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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
104/217

ランク10新人ワーカー 誕生

16時になり、全員が車の所に集合する。

1人も欠けることなく訓練を終えることが出来て、シドは満足そうに頷いた。

ユキチームはモンスター討伐を行いながら遺跡内の隠し通路を発見し、内部の遺物を持ち帰っていた。アズミチームは遺跡の表面上の探索を行い、モンスターと戦いながら遺物を収集。アリアチームは遺物捜索を捨て、モンスター討伐に全力を尽くし、全チームの中で最も多くのモンスターを討伐する。

最後のキサラギチームは、途中ワーカーの襲撃に遭うなどのトラブルが発生したが、訓練を続行。遺跡探索を行っていたが、建物内で防犯機構に触れてしまい、てんやわんやの大騒ぎになった。しかし、ラインハルトの機転とキサラギの指示でなんとか全員生き残る事が出来る。


多少のトラブルは有ったが、こうして全員が無事に訓練を終えることができた。


「よし!初心者組はなんとなくでも遺跡がどういう所か分かったと思う。今後ワーカーライセンスを取得し、自分達で行動する時の事を良く考えてみてくれ。特にキサラギチームは油断してるとどんなことになるか良くわかっただろ?」

「・・・・身に染みたっす・・・」

防犯機構を作動させてしまったビリーが項垂れながら返答する。

「ああいうギミックはちゃんとシーカーとして知識があるヤツが触らないと危険だ。今回は運が良かったと思え。それじゃ、最初から話していたように、今日の成果はお前等全員で山分けだ。遺物はキクチに提出しろ」

シドがそう言うと、遺物を収集してきた者たちはバックパックをキクチに渡していく。

「査定は至急行って宿まで届ける。それまで全員宿で体を休めてくれ」

キクチはそういうと、車の中へ遺物を積み込み、この場の全員はシドに促され、車に乗り込み宿に帰っていく。



宿に戻り、皆それぞれ食事を取る。

今日はワーカー志望組とスラム組は同じテーブルを囲み食事を取っていた。

この3週間、同じように訓練を受け、荒野を駆け回った仲である。双方には防壁内・防壁外出身などの壁などなく、かなりの連帯感が生まれており、今日の遺跡探索訓練の内容や注意すべきと思った事を話し合っていた。


「お前らの方はどうだったんだ?」

「俺達は最初はモンスターと戦ってたけど、ユキさんが隠し扉を見つけて遺物を回収できた。でも、その後も訓練続くだろ?遺物を担いで遺跡をうろつくのが怖いのなんのって・・・」

「そうなんだよな~。荒野での訓練って重さは一緒でも中身は瓦礫だろ?あまり緊張しなかったけどさ、中身が遺物になると気が気じゃねーのよ」

「そうね、重い上に緊張感で足が震えたもん。でもその状態でモンスターと戦わないとでしょ?あの訓練が無かったら帰って来れてないんじゃない?」

ユキチームの配属された者たちがそう感想をいう。

「そうなんだな・・・俺達の方は建物の屋上に陣取ってひたすらモンスター退治だったんだけどさ。次から次に出てきて生きて帰れるか心配になったぜ」

「そうだな、あまり派手に撃ちまくるとその音でまたモンスターを呼び寄せるし・・・アリアさんには無駄弾が多いって怒られてさ。良く狙わねーとって思うと緊張で外すし・・・・リンさんにもすげーフォローされた・・・」

「何処から来るかも分からないってのが恐ろしかったな。陰から近づいて来て建物の中に入ってこられた時は軽くパニックになっちまったよ」

「シーカーのメンバーは必須だよな」

アリアチームのメンバーはその言葉にうんうんと頷いた。

「俺達のチームはアズミさんの指示通りに討伐と遺物探索半々って感じだった。とにかく移動が多くてさ。モンスターの背後とか遮蔽物の影から確実に仕留められる様に動くんだけど、それが速ぇーのなんのって。追い掛けるだけで精一杯だったぞ。遺物をバックパックの中に入れてさ、段々と重くなっていってるのに動きの精度とか速さが全然落ちねーの。あの人サイボーグなんじゃねーのか?」

