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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
103/217

キサラギチーム 襲撃

<ライト、他の奴らはどんな感じだ?>

<特に問題ないかな?順調に戦ってるよ。ユキチームは建物の中に入って行ったから隠し通路でも見つけたんじゃない?>

<少し放っておいても大丈夫か?>

<大丈夫だと思うよ。どうしたの?>

<トラブル発生だ。混ざらなくていいからコッチに様子を記録できる距離にまで寄って来てくれ。キクチのドローンもあるから大丈夫だと思うけど一応な>

<わかった>


シドはそこそこ離れた距離からキサラギチームの様子を観察しており、危険だと判断した場合は直ぐに駆けつけられる様にしていた。

彼らは順調にモンスターを討伐していたのだが、何故か他のワーカーの攻撃を受け戦闘になる。

襲撃してきた3人は問題なく倒せたのだが、さらに別のワーカー達10人がキサラギ達の方に近づいてきた。

ここからでは会話の内容はわからないが、今までの経験から難癖を付けに来たのは間違いない。

広範囲索敵が可能で、記録も取れるライトに状況の把握と記録を頼み、少し近づいてキサラギ達とワーカーの様子を窺う。



キサラギ達視点


「あ~・・嘆かわしい、仲間たるワーカーを人モドキ風情が殺すなど、許されることではないな」

急に表れたワーカーの一人がそういい、こちらに侮蔑の視線を投げてくる。

「こちらは襲われた方だ。反撃して当然だろう」

「それがそもそもの間違いだ。お前等スラムの住人は人では無い。反撃どころか生存の資格も有してはいないという事をまず知るべきだな」

男はそういい銃を向けてくる。

キサラギや他のメンバー達も銃を持つ手に力が入る。しかし、まだ相手に向ける様な事はしない。

ここでコチラが銃を向けてしまえば、その時点で戦闘が始まってしまうからだ。流石にワーカー10人対スラム組6人+1で撃ち合いを始めたいとは思わなかった。

「待て、レイブンワークス所属のラインハルトだ。我々は今、ワーカーオフィス主導の訓練に参加している最中だ。ここで戦闘を行ってはそちらの立場も悪くなるぞ。まさかそちらもワーカーオフィスと敵対したい訳ではないはずだ」

「レイブンワークス?なぜ3大ギルドのメンバーが人モドキと行動している?」

「さっき説明したはずだ。訓練に参加していて、同じチームとして動いている」

「は!レイブンワークスも地に落ちたな。ゴミどもと行動しなくてはならないとは同情するぞ。このゴミはこちらで処分する。見逃してやるからとっとと消えろ」

「そうはいかない。こちらを攻撃すれば反撃するし、戦闘後にはレイブンワークスから正式に抗議させてもらう」

「・・・・・ふん、死体がどうやって抗議するのか楽しみにしておく」

男はそういうと、銃口をラインハルトに向け引き金を引いた。

「!」

ラインハルトが飛んでくる銃弾を避けると、彼の仲間も攻撃を開始した。

キサラギを含めたメンバー全員は遮蔽物の陰に飛び込み、全員無傷で回避に成功する。

「おい!ラインハルト!反撃していいのか?!」

「こうなったら仕方がない!やるぞ!!」

ラインハルトは陰から飛び出し、射線が通っている敵に向かって正確に銃撃を行う。

あの訓練の中でまだまだ拙いながらも時間圧縮を会得していたラインハルトは数秒の内に3人を撃破することに成功する。

キサラギや他のメンバーも訓練の成果をいかんなく発揮し、次々と敵を撃ちぬいていった。


「!!クソ!!なんだコイツラ!!!」

キサラギ達の強さが予想以上だったため、敵のリーダーは狼狽する。しかし、この戦場でその隙はあまりにも大きすぎた。

瞬く間に仲間を撃破され、残っているのは自分一人となり4方から銃弾を撃ち込まれ吹き飛ばされた。


銃声が鳴りやみ、キサラギチーム以外に動くものは居なくなった。

全員が遮蔽物の陰から出てくる。


「なんか、めっちゃ呆気なかったすね・・・・」

「そうだよな。ワーカーってもっと強いのかと思ってた・・・」

「キサラギさん、どう思います?」

ドーラファミリーのメンバーは少し困惑気味にキサラギに聞いてくる。

「わからん・・・どこかのギルドの下っ端って所か?」

あの訓練に参加した者たちは、体力から射撃能力、回避能力、判断能力までもが飛躍的に向上していた。

遺跡で活動しているワーカーを一蹴できるほどに。

「恐らく彼らはブルーキャッスルに所属しているワーカー達だ。あそこは偏向的な思想と言うか、選民的な思考の者がほとんどだからね」

ラインハルトはこの襲撃者たちに心当たりがあるらしい。そして、キサラギもワーカーギルド ブルーキャッスルの事について少し知っているようだ。

「ああ、スラムを排除するだとかなんとかを謳ってるギルドだったか?」

「そうだね。ワーカー界隈でも些か問題になってるんだよ」

「まあ、コイツ等の事よりもこれからどうしたらいいんだ?まだ探索を続けていいのか?」

キサラギは人を殺した事よりも、これから訓練を続行するのか中止にするのかが気になるようだ。スラムの組織に所属し、武力担当のトップに座っているだけあって殺しには慣れている。

