「冒険の書八十一:一路王都へ」
ダンスパーティーが行われ、ルドヴィクとその私兵のチンピラに力の差を思い知らせた、その翌日。
ワシらはさっそく王都へ旅立つこととなった。
目的は、大きくふたつだ。
ひとつはワシの『精髄』を治療するため『勇者学院』に赴き知見を求めること(別に入学するわけではない。絶対にしない、絶対にだ)。
もうひとつは『闇の軍団』侵攻の件を国王へ直接報告に行くこと(速報はすでに魔術師ギルド長のミージムが『遠話』の術で知らせてくれている)。
ちなみに旅の一行は。
ワシ・ルルカ・チェルチの『聖樹のたまゆら』。
リリーナ・ララナ・ニャーナの『黄金のセキレイ』。
の、ふたつとなる。
王都へ報告に向かう第三王女殿下をワシらが『護衛』するという形になっているのだが、なぜそんな回りくどいことをするのかというと……。
リリーナが「『王女の護衛をしたパーティ』となれば皆さんにも箔がつきますよ。王家としてもお金が出せますし」と、ワシらの利益になることを強く主張してきたのだ。
ワシはもちろん「いや、そこまでしてもらわんでも……」と遠慮したのだが、「もう皆さんに言いふらしてますから手遅れですわ♡ 新聞記事とかにも載ってますよ♡」と、満面の笑みで外堀を埋められてしまってはどうしようもない。
そんなことさせられるか、絶対に断るぞ……と、意地を張るほどの理由もないし、ここは素直に甘えさせてもらうとしよう。
というかリリーナめ、根回しのよさがますますルベリアに似てきおったな……というオッサン特有のボヤきはさて置き、ワシは強く決意を固めていた。
「やるからには徹底してやるからな。何があろうと、おまえに傷ひとつつけさせたりせんから」
ワシらとリリーナたちの組み合わせならそんじょそこらの野党ごときに遅れをとるようなことはないが、何事にも万が一ということはある。
『闇の軍団』の残党が本気で殺しにくることだって考えられるし、その場合、本調子でないワシでは対応しきれない可能性もある。
「いざとなったら、この命に代えてでも逃がしてやるからな」
「ディアナさん……そこまでわたくしのことを……っ? 防衛戦の前に言ってらした『大切な存在』というのはやっぱりそういう意味の……っ?」
ワシの言葉のどこがそんなに琴線に触れたのだろうか、顔をポーっと上気させるリリーナ。
「ディ、ディアナ。女たらしの、極み」
「……これ、出るとこ出たら有罪にできると思うにゃ。ほとんど結婚詐欺にゃ」
ララナ・ニャーナのふたりがジト目でにらんでくるが、ワシにはさっぱり意味がわからない。
単純に友の孫娘を護ろうとしただけなのだが?
「はて……ワシはまた何かしてしまったのだろうか……?」
ワシが首を傾げていると……。
「姐さん! 馬車の用意ができましたぜ! 食料も水も酒も、最高品質のを積んでおりやす!」
「馬も頑丈なのを揃えました! 王都までの旅路も心配なしでさあ!」
ゴラン・ギランの双子が馬車の準備完了を教えてくれたらしい。
「おう、すまないな。助かったぞふたりとも」
「とんでもねえ! 姐さんのためならこれぐらいの雑事、屁でもねえや! ……ぐすっ」
「離れ離れになっても、いつも健康を祈っておりやすからね! ……ぐすっ」
双子は共に鼻の頭を赤くし、涙を流してワシとの別れを惜しんでくれている。
「わかったわかった、ありがとうな。そのうちここへ戻って来ることもあるだろうから、それまで息災にな。辺境伯に迷惑をかけるんじゃないぞ?」
「へい! ありがとうございます! 生まれ変わった気持ちでやってやります!」
「辺境伯のため、粉骨砕身頑張ります!」
先のパラサーティア防衛戦で、双子はなかなかの働きぶりだったらしい。
物資の運搬や怪我人の移送だけでなく、その恵まれた肉体を盾にして、魔族の攻撃から体を張って市民を護ったりもしたのだとか。
その働きぶりを辺境伯が見ていたらしく、『生涯かけて王国のため、パラサーティアのために働くこと』と引き換えに、これまで犯してきた罪を許してくれたらしい。
これからは辺境伯直属の兵士として働くということで、これはなかなかの出世といっていいだろう。
「ふむ、よい心がけだ。気持ちのいい男になったな」
最初に出会った時とはまるで違う双子の純心な顔立ちに、ワシが目を細めて喜んでいると……。
「こんな生きた馬より、ディアナさまは『亡霊馬』の方がお似合いなのに……」
ベルトラが、ぶつぶつ言いながら馬車に繋がれた馬をにらんでいる。
どうやらワシに、自分の召喚した『亡霊馬』に乗って欲しいらしいのだが……。
「リリーナの護衛のワシが、まさかアンデッドの馬に乗るわけにはいかんだろうが」
「……はっ? 亡霊馬がダメなら、むしろわたしに直接乗っていただけばいいのではっ?」
「いいこと考えた、みたいに言うな。おまえもアンデッドだろうが。というかそれ以前にだな、幼女が大の男の背に乗るとか、見た目がひどすぎるだろうが」
