「冒険の書五十二:果報は寝て待て」
パラサーティアへ到着したワシら一行を待っていたのは、衛兵による取り調べだった。
冒険者というのはそもそもチンピラだったり怪しい山師だったりみたいな連中が多いから、街の出入りをする際に取り調べを受けること自体は珍しくない。
だが、その日のそれは厳しすぎた。
厳しく、一方的過ぎた。
「大商人マネージ・グレイン様への殺人未遂の疑いでディアナ・ステラを拘禁する! 裁判は後日を待て!」
ほとんど反論が許されないまま、取り調べ開始から三十分後にはワシの拘禁が決まっていた。
拘禁先はパラサーティアの拘置所。
監獄に入る前段階の、容疑者たちが一時拘禁される場所だ。
「うう~む、まさかいきなり逮捕されることになるとはのう~。世の中わからんものだのう~」
パラサーティアの守護者(予定)から一転、鉄格子付きの部屋に囚われの身となったワシは、しみじみとつぶやいた。
「マネージが何か仕掛けてくるかも、とのリリーナの恐れは残念なことに的中してしまったわけだ。にしても手回しのよいことよ」
なんといっても驚きなのは、ワシらが到着した時点で指名手配犯としてのワシの人相書きが街の至るところに貼られていたことだ。
ちなみにマネージがコボルドに追われていた時点からの流れを時系列順に揃えると、こうなる。
①マネージ、街に到着!
②ワシを犯罪者に仕立て上げる!
③受理!
④貼り出し!
いやいや、流れがあまりに速すぎるだろ。
嘘をつく方はもちろんだが、受理する方もひどくないか?
「財力と実績のある商人と、ポッと出の冒険者の違いといえばそれまでだが……」
人脈の活用はもちろん、裏金を積むぐらいのことはしているかもしれない。
つまりは役人を抱き込み、無理やりワシをハメ込んだと。
まあこの際、ワシ自身のことはどうでもいいのだが……。
「このままだと皆の身が危うい……ということもあるか?」
ワシ以外の人間は皆、ワシに誑かされ洗脳された被害者だと認定されている。
そのために教会――国教である『豊穣と慈愛の女神セレアスティール』の――に預けられ、真っ当な精神状態に戻るよう宗教的な説教を受けているところだ。
「セレアスティールの信徒であるルルカがいればまさかおかしなことにはならんだろうが……いやでもルルカだしなあ……。あの娘、聖気が高いのはいいがそれ以外がからっきしだし……」
ポンコツな一面を出さなければいいが、と不安になっていると……。
「おうおう嬢ちゃん! 可愛い顔をこっちに向けろや!」
「ひゅううう~、エルフなんざひさしぶりだ! たまんねえ~! ゲハハハハアー!」
別の部屋に拘禁されている容疑者(たぶん実刑確定)どもが、鉄格子を破らんばかりの勢いでこちらに手を伸ばしてくる。
舌なめずりをし、腰を振り、卑猥な言葉を投げかけてくる。
「せめて男女を分けて欲しいものだな……。いやまあ、ワシってば中身は男なんだが……」
「なんだあ? 男の娘かよ! いいぜえ~、それならそれでアリだ!」
「むしろ生えててお得まであるなあ! ゲハハハハアー!」
「うう~む……またこの感じか……」
ワシはため息をついた。
この体になってから、変態との遭遇率が高すぎる。
そのせいで、マネージの流した嘘情報である『ワシ=希代の悪女説』が本当に感じられてしまうほどに、容疑者たちが盛り上がってしまった。
「拘置所の係官に見られたら絶対誤解されるのう……。それこそ裁判に悪影響が出るレベルだ。いっそ鉄格子を破って脱出するか? いや、それはそれで皆に迷惑がかかるか……」
僧侶であるルルカ、お偉いさんに知り合いがいるのだというリリーナを始めとした皆が、今ごろはワシへの疑いを晴らすために奔走してくれているはずだ。
となれば、皆の努力を台無しにするわけにはいかない。
「騒ぐのは得策ではないな。ここはせいぜい大人しくしておこう」
我慢しようと一時は心に決めたワシだが……。
「お嬢ちゃん! オレとつき合ってー!」
「男の娘だって構わないぜ! ゲハハハハアー!」
「……うん、無理だな。これは無理」
容疑者どもの発情ぶりが面倒になったワシは、魔力を気にして放出することにした。
といって、ただ放出するだけではない。そこに『殺気』を乗せるのだ。
ワシぐらいの武人になると、『おまえを殺す』という感情そのものが武器になる。
相手の手足を縛り、心を砕く持つ効果を持つ。
皆を怖がらせたくないので普段は出さないようにしているのだが、ここなら多少は問題あるまい。
「もう黙れ。でないと――殺すぞ?」
ゾクッ、という音が聞こえるようだった。
ワシが殺気を放出した瞬間、容疑者どもは喋るのを止めた。
それだけではない。
立っていられなくなってその場に座り込んだり、吐き気に耐えられなくなって嘔吐したり、息苦しくなって胸を押さえうずくまる者まで出る始末。
一瞬にして、拘置所内は『静かな混乱』に支配された。
その直後に拘置所入り口のドアが開き、清掃員の爺さんが顔を出したが、タイミングがズレていたので何が起きたかわかっていない模様。
「おや、今日はみんな静かだねえ。可愛い娘さんが来たから緊張してるのかな? あはははは」
状況を知らない清掃員が床を掃く音だけが、ワッシャワッシャと辺りに響く。
そんな中、ワシは……。
「さあ~て、向こうはどんな塩梅かのう~」
床にごろりと寝転ぶと、吉報が届くのを待つことにした。
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