「冒険の書九十四:ふたりは硬直した」
模擬戦闘訓練とはいえ、万が一の事故があってはいけない。
最低限の備えとして、戦う前にジーンとソーニャ二人の力の程度を把握しておこう。
そう思ったワシは、本人たちに率直に問いかけた。
「ちなみにおまえら、レベルはいくつだ?」
聞きはしたが、バカ正直に答える奴もいないだろうと思っていた。
敵を知り、己を知れば百戦して危うからずなどというが、『知られぬこと』こそが武器になることを、経験上知っていたから。
なので、答えが得られない場合は担任のセイラに聞こうと思っていたのだが……。
「俺は二十。Fクラスじゃ一番だ」
「ウソつき、あたしの方が上でしょ。二十一なんだから」
二人は驚くほどに素直に、これに答えた。
「……あ、ああそう。……ちなみに、ジョブは?」
「『剣士』だ! 一番カッコいいからな!」
「これだから脳筋バカは……。『魔術師』のほうが頭がいいからカッコいいに決まってるでしょうが」
続けてのワシの質問にも、二人はこれまた素直に答えた。
「警戒心なしかあ〜……」
ワシは頭を抱えた。
「まあでもそうかあ〜。考えてみればこいつら、十歳やそこらの子どもだしなあ~」
駆け引きがどうとか、そもそも考える段階ではないのだった。
ワシの苦悩を自分たちに都合のいい方に解釈したのだろう、二人はこれ以上ないドヤ顔になると……。
「お、ビビってるビビってる」
「ふ、ふふふ……言っちゃ悪いわよ、ジーン」
笑いながら煽ってきた。
「ん~で? そういうおまえは何レベルなんだ? 裏口入学野郎は一か、二か?」
「ま、十あればいい方でしょ。んでまあ、ジョブはエルフだから『魔術師』ってとこかしら? あたしとの差に絶望しなきゃいいけど……ふふふふふ……」
双子らしく、息ぴったりにワシをバカにしてくるが……。
「ちなみにレベルは八十七で」
「…………は?」
「…………へ?」
「ジョブは『格闘僧』だ」
「…………は?」
「…………なんで?」
予想もつかなかっただろうワシの答えに、二人は揃って硬直した。
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