わけのわからぬことを言い出したベルトラに、ワシは即座にツッコんだ。
「ワシについて来るのを許してやっただけでもありがたいと思え」
「それはまったくその通りです! おそばに置いてくださるだけでも、このベルトラ、光栄の極みにございます!」
「わかったわかった、そう言いつつ近づいて来るな」
ぐいぐいと近づいてくるベルトラを、三叉矛の石突きで押しやっていると……。
「……ホントにそのリッチも連れていくの? ディアナちゃん」
宗教的に許せない存在なのだろう、ルルカが不満そうに言うが……。
「ま、先の戦いにおいてはずいぶんと助けられたからな」
「むむ~ん……まあ、ディアナちゃんがいいならいいけどお~……」
直接ワシの命を救ったのはギイの小娘だが、ベルトラが駆けつけてくれなければ結果的には死んでいた可能性が高い。
一度は命を救ってくれた者を、それがたとえ幼女好きの変態リッチだとしても、バッサリ切り捨てるわけにはいかないだろう。
ということで、旅の一行は。
ワシ・ルルカ・チェルチの『聖樹のたまゆら』。
リリーナ・ララナ・ニャーナの『黄金のセキレイ』。
そこへベルトラを加えた七人ということになった。
「はっはっはっ、なかなか賑やかな一行となりましたな」
準備の整ったワシに話しかけてきたのは辺境伯だ。
パラサーティア防衛線の事後処理でここのところは死にそうな顔をしていたのだが、今日はずいぶんと調子が良さそうで、似合わぬ鼻歌など歌っている。
「騒がしい連中ですまんな、辺境伯殿」
「いやいや、うらやましい限りです。わたしも若い頃は気の置けぬ友たちと旅をしたものですが、何せ立場上、それほど長い間はできなかった。本当に、時間があるというのはうらやましい……というと、年寄りの嫉妬のように聞こえてしまいますかな」
「いやいや、まさかまさか……。しかしそうか、辺境伯殿も、若き頃は旅を?」
ワシが聞き返すと、辺境伯は遠い目をした。
パラサーティアの英雄もまた、若い頃には友人たちと旅をしていたらしい。
冒険者としてか、あるいは単に戦士としてかはわからんが、諸国を回り見分を広め、腕も磨いていたらしい。
辺境伯家を継ぐ必要があるのでそれほど長い間ではなかったようだが、それだけに、若く自由な旅人を見て思うところがあるのだろう。
灰色の瞳にはどこか寂し気で、そしてどこか、優しい色がある。
「と、あまりお引き留めしても仕方ありませんな。ディアナ殿の道行きに幸多からんことを」
「ありがとう。ワシもパラサーティアの平和と繁栄を願っておるよ」
戦士と武人に、長い別れの言葉は要らない。
ワシらは固い握手をして別れた。
「さ、行きますわよ皆さん」
リリーナの合図を聞いた皆が、一斉に馬車に乗り込んでいく。
ベルトラが御者席に、他は皆、馬車の中に。
ベルトラが「わたしもできればディアナ様の隣にっ、むしろディアナ様を膝の上にっ!」と寝言を言ってきたが、当然無視。
ベルトラの嘆きの声と、皆の笑い声が辺りに響く中、馬がゆっくりと歩き出した。
パラサーティアの大通りを、カッポカッポと。
「リゼリーナ王女殿下、バンザーイ!」
「英雄ディアナさま、ありがとうー!」
「皆さま、道中お気をつけてー!」
いったい何ごとか思って幌を開けて外を見ると、ワシらの出発を聞きつけ駆けつけた多くの市民が沿道に並んでいた。
それはみるみるうちに数を増し、やがてかつての戦勝パレードを思わせるような圧倒的な歓声が鼓膜を震わせるようになった。
「……ふん、王都への旅立ちひとつで大仰なことよ」
ワシは鼻で笑った。
だが別に、皆をバカにしたわけではない。
むしろちょっと、恥ずかしかったのだ。
ワシらの活躍は、きっとすぐに噂になるだろう。
アレスたち勇者パーティの活躍が英雄譚として語られているように、世界中に広まっていくだろう。
ワシが、ルルカが、チェルチが。
リリーナのために命をかけた冒険者パーティ『聖樹のたまゆら』の活躍が、世界へ、未来へと語り継がれていく。
それがちょっと、恥ずかしかったのだ。
「これが冒険者の醍醐味というものか。……ま、悪くはないが、柄でもないな」
ワシはボソリ、誰にも聞こえぬようつぶやいた。
つぶやきは風に乗り、すぐに消えた。
やがてリリーナが、馬車に揺られたせいで「きゃっ?」と悲鳴を上げながらワシにくっついて来た。
ルルカがそれに対抗するように「むむっ……?」と頬を膨らませながらワシにくっついて来た。
それを見て、ララナ・ニャーナが楽し気に笑った。
チェルチは早くも積み込んだ食料をつまみ喰いしており、御者席のベルトラが自分も騒ぎに混ざりたくてそわそわし出し……ともかくこうして、ワシらの王都への旅は始まったのだ。
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