「冒険の書九十三:訓練場にて」
ジーンとソーニャの双子に因縁をつけられたワシは、『模擬戦闘訓練』の授業でいきなり力試しをされることになった。
力試しの場は、屋外にある訓練場だ。
広い訓練場は周囲を高い壁に囲まれており、地面も土で固められており、多少暴れても問題ないような造りになっている。
教官を務めるFクラス担任のセイラは茶色の髪の若く小柄な女で、いかにも気が弱そう。
眼鏡の奥の目はいつもおどおど怯えていて、ジーンとソーニャの暴走を止めることが出来ずに困っているようだ。
「あわわわわ……み、みなさんやめましょうよお~」
「大丈夫だよセイラちゃん。俺らが瞬殺してやっから」
「そうそう、セイラちゃんは黙って見てればいいの。あたしたちの勝つ瞬間をね」
ジーンとソーニャはセイラ(ちゃん付けされているところからして、相当ナメられているのだろう)の制止の言葉を適当に流すと、訓練場の真ん中に立った。
ジーンは木剣を持っているところからするに『剣士』系のジョブ、ソーニャは長杖を構えているので『魔術師』系のジョブといったところだろうか。
「セイラ、大丈夫だ。ケガなどさせずにサクッと終わらせてみせるから」
セイラを落ち着かせるためにしたワシの発言はしかし……。
「はああああ~っ!? サクッと終わらせるだあああ~っ!?」
「ケガさせずにとか、ずいぶんとナメた口を聞いてくれるわねっ!?」
結果的に、ジーンとソーニャを怒らせることとなってしまった。
「おっと、すまんな。煽るつもりはなかったのだ。子どもにケガでもさせたらセイラの評価に悪い影響が出ると思ってだな……」
「子ども子どもって、てめえの方が子どもだろうが!」
「……ジーン、あの女へのとどめはあたしに刺させてお願い」
ワシの謝罪は火に油を注ぐ結果となり、ジーンとソーニャはさらに怒りを増してしまった。
「出た、ディアナちゃんのナチュラルディス」
「あいつ、あれで本気で気ぃ遣ってるつもりだからタチ悪いよな……」
他の生徒たちに混じって観戦しているルルカとチェルチが、なぜかドン引きしている。
「……あれ? てかおまえ、俺らとひとりでやるつもりか?」
「そうよ、あのふたりはやらないの?」
ジーンとソーニャが、完全に観戦モードに入っているルルカとチェルチを指差した。
「そりゃやらないだろう。二対三なんて卑怯な真似、できるわけがない」
ワシにとってはこれ以上ないぐらい明確な話なのだが、ソーニャはなおも食い下がってきた。
「そんなの、こっちが数を合わせりゃいいだけでしょ。誰か適当に引っ張ってくるわよ」
「いい、いい。めんどうだし」
ワシはパタパタ手を振った。
「どうせすぐ終わるから。数なんてどうでもいいのだ……あっ」
言った瞬間、気がついた。
ジーンとソーニャに向けた、今のが最大の失言であることを。
「あ~……怒った、かの? まあまあ、許すがよい。一応こちらも、悪気があってした発言ではないので……」
ワシはなんとかその場を取り繕おうとしたが……。
「「………………!!!!!!」」
怒りのあまりだろう、ジーンとソーニャはもはや言葉を失い硬直している。
「「わちゃあああ~……」」
ワシの失態に、ルルカとチェルチは顔を両手で覆い。
「ジーン! やっちまえ!」
「ソーニャ! 手を抜くなよ!」
「泣かしてやれ! 二度と生意気な口をきけないようにしてやれ!」
他の生徒たちも、ジーンとソーニャに連動するかの如く、怒りで顔を真っ赤にしている。
「いやあ~……なかなかうまくいかぬものだな。何が相手を傷つけるかわからん。子ども相手というのは、実に難しい」
ぽりぽりと頭をかいて反省するワシだが、実際どうするのがベストだったのかはわからない。
リゼリーナ……は無理として、あとでララナかニャーナ辺りに聞くのがいいだろう。
「まあよいか。とにかく一瞬で倒して、ワシらの強さを認めさせて、ついでに……」
気を取り直したワシは、訓練場の端っこで所在なさげに立ち尽くしているコーラスに目を向けた。
「あの娘にちょっといいとこ見せて、こちらに興味を持ってもらおうか」
それがきっと、友だちになる最も簡単な方法だろう。
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