「ミリーさんも同じだったぞ?俺達の後ろをついて来てたけど、コッチは汗だくで走ってるのに息一つ乱して無かったからな・・・・」

「まあ、遺跡での移動の仕方とか周りの注意の仕方とかは丁寧に教えてくれたよな。すっげー参考になったよ」

「そうだな・・・」

アズミチームに配属されたメンバーは今日も走り回されたようだ。

「俺達は途中までは順調だったんだけどな。他のワーカーに襲われてよ」

「そうだよな、スラムのゴミが!って襲ってきて、返り討ちにしたらまた別の奴らが出て来やがったんだ。最初はキサラギさんとラインハルトさんが対応してたんだけどよ、話が通じなくて戦闘になったんだよな」

「アイツ等頭おかしいっすよ!いくらスラム出身でも人モドキは酷いっす・・・」

キサラギメンバーは今日の襲撃事件の事を話す。

「なんだそいつら・・・狂ってんぞ・・・」

「いや、養成所にも数人いるぞ?この前卒業した天覇のカズマとかって奴はそんな事言っててライト教官にぶっ飛ばされたんだろ?」

「ああ、いたいた。今どうしてんのか知らねーけど。顔も見たくねーぜ」

「それでお前らは疲れた顔してたんだな」

ワーカー志望組の少年がそうスラム組のメンバーを心配する。

「いや、そいつらも結構あっさり倒したんだけどな」

「コイツが建物の中で機械に触りやがって、防犯機構が作動してさ。機銃は出てくるは小型の機械モンスターは出てくるはでエライ目にあったんだよ」

そういいながら戦犯のビリーを指しながら言う。

すると他のメンバーはきょとんとした後、大笑いをする。

「あははははは!そりゃーオメーが悪いな!!」

同じドーマファミリーの組員がビリーの肩を叩きながら笑う。

「散々注意されただろ?何聞いてたんだよ」

ワーカー志望組のメンバーも笑いながらビリーをからかう。

「いや情報収集機で変な反応が出てるから何だろうと思っただけっすよ!」

「そんなもん触るなよな。死んだらどうすんだよ」

隣の男も笑いながら呆れ顔をビリーに向ける。

「物凄く身に染みたっすよ!!二度とやらないっす!」

「まあまあ、お前情報収集機を使えるんならシーカーポジ目指したらいいんじゃないか?一応ランク10のライセンス手に入れたら格安で講習とか受けられるって話だしよ」

「うぐぐぐ・・・もう旧文明の機械触るの怖いっすよ・・・」

「トラウマになってんな。でもキサラギさんに放り込まれると思うぞ?オメー結構頭いいしな」


そう言い合いながら食事を取り終えると、シドとライトがキクチを連れて食堂までやって来る。


「おーい、今日の報酬が確定したぞ。皆集まれ~」

食堂には他のワーカー達も居ない為、シドはここで分配する事にした様だ。シドの言葉に初心者組はワクワクしながら集まって来る。

「今回の報酬は初心者組だけで分けることになった。これはワーカー組全員の許可を取ってる。今までの訓練よく頑張ったな」

初心者組はワーカー組の方に視線を向ける。

「これからワーカーとして活動するには入用だしね。これからも頑張って」

ミリーが笑顔を浮かべていい。

タカヤが言葉を続ける。

「俺達は明日中層に行くからな。そこでもっと稼ぐさ」

ワーカー組全員は何も言わない。

本当に全額初心者組で分けてもいいようだった。

「まずはお前たちのワーカーライセンスを渡すぞ」

キクチはそういうと、初心者組全員にワーカーライセンスを渡していく。その中にキサラギの物もあった。

「おお~・・・」

「私のライセンス・・・・・」

「なんか、感慨深いな」

「これで俺もワーカーなんすね」

ランク10のワーカーライセンスを手に入れる。これは養成所からこの訓練に参加して来た者たち以上にスラム組には意味があった。

このライセンスを持っていれば、自分達は防壁の中に入ることが出来る。今まで以上に安全性の高い水や食料を手に入れることが出来るようになり、高度な装備も買うことが出来る。

