてシドの頭部に振り下ろす。
ガツン!と大きな音が響き渡り、シドの頭が大きく揺れた。
それでも気が済まなかったのか、4発5発と立て続けに殴打した後シドの頭に被せられた袋を勢いよく剥ぎ取った。
袋の中から、先ほどの殴打で皮膚が破けたのか血で顔を染めたシドが現れる。
イザワは怒りに表情を歪ませ、シドの頭や腕、腹など全身をパイプで殴り回す。
「イザワ様、そのくらいで・・・・これ以上は死んでしまいます」
「それが何だというんだ!!!どうせ殺すんだ!私の手で地獄に送ってやる!!!」
「まだコレに死なれては困ります。遺物の在処を吐いてもらわなければ。それはイザワ様の功績にもなり、中央へお戻りになる際にもスムーズに事を運ぶことが出来ます」
「~~~~!!!だったらさっさと聞き出せ!!!殺すときは私が殺す。それは絶対だ・・・」
「承知しました。おい、起こせ」
怒りの為に興奮していたイザワだが、目を充血させながらも男の説得により、パイプを手放し少し後ろに下がる。
パイプが地面に落ち、カランと音を立てると同時に、バケツを持った男がシドに近づき、中身の水をシドにかける。
冷たい水を掛けられ、意識を取り戻したのか、シドは少し痙攣するとユックリと顔を上げた。
「・・・・・・・こ・・こは?・・・・・」
「我々のアジトだ。お前は現在我々に拘束されている。生き残りたければ私の質問に答えろ」
シドはまだ状況を認識できていないのか、返事を返すことなく虚ろな目で周りを見渡す。
「・・・・・・・お前・・・イザワか?」
シドの視線がイザワに止まり、名前を口にした。
すると、イザワはシドの顔面に前蹴りを食らわせ鉄の背もたれに後頭部を叩きつける。
「スラムのゴミが・・・誰に向かって口をきいていると思っている?」
「・・・・・・・・都市を追放された・・・・・犯罪者だろ・・・?」
靴底で顔面を抑えられた状況で減らず口を叩くシドに、イザワはさらに激昂する。
もう一度シドの顔面を踏みつけ、グリグリと踏みにじりながら大声でシドに言葉を叩きつける。
「私は中央聖上第三位の息子だ!!!その私をスラムのゴミ屑風情が呼び捨てにするなど許されるとでも思っているのか!!!」
興奮し、手加減なしの蹴りを2度3度とシドの頭に叩きつけた後、後ろ手に拘束されているシドの腹部を思い蹴りつける。
盛大に暴れて体力が尽きたのか、肩で息をしながら後ろに下がっていく。
「さっさと聞き出せ!」
「承知しました。後ろでしばらくお待ちください」
最初にシドに話しかけて来た男がシドの目の前に立ち、再度質問を行う。
「お前、約一年前に荒野で遺物を拾ったな。今も持っているか?」
「・・・遺物?」
「そうだ、手の平サイズの四角い箱の様な物だ」
「・・・・ああ・・・・あの価値がつかんって言われたガラクタか・・・・忘れた」
「ガラクタではない。あれは人を神の領域にまで押し上げる聖遺物だ。選ばれし者しか使えん。お前が持っていても何の価値もない。どこへやった?正直に答えろ」
「・・・・・・覚えてねーよ・・・・俺が住み着いてたバラックにあるんじゃないのか?」
「探した。スラム内もくまなくな。それでも見つからなかった。だから聞いている」
「・・・・・・・・・あんた、あの時俺の住処の前にいたワーカーなのか?」
男は自分達がシドの住処を家探ししていた事に気付いていたことに驚く。
「ほ~……あの場にいたのか。なかなか隠れるのが上手いヤツだ。それと、我々はワーカーではない。企業は中央崇拝者等と言うが、我々は王都解放戦線の同志だ。中央の正当な権利を企業が不当に奪取している現状を正しい姿にする為に活動している。我々こそが正義であり、企業こそが世界を正しい姿に戻すことを拒絶する諸悪の根源。それを根絶する為に我々は活動している」
「・・・・・・・・・・」
男はピストルを取り出し、シドに向ける。
「いい加減話せ。あの遺物は何処にある?」
「・・・・だから・・・・知らねーって言って」
パン!と銃声がなり、シドの左足に弾丸がめり込み、血が流れ出てくる。
「グゥ!!!」
シドは痛みを堪えるように呻き声を上げ、唇を噛み耐えるように下を向く。
「最後にあの箱と接触したのはお前だ。知らないはずがない」
「・・・知らない物は知らない・・・!」
苦痛に表情を歪めながらシドは男を睨み付ける。
「一年前に手に入れた無価値な箱の事なんか覚えてるわけないだろ!」
「無価値ではない。あの箱の価値は「スラムの俺達にとっては、金にもならない食えもしないモノは無価値なんだよ!神になれるとか言ってたけど、使えなかったら意味ないだろ!そんなもの俺は知らん!!」」
男の声を遮り、シドは大きな声で主張する。
これは本当に何も知らないのでは?と男たちは思い始める。
「そんなことの為に俺達の拠点に火をつけたのか?!あれは命がけで稼いだ金で買った拠点だったんだぞ!!!」
「ゴミの命なんぞに価値などあるか!放っておけば無限に増える害虫の分際で身の程を弁えろ!!!」
少し離れていたイザワがシドの言葉に反応し罵倒を投げかける。
「もういいだろう!このゴミの知能では1年前の事など覚えていないのだ。さっさと処刑して私を安全な場所まで連れて行け!」
「・・・・・・・・わかりました。・・・・とんだ無駄足を踏んだものだな(ボソ)」
「何か言ったか?」
「いえ・・・後はお好きにしてください。車を手配し、西方地域にお連れします。そこで新しい身分証を作成しましょう」
「ふん・・・・それでいい。このゴミは私の手で処刑する。銃を渡せ」
イザワは男から銃を受け取り、シドの頭に押し付ける。
そして、未だに自分を睨み付けるシドの目を見て勝ち誇った顔を見せた。
「私に不敬を働いたことをあの世で悔いるがいい」
そう言い、イザワは引き金引いた。
カズマ君は最後までピエロとして踊ってくれました。
ありがとう、君の事は覚えてる限り忘れないよ・・・・
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