「冒険の書八十四:リリーナのひとりごと④」
~~~リリーナ視点~~~
リメイユは王国でも有数の温泉町です。
いたるところに温泉が湧き、宿はもちろんお土産物屋や食事処もたくさん。
王都にもほど近く、多数の観光客でにぎわっています。
客層も一般庶民から商人・貴族まで幅広く、町全体に活気と笑顔が満ちています。
わたくしたちが着いたのはちょうど夕暮れ時で、町中の街灯がポツポツと明かりを灯し始める、情緒たっぷりな最高の時間でした。
「おお~! すごいな! 町中、白い湯気でモクモクだ! これ全部、温泉のせいか!?」
「ホントだホントだ! 湯気に街灯の明かりが反射して綺麗! 温泉の匂いもモワァ~ッとすごいね! お祭りでもやってみるみたいに、お客さんもたくさんいるよ!」
「てかホントにお祭りやってるってよ! 一年に一度の『流星祭り』だって! やったあ〜!」
道の両脇に屋台が立ち並ぶ大賑わいに、チェルチさんルルカさんのふたりはきゃいきゃいと大騒ぎ。
チェルチさんは早くも買い食いを始め、ルルカさんはキョロキョロしながらその後を追っています。
「開催期間が三日間あるとはいえ、ピッタリ祭りに間に合えたのはさすがに運がよかったですわね」
祭りの日取りは最初から知っていました。
うまく行けばディアナさんと楽しめるだろうと、事前に宿の予約をとっておくことすらしました。
でも馬車での旅ですからね。ディアナさんに内緒で(そのほうが趣き深いでしょう?)日程を調整するのは至難の業でした。
「野盗に襲われたり落盤に巻き込まれたり大雨に降られたり……そのうち何が起こっても間に合わなかったでしょうからね。ホントに運がよかったですわ」
そっと胸を撫で下ろしていると……。
「ほおお~……これがリメイユか。温泉は戦傷に効くというから興味はあったのだが、なんだかんだですぐ治ってしまうのでなかなか訪れる機会がなかったのだが……ほおお~」
さすがというか、ディアナさんは祭りよりも温泉の効能に興味津々のご様子。
「ええ、ディアナさんのおっしゃる通り、リメイユの湯は打ち身や切り傷に効くと言われています。古くから負傷兵の湯治場とされてきたのはそのためです。さすがに『精髄』には効かないでしょうが、それでも万が一ということはありますので……」
「おう、なるほどなるほどそういう思惑があったのか。今回の『慰労会』はワシの体を気遣ってのことでもあったのだな。ありがとうな、リリーナ」
わたくしの思惑に気づいたディアナさんが、いつものように素直に感謝を示してくださいます。
「いえいえ、ただの気休めですから……」
などといいつつ、ディアナさんのお言葉に胸の奥をキュンキュンさせるわたくし。
「と、ともかく宿に参りましょうか」
実際に効果があったら嬉しいですし、そうしたらディアナさんはもっともっと熱烈に感謝を示してくださるでしょう。
もしかしたら例の『大切な人』が『大切な友人』という意味でなく『この世で唯一の、かけがえのない人』という意味にまで昇格するかもしれませんし……などと皮算用をして頬を染めながら、わたくしは皆さんと共に宿に向かいました。
+ + +
宿の名は『流星亭』。
かつてこの地に星が降り、それが地に根付き温泉の源泉となったという古い言い伝えからつけられた名前で、『流星祭り』と語源は一緒。
遥か東方の島国からやって来た旅人が建てたのだとかいう建築様式には独特の風情があり、王家御用達の名宿として有名です。
宿の入り口では屋号を染め抜いた半纏に袖を通した女将がひとり、お客さんを捌いていました。
初老を迎え、髪には白いものが混じっていますが、間違いなくわたくしの知る、あの女将です。
「まあリゼリーナ様、おひさしぶりです。最後にお越しになったのは何年前でしたかしら。たしか七つか八つのお子様で……」
わたくしの姿を認めた女将が、嬉しそうに微笑んでくださいます。
「こんなにも大きく、立派になられて……おっと」
わたくしの後ろにいる人たちを見て目を細めたかと思うと、そっと声をひそめ……。
「あれですか? 今日はどなたか『意中の方』とご一緒で?」
そうでしたわ。
この人、恋バナ大々々々々好きな人でした。
「ちょ、ちょちょっと何を言ってるんですか? そんなわけないでしょう!」
ディアナさんに聞かれてはいけないと、わたくしは声を張り上げます。
「でも昔、『一生をかけて尽くすべき方ができたら連れてくるから、それまで絶対宿をつぶさないでね』と、可愛らしいお願いを……」
「わ〜わ〜わ〜! 何言ってるんですか何言ってるんですかもう! わ〜わ〜!」
女将のトンデモ発言を聞かれてはならないと、顔を真っ赤にして声を張るわたくし。
「懐かしいですねえ。『流星祭りの期間中に流星に願った願いは絶対に叶えられる』という言い伝えをリゼリーナ様は本気で信じてらっしゃって。『意中の殿方と願い合う』のだと鼻息も荒くおっしゃって……」
「わ〜ですよ! わ〜わ〜わ〜です! わああああぁ〜〜〜〜〜〜!」
完全に語彙を喪失したわたくしと、恋バナ女将。
噛み合わないやり取りが、宿先に響き渡りました。
慰労会は前途多難です。
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