「冒険の書七十五:可愛いの完成です」
鏡台の前に座らされたワシは、身に着けていた胸当てや半ズボンを脱がされた。
革のブーツやミスリルメッシュのグローブも脱がされ、下着も脱がされ、文字通りのスッポンポンにされた。
「ぜ、全部脱ぐのか……」
中身は男なので人前で裸になることに抵抗はないが、メイドたちやリリーナたちの目が爛々と輝いているのがちょっと気になる。
さらにお湯を浸した布で全身を拭かれて清められ、肌に香油を塗り込まれ。
手と足の爪を切り揃えられた上で、子ども向けの着せ替え人形の如く様々なドレスを着せられた。
まず着せられたのは、ピンクを主体にしたロングドレスだ。
大きなバラの飾りが肩から胸、腰、足に至るまで流れるように施されており、貴族っぽい豪華さのある品だ。
「まあ素敵! 本当にお貴族様みたい!」
「胸がお小さいのをチョーカーやネックレスで誤魔化したのが効いてるわね! 子供っぽさを隠そうとする必死感が最高!」
「着ている人の物語を匂わせているのがポイントね! これは殿方も即堕ち間違いなしだわ!」
メイドたちは口々に褒め称え(?)、リリーナはどういう意味だろう『十点』と記されたカードを頭上に掲げている。
「着ている者の物語とは……? というかワシは、別に胸のことなど気にしておらんのだが……?」
ワシの疑念をよそに、着せ替えは続く。
次に着せられたのは、黒地に白のフリルのついたドレスだ。
全体的に黒く、襟や袖口の折り返しやスカートの襞などが白。
ドレス自体は落ち着いた雰囲気なのだが、黒バラをあしらった頭飾りや厚底ブーツ、濃い目もとのラインや真っ赤な口紅という部分部分の主張が強すぎるせいで、どことなく作り物めいた、人形じみた雰囲気が出ている。
「若さだわ~! 王都で流行っているとかいう最新のゴスロリもすんなり着こなしちゃう!」
「スカートの丈も絶妙でいいのよねえ~! 細くてすべすべな太ももがちょこっと覗いてるところがもう最っ高!」
「この『作り物めいたお人形感』がいいのよお~! 家に一体飾っておきたい~! 毎晩寝る時抱っこして寝たい~!」
メイドたちは口々に褒め称え(?)、リリーナの上げるカードにはやはり『十点』と書かれている。
「家に飾る……? 抱っこして寝る……?」
メイドたちの発言の帯びる熱量に冷や汗をかくワシをよそに、着せ替えは続く。
次に着せられたのは、薄紫色のゆったりとしたドレスだ。
今までのと違ってぴったり体にフィットしつつ、背中が大きく開いている。
脚にも大きくスリットが入っており、頭にかぶった薄い布やジャラついたアクセサリーなども含めて大人らしい仕上がりだ。
「大人だわ! 子どもなのに大人可愛い!」
「必死に背伸びしてるのにできてない感が尊すぎる! やっぱり物語が大事よねえ~!」
「ああ、大きく開いた背中から手を入れたくなる衝動が……! 鎮まれ! 鎮まれわたしの右手!」
メイドたちは口々に褒め称え(?)、リリーナの上げるカードには『ヤラしさが増したのでプラス二十点』と書かれている。
「うう……さすがに精神ダメージが……っ?」
慣れない女物の服を着せ替えされまくったあげく、奇妙な欲望に晒されたせいだろう、ワシの精神はとうとう限界を迎えた。
「頭がボーっとして何も考えられなくなってきた……」
よろめくワシを心配したのだろう、ルルカが顔を覗き込んできた。
「大丈夫? ディアナちゃん」
鼻血をダラダラ流しているルルカも決して大丈夫そうには見えないが……まあこいつの場合はいつものことか。
「だ、大丈夫ではない。さすがに女物の服を着すぎて頭が……」
「えー、そうなのっ? ディアナちゃんっていつも女物の服を着てるじゃない? それなのになんでおかしくなっちゃうのっ?」
「そ、それはそうだが……」
いつもは冒険者の格好をしているから、『女物の服を着ている』という感覚はそんなにないのだ。
とは言えない。
下着だって男児用のを身に着けているのに、それが今回は下着までまるっきり女物だぞ?
