45_恋バナは突然に
第45話です。
シンシアお姉さんは乙女なので、乙女らしい話題を提供してくれる貴重な人材です。きっと百戦錬磨なのでしょう
最下層で一眠りした後、ダンジョンの出口に向かう。行きとは違って帰りはとても穏やかな道のりだった。
私の鼻先に黄色い蝶々が止まって、少し擽ったい。
「あ、ビョルンさん。この蝶々ってなんですか?」
「フライバタフライ。油で炒ると美味い」
「えぇっ!?食べるの!?」
「森の貴重なタンパク源だ」
「食いでが無さそうに見えますけど……」
私とビョルンさんの道中は、いつもこんな感じだ。私が質問して、彼は気まぐれに教えてくれる。そんな呑気な珍道中を、レイドさん達パーティは後ろから見守ってくれていた。
「よし、この湖で少し休憩しよう」
第3階層に来たところで、レイドさんが小さな泉を見つけた。私たちは水辺に腰を落ち着けて、しばしの休憩を楽しんだ。
私が湖面を見つめていると、シンシアさんが後ろから近寄ってきて、するりと腕を絡めてくる。
「ねーえ、ルナちゃんは好きな人いないの?」
「へっ!?」
道中、シンシアさんの急な恋バナにひっくり返りそうになって、ビョルンさんに首根っこを掴まれる。
それまで雑談めいたことしかしていなかったのに、どうしてそんなことを聞くのか。
「だってぇ、気になるじゃない?ね、リーナ?」
「たしかに気になる」
リーナさんは私とビョルンさんの顔を見比べて、深く頷いた。
「まさか、私とビョルンさんのことを仰ってます?」
「いーえ?私はただルナちゃんの事を聞いただけよぉ」
心底楽しそうにくすくす笑うシンシアさんだが、目線は完全にビョルンさんに向いている。ビョルンさんと目が会った瞬間、わざとらしく視線を逸らした。
やっぱりシンシアさんは、同族としてビョルンさんに気があるのでは!?
「わ、私たちはビジネス上の関係ですので!プライベートなことは全く!ございません!まだビジネスパートナーとすら呼べるかも怪しいくらいですし!」
ハンズアップしながら叫ぶと、シンシアさんとリーナさんは顔を見合せてため息をついた。
「なぁんだ、ぜったい面白いことがあると思ったのに」
「私はこれまでそういう経験がなくて…… 」
「もったいない!人間の寿命は短いんだから、もっと楽しまなきゃ!」
後方で話を聞いていたレイドさんが困った私を見かねて、シンシアさんを諭してくれる。
「シンシア、なんかその言い方だとお節介な近所のおばさんみたいだよ」
「おばさんですって!?なんて悪いお口なのかしら!そんな悪い子にはファイアボールよ!」
「ちょっと!本当に撃たないでよ!?」
シンシアさんとレイドさんが戯れ、リーナさんがきゃらきゃらと笑い、ドゥーガンさんが呆れたようにため息をつく。そんなレイドさんパーティのおかげで、道中の空気が明るいのはとても喜ばしいことだ。
「おい」
「なんですか、ビョルンさん?」
その場から動かないまま、ビョルンさんが不意に話しかけてきた。彼から話を振るのは珍しい。
「我々は、ビジネス上の関係だと言ったな」
「そうですね。一応、共に商売をしている間柄ですし」
もしかして、嫌だったのかな。
謝ろうとして口を開きかけた時、ビョルンさんが息を吸った気配がしたので黙る。そして少しの沈黙の後、ぼそりとつぶやきが聞こえた。
「……で、いい」
「え?すみません、よく聞こえなくて」
「ビジネスパートナー、で……いい」
それだけぶっきらぼうに言うと、私の返事も待たずに立ち上がって、草をかき分けてスタスタと歩いていってしまった。
「ちょ、ビョルンさん!?それって、私をビジネスパートナーとして認めてくれたってことですよね!?」
「やかましい」
「もう、待ってくださいよー!」
私は緩む口角を抑えられないまま、ビョルンさんの大きな背中を追いかけた。ビョルンさんは心底鬱陶しそうにしていたが、その歩みがいつもより遅いことに私は気づいている。
素直じゃないにも程があるでしょう、このツンデレエルフ!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回更新は2月10日12時です




