44_ツンデレのデレの部分はレアアイテムより難易度が高い
第44話です。
ツンデレの醍醐味とも言えるデレの部分。それは時々見るからこそ至高……という考えで書いております。お楽しみいただけると幸いです
少し離れた水辺に座っていたビョルンさんの元に歩いていって、スープ皿を差し出す。彼は白い湯気を上げている皿を見て、スンと鼻を鳴らした。
「ビョルンさんも、どうぞ」
「……あぁ」
気まずい空気が流れている中、おずおずと差し出すと、静かに受け取ってくれた。この料理はこの世界のレシピに乗っ取って作ったものなので目新しさはないはず。
ビョルンさんは警戒することもなく、一口掬ってスープを飲んだ。そしてきつく顰めていた目元を少し緩めて、ほうっと熱の篭った息を吐いた。
いつもみたいに『悪くない』と言ってくれたらいいのだけれどな。
「……美味いな」
「えっ」
「美味いと言った」
「き、聞こえなかったわけではなくてですね」
予想外な言葉に素っ頓狂な声を上げてしまった。そしてビョルンさんの冷たい両頬を挟んで覗き込んだ。
こんなに素直になるなんて、やっぱりよっぽどのダメージを受けたんじゃないか!?
「どうしたんですか?やっぱり体調が悪いんですか!?」
「問題ない」
しかしビョルンさんは鬱陶しそうにそっぽを向くだけ。
「ただ感想を述べただけで、なぜそうも取り乱す」
「だって!今までずっと『悪くない』だったじゃないですか。急に素直になったら、何かあったのかなって思いますよ!」
「……別に、素直になることくらい……ある」
いや、そんな途切れ途切れに言われても説得力ありませんて。
ビョルンさんはどこがいたたまれなそうに魚を一口、二口とちびちび齧っている。いつもは大口開けて食べるのに、遠慮がちな食べ方に違和感がある。耳も下がってるし。
もしかして、さっきのことを気にしてる…?
私が口を開こうとした時、ビョルンさんが私を見た。
「お前も食え」
「あ……そうですね。私もいただきます」
そういえば皆に食べてもらうばかりで、味見以外の食事をしていなかった。私は自分の皿にスープをよそい、ビョルンさんの隣に腰掛ける。
白い湯気の立つ透明なスープをひと匙掬って、ふうふうと息を吹きかけて冷ます。実は猫舌なんだよな、私。
「うっわ……!」
スープを頬張った瞬間、じんわりとした温かさと魚介の旨みが体に染み渡っていく。そしてメイン、大ナマズの切り身を口に放り込む。
と、噛むと同時にほろりと身が崩れてジュワッと溶け出した。あのおどろおどろしい見た目からは想像のつかない淡白で上品な味わいだ。
「美味しいですね。あんなにキモい見た目なのに」
「味と容姿は比例しないものだ。現に、あの魚は食えた物じゃない」
あの魚、とビョルンさんが指さしたのは水辺で泳いでいる色鮮やかな魚だ。その鰭は飴細工のように美しく、かじると飴のような味がしそうだと思ってしまうけれど、ビョルンさんが不味いというのならそうなのだろう。
「あんなに綺麗な見た目なのに。残念です」
「その代わり、貴重なポーションの材料になる」
「ほうほう、やはり使い所が違うということなんですね」
「そうだ」
ビョルンさんの横顔は先ほど見た冷たいものではなく、いつもの凪のように穏やかな表情だった。
「あの、ビョルンさん。たくさん心配かけてしまって、ごめんなさい。たしかに危ない目にあってばかりだし、その度にビョルンさんに助けてもらって」
これまでの私の行動を振り返ったところ、自分では大したことができないくせに、威勢だけはいい自分の姿に情けなくなった。だから思わず、ポロポロと本音をこぼしてしまい、頭を下げた。
「このご恩は、負債完遂という形で必ず返します」
それでもビョルンさんの表情は未だ晴れない。何かを考えるように遠くを見つめながらポツリとこぼす。
「俺が言いたいのは、そういうことじゃない」
「……と言いますと?」
「ユニークスキルがあるからといって、無闇に危険に飛び込むな。慎重に物事を考えろ。それから」
しばらく考えるように目を閉じて、彼は静かに言った。
「……悪かった」
「え?」
「お前は俺の負債完遂の為に奔走している。だが、俺はお前の力になると約束したにも関わらず、お前を危険に晒した。俺の力不足だ」
思ってもみなかった彼の内心の吐露に、私は否定するように首を横に振った。
「えぇっ!?いや、だってあれは仕方がないでしょう。予測不能な事態でしたよ!」
「不測の自体であっても、対策を怠るべきではなかった」
心底悔しそうに顔を歪めて、絞り出すようにビョルンさんは言い放つ。その言葉を聞いてハッとした。
あぁ、やっとわかった。ビョルンさんは私にじゃなくて、私を守りきれなかった自分に苛立っているんだ。
先程の事故を己の力不足が原因なのだと責めてしまっている。なら、私が彼にかける言葉はただひとつ。
「ビョルンさん」
彼の手を握り、しっかりと目を見て言葉を紡ぐ。
「私を助けてくれて、ありがとう」
彼が引いた線を消さないように、しかし離れすぎないように傍にいよう。そのことを少しでも知って欲しくて、強く手を握った。彼は驚いたようにライムグリーンの目を見開いて、ふいっと目を逸らした。
「……そういう契約内容だ」
そっぽを向いているけれど、その耳は小さく揺れている。
「もう、素直じゃないなぁ!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回更新は2月9日18時です