個人としても、組織としても安全性が飛躍的に上昇すると言う事だ。

そんな者たちがキサラギを含めて13人も誕生した。ドーマファミリーはスラム街の中でも有数の戦力を保有した事になる。

「テメー等、ライセンスを手に入れたからってウチを抜けよーとするんじゃねーぞ。そのライセンスはボスが取りに行かせてくれたんだからな」

「わかってますよ!」

「これから一層頑張りますって!」

「俺もやるっすよ!」

ドーマファミリーのメンバーはさらに意気を上げていく。

「そうか、まずはビリー、お前はシーカーの講習からだな。もう予約してるから明日から参加してこい」

キサラギは唯一低レベルとはいえ情報収集機を扱えたビリーを講習にねじ込んでいた。

「え?」

「ボスにも伝えてある。頑張れよ」

「おう!頑張れよ!」

「ドーマファミリーの期待の星だな!」

「しっかり覚えてこいよ!遺跡で活動するにはシーカーの存在は必要不可欠だからな!」

「・・え?」

呆然とするビリーを他所にドーマファミリーのメンバーは盛り上がる。

「はいはい、盛り上がるのは後にしておけ。今から今日の買い取りと討伐報酬を渡す」

キクチがそういい、シドがバックパックの中から20個の封筒を取り出し全員に配った。封筒は大きく膨れており、かなりの大金が入っている事は一目でわかる。

「口座に振り込んでも良かったんだが、現金を見た方が稼いだ気になるだろ?」

シドはそう言い笑いかけた。

「総額3350万コールだ。一人167万5000コールだな」

その言葉に全員が驚く。ワーカーは命懸けの職業で、成功すれば高収入を得られると聞いていたがここまでとは思っていなかったようだ。

「内訳は遺物の値段が2700万コール。ユキ達が発見した物の質が良かったのとアズミチームの数が多かった。それとモンスター討伐報酬が650万コールって所だな。これはアリアチームの討伐数とキサラギチームの機械系モンスターの売値も含まれる」

