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【コミカライズ】ドワーフの最強拳士、エルフの幼女に転生して見た目も最強になる!【企画進行中】  作者: 呑竜
「第五章:パラサーティア防衛戦」

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「冒険の書六十:武人、戦場に帰還する」

 空にはぶ厚い雲がかかっている。

 兵士たちは白い息を吐き、ガタガタと身を震わせている。

 まるで冷たい風が地面を撫で、周囲一帯に異様な寒さをもたらしているかのように。


 だが実際には、そんな風は吹いていないのだ。

 魔族の大集団が放つ瘴気しょうきが人の精神に影響を及ぼした結果として、吹いているように感じられるだけ。

 対魔族との戦争における特有の現象だ。


 一方でここ五十年の間、人と魔族の間に戦争と呼べるような大規模な戦闘は発生していない。

 つまり戦場にいるほとんどの者にとってこれは、まったく未知の現象というわけだ。


 ――くそっ、なんだってこんなに寒いんだ……っ?

 

 ――これが魔族……これが戦争……? 俺たち、本当に勝てるのか?


 こごえるほどの急激な気温の低下に兵士たちは戸惑い、恐怖に顔を歪めている。

 突如地獄に放り込まれたかのような気分なのだろう、大人のくせに泣き出す者までいる始末。


「このままではいかんな。戦う前に決着ケリがついてしまいかねんぞ。誰かが気づかせてやらんと……」


 とはいえ、口で説明したところですぐに理解させるのは難しい。

 混乱状態に陥っている兵士の目を覚まさせる、何か強烈な一撃がないと……。


「昔なら指揮官が兵士どもの頬を張って気づかせていたものだが……。今はその辺を理解している者もおらんだろうし……」


 ――皆様。


 ワシの杞憂きゆうを吹き飛ばすかのように、突如大きな声が上がった。


 いや、声自体は大きくない。

 声を音声魔法で増強し、風魔法に乗せて飛ばしているのだ。


 声の主はリリーナ。

 敵側に向かってせり出した第一胸壁の上で、胸に手を当てながら話をしている。

 両脇にはララナとニャーナの近衛ふたり。

 さらに魔術師ギルド長のミージムと、ギルド員と思われる者が数名いて、それぞれが魔法を唱えている。

 その者らが音声魔法と風魔法を使っているのだろう。

 より遠くへ、よりハッキリとリリーナの声を届けるために。


 ――わたくしの名は、リゼリーナ・アストレア・ウル・ハイドラ。この国の第三王女です。


 リリーナの言葉を聞いた兵士の多くは驚きの声を上げ、すでに知っていた一部の者が大きくうなずいた。


 ――驚かれた方も多いでしょう。なぜなら第三王女は病弱で、陽の光を浴びることすら許されず、いつも自室に閉じこもっており、公務の場に顔すら出さない。ほとんど無職のひきこもり状態……という風な噂を流しておりましたから。ですが実際には……。


 いったん言葉を切ったリリーナは、羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。

 その下に着ているのが勇者学院の制服であることに気づいた兵士たちの間から、「おお」と驚きの声が上がる。


 ――わたくしは、密かに民間人として暮らしておりました。勇者学院において一般の学生に混じって教育を受け、次代の勇者となるべく日々努力を続けておりました。それには理由があります。かつて、亡き祖母ルベリアがこう言ったのです。『いつか魔族は勢いを取り戻すでしょう。平和を謳歌おうかしていた国民は大いに混乱し、恐怖するでしょう。リゼリーナ、あなたはその時に備えなさい。勇者アレスの血を引く者として軍を率い、国民のために戦う剣となるのです』と。つまりわたくしは、この時のために備えておりました。パラグイン辺境伯へんきょうはくに命じて武器や物資を備えさせ、兵士の皆様に訓練を施していたのもすべてこの時のためです。ですので皆様、怯えることはございません。今まで(つちか)ってきた努力の成果を見せれば、自然と勝つことができるのです。


 リリーナの言葉に、兵士たちの顔が輝く。

 

「……おい、ホントか? ここまでのことを予想してたってあり得るのか?」


 話を聞いていたチェルチがジト目になる。


「半分は嘘だろう。だが、嘘でいいのだ。達成すべき目標のためなら嘘もつく。それこそが為政者いせいしゃに求められる資質だ。のうチェルチよ、『すべて予想済みだ、対策済みだ』そう思えば勇気が湧くだろう? 自分は勝てるのだと、内から力が湧いてくるだろう?」


「そうかな……そうかも……?」


 ワシらが話している間にも、リリーナは演説を続ける。

 そのつど兵士たちの顔は輝きを増し、瘴気に圧倒され泣きそうになっていた者たちの目にも光が宿っていく。


「見事だ。これぞまさに『混乱状態の兵士を目覚めさせる強烈な一撃』。リリーナは、魔族との戦い方をよく知っているよ」

 

 わずか十六、七歳のリリーナが実体験として瘴気対策を知るわけがない。

 賢姫けんきルベリアによる英才教育の賜物たまものということだろう。

  

「ふうん……そんなもんかね。あたいにはわからんけど」


「そんなもんだ。ほら飛べ、行け行けチェルチ」


「あいよ~」


 ワシが急かすと、チェルチは飛行速度を速めた。

 パラサーティアはどんどんと遠くなり、逆に『闇の軍団(ダーク・レギオン)』が近づいて来る。


 右軍・中央軍・左軍の三軍と、後方中央のエリート部隊。

 計四軍五万一千の魔族たちが、間近に迫ってくる。


「ひえぇぇ~、すんごい数だぞこれはあぁ~」


 チェルチがゴクリと唾を飲み。


「世界を変える……わたしたちが世界を変えるんだ……」


 ガンギマリに決まったルルカがぶつぶつとつぶやき。

 そしてワシは……。


「ああ……いいのう……」


 腹の底よりふつふつと沸き上がる喜びにひたっていた。 

 

「ひさしいのう、この感覚だ。忘れていたぞ……」


 ワシは武人だ。


 殴る、蹴る、折る、裂く、砕く。

 幼き頃から、それのみを生業なりわいとして生きてきた。

 戦場で勝つことで金を稼ぎ、戦場で勝つことで食いつなぐ。

 生きることはすなわち戦うことで、血の海こそが故郷だった。


「最近ちょっと、ぬるま湯に浸かっていたからな。だが、おかげで思い出せそうだ」 


 ワシは笑った、心の底より。


「――戦場よ、ワシは帰って来たぞ」

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