当然その部下たちも。

今日初めて命がけの対人戦を経験したラインハルトは、まだ少し葛藤が心の中にあったが、こういう一面もワーカーにはあるという知識はあった。

ギルドの先輩達からも対処方法は聞いていた。

先輩曰く「モンスターとして対処しろ」

そう言われていた。


ラインハルトは軽く息を吐き出し、気持ちを切り替える。これが出来なければ生き残れない。


「そうだな・・・一度帰還して報告するのが良いと思うけど・・・・」

「おう、おつかれ。コイツ等の処理は俺がやっとくから、お前らは訓練続行だ」

全員が声の方を見ると、3人のワーカーを引きずったシドが立っていた。

「・・・お前・・・何処に?いや、それよりもそいつ等は?」

キサラギはシドの持っている人間に目を向け質問する。

「こいつらは狙撃要員だったみたいだぞ?お前らの事を狙ってた。流石にこの数の狙撃に対処しろってのは素人組5人にはキツイと思って俺の方で始末しといたんだ」

シドはそういうと、地面に倒れている者たち13人を集め出し、バックパックの中からとりだしたロープで一纏めにする。

「んじゃ、16時までには帰って来いよ」

シドはそういうと、16体の人間だったものをズルズルと引きずって運んでいく。

キサラギ達ドーマファミリー組は、その光景をどこかで見たなと思いながら見送った。


「・・・・・まあ、続行の指示が出たし、そろそろ行動しようか」

「・・・・・そうだな、遺跡の中でボーっとするのは危険だし、気を引き締めていくか」

キサラギチームは気を取り直して訓練を続行する。



キクチ視点


キクチはキサラギに付けていたドローンで、先ほどのやりとりの一部始終を見聞きしていた。

今シドがこちらに向かっており、彼らの死体を運んできている。

彼らの言動からほぼ間違いなくブルーキャッスルのメンバーだろう。彼のギルドは様々な場面で面倒ごとを引き起こし、ワーカーギルド内でも度々問題として取り上げられるが、都市幹部達との繋がりが強く抗議をしても暖簾に腕押し状態であった。

そればかりか、都市の方から抗議の声が返ってくることもあるほどなのだ。

しかし、今回の騒動は今までとは事情が異なる。

喜多野マテリアル 部門長直々の指令で行われている訓練の訓練生をスラム出身者だからという理由だけで襲撃してきた。

前回の会議ではゴンダバヤシ様は都市幹部のスラム出身者に対する発言に強く叱責したとの話もある。

この状況でブルーキャッスルが不当な選民意識で襲撃してきたという事は、彼らにとっては致命的な失敗になるだろう。


喜多野マテリアルから正式に解体命令が出されるかもしれない。

しかし、自分達こそが正義と信じて疑わない彼らがその話をすんなり受け入れるとも思えない。必ず何か行動を起こすことは間違いない。

なんらかの対策を考えねばと腕を組み思考を加速させていると、自分の横からドサっと音がする。

そちらの方を見ると、16人分の死体を運んできたシドが立っていた。


「キクチ、見てただろ?襲撃者全員集めて来たぞ」

キクチは死体の山に目を移し、

「全員死体だろ?」

という。

だがシドは

「いや、一人生きてるぞ」

といい、腰の刀でロープを切断。纏められていた山が崩れ、そこから一人の男を引っ張り出す。

「そいつは・・・」

その男はブルーキャッスル達の先頭に立っていた男だった。1番最後に倒され、4方から弾丸を撃ち込まれていたが、着ている防護服の性能が他の者より高く、銃弾を防いでいた様だ。