とも言えない。
布地が小さくてスースーするのばかりだとか、スカートを履いているから防御力に不安があるとかもさすがに言えな……うん?
「……あ、そうか。問題はそこか」
ワシはようやく気がついた。
武人たるもの、下半身への攻撃はまず真っ先に警戒しなければならない。
金的という弱点は他の急所よりも狙いやすくかつダメージがデカいので、最大限の警戒をして然るべきだ。
にもかかわらず、女物の服は下半身の防御が死ぬほど薄い。
それがワシを不安にさせているのだ、きっとそうだ。
「つまり――スカートと下着だ。もっと下半身を厚く覆わないと」
そこさえ護れば落ち着くはずだが、しかしそんなドレスが存在するのだろうか?
ドワーフの男たるワシにはわからん世界なのでなんとも言えんが……。
「なるほど、わかりましたわ」
「お、わかってくれたのかリリーナ」
「ええ、『殿方に見られるのが恥ずかしい』ので『見えても大丈夫』な安心感のある下着がいいと。つまりはペチコートをご要望ですね?」
「いやわからんけど……そうなのか? というか、『見えても大丈夫な下着』とは? それはいったいどういう目的で作られたものなのだ?」
「装飾用です。『可愛いからむしろ見せたい』という乙女の欲望のために作られたのです」
「いや別にワシは見せたいわけでは……」
「大丈夫です大丈夫ですわかってます」
リリーナは、ぐいとばかりに身を乗り出してきた。
疑念ばかりを述べるワシの口を手で抑えると……。
「男の子っぽい言動をしつつも中身はしっかり乙女なんですよね。もう、ディアナさんたら。そういうことでしたら早めに言ってもらわないと……」
「むーっ? むーっ?」
「ということで皆さん、準備をお願いいたします」
リリーナが合図を送ると、メイドたちはキランと目を光らせた。
「「「「「もちろんです王女殿下!」」」」」
口を揃えて言ったかと思うと、メイドたちは一斉に動き出した。
まるでひとつの生き物のように息の合った動きでワシを飾り立て、最終的に出来上がったのが……。
赤と黒の二色のドレスだ。
胸から上が赤で、胸から下が黒。どちらにもバラの柄の透かしが入っている。
スカートの下からちょこんと覗いているのが赤いペチコートだ。
そもそもスカートの丈が短いのでちょっと動けばペチコートがモロ見えになるのだが、股下があるタイプなので絶妙な安心感がある。
「ああまあ、これなら……。蹴りを放っても周りの目を気にすることもないだろうし……」
動きづらくないようにとの配慮だろう、ヒールも短いのにしてくれたようだ。
「はいそれでは髪をこうして……これも被りましょうか♡」
リリーナはワシの髪をいじくると、頭の両脇でリボンで結んだ。
さらに羽根飾り付きの帽子を被せると、いかにも納得いったという風に「むふう~♡」と満足げな息を吐いた。
「さあ、可愛いの完成です! これで会場の皆さまの度肝を抜いて差し上げましょう!」
そう言うと、リリーナはワシの肩を後ろからガシッと掴んだ。
ぐいぐい押して廊下を進むと、勢いのままにダンスパーティーの会場へと押し出した。
会場で待ち構えていたのは辺境伯と家臣団、シーグラムやミージムなどのギルド長、王国の駐在武官を始めとしたお偉方、パラサーティア在住の貴族や商家の令嬢たち。
経歴も身分もお綺麗な方々の中が、ワシの姿を目にすることとなったのだが……。
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