「冒険の書九十一:制服を着てみた」
ウルガと約束したその日のうちに、ワシ・ルルカ・チェルチ三人の勇者学院への入学が決定。
まさに電光石火の勢いで、翌日には制服と教科書が宿へと届けられた。
めんどうな手続きはララナとニャーナのふたりがやってくれるとのことで、ワシらは何もする必要がなかった。
それもこれも、リゼリーナの強烈な後押しがあったからだとか。
「……やれやれ。あの困ったお姫様は、何がなんでもワシを『勇者』にするつもりのようだな……」
宿の個室。
壁にかけられた姿見の前で、ワシはしみじみとつぶやいた。
「しかしまさか、本当にこのワシが制服なんぞを着ることになるとはのう~……」
勇者学院の女子制服は、白色の長袖シャツに朱色のスカート、膝丈のブーツという組み合わせだ。
既製品の一番小さなサイズなのだが、それでもディアナの体には大きく、絶妙に袖や裾が余っている。
「ううむ、やはりスカートには慣れんのう。このひらひら具合がなんとも落ち着かぬ……」
スカートの裾を摘まんでボヤくワシの傍では、同じく制服に身を包んだルルカが鼻血を流し続けている。
「ああああディアナちゃんの制服姿可愛すぎるよお~っ。見てるだけで寿命がぐんぐん伸びてる気がするよお~っ」
「おまえはいいかげんその鼻血をなんとかせんと、出血多量で死ぬぞ?」
せっかくの白シャツが血で真っ赤に染まっていくのもどうかと思う。
「ディアナ様ディアナ様っ、こちらに視線をどうかっ」
ベルトラはベルトラで、王都の高級魔道具屋で買った『写真機』とかいう箱型の魔道具をワシに向けている。
光魔術を上手いこと屈折させて(何度聞いても理屈はわからんかったが)対象の姿を専用の紙に焼き付けることで、ワシのこの姿が永遠に残るのだとか。
「……なんか、魂でも抜かれそうな気がして嫌なのだよな、それ」
「あー、いいですねいいですねっ! その最新の魔術に疎いご老人みたいな感じ! それを『魔術が得意なはずの』エルフの幼女が言ってるギャップが最高です! あっ、あっ、いいですねその冷たい表情もっ! 『めんどくさいから殴って黙らせるか』というバイオレンスさも漂ってもう最っ高ですって本当に殴ってくださるんですねあぁぁぁぁりがとうございますっ!」
ベルトラを殴って黙らせていると、制服に身を包んだチェルチがそわそわしているのが目についた。
スカートの裾を掴んで顔をほんのり赤くして、どうやら照れている様子だが……。
「なんだチェルチ、照れるようなガラか? 普段から露出の多い服を着ている『誘惑する悪魔』なら、この程度は屁でもあるまい」
「いやあなんかさ、それはそうなんだけど……」
チェルチはしかし、身をもじもじとくねらせると……。
「あたいの村に『男を誘惑するための服』を売ってる店があったんだけどさ、こーゆー服がけっこう人気だったんだ。なんかさ、『犯しがたい服装をしている女』とイチャつくのが好きっていう男がけっこういるらしいんだって。それをあたいが着るようになったんだなあって思うと、なんかこそばゆいというか……『誘惑する悪魔』としての階段を一歩登った気分というか……」
「……なんかワシ、この服着るの本気で嫌になってきた」
今までですらさんざん変態的な視線を浴びせられてきたのに、これからもっとひどいことになるかもしれんと?
「ま、だからといってやめるわけにはいかんか。気分が乗らんからといって約束を違えるのも男らしくないし。ワシらが学生になって、ウルガの娘とやらの学友になることが『精髄』治療の条件なのだから。多少の恥には耐えてみせよう」
と、恥をかきまくる覚悟を可ためたワシだが……。
「……しかし妙だな。勇者学院の生徒ということはそこそこの若者のはずだが……あいつ、いつの間に娘なんぞ作ったんだ?」
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