自分のポカの結果も報酬にはプラス要素になったことにホッとするビリー。

「後日、全員ワーカーオフィスに来てワーカーコードの登録をしてくれ。支給した装備を使い続けたい者もその時に申告してくれればいい」


新しいワーカーが誕生し、これからそれぞれ活動していくことになる。1ヶ月の期間を待たずに卒業となったのはワーカーオフィスの都合だった。

彼らはタカヤとユキと同じように、今までのランク10の基準を大きく超えている。

その為これ以上の訓練は必要ないとクリスティア・マガラは判断し、全員分のワーカーライセンスを発行したのだった。

この中でシーカーとしての知識を得たいものは追加講習に参加する事になる。

新人ワーカーとなった彼ら(キサラギを除く)は、自分のライセンスと報酬を大事そうに抱え自分達の部屋に帰っていく。


「アイツ等のランクには頭抱えなかったんだな」

シドがキクチにそういう。

「ああ、前例があったからな」

キクチはそういい、タカヤとユキに視線を向ける。

「んで?この訓練は参考になったのか?」

「まあな、このまま採用する訳にはいかんが、調整して実施していく事になる。何回かテストを挟みながらな」

「教官はどうするんですか?」

ライトがそのように質問すると、

「喜多野マテリアルから教官を派遣してもらえることになった。訓練映像を見せたら引退間近の者でも熟せるだろうと判断されてな」

その言葉にシド以外の全員が驚いた表情を見せる。

喜多野マテリアルから人員が派遣されるとは、企業の本気度がうかがえる決定だった。それが引退間近の人員であろうとも。

「へ~、やっぱおっちゃんが絡んでるのか?」

その事に気づかないのか興味もないのかシドは平然と質問を返す。

「・・・・・・・そうだ、ゴンダバヤシ様に口利きしてもらい、本社で決定された」

シドがゴンダバヤシの事をおっちゃんと呼ぶ事に顔をしかめながらキクチはそう答える。いよいよとなったら、本気でマナー講座に放り込むつもりだ。

「なるほど!俺の報酬忘れるなよ?」

「ああ、もう許可も取ってある。あの方が約束を違えることは無い」

「よっし!明日も気合入れていくぞ!!」

シドは嬉しそうに注文カウンターの方へ歩いていく。キクチに付き合って防壁内に行っていた為まだ食事を取っていなかった。


シドの後姿を見送り、キクチは溜息を吐きながらこの場を去ろうとする。

「じゃ、俺は帰るぞ。ライト、明日からの様子は渡したドローンで撮影しておいてくれ」

「はい、わかりました」

そういうとキクチは宿を出ていく。


「ね、ライト君。シド君の報酬ってなんなの?」

ミリーがそうライトに聞く。

「ああ、シドさんはゴンダバヤシ様の護衛をしている、デンベ?って人と模擬戦を要求してるんです」

「ふ~ん、そのゴンダバヤシ様ってどんな人なんだ?都市の幹部か何かか?」

タカヤも興味ありげに聞いてきた。

「ううん、その人は喜多野マテリアル 兵器開発部門の部門長をしてらっしゃる方だよ」

ライトがそういうと、全員が固まった。

「・・・・・・ん?喜多野マテリアルの部門長?」

ラインハルトはそう呟く。

「そう、部門長」

「それって、取締役の次の役職よね?」

アズミがそう確認を取ってくる。

「そうみたいですね。そんな人を護衛する人と模擬戦か~。観戦できるかな?」

「いや待って?シドってエリア統括企業の部門長の事をおっちゃんって呼んでるの?!」

アリアが信じられないと言った表情でいう。

「そうみたいですね~。なんか仲良くなったみたいですよ?またバイクで勝負する約束もしたって言ってたし」

「いやいや待って待って!!特大の不敬でしょ?!なんでライトはそんなに普通にしてるの?!」

「許可をもらってるみたいですね。キクチさんにも確認してもらったし。・・・ボクはもう諦めたよ」

ライトが何を諦めたのかはわからない。

この場の誰よりも上流階級出身で、喜多野マテリアルの部門長がどの様な立場なのかを正確に知っているリンは青くなって震えていた。


すると料理を注文し終わったシドがこちらに向かってくる。

全員がシドを信じられないものを見る目で見ていた。

「ん?どうしたんだ?」

皆がなぜそんな目で見てくるのか分からないシドは首を傾げる。

「何でもないよ。ボクも注文してこよっと。皆はユックリ休んでね。明日は中層に行くからより一層気合入れて下さい」

ライトはそういうと自分の分を注文する為カウンターに向かっていく。


「・・・・やっぱりアイツ等ヤベーな」

タカヤの呻きが全員の心を表していた。








『13人全員がワーカーライセンスの取得に成功しました』

「そうですか、あなたもホームに戻って来るのですか?」

『いえ、俺はまた明日中層まで行って訓練を受ける予定です』

「そうですか、わかりました。気をつけて下さい」

『はい、ありがとうございす』


キサラギから報告を受けたドーマファミリーのボス、ルインは情報端末を置き、息を吐き出す。

ランク10のワーカーを13人も保有する組織。

その様な存在はこのスラム街には一つたりとも存在しない。それが最大クラスの組織であろうとも。

これは強力なアドバンテージであると共に、チャンスでもある。これを機に一気に勢力拡大を目論むこともできる。遺物の収集を自分の組織だけで行えると言う事は、その分他の闇市より低コストで運用できると言う事にもなる。

しかし、このアドバンテージは一時的なものでしかない。

ワーカーオフィスが訓練所を本格的に始動させれば、スラム街から多数のワーカーが誕生する事は間違いない。

今この瞬間から動き出さなければ、あっと言う間に追いつかれてしまうだろう。


「・・・・ここからは良く考える必要がありますね・・・」


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哀れビリー。強く生きろ (……でもこういうヤツに限って後々思わぬ活躍をするんだよな)
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