「んじゃ、起こすぞ」

シドはそういうと、持っていた回復薬を男の口に放り込み、無理やり飲み込ませる。

しばらくすると、男の頬を張り始めた。

「おい、起きろ」

最初はペチペチくらいの強さだったが、目を覚まさない男に焦れだしたのか、パンパンからバチーン!バチーン!と音が変わっていく。

「おいシド、それ以上やったらそのビンタで気絶しないか?」

「大丈夫だろ、ワーカーだぞ?」

そう返答しながらもビンタを止めないシド。キクチは(お前らを基準に考えるんじゃねーよ・・・)と思いながらも、その行為自体は止めない。

段々と男の顔がはれ上がっていき、これ以上やると死んでしまうのでは?とキクチが考えていると、男が目を覚ます。

「ふぁ!ふぁにが!!」

顔面がはれ上がっている為上手く話せないようだ。すると再びシドが男の口に回復薬と水筒を突っ込み、無理やり飲み込ませる。

「ごぼごぼぶふふぇ!!!」

男はむせ返りながらも水を流し込まれ、涙と逆流した水が鼻から流れ出てくる。シドは回復薬を飲み込んだと判断したのか、水筒を口から抜き放り投げた。

「よし、回復したな。お前誰だ?」

回復薬の効果で、顔の腫れが引き始めた男にシドが質問する。

「ごほ!ごほ!ごはぁ!・・・・はあはあはあ・・・・貴様何をする!!!」

顔を真っ赤にした男はシドに怒鳴りかかってきた。シドは鳩尾に拳をねじ込み男の口を閉ざさせる。

「回復してやったんだよ。ほら、俺の質問にも答えろ」

男は防護服を貫通させるシドの怪力で横隔膜を殴られ、呼吸困難になり悶絶する。

「おい、答えろよ。もう一発いっとくか?」

シドはそう言いながら拳を固めていく。それを見たキクチは慌てて止めに入った。

「やめろバカ!話が進まんわ!」

キクチは男の呼吸が整うのを待ち話しかけた。

「俺はワーカーオフィスの職員のキクチだ。所属と名前を提示しろ」

「・・・・・私にこの様な事をしてタダで済むと思っているのか!私はブルーキャッスルの第三部隊隊長のダラスだぞ!!!」

男はさらに激昂しキクチにそう所属を告げてくる。

「BCの隊長様だとよ。キクチ、記録取ってるか?」

「ああ、大丈夫だ。では、ダラス、何故この訓練を襲撃した?」

「何故だと?スラムのゴミを掃除するのに理由など必要ない!」

「そこだ、なぜ彼らがスラム出身だと分かった?この情報はワーカーオフィス内でも共有はしていない。彼らの見た目でもスラム出身者とは分からないはずだ。どこから情報を手に入れた?」

「・・・アイツ等がスラムから出てくるところを見た者がいるからだ・・・」

「たったそれだけの事で襲撃してきたのか?この訓練の参加者を?・・・この訓練はな、喜多野マテリアル直々の意向で行われている。それを襲撃するとはどういうことか理解できていないのか?」

キクチはこの訓練を主導しているのがワーカーオフィスでは無く、喜多野マテリアルであると言う事をダラスに教える。

すると、ダラスの表情が固まり、汗が噴き出してきた。

喜多野マテリアルが主導している訓練を襲撃する。それはあの企業に対する明確な攻撃であった。

「今日遺跡で訓練を行うと言う事は、オフィスの中の幹部クラスと都市幹部しか知らないはずだ。それなのにお前たちはピンポイントで襲い掛かって来た。これを偶然と片付けるのは無理があるぞ」

キクチは追い打ちをかけていくが、ダラスは下を向き沈黙を続ける。

「誰から情報を貰った?正直に話せ。そうすればブルーキャッスルの減刑を進言してやる」

そう言うも、ダラスは何も話そうとしない。ただ青い顔で下を向き口を閉ざす。

「・・・・・・おい「キクチ、このままじゃ埒があかねーよ。俺に任せろ」」

キクチが再度問いただそうとすると、シドが俺に任せろと言ってくる。

「・・・・・何をするつもりだ?」

訝し気にシドを見るキクチ。

「なに、話したくなるようにすればいいんだろ?そういうのは得意だ」

シドはダラスの髪を掴み、瓦礫群の奥へと引きずっていく。

「・・・・・・・・」



キクチの目も耳も届かない場所まで移動したシドは尋問を始める。

<さて、始めましょうか>

<おう、頼んだ>

シドはイデアの指示の元に尋問を開始する。



キクチがしばらく待っていると、シドがダラスを連れて戻って来る。

ダラスは両手両足を縛られた状態でなぜかパンツ1丁だった。目・鼻・口から体液を垂れ流し、ビクビクと痙攣しており、よく見たら失禁もしていた。

「・・・・・お前何をやった?」

ダラスの状態に引きながらシドに質問をする。

「なかなか喋らないからな、くすぐったんだよ。痛みには耐えられてもくすぐりと呼吸困難には耐えられなかったみたいだな」

シドはそういうと、情報端末でパシャパシャと画像を取り始める。

「なにやってんだ?」

「ん?また手を出して来たらネットにばら撒くぞと脅そうかと思って」

「・・・・・・やめてやれ」

そんな事をされてはワーカーとしてだけはで無く、人としても終わってしまう。

「それで?なんて言ってた?」

「都市防衛隊管理部のバランド・ハールゼンって奴から依頼が来たって言ってたぞ」

シドはそういうと、キクチに会話の録音データを送信する。

キクチはそのデータを再生して確認すると、息も絶え絶えになりながらも、笑いながら都市からの依頼を受けたブルーキャッスルの内情を語るダラスの声が録音されていた。

「・・・・・・・わかった。感謝する」

「どういたしまして」

キクチはこの証拠を議会に提出しなければならないのかと頭を抱える。

「じゃ、俺は訓練の様子を見に行くから、ここの処理は任せるぞ」

シドはそういうと遺跡に向かって走り出し、あっという間に見えなくなった。キクチは溜息をつきながらワーカーオフィスに連絡を取り、ダラスの身柄確保と、ブルーキャッスルメンバーの死体の処理に入った。


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