バーミリオン 再び
全員が無事遺跡から脱出し、訓練は終了となる。
遺跡から車でワーカーオフィスに直行し、キクチに訓練終了の報告と遺物の買い取りをお願いした。
キクチは訓練終了を了承し、バックパックを受け取ると中身を確認する。
「・・・・・おい、これはほとんど布系の遺物じゃねーのか?」
「そうですね、今回見つけたのがアパレルショップだったみたいです」
「ちらほらメカ系もあるが・・・これじゃー高値はつけられんぞ?」
「半分は店舗に持っていこうかと思います。シドさん達の話だと、専門店で買い取って貰ったら高く買い取ってもらえるって言ってましたから」
「・・・・どのくらいの金額だった?」
キクチはシドとライトを見てそう聞いてくる。
「確か、4点1700万コールだったか?」
「うん、それくらいだったよね?
シドとライトが素直に値段をキクチに教えると、今までダゴラ都市で取引されていた金額では考えられない高額で取引したようだ。
「どこの店舗か教えてもらってもいいか?」
「ん~・・・まあいいか。バーミリオンって店だ。第二区画の衣服商店街にある店だな」
「よし、まずはそこでこの遺物を数点査定してもらおう。お前らも少しでも高く売れる可能性が有った方が良いだろ?」
キクチがそういうと、全員が頷く。
誰も拒否しない事を確認すると、キクチはシド達にその店に案内するように頼み、全員でバーミリオンへと向かっていった。
バーミリオンまで移動し、キクチは取り合えずバックパック一つ分を査定に出してみようといい、店舗の中に入って行く。この店にキクチを含め11人で入るのは多いか?と思わなくもなかったが、遺物の値段が気になる為、全員でお邪魔する事にした。
「いらっしゃいませ」
店舗に入ると、ユウヤが以前と同じように迎えてくれる。
シド達の事を覚えていた様で、笑顔を浮かべながら挨拶を行ってくれた。
「シド様、ライト様。またお越しいただきありがとうございます。今日はどの様なご用件でしょうか?」
「どうも、ユウヤさん。今日は遺物の査定と買い取りをお願いしたくて。これがそうです」
シドがそういいながらバックパックを差し出すと、ユウヤは嬉しそうに受け取り頭を下げた。
「これはこれは、誠にありがとうございます。至急査定させていただきます。宜しければ店内の商品をご覧になってお待ちください」
そういうとユウヤはバックパックを持って奥へと消えていった。
「数も多いし時間もかかるだろ。服でも見て時間潰そうか」
「そうだね。ボクも新しいの買っとかないと、やぶれちゃったし」
シドとライトがそういうと、女性陣は少し嬉しそうに声を上げた。
「服か~いいね~」
「可愛いのあるかな」
「私も私服揃えようかしら」
「色々ありそう。私も見よっと。リンも見るでしょ?」
「はい、お供します」
5人は固まってレディースコーナーの方へ向かっていく。
それを見送り、キクチがシドの方を向いて言う。
「お前もフォーマルな服を買っておけ」
「え?」
「持ってないだろ?この際だ、ちゃんとした服を購入しとけ、ゴンダバヤシ様と会う時に着れるだろう?」
「いや、それって試合するときだろ?この格好でいいんじゃないか?」
シドは自分の一張羅(防護服)を見下ろし首を傾げる。
「いい訳ねーだろ!それはケースに入れて持っていけ!あの方と会う時はちゃんとした服を着ろ!!」
「え~」
シドの顔には面倒くさいとデカデカと書かれていた。
「え~、じゃない!・・・・お前、本当にマナー講座に放り込むぞ・・・」
キクチはドスを効かせてシドを脅し始める。
うっとシドが怯むと、女性店員のリューンが横からスっと現れ声を掛けてくる。
「お話し中失礼します。フォーマルな服をお探しなら、気に入ったデザインを選んでいただき、体に合わせてオーダーして頂くのがよろしいかと」
話の内容から、高位の人物と会う予定があると判断したリューンは、この機会に高級な服を売りつけようと画策した。
「おお!それはいいですね。コイツとアイツの分を見繕って貰えますか?少々高くなってもいいので」
キクチはシドとライトの分をリューンに頼む。
自分には関係ないと考えていたライトは急に話が飛び火して驚いてしまう。
「え?ボクも?」
「お前も試合の時ついてくるんだろ?なら持ってないとマズい」
そう言われると、そうかもしれない?とライトは考える。
服の良し悪しに頓着はしない方だが、喜多野マテリアルの部門長に私服で会うほどの度胸は無い。
「じゃ~ボクもお願いします」
「はい!承知しました。こちらにどうぞ」
キクチ、シド、ライトがリューンに連れていかれ、その場に残されたラインハルト、キサラギ、タカヤはどうしようかと頭を突き合わせる。
「どうする?」
「どうするったって・・・」
「俺達も服を見ていくか?そこまで高くないみたいだし」
