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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
VS 領主夫人ハル編

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35/50

35_反逆か、正義の鉄槌か

第35話です。仰々しいタイトルですが、やってることはビジネストークです。よろしくお願いいたします


私とビョルンさんが商人ギルドにもどると、中央カウンターに黒いローブを纏った女性が立っていた。


彼女のローブは、ギルドの雑多な喧騒とは一線を画す、厳かな沈黙を纏っているようだった。豊かな金髪は控えめに編み込まれ、深く冷たいサファイアの瞳は、カウンターに並ぶ書類ではなく、私たちの帰路を正確に捉えていた。


「あら。ごきげんよう」

 

その声は、静かな湖面に落ちた一滴の水のように、ギルド内に響いた。

 

「え、エリザベスさん!?」

 

厄介な取引先が、こちらの本拠地、つまり最も安全であるべき場所に出向いてきたことによる驚き、そして「もう逃げられない」という焦燥故に、腹の底から情けない声が飛び出た。

 

「どうして、あなたがここに!」

 

「お前が来るのを待っていましたの。1日の猶予を与えたでしょう?」

 

エリザベスは軽く微笑む。その笑みには「お前の行動はすべてお見通しよ」という絶対的な余裕があった。

 

「今から会いに行くところだったんですけれど!」

 

あなたは期日指定したら半日前から待ち構えるタイプの人間ですか!?

 

ビョルンさんが渋い顔をしながら、慌てる私を抑える。エリザベスは私の無礼を気にも留めず、執事めいた動きでアニタさんの方を見た。

 

「執務室に案内してくださる?」

 

アニタさんは眉間を抑えながら、重い溜息を一つ吐いた。

 

「まさかエリザベス様直々にいらっしゃるとはね…」

 

「突然の訪問、お許しくださいましね。いつまで経っても報告に来ないものですから」

 

報告が終わったら行くつもりでしたよ。

 

口の中で文句を言いながら、執務室に向かうアニタさんのたちの背中を追いかけた。

 

執務室に通され、エリザベスさんの前にはギルドマスターであるアニタさんと副ギルドマスターのロッドさんが座る。そして私とビョルンさんは少し後ろで控えておく。この部屋の空気の重さは、鉛のように重かった。

 

「それで。わたくしとの取引、ご検討いただけたかしら?」

 

エリザベスさんは優雅に紅茶を一口飲む。その仕草一つ一つが、この場にいる全員よりも彼女の格が上であることを示していた。ビョルンさんと私は顔を見合せ、そしてアニタさんを見る。我らがリーダーは渋い顔をしながらエリザベスさんを静かに見つめていた。

 

「商売ってのは常にリスクを背負ってやってんだ。多少の覚悟は織り込み済みさ。だが、私らにも養うべき家族っていがいる」

 

アニタさんの言葉は、商人ギルド全体、そしてその背後の人々の生活を守るという、彼女のギルドマスターとしての矜恃が滲んでいた。

 

「その家族が脅かされているのだとしたら?黙って耐えるというのが、あなた方の仰る商人としての矜恃でして?」

 

エリザベスさんは冷ややかに、しかし真実を突く言葉で切り返す。

 

税に苦しめられているのは、我々商人ギルドだけじゃない。彼女のサファイアの瞳は、この領土全体の民を見据えているのだ。だからこそアニタさんは返答に詰まっているのだ。

 

「あなたに協力すれば、我々とその家族をお守りくださるという保証は?」

 

ロッドさんの問いに、エリザベスさんは堂々と胸を張って応える。

 

「わたくしの持つ全ての財産を賭けます。とはいえ、今のわたくしにはこの命以外の財はございませんわ」

 

その瞳には、一点の曇りもない

 

「わたくしの全て、この命を掛けるとお約束します」

 

そう言い切ったエリザベスさんの顔には、強い覚悟の色が滲んでいた。 

 

その覚悟があると言うなら、こちらも相応の覚悟が必要だ。私は震える身体を抑えて、エリザベスさんに 問いかけた。

 

「あの……エリザベスさんは、ハルのユニークスキルをご存知なのですか」

 

私の言葉に、初めてエリザベスさんの目が見開かれる。それは動揺というより、パズルの最後のピースが埋まった瞬間の鋭い閃きだった。

 

「いいえ。ですが、予想は付いています」

 

「我々も今しがた掴んだところなんです」

 

エリザベスさんはすぐににこやかに笑う。

 

「お前なら辿り着くと思っていましたわ」

 

「これも商人ギルドの皆さんの協力があってこそですよ」

 

今日の『カレーパンでハルを釣りあげよう大作戦』は商人ギルド全員の成果だ。私はエリザベスさんの目を見据え、はっきりと言う。

 