「そうなのか?・・・なら見るだけ見てみようか」
彼らもメンズコーナーの方へ足を向け、遺物の査定が終わるまで時間をつぶすことにした。
ユウヤ視点
シドからバックパックを渡されたユウヤは、バックヤードで中身の確認を行う。
中には確かに圧縮された旧文明の衣類と思われるものが多数入っていた。ユウヤは専用の機械にそれぞれの圧縮パックをセットし、中に入っている物を確認していく。
前回は防護シート一枚と、制服の様な物が3着だったが、今回は当時のオシャレ着の様だった。
中にはデザインが奇抜でこのままでは着ることは出来ないだろうと思われるものもあるが、普通に現代でも通用する物もある。
極めつけは、今までバーミリオンが手に入れたことが無いような製造方法で作られた物や、未知の材質で作られている物が多かった。
この結果を受けてユウヤは急いで本社に連絡を入れる。
技術的に何としても手に入れたいが、この店舗にある金では到底足りない。
これは上の判断を仰がなければ、千載一遇のチャンスを逃してしまうと、彼は焦った。
シド達視点
「では、こちらのデザインで承ります。材質の方は如何されますか?お勧めはこちらの、ダールクロウラーの糸100%の物がお勧めですが」
リューンはここぞとばかりに高級な素材を進める。しかし、服の知識に乏しいシドとライトの代わりに話を聞いていたキクチは、その素材では不満な様だった。
「う~~ん・・・ダールクロウラーね~・・・・ファー製はありませんか?」
キクチの言うファーというのは、小型の牛の様な動物を使った生地で皮では無く毛の部分を使う。
一頭から採取できる量は少なく、非常に繊細な動物で飼育量もそれほど多くは無い。しかし、非常に艶やかで美しく柔軟な生地に仕立てることが出来、超上流階級の人間には人気が高い生地だった。
「!!!・・・・・ええっと・・・出来ない事はありませんが、お取り寄せになりますしお値段の方も一着500万は下りませんよ?」
「ええ、問題ありません」
キクチは即答するが、シドとライトは目を剥く。
「いや待って?!金払うの俺らだよな?!」
「一着500万って・・・ただのスーツですよね?」
防護服でもない、ただのスーツにそこまで金をかける必要があるのかと二人は抗議の声を上げた。
「金ならあるだろ?お前らが着てる防護服の何分の一だ?」
「いやそうだけどさ・・・」
「そこまで高いスーツって要ります?ボク達ただのワーカーですよ?」
いくらなんでも高すぎるのでは?と考えるシドとライト、しかしキクチは引くことはしない。
「お前らが会う人物の格を考えろ。これでも抑えてる方だ」
キクチにそう言われ、シドもライトも黙るしかない。喜多野マテリアルの重役と合うには、確かにそれくらいのスーツを着用するべきなのだとキクチに言われれば従うしか無い様に思う。
(500万のスーツでまだ抑えてるって一体誰と会う気なの?!)
リューンは3人の会話を聞いていて恐ろしくなってくる。しかし、高級なスーツを購入してくれそうな事には違いない。今の内に決めてしまおうとした。
「では、デザインはこの様式で、生地はファーを使わせていただきます。よろしいですか?」
「「・・・・・はい、よろしくお願いします」」
「ありがとうございます。出来上がりは凡そですが2週間ほどかかると思いますので、ご了承ください」
「2週間か・・・」
シドは楽しみにしていた試合が2週間は伸びることに落胆を隠せなかった。
スーツの仕様も決定し、料金を支払う。
すると、ワイワイと服を見ていた女性陣が両手に沢山の商品を抱えてこちらに歩いて来る。
「ここ綺麗な服多いわね。今度から服を買うならここにしようかしら」
「そうね、奥の下着コーナーの沢山あったよ。またお金に余裕が出来たら見に来ようよ」
「私もギルドのメンバーに教えてあげよ。綺麗系、かわいい系、カッコいい系全部そろってるし」
「そうなんですね、私はこういうタイプの服を購入するのは初めてですので、非常に嬉しいです」
「~~♪」
満足いく商品を見つけられたのか、彼女たちは非常に上機嫌だった。
「ありがとうございます。こちらでお会計をお願いします」
リューンがカウンターのスリットを指し、そこに商品を入れると合計金額が表示され、決済が終わると自動で梱包されて受け取り口に出てくるようだ。
女性陣はルンルンで商品を受け取り、リューンにお礼を言いながら店を出て行こうとする。
「ちょっと待って!まだ遺物の値段聞いてないですよ!」
あまりに自然に出て行こうとする女性陣をライトは急いで止め、ここに来た本来の用件を思い出させる。
「「あ」」
「そうだった・・・・」
「忘れてた」
「・・・少し舞い上がってました」
彼女らを店に引き戻すと、バックヤードからユウヤが出てくる。
「お待たせして申し訳ありません。ようやく本社との折り合いが取れました」
「お?ようやくか?」
その声に、タカヤ、ラインハルト、キサラギもカウンターの方に集まってくる。
「それで?幾らになった?」
キクチが代表して値段を聞く。
「はい、14点で7350万コールとなります。この金額でよろしいでしょうか?」
「「おお~~」」
「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
前回ここに布系の遺物を持ち込んでいたシドとライトはある程度予想していたのか驚きは小さい。だが、他の者達は布系の遺物がそこまでの値段が付いたところを見たことが無かった為に、驚きは非常に大きなものとなった。
「ええっと?この場合、誰が受け取ったらいいんだ?」
シドがキクチに確認を取ると、彼はユウヤとの会話を引き継ぐ。
「申し訳ない、私はワーカーオフィスの職員でキクチと言う。この値段の根拠が知りたいのだが構わないだろうか?」
キクチが所属と名前を明かすと、ユウヤの顔に少し驚きの表情が浮かぶ。
まさかワーカーの中にオフィスの人間が混じっているとは思わなかったようだ。しかし、もう値段を公開してしまった為、ユウヤは西方の状況を交え値段の根拠を提示する。
「はい、今西方では食料生産の他に衣類などの製造が盛んに行われている事はご存じでしょうか?その為、旧文明の遺産である布系の遺物は高額で取引されております。向こうの方では遺跡の脅威から解放されている為、戦闘用の兵器や装置などは需要が限りなく低下していますが、こういった生活や文化に密着した遺物を欲する企業は多いのです。弊社でも手に入る機会があるのなら、多少高額でも買い取る様にと指示がなされています」
「なるほど、今後もこの価格帯でお取引は可能でしょうか?」
「本社に確認しなければなりませんが、可能かと。正式に契約をとのお話でしたら、我々の上司にご連絡を入れて頂ければと思います」
ユウヤはそういうと、本社 担当部署の連絡先が記録されたコードをキクチに渡す。
「承知しました。こちらから御社へ連絡を入れさせていただきます。今回の買取金額は一度ワーカーオフィスに振り込んで頂き、私の方でワーカー達に分配します」
「畏まりました。では、早急に振り込ませていただきます」
「ありがとうございます。それでは、今日はこの辺りで」
「はい、皆さま方、本日はバーミリオンをご利用いただき誠にありがとうございます」
ユウヤはそう言うと、腰を深く曲げてお辞儀を行う。
キクチもそれに合わせて頭を下げ、店を出て行き全員がそれに続いて店を出て行くと、車に乗り込みワーカーオフィスに戻っていく。
ワーカーオフィスに戻ってくると、キクチは端末を操作し、先ほどバーミリオンから振り込まれた金額を確認する。
確かに7350万コールが振り込まれており、西方での布系遺物は価値が高いことがほぼ立証された。
「さて、残りの遺物だが一旦俺の方で預かってもいいか?バーミリオンの本社と連絡を取ってルートを確保できれば、今までより高額で買い取ることも出来るようになるだろうからな」
キクチの言葉に全員が頷き、バックパックの中身を渡していく。
「よし、メカ系の遺物の代金とバーミリオンで換金した分は今日中に振り込んでおく。これで今回の訓練テストは終了だ。皆ご苦労だった。ライトの報酬は後日振り込むが、シドの報酬に関してはまた連絡するから待っててくれ」
「はい、わかりました」
「おう、なるべく早くしてくれよ」
「ああ、でも服が届くまではお預けだぞ」
「・・・・・・そうだった・・・」
これで一連の訓練任務は終了し、久しぶりに自分たちの拠点に帰ることになる。
明日からは皆それぞれ行動していくことになる。
「今回の訓練は本当に為になったわ。ありがとう二人とも」
「うん、すっごくキツかったけど成長できたと思うわ。ありがとうね」
「シドさんもライトもありがとな。今度は俺たちの方が協力出来たらいいな」
「そうだね、何かあったら連絡ください」
「俺達も非常に貴重な体験をさせて貰ったよ。感謝してる」
「この訓練で得た事を大事にしていくわ。本当にありがとう」
「俺もワーカーになれたしな。これからファミリーを盛り立てていける。感謝してるぞ」
「私は途中参加でしたが、非常に貴重な体験をさせて頂きました。これからはヤシロさんとレオナさんと共に頑張っていきます。いつか依頼でご一緒できれば、その時はよろしくお願いします」
それぞれがシドとライトにお礼をいい、自分たちの拠点へ帰っていく。
「それじゃー俺達も帰るか」
「そうだね。お風呂の改修も終わってるだろうし、今日と明日はゆっくりしようか」
「そうだな」
シドとライトも、1ヶ月ぶりに自分たちの拠点へ帰っていった。
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