「なので必ず、商人ギルドを守ると約束してください」

 

「えぇ、約束は違えませんわ」

 

エリザベスさんは迷いなく頷いた。その言葉こそアニタさんやロッドさんが求めていたもの、これぞ取引の核心だ。


アニタさんはその大きな目で静かに私を見つめ、次の言葉を待っている。

 

「エリザベスさんとの取引は確かにハイリスク、ハイリターンです。ですがローリスクローリターンな取引よりも、ずっと刺激的だと思いますよ」

 

「商売に博打は付き物ってか?」

 

「はい」

 

あっけらかんと言い放つ私に、アニタさんは呆気にとられたように口を開け、ロッドさんは困ったように笑った。小娘の戯言と取って呆れてしまったのだろうか。


しかし、私はここで引くわけにはいかない。

 

「どうしてあんたはこの取引をしたいと思ってるんだい。この土地にそれだけ思い入れがあるってのかい?」

 

「私を拾ってくださった皆さんが、理不尽な目にあっているのを黙って見ているわけにはいきません」

 

ブラック企業に身を置いていたからこそ、この理不尽な状況に怒りを感じる。それにもうひとつ、大きな理由がある。

私はグッと拳を握り、アニタさんへこう叫ぶ。 

 

「ビョルンさんの負債完遂のためにも、これ以上増税されちゃ困るんです!」

 

この取引はこれ以上の増税を防ぐ唯一の手段、それはすなわちビョルンさんの負債完遂への第一歩なのだから!

 

「ふ…はは、あっはっは!」

 

アニタさんは立ち上がり、机を叩いて大声で笑い始めた。

 

「あんた、本当に面白い子だねぇ!」

 

「え、えぇと」

 

「いいよ、わかった。あんたに賭けてやろうじゃないか」

 

アニタさんは私に近づいて、その大きな手で優しく頭を撫でてくれる。だけどふと手を止めて、私を見つめた。その顔は商人としての顔ではなく子を案じる母のように心配と慈愛に満ちていた。

 

「ただねぇ、エリザベス様。ひとつ、あんたに言いたいことがある」

 

アニタさんはエリザベスさんを睨むように鋭い目で見つめる。 

 

「あんた、うちのルナに毒を盛っただろ。死ぬ程のモンじゃないとはいえ、この子は酷い目にあったんだよ。それについてどう思ってるんだい」

 

エリザベスさんは静かに目を伏して、そして私に向き直った。

 

「ルナ・ホシミヤさん」

 

深く、私に向かって頭を下げた。

 

「わたくしは愚かでした。夫を奪った異世界人を心から憎んでいたことは、紛れもない事実です。貶めるために毒を盛ったことも。申し訳ありませんでした」

 

「エリザベスさん……」

 

「許して欲しいなどと弁明をするつもりはございません。その代わり、わたくしは必ずこの地の平穏を取り戻すと約束いたします」

 

エリザベスさんの肩からこぼれた長い金髪の間から、彼女の細い手が握りしめられているのが見える。彼女の覚悟が伺えるその姿に、私もゴクリと唾を飲み下してしまう。

 

だけど、これは私だけの問題じゃない。私を助けてくれたのはビョルンさんだ。彼の助けがなければ今私がここに立っていたかどうかも怪しい。

 

ビョルンさんは私の考えを察して、一瞥した後、大きなため息をつく。

 

「お前が決めることだ」

 

静かに頷いて、エリザベスさんの前に立つ。

 

「たしかに毒には参りましたけれど、エリザベスさんのことを恨んだりなんてしていません。それよりも、この地の状況をどうにかしたいと思っているんです」

 

エリザベスさんは顔を上げて、覚悟がみなぎったサファイアの瞳で私を真っ直ぐ見つめた。

 

「貴族の領地は国から自治が認められております。ですがそれは、国を頼れないことと同義。愚かな君主は愚かなままのさばり続けてしまう」

 

彼女は貴婦人としての矜恃を取り戻したように、堂々とした姿で微笑んだ。

 

「わたくしは、たとえ謀反人と罵られようとこの地の民を救いたい。どうかお力添えを賜りたく存じます」

 

アニタさんとロッドさんは、私の方を向いて頷いた。どうやら二人も覚悟を決めたようだ。

 

「エリザベス様、取引ってんなら報酬はこの子に色つけてやってよね。それを約束してくれるってんなら、商人ギルドもあんたに乗ってやる」

 

「構いませんわ。その代わり、十分な働きを期待していますわよ、ルナ」

 

「はい!」

 

特別ボーナスを確約されたことに、内心ガッツポーズを決める。ビョルンさんも少しだけ安堵の表情を浮かべたが、この場にはまだ緊張感が漂っていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回更新は2月4